メゼポルタ生活記   作:ファンタ爺

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4話

「はあ、またクビになっちゃったにゃぁ……」

 

 

時は寒冷期。

日に日に寒くなりつつあるこの時期、メゼポルタ広場の裏通りは物寂しい雰囲気に包まれている。夜の帳もとっくに落ちて、普段にぎやかなメゼポルタの住人も帰宅の途についている。

そんな中、うつむき加減でとぼとぼ歩く、二足歩行のネコが一匹。

このネコ、種族名をアイルーといい、人間達には獣人族として認識されている。外見としては、一般的な猫を二足歩行させたもの、と言ってさして間違いではない。ただ頭がちょっと大きくて、目もちょっと大きくて。人語を理解し会話もできれば、道具も使うし火も使う。料理から畑仕事までこなし、さらには爆弾だって作ってしまうが、それでもまあネコである。

 

このアイルーであるが、もとより好奇心旺盛な種族であるためか人間とともに街で生活しているものも少なくない。

武器工房の親方に弟子入りし、日々鍛冶の腕を磨く者。大きなリュックを背負って、未知なる塔へ行商に赴く者。月の大半を寝て過ごし、一週間だけギルドの受付として働く者。想像以上の手先の器用さを生かして、ハンターのヘアカットを一手に引き受ける凄腕美容師となったものもいる。

重ねて言うが、これらはすべてネコのことである。人間の身長の半分にも満たないこの生き物は持ち前の度胸と器用さで、今やメゼポルタに欠かせない要員となっているのである。

 

近年活躍目覚ましい彼らから「オイラもハンターになるニャ!」という要望を受け、このたびギルドでは新たな職として「パートニャー」というものを用意した。

これは主にハンターの補助を目的としており、狩猟についていくのはもちろん他のパートニャーと一緒に冒険に出かけたり、お店の手伝いをしたりもする。ハンターにとっての最大の利点は持ちきれない荷物を持ってもらったり、人間では入れない小さな場所を調べてもらうことのようではあるが、実はちゃっかり大型モンスターにトドメを指すことだってできるのである。

 

 

「うう、さむいにゃぁ。でもこのままじゃ帰れにゃいし……教官のおじちゃんにもこれ以上迷惑かけられにゃいし……」

 

 

パートニャーになりたいネコは一般に、ギルドに所属している『教官』と呼ばれている職業の者にハンターとの仲介を依頼することになる。もっとも教官というのは新米ハンターの指導や、捕獲されたモンスターなどの飼育調教が主な仕事であり、ハンターとの仲介はほとんど好意でやっているようなものである。そのため、紹介されたハンターの下でネコたちは何とか使ってもらえるよう自分を売り込む必要があるのである。

 

話は冒頭に戻る。

裏路地でしょんぼりしょんぼりしているこのネコ。口をついて出る言葉の通り、本日をもって解雇、つまりクビを言い渡されてしまったのである。まだまだ実力はないが、熱意はある。手先の器用さだって、知り合いの中では一番だと思っている。自分で言うのもなんだが、見た目だって結構かわいい……と思う。なのになぜ解雇されたのか。それはすなわち雇用主との相性である。

合ってみるまで、話してみるまで、一緒に行動してみるまで。その人となりを十分理解できないのはネコも人間も一緒である。特に狩猟というこの仕事。命を賭ける仕事場の為、ハンターはパートニャーの性格や得意不得意を十分に吟味する。自分の狩猟スタイルに合ったネコなのかが一番大事なのである。そしてこのネコはその点がネックとなり、またしても解雇されたのであった。

 

そう、またなのである。

このネコの得意なこと。それは爆弾である。爆弾のみなのである。爆弾を使わせたら右に出るネコなどない!と自負しているし、このタル爆弾に破壊できないものなど、あんまりない!とも思っている。しかしながら爆弾なのである。

近接武器。剣や槍などを使うハンターは、近くで爆弾を使われることを嫌う者が多い。ネコの使う程度の爆弾で死にはしないものの、爆風に煽られてふっとばされてしまう。大型モンスターと戦っていてそんなことになったらせっかくの攻撃のチャンスをふいにしてしまうかもしれないし、何よりふっとんでしまった後のモンスターからの追撃を受けてしまうかもしれない。そんな事情から、爆弾をウリにしているネコは若干敬遠されているのである。

今まで紹介されてきたハンターが近接武器を使用する者ばかりだったことも影響しているのか、今日も今日とて即日解雇を言い渡されてしまったのであった。

 

 

 

「おなかすいたにゃぁ……もう、諦めて森にかえろうかにゃぁ……」

 

 

壁にもたれてペタリと座るネコ。そして想うは故郷の森。

遠くの異国で活躍する話を聞くたびに、自分もいつかはそうなりたいと願う日々だった。年上のネコたちが街に向けて旅立つのを、羨ましく眺めている生活だった。そしてついに、父や母、兄弟たちに見送られて自分が旅立つ番となった。故郷へ錦を飾るまで帰らないつもりでメゼポルタの大地を踏んだのに、待っていたのは雇ってもらうことすらできない現実。もはや夢破れ、心が折れる寸前だった。

 

とそんな時、ふらりと近づく白い影。

 

 

『こんな夜更けにこんなところで。困りごとかね?よかったら、相談に乗るが』

 

「うにゃ、あなたは……?」

 

 

気落ちしているところでかけられた声。紳士的なセリフに渋いハスキーボイス。声の主を確認しようと見上げるも、視線を上に向けるまでもなく相手は自分の正面に。

白い体毛のまんまるボディー。頭の上に黒いもこもこを乗せた、鳥のような物体がそこにいた。

 

 

『通りすがりのグーグだ。覚えておいてくれたまえ。』

 

 

実際にはぐぁーぐぁー言っているだけなのだが、アイルー含む獣人族にはちゃんと言葉として伝わるのだ。何とも不思議なものである。

 

 

「……実はわたし、パートニャーになりたくてココに来たんですにゃ。でも、どのハンターさんにも雇ってもらえにゃくて。もうどうしていいかわからないにゃぁ……」

 

『うむ、そういう事情であったか。生憎この身はハンターではないのでな、君を雇うことは難しい。』

 

 

彼はグーグであって人ですらないのだが。

 

 

『ともあれ、今日はもう遅い。詳しい話はまたにしよう。明日、時間はあるかね?』

 

「大丈夫ですにゃ。でもどうしてこんなに親切にしてくれるにゃ?」

 

『袖振り合うも他生の縁、という言葉があるそうだ。まあ性格だろうな。

 私の父は人間でね。父の影響が多分にあるとは思うが。』

 

「……よくわからないにゃ」

 

『ははは、そうかね。とりあえず今日は送ろう。住処はどこだね?』

 

 

 

親切なグーグに話を振られ、つい黙ってしまった。

ハンターとの契約を望むネコは多く、彼らは、教官に推薦されたらすぐ向かえるようにまとまって寝泊りしている。しかしながらこのネコは、もうその場所に戻る気力がなかった。なぜならそこにいるのは未来に希望を持っている、かつての自分のような者達ばかりだから。

 

 

『……ふむ。なんなら、うちに来るかね。父も特に嫌がりはしないだろう』

 

「いいんですにゃ?」

 

『ああ、問題ない。ただ、一応父に話は通さないといけない。近くの酒場で働いているから、一緒にいこうか』

 

 

そう言ってグーグはペタペタと歩き出す。裏通りをしばらく歩き、たどり着いたのは夜だというのに外まで声が漏れ聞こえるほど賑やかな建物。

ここにグーグの主人がいるのかと考えていると、勝手知ったるなんとやらか彼は堂々と入口のドアをくぐっていく。

そして店内に入った瞬間、ピンクの人影が彼の体をさらったのだった。

 

 

「あー、ミズタキちゃーん!今日もちりちりアフロがかわいいよー!

 ご主人様のお迎えかな?うーん、一途だぁ。そこがまたかわいいよね!ね!」

 

『ぬう、フラウ嬢。いつも撫でてくれるのはありがたいが、今日は用事があるのでな。降ろしていただけるかな?』

 

「やーん、ぐぁーぐぁー鳴いちゃってかわいいなぁもー!」

 

『やはり伝わらんか。歯がゆいな……』

 

 

やはりも何も、種族の壁は大きいのである。

ピンクの髪のレジェンドラスタ、フラウに絡まれながらそんなことを考えていると、今日の主題のアイルーがきょとんとしている。はて、一体どうかしたのだろうか。と首を傾げるその仕草に、フラウはまたしても可愛さに悶えている。

 

 

「……あなたのお名前は水炊きというのですかにゃ?」

 

『ああ。……そういえば名乗っていなかったか。良い名前だろう?』

 

「おいしそうな名前ですにゃ」

 

『……そうかね?』

 

 

本人(本鳥?)は名前の由来はわかっていない様子。しかしながら、アイルーには聞き覚えのある名前であった。東の国から来た流れ板アイルーより教わった料理レシピ。海藻を煮立たせた水にキノコやネギ、肉を入れて炊いた鍋料理で、別に用意したタレにつけて食する。アイルーにとっては少々熱いが、さっぱりとしたその味はネコにとっても大満足な一品である。ちなみに肉の種類は実は何でもよい。

 

 

『まあ、ともかく父に話を通そうか。そうでなくては君の寝床もままならん。そういうわけでフラウ嬢。そろそろいいかね?』

 

 

水炊きは自分を持ち上げている女性に声をかける。しかし、当然のことながらその言葉は伝わらず。フラウにとっては、むしろ自分を見上げながら『くわっくわっ』と鳴いている腕の中の生き物の姿にテンションをさらに上昇させているようだ。

 

 

「……ふふふ、こんなに可愛い仕草を見せつけちゃって、ボクのことどうするつもり?ねぇ、誘ってる?誘っちゃってる?」

 

「いい加減にしないか、フラウ。酔いすぎなんじゃないか?」

 

「へーんだ。このくらい酔った内には入らないよー」

 

「まったく。酔っぱらいはみんなそう言うモノだ。……おーい、エグチ!ミズタキが迎えに来たぞ!」

 

 

フラウは横に座っていた金髪の男性にたしなめられる。そして何かを察した彼は奥で働いているであろうグーグの主人に声をかけてくれる。フラウも「ちぇー」と言いながらグーグを床に降ろす。実に残念そうだ。

 

そしてしばらくすると、酒場の奥の厨房と思われる所から男性が顔だけ出してきた。

 

 

「水炊きすまん、今ネコの手も借りたいくらい忙しいんだ。ちょっとまってろ」

 

『ぬ、そうか。ならば店内で待たせてもらうか』

 

 

ご存知、エグチである。閉店時間はまだ先で今時分飲食店は戦争状態の忙しさなのである。見渡してみると、さほど大きな酒場ではないが、その座席はほとんど埋まっているようだった。給仕の者はあわただしく料理や酒の配膳に駆け回っているし、厨房からも注文を通す怒号や、鍋を振り回す音が聞こえている。なるほどこれでは帰ることはできないか。

エグチの声を聞きつけて、フラウは早速水炊きの捕獲に取りかかる。「まだ帰らないならいいじゃん!」と言いながら金髪男性を言い包めきゃっきゃうふふと駆けずり回る。

 

騒々しい店内であったが、その喧噪はアイルーの耳には届いていなかった。このネコの脳内にこだまするのは、つい先ほど聞いた水炊きの主人の言葉。たった一言であったが、その言葉は自分が求めていた最高の言葉であった。

 

 

「……ネコの…手も……?……本当に?」

 

 

幾度か言葉を反芻し、アイルーは決意を固めていく。

数回の深呼吸。きっと大丈夫、ここで私は必要とされている。心を決めていざ突撃。

 

 

「旦那さーん!わたしを雇ってくださいにゃぁーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

後日。

広場の裏手のとある酒場に看板ネコが登場した。

調理、配膳、皿洗い。店内の清掃から食材の仕入れまで。暴漢が出ようものなら手製のタル爆弾でご退場願う。

意外なほどの才能を見せつけたアイルーのお蔭で、この酒場はさらに栄えるようになる。

 

余談であるが、このアイルー見たさに足しげく通う獣人族の姿もあったりなかったり。まさに容姿端麗、才色兼備な雌アイルー。彼女の名前はレベッカといった。

 

 

「え、パートニャーランク?なんですかにゃ、それは。おいしいんですかにゃ?」




よいこのみんな!グーグやホルクの名前に『非常食』とか『焼き鳥』とかつけちゃだめだよ!
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