「舞い戻ってきたぜ・・・・・・この、日本に」
東京都大田区羽田空港。
日本人、外国人、サラリーマン、親に連れられた子供などなど、老若男女様々な人間でごった返しているその中で、1人の青年が呟いた。
人混みに掻き消されていく声とは裏腹に青年の姿は一切群衆に埋もれない。
前髪を数本垂らして残りを全て後ろに撫でつけた突き刺すような銀髪。日焼け肌とはまた違う乾いたような色黒い肌。アジア系ではなかなか見ない180cm以上の長身。無駄な筋肉のない細くしなやか、かつ鍛えられていることわかる肉体。美形というほどではないが、それなりに整ったどこか日系らしい顔立ち。そして、その全てを台無しにしている気がしてならない『ヤル気がストライキしたような』つり目。
日本人離れした容姿と眠たげな雰囲気がミスマッチして、少々注目を浴びていた。
そしてここで輪をかけるように携帯電話からシュールな着信音。曲は影山〇ロノブの『CHA-〇A HE〇D-CHA-L〇』。有名な日本のアニメーション『ドラゴン〇ールZ』のオープニングテーマである。
ほんのわずかに増した視線を道端の石ころほどにも気にせず、青年はゆったりとした動作で携帯電話を耳に当てた。
「はい。こちら―――」
『日本に帰ってきたそうだな、ジェイル』
スピーカーから流れてくるのは、ハニートーストのように甘い、だというのに固く感情を出さないように努めているような声。青年―――ジェイル・フランツにはそれが精一杯の強がりに聞こえた。
「武偵としての仕事が一段落したからな」
『ならこっちの仕事に協力しろ』
「・・・・・・めんどくせぇ。嫌だ」
『報酬は払う。500万』
「早く内容を言え。前金に100万入れとけよ」
恐ろしく早い返事だった。
『わかった。内容は今からメールで伝える』
その言葉を最後に電話は一方的に切れた。切ったのはジェイルではなく通話の相手である。
その様子に―――慣れた様子ではあるが―――嘆息しながらジェイルは軽快な着信音が知らせてくれたメールを見る為にメール画面を開いた。
【東京武偵高臨時講師小夜鳴徹居住の洋館『紅鳴館』地下倉庫に安置中の『ペンダント』を奪取。当計画は遠山金次と神崎・H・アリアと共同で行う。詳細は追って伝える】
一通り確認してジェイルは携帯電話を閉じ、上着のポケットにしまう。そして瞼を伏せた。
――――――知らねぇんだろうな、理子は。小夜鳴徹は『アイツ』だぞ?
東京武偵高校。東京のレインボーブリッジの南方に浮かぶ南北およそ2km、東西500mの人口浮島に設立された、国際資格『武装探偵』を育成する総合教育機関。武偵業に関する基本は全てここで学べると言っても過言ではないが、その代償か平均的な学力が低い高等学校でもある。
その東京武偵高の第2学年であり、試験をサボタージュした為Eランクに格下げされた不良―――ここでの不良は素行が悪いという意味ではなく成績が悪い―――学生遠山金次は、不機嫌そうに携帯電話の画面を睨んでいた。舌打ちさえ聞こえてきそうな勢いだ。
いつもに増して根暗なその様子に、目の前に座る相席者がついにしびれを切らす。
「あー、もう! うざったいわね! さっきからいったい何なのよあんたは!」
猛然と立ち上がって威嚇している、12,3歳ほどにしか見えないピンク色の髪をツインテールにしたこの少女の名前は、神崎・H・アリア。こう見えて16歳で高校2年生にもなる。武偵としてのランクはS。犯罪検挙率100パーセントという事実も相まって武偵業界だけならずアウトローな世界でも有名なエリートである。
「・・・・・・知り合いからこっちに来るって連絡があった」
「なんで知り合いが来るからってそんなに不機嫌そうなのよ」
アリアの疑問も当然といえる。ここまで気分を害するのだから相当悪関係な人物なのだろうか。
「別にそいつが嫌いとかそういうわけじゃないんだが・・・・・・なんていうか、態度が気に入らないんだよ。態度が」
その言葉を、アリアは礼儀知らずと受け取った。金次の言葉が礼儀知らずというわけではなく、これから来る彼の知り合いという人物が、だ。
だが実際は違う。それ以前の問題だ。
「そいつは俺や武藤、不知火と1年のころ割と長く組んでたんだが、秋の終わりごろに急に何も言わず長期遠征依頼にでやがったんだ。電話もメールも連絡手段は全部通じなかった。不知火なんかは別れを言うのが辛かったんだろうとか言って納得してたけど、当時の俺や武藤は相当頭にきてた記憶がある」
戦友であり級友でもあった武藤剛気や不知火亮を裏切った。そうとられてもおかしくない行為だ。暗に金次はそう言った。
「そいつが急に連絡を寄越したと思ったら、内容は謝罪でも釈明でもなく、『今からそっち遊びに行くわ。茶と菓子よろしく』だ。これで腹を立てない方がおかしい」
「何よそれ。呆れるほど自分勝手なやつね」
気に入らなければ発砲するお前も大概だけどな。と金次は思ったが口には出さない。また発砲されては敵わない。
〈ピンポーン〉
愚痴がはかどろうか、というところで危うくインターホンが鳴り響いた。
訪問者は誰か。それは扉を開けてみなければわからない。
一体何用か。それは訪問者に聞いてみなければわからない。
どうすればいいか。それは家主が決めること。
そして、今、扉が開く―――――――――――――――