「アァー。アァー。アーー。アァアァ」
船に揺られながら青空と青海原を眺める男が一人。その男の視界には鳴き声と共にウミネコが映りこむ。
太陽光が空と海面から照り付ける中、男は全身黒ずくめで在りながら汗一つ掻かずにいる。
「
すると黒ずくめの男、
艦娘とは肉体と艤装を持って生まれてくる存在だ。詳しい事はあまり解っていない。解っている事は、彼女たちが第二次大戦中に生み出された軍艦の擬人体であり軍艦時代の記憶を多かれ少なかれ保持している事、人間と変わりない感情や意志を持っている事。また元が同じ艦であっても個々人に個性が在り、顔なども誤差の範囲ではあるが異なっている。さらに艦娘になってからは記憶の共有はされていないらしい。
そして恐らく本体は艤装の方である事。これは解体や近代化改修を行う際、艤装を完全に解体した瞬間に人体が薄れ消失した事から判明し、今はこの説が最も有力視されている。
そして最後に艦娘は妖精にしか建造できないという事だ。まだ他にも情報はあるが、それは追々話していこう。
「それにしてもキミィ、あんな所に送られるなんて何したん?」
「ち、ちょっと龍驤!行き成り何言ってるのよ!!」
またしても海上から声を掛ける者がいた。この関西弁風喋りの少女は軽空母の龍驤。本来は《正規空母》のはずだが本人は《軽空母》と言っている。ちなみに龍驤と五十鈴は共に第二改装まで受けており、龍驤が対空、五十鈴が対潜で船の周りを警戒している。
「固い事言いなや五十鈴。それに五十鈴も気になるやろ?」
「それは、そうだけど・・・」
龍驤に尋ねられた五十鈴は気まずそうに龍夜の事をチラチラと見る。
「確かに、提学を卒業して直ぐに『新鎮守府の鎮守府総司令官に任命』、っとくれば『大出世や!』思うけどなぁ~。・・・キミの場合は、悪意しか感じんよ」
今まで明るかった龍驤の顔に影が差す。その理由が龍夜の着任理由を想像してのモノか、それとも着任場所によるモノかは龍驤にしか解らないだろう。
龍驤の言っていた《提学》とは《艦娘運用海軍兵学校》の通称である。
この学校では艦娘を運用する司令官、提督を育成することを目的として設立された士官学校だ。
この学校を卒業すれば、少尉では無く少佐として任官し、秘書艦を貰い提督となれる。その性質上佐官で提督に成れるので通常の海軍とは指揮順位も変わってくる。
ただし無能な提督を大量産をしない為に入学卒業には厳しい試験と審査、高額の入学金などを設けている。しかしそれも表の話、当然人のやる事で名家出身者や高官縁者などには入学卒業に審査を甘くしている。
ちなみに龍夜は通常入学で入っている。
「特には何も。ただ自分のルールを守っただけだ」
「けどな!おかしいやろ!だって―――」
「ちょっと!もういいでしょ!」
龍夜の返答に納得いかず、なおも言いつのろうとしている龍驤、それを止めようとする五十鈴。だが当の本人はどこ吹く風としている。
その態度に龍驤もさらに感情が高ぶり叫ぶ。
「―――五十鈴止めんといて!修羅道はん、あんたのことやぞ!!
「・・・確かに上層部はその心算だろうが問題ない。こちらにも艦娘はいるし、俺も戦える」
龍驤の激昂にさえも龍夜は動じず、タバコを吸い始める。
「艦娘が
「龍驤!・・・もういいわよ。バカに何言ったって意味ないし、自惚れたまま死ねばいいのよ」
龍夜の態度に五十鈴が辛辣に吐き捨てる。
「五十鈴!?何もそこまで、ちょおまってな・・・・・・・・・っ!」
五十鈴を窘め様とした龍驤だが、偵察機から通信が入ったようで話を聞いてる内に焦りが出ている。
「五十鈴、敵や!戦艦を中心とした連合艦隊、数は40。艦種は戦艦7、軽母5、雷巡5、重巡5、軽巡8、駆逐10、全艦
「なんですって!?速く先行してる娘や後方警戒してる娘にも伝えないと!」
「もぉやったわ!チトチヨの二人は艦載機発艦急いどる!戦艦の金剛型や他の娘も戦闘態勢取れとる」
「・・・ねぇ龍驤、振り切れないの?こっちは高速艦で固めてるし・・・」
「無理や。あちらさんもかなりの高速編隊の様やし、それにウチらが本気出したらこの船が付いて来れへん」
「でも!こっちは12ハイしかいないのよ!これじゃ―――」
「・・・そうや。たとえ勝っても何隻か沈む。たとえ沈まんかったとしても、帰りがどうなるか・・・」
龍驤と五十鈴が暗い顔で話し合う。
龍驤の言った敵とは人類から深海棲艦と呼ばれる存在だ。深海棲艦についても艦娘と同等以上に詳細情報がない。
深海棲艦は数十年ほど前から世界に姿を現したという。彼らは同族を除く全ての船を片端から襲撃し、沈めていった。それ故に人類側のシーレーン等がズタズタなり、各国が連携の取れない鎖国状態にまでなった。海上を封鎖された人類は、代わりに輸送機による物資輸送を試みたが深海棲艦の艦載機に落とされ失敗に終わったらしい。
また艦娘が生み出される前や生み出された当初には、通常の軍用艦や軍用機によって深海棲艦討伐を試みられたが、結果は歯が立たず尽く沈められた。
その結果、《深海棲艦は艦娘でしか倒せない》と言われる様になった。
理由としては、一般船舶と深海棲艦では体積や速力、旋回性能や砲頭旋回速度の差や、深海棲艦の艤装や艦載機の口径は人間用サイズだが威力は各艦砲並みだという事。
さらにある一定以上の深海棲艦はバリアを張れる上に、全艦駆逐艦なら駆逐艦、戦艦なら戦艦と通常の軍艦と同等以上の装甲を誇る等の理由がある。またバリア以外に関しては艦娘も同じ仕様である。
そして深海棲艦が何所から来て、何が目的なのかなどは一切判明していない。
龍夜はそんなの話を話半分で聞きながら
話し合っていた二人だが、その音を聞き不審に思って龍夜の方を向く。
「という訳やから、船内に、・・・ってさっきから何しとんねん!」
「戦闘の邪魔だからあんたは、・・・ってなんなのよそれは!?」
「なにって、見れば解るだろ?武装だよ」
二人から問われた龍夜は簡潔に答える。
ついさっきまで黒ずくめの格好という事以外は、特におかしな所は無かった龍夜だが、今はかなり歪だ。最もしっくりくる表現としては、複数の艦娘の艤装を装備している、という感じか。
服装は肩に羽織っていたロングコートを脱いだ以外は変わらずに、左腕には古鷹型が装備している様な腕を覆う艤装。右手には皐月や文月が所持している様な拳銃型の艤装。そして肩には正規空母の様な飛行甲板の艤装を装備。
背中には時雨のバックパック一体型砲塔、両肩隣りに扶桑型、両腰隣りに長門型が装備している様な巨大砲塔を装備している。
さらに脚には魚雷発射管を装備。
龍夜は連装砲十一基+一門の計二三門の砲、そして二基の魚雷発射管と一枚の大型飛行甲板を装備した姿で立っていた。
「それじゃあ、戦争始めようか」
絶句する二人をよそに、二三門の砲から放たれた砲弾により戦闘の幕は上げられた。