メゼポルタ生活記   作:ファンタ爺

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2話

―――ここはいつも騒がしいな。

 

メゼポルタの街のとある酒場。食材屋アルバイター『エグチ』の兼務するここは街の中央にある広場の裏手に位置し、この酒場に来るには少々遠回りをしなければならない。そのため、鎧姿のハンターたちはほとんど見かけないが、代わりに街の住人の姿が多くみられる。ここは彼らのようなハンター以外の利用する大衆酒場なのである。

しかしながら、別にハンターが利用してはならないというわけではない。

『狩り』というのはなかなかハードな仕事である。日々自分より大きな生物と対峙している彼らにも休息は必要である。今日は休み!と決めたとき、彼らは普段着こんでいる重厚な鎧を脱ぎ、インナー姿で住民と同じような生活を送るのである。

……ただまあ、普段から血気盛んな人種であるハンターというやつは、結局のところどこへ行こうがジョッキを片手に呑んだくれているのだが……

 

 

「お、いらっしゃい。今日は休みかいエド?」

 

「ああ、こんにちは。そんなところかな。

 ギルドの仕事がひと段落したんでね。この後はオフさ」

 

「なるほど、おつかれさん。で、ご注文は?」

 

「この間のコーヒーをもらおうかな。あと、なにか甘いものを。

 たしか、ダンディブレンド、といったか。深い香りがいいな。どこで仕入れたんだ?」

 

「酒場のマスターに教わったんだ。あの人のオリジナルだよ。

 そうだ、猛牛バターのいいのが入ったんで、クッキーを焼いたんだ。それをつけてやるよ。ちょっと待ってな。すぐに持ってくるよ」

 

 

さわやかな雰囲気を醸し出す金髪の青年。彼はエドワードという。

ハンターズギルドに所属し、主にギルドから依頼を直接受ける『レジェンドラスタ』という職に就いている。

 

 

ここでレジェンドラスタというものについて説明しよう。

 

ひとえに狩人といっても、実は様々な職種に分かれている。

個人の裁量でクエストを受注し、狩猟や採集を主な仕事とする職業。これをハンターという。狩猟における花形であり、一般に狩人と呼ぶときはこのハンターのことを指す。

しかしながらハンターは進んで大型生物に立ち向かわなければならない危険な職業で、そう簡単になれるものではない。そこでハンターを目指す者はまず、見習いとして現役ハンターのサポートを行う職に就き、経験を積んでいくのである。

この見習いハンターとでもいえる職だが、いくつかあるうちに、頼狩人(ラスタ)というものがある。見習いとして最初につく職であり、狩りに向かうハンターについていき、サポートをしつつ経験を積ませてもらうのである。しかしながらこのラスタ。武器防具の類はギルドからの貸し出しであり、火力としては不十分。また、経験不足によるものか、モンスターの攻撃をよけられずしょっちゅう戦線離脱。ハンターの近くでは同士討ちを警戒しすぎて攻撃を尻込みする、等。戦力としてはいまいちだなぁ、というのがハンターからの感想である。

先ほど挙げたレジェンドラスタもラスタの一種ではあるが、その能力は通常のラスタとは桁違い。まさにその名の通り、レジェンドな性能を誇っている。

一例をあげると、例えば狩場においては常に極限状態、飢餓状態に身を置き、研ぎ澄まされた集中力と馬鹿力でモンスターを狩追い立てる。しかしながらそんな状態であってもハンターに対するいたわりは相当なもので、乱戦であってもその得物はモンスター以外を傷つけることはない。ついでに新人ハンターが常用するにはちょっとお高い『粉塵』という、他者の傷や状態異常を治せるアイテムで雇い主をフォローしつつ、狩猟対象モンスターへのラストシュートはそっと譲ってくれる、そんな紳士的な一面も持っている。

 

ちなみに、彼らレジェンドラスタはギルドからの依頼で多忙であり、同行を依頼するには異世界の通貨YENをUNEIと呼ばれる組織を通じてギルドに支払わなければならないので要注意だ。

 

 

 

「おまちどおさま。コーヒーとクッキーな」

 

「ありがとう。……うん、いい香りだ」

 

 

 

届いたコーヒーのカップを傾け、まず一口。

ほどよい酸味と深いコク。そして豊かな香りがエドワードを満足させる。

普段詰めている酒場のマスターにこんな特技があったとは。元ハンターであるとは聞いているが、しかしながら実に多彩な方である。

そんなことを考えていると、視界の端に何やら見覚えのある姿が。

 

 

「ときにエグチ。……一つ聞いていいか?」

 

「うん、なんだい?」

 

「―――あれはいつからあんな感じだ……?」

 

 

 

あれ、と指をさされた方には一人の人物がジョッキ片手に佇んでいる。年のころはフローラと同じくらい。ピンクのウェーブがかかった髪を頭の上の2か所でまとめた、いわゆるツインテールの女性。彼女もまたレジェンドラスタの一人であり、数多くいるレジェンドラスタの中でも人気トップクラスの人物である。狩場であれば持ち前の明るさとチャーミングなしぐさで場を和ませつつ、手にした双剣という得物で烈火のごとく攻め込むスタイルを身上とする実力派ハンターである。

 

 

「鱗がいちまーい、鱗がにまーい、鱗がさんまーい……

 ……は、ははっ。えへへ……いちまいたりなーい………!」

 

 

狩場であれば、だが。

 

何やら某お屋敷で大事なお皿を割ってしまって***されてしまったロックガールのようになっている彼女。名をフラウという。ちなみに彼女には、『人によって態度をかえる、あざとい娘』であるという噂がまことしやかにささやかれていたりする。

 

 

「ああ、あれかぁ。来た時からあんな感じ。

 何回やってもほしい素材がはぎ取れないんだと。剥ぎの極意だけは最後までとっておくって言ってたけど」

 

「ふぅ、さっさと使ってしまえばいいものを。まあそれで出るかは知らんがね」

 

 

 

陰気は場に伝播する。改めてあたりを眺めてみると、基本やかましいこの酒場において、彼女の周りだけ妙に静かである。仮にも同僚で知らない仲ではないし、気づかなければそのまま無視してもよかったが、気づいてしまってはしょうがない。このままでは自分の休暇も鬱々としたものになってしまうかもしれない。

ため息を一つついて、彼女の下へ移動することにする。

 

 

 

「やあフラウ。機嫌は、悪いようだね」

 

「コノウラミハラサデオk…あれ、エドワード。いつからいたの?」

 

「一枚足りない、のあたりだ」

 

「あらら、ハズいとこ見せちゃったなぁ。ま、アンタならいっか」

 

「……今の言動、ほかのハンターに聞かれたらどうするんだ」

 

 

 

彼女の場合、気の置けない相手ならばこんな感じのようである。

 

 

 

「エグチに聞いたが、素材が足りなくて参っているようだな。狙った素材がなかなか出ないのは良くあることだろう?今回のはそんなにひどいのか」

 

「うん……。出にくい素材っていうのは自覚してたんだけど、こうまででないともうね。うう、グレン追っかけるの疲れちゃったよぅ」

 

「……なんだその眼は」

 

 

甘ったるいおねだり声を交えつつ、上目づかいで『ちらっ』とエドワードを見つめるフラウ。そんな仕草にコロッといってしまう男性ハンターは数知れないらしいが、かけらも興味のない彼にとってその仕草はいやな予感しか呼び起さない。なんとなく続く言葉は予想できるが、あえてクールに問い返す。すると案の定。

 

 

「狩りてつだって!」

 

「断る」

 

「なんでだよー!」

 

 

こちとら休暇中である。それに、普段でもギルドの仕事や雇い主の狩りの補助で忙しいというのに、個人的な狩猟にまで手を貸してはいられない。

しかしながら曲がりなりにも彼女はレジェンドラスタである。その彼女がこの調子ではいろいろとまずいのではないか。具体的には彼女がこなすはずだった仕事が自分に回ってきたりとか。そんなことになったら、ただでさえ週に1度しかない休暇すら仕事でつぶさなくてはならなくなる。

それはいやだと思いつつも、自分が手伝うわけにもいかず。どうしたものかと思案していると、ふと最近活躍目覚ましいとあるハンターのことを思い出す。

 

 

 

「なあフラウ、『彼』に頼んでみてはどうだ?」

 

「えっと、彼っていうと例の優良物件?」

 

「お前な……。まあ、想像してる人物で間違いはないと思うが」

 

 

 

ハンターとしてギルドに登録されるやいなやメキメキと頭角を現し、すべての武器種をまんべんなく使うことができるという特技を持ち、今やハンターの高みともいえる『G級』へと昇格を果たした狩人がいる。最近、祈樹の泉という場所でよく依頼を受けていると聞く。

 

 

「うん、そうだね。彼に頼めば一発だね!なんたってボクにメロメロだもん!

そうと決まればさっそく。……エグチくーん!お会計ツケといてねー!」

 

「わわっ……と」

 

 

例の彼がフラウにメロメロかどうかは定かではないが、厨房の奥にいると思われる青年にそう声をかけると、彼女は普段から鍛えられた健脚であっという間に酒場を出ていった。奥から「なんだとー!」という怒号が聞こえたような気がするが、その声はフラウにとってはすでに忘却の彼方へと行ってしまっていることだろう。なにせ自分の欲望に割と忠実な女性である。

そんな彼女とぶつかりそうになりながら、お客が一人来店する。先のような、エグチにとって理不尽な出来事がたびたび発生するこの職場において、彼がくじけず、心安らかに仕事ができるのはこの人物のおかげである。一目見るだけで怒りなんか地平線の彼方へ飛んでいき、何に怒っていたのかも忘れてしまうほどの幸福感を与えてくれる、彼にとっての天使。愛しのフローラ嬢である。

 

 

「ふぅ。フラウちゃんなに急いでたんだろ……?

あ、エドワードさんこんにちわ。ここでお昼ですか?」

 

「ああ、こんにちわフローラ。……もうそんな時間なのか。一休みのつもりだったが、どうせだからここで済ますとしよう。なにかおススメはあるかい?」

 

「だったら日替わり定食がいいですよ。珍しい料理も出してくれておもしろいんです」

 

「なるほど。すると作っているのはエグチだな」

 

 

フローラは元気よく「はい」と返事をすると厨房に注文を出す。すると間髪入れず「よろこんでー!」と返ってくる。声の調子から察するに、どうやら彼の機嫌は良くなったようだ。単純な男である。

 

 

「ところで、フラウちゃんなにかあったんですか?すごい勢いで飛び出していきましたケド」

 

「ああ、何でもほしい素材が全くあつまらないらしい。それで、な」

 

「へぇ」

 

 

注文を待つフローラはさっきの友人の爆走劇について聞いてきた。どの程度の回数目的のモンスターと対峙しているかは知らないが、あれほどの精神状態になるとは並の数ではないだろう。目的とする素材というやつは、出る時はあっさり出るが出ないときはとことんでない。エドワードにも経験があることなので、彼は少しフラウに同情した。

 

と。そこでふと疑問が彼の頭をよぎる。

 

 

「なあフローラ。君は最近素材が出なくて困ったこと、あるか?」

 

「え、アタシですか?最近調子よくって、あんまり素材に困ったことはないですねー」

 

 

いついつくらいから絶好調なんですよー、と嬉しそうに話す彼女。

仕事関係なしに話をする機会は結構あるが、彼女からはそういうたぐいの話をほとんど聞かなかった。気になったので聞いてみたが実際困っていない様子。レアな素材で困らないというのはなんともうらやましいことである。

 

 

そうこうしているうちに注文の日替わり定食をエグチが持ってきた。今日のメニューはガーグァの照り焼きライスセット。このあたりでは見かけない遠くの地方の食材のようだが、なかなか美味しそうである。フローラも同様の感想を抱いたようで「わー、おいしそー」というセリフでエグチをメロメロにしていた。

 

珍しい食材を使ってはいるが、値段は割とリーズナブル。興味を抱いたエドワードは、自分もそれにするかと考えながら、とりあえず今まで手を付けていなかったクッキーを一口。香ばしい香りとほどよい甘さが口の中に広がる。これほどのクッキーを作れるのだ、あの日替わりの味も期待できるだろう。

 

 

 

 

―――そういえば、フローラの調子が良くなり始めたのとエグチが食材屋で働き始めたのは同じ頃だな。

 

 

そんなことを考えながら彼は日替わり定食を注文する。フローラのように皿に盛られたライスをハート型にされないことを願いつつ。

 

 




毎週水曜10時から、ハンターたちは休暇に入りますw
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