Fate/alter Seven Sight ――the Next Sight―― 作:どっこちゃん
――それでも、やはりくろむの具合が戻ればあとは何とかなる。とも、実際に思えてくるのだ。
夜を裂くようにして虚空を駆けながら、ルベルは頭の隅でそんなことをいみじくも考え続けている。
そうだ、それは確かではないか、今まではそれでうまくやってきた。ルベルは、そうできる限り己に言い聞かせるように反芻する。
だがそれは、自分だけではこれ以上アズルにどう接していいのかわからない、という自白と同意だ。
確かに以前は総てを語ってあげることの出来ないアズルとも、魔術師同士として、何処か相容れない風に冷めたナティオとの関係も、何とか取り繕うことが出来ていた。
それはくろむが間に入って、家族の緩衝材になってくれていたからだ。だから、ルベルもなんとなく自分はうまくやっているように思っていたのだ。――錯覚ではないか、そんなものは。
嗚呼、なんとおかしなことか、高名なる魔導の泰斗、魔術師ルベル・フォン・シュタウフェンは、あの不肖の弟子がいなければ、実の子息とまともな意志の疎通すらままならないのだ。
いや、むしろ……「家族」の中心は、自分ではなく、くろむだったのではないか? もしかしたら、自分がいなくたってあの「家族」はうまく機能するのではないか? とさえ思えてくる。
そう考えると、自分さえいなくなれば、ナティオの奇病さえすぐに改善するのではなどという根拠のない考えさえ浮かんでくる。アズルにとっても、一番いらないのは、自分なのではないのか?
今日だって、自分よりも姉を、ナティオを優先したではないか。自分と楽しく食事をするよりも、姉に会いに行ったのだ。母親である自分のいいつけを破ってまで。
いや、何を馬鹿なことを言っているのだ。まるで嫉妬をしているようだ。何を考えている? 論点をぼやかし、すり替えてはならない。――しかし、それでは、件の「論点」とは一体何のことなのだろう?
わからない。もう考えたくなかった。
――――声もなく懊悩するルベルは、そんな状態のまま代行と相対した。
逢魔が時。シュタウフェンの屋敷近くの森に現れた代行は、ルベルの顔を見ると、言葉も発することなくすぐに逃げ出した。深い森の中を、ルベルは追跡し続ける。いくら肺腑の内で心がパニックを起こしていても、魔術師としての己の殻は、どうしようもなく堅固だ。
いつだって、心の齟齬は、魔術師としての己の足を止める理由にはなりえない。
それがまたルベルの人としての、母親としての心を深く抉る結果になる。
いつだって、いつだってそうだったのだ。
だからとって、やはり、どうしたって、足を止めるわけにはいかない。前に進み続けるしかない。アズルを傷つけることになっても、自分にはこれしかできない。できることがこれしかないのだ。
――なんだ、結局、アズルよりも自分が大事なんじゃないか――
決定的な絶望が、逆に魔術師としてのルベル・フォン・シュタウフェンの完成を助長した。
葛藤を捨てた魔術師は、もはや一個の魔という現象となり果てて、標的を追い詰めていく。
代行は暗い森の中をジグザグに移動しながら、しかし確かに上へ上へと登っていく。
その先にあるのは島原の本拠地だ。もしやあの代行め、代行の分際で島原と組んでルベルを謀殺でもするつもりだったのか? 無い話ではないとも思えるが――、
代行は真っ黒な影のごとき闇の中を、滑るような動きで進んでいく。
兎に角、まずは捕まえてしまうのが先決だろう。ルベルは意を決して代行の背を見据える。ここはルベルにとって慣れ親しんだ、いわば庭のような場所だ。
しかし、それでもうかつな手出しはできない。
あの代行相手に、先手をとって仕掛けるというのは下策なのだ。おそらく本人もそれを見越して逃げの一手に徹しているのだろう。
派手さのないオーソドックスな魔術師であるが、ルベル以上の「風」の使い手であるため、ルベルの主兵装たる粒子の魔術が使用できない。
その上、厄介な魔術特性を持つ。その属性は「風」。起源詳細は「風勢を測るもの」、即ち「風車」である。
その特性は風に限らず、相手が使用したあらゆる自然干渉・物理破壊などの指向性魔術を、「向かい風」の原理で逆に利用し、己の魔術の威力を倍加するというものである。
ルベルにとっての奥の手である「災厄の砂時計」その「核」の作成にも先代の当主とともにこの男が関わったという話は聞いている。
さらに他者の魔術を瞬時に解析し記録・保存するために、己の両目をくり抜き、その眼窩に一対の黒水晶球を礼装として仕込んでいるという念の入れようだ。ルベルの魔術特性も、その礼装についても大方が既に知られてしまっていることだろう。
空力調整の魔術か。代行は暗い森の中を木の葉のごとくどんどん登って行く。しかしいまいち目的がはっきりしない。カウンターを狙うにしてもただ逃げるだけでは意味などなかろうに。
……兎角、ルベルは一目散に掛けていく代行を追うしかない。
その先はもう山頂だった。のこぎりの刃のように並び立つ連峰の中でもひときわ高い、塔のような山の中腹にある晦の里から、真っ直ぐに頂上へ。
蟠るような原始の森を抜けたその先にあるのは、
ルベルはたまらずアーチャーに指示を出し、代行を狙撃させた。用心深い代行には「印章」を貼り付けることもできなかったが、この距離ならアーチャーの矢が外れることのほうが難しい。
連続で飛来する矢を、しかし代行は避けることもしなかった。アーチャーの魔弾に対して得意の迎撃魔術を使用するでもなく、ただ背中に受けるに任せて島原神社の本殿へと突っ込んでいくのだ。
身体を穴だらけにされ、片腕を切断されても、代行の速度は止まらなかった。
――バカな!? どういうつもりだ? これではまるであの錐人と同じではないか――もしや、あの錐人とつながりが? いや、この状況ならばやはり島原と結託していたのか!?
だとしらた、――どこまで? あの夕子の行動は、どこまでが代行と申し合わせてあった行いだったのだろうか?
懐疑に身をよじるしかないルベルだったが、どのみちここで取り逃がすわけにもいかない。例え島原と構えることになろうと、代行だけはこの場で始末する!
と、そこで代行を追うルベルの両サイドから、数人の男たちが飛び出してきた。一緒に行方のわからなくなっていた代行の護衛たちだ。どうやら島原の結界の
しかしこれも妙な話であった。少々、出てくるのが遅いのではないか? ルベルは攻撃を躱し、牽制しながら内心で驚愕、否、呆れる。何故守るべき代行があれほど傷を負ってから出てきたのだ?
そして、代行をはじめとする男たちはここでまた予測不能の行為へとはしった。
彼らは、対峙していたルベルに背を向け、またもや大挙して島原の本陣へと押し入っていったのだ。
唖然としつつ、そのうちのひとりを仕留めたが、他はどうしようもなかった。
さすがのルベルも一度は島原の結界の外側で足を止めたが、いよいよ意を決して中に這入り込んだ。これでもう侵入者であることは知られただろう。何があるかは予測できない。
そして押し隠すこともない代行と取り巻きたちの気配を追って、開けた場所に出た。
そのひどく清潔な領域内は簡素な策で囲まれ、周囲を取り囲むように石灯篭が淡い光を湛えている。正式な入口は真西を向いた鳥居のある方角だが、小さな門はそれ以外の三方にも設えてある。
代行と徒弟たちは、魔術師を寄せ付けぬための、高圧電流にも等しい防護結界に、その身を捻じ込んだのだ。
シマバラに内通者がいるのではないのか?! いぶかるルベルを余所に、何人かの護衛が青い焔に包まれ絶息したが、それでも代行たちはがむしゃらに境内の中へと突き進んだ。
ルベルも息をのみながらもそれに続く。その領域――「境内」の中は樹木と木造づくりの一種の迷路のようにも思われ、ルベルはしばし代行たちを見失う。
島原の本拠地である島原神社の『聖域』に入り込むのは、ルベルにとっても初めての経験だった。
僅かの逡巡の後、聞こえる喧噪を、そう、『喧噪』を追って、ルベルは流麗な残像を撒いて虚空を駆ける。
どういうことだ? 迎撃があったのは構わないが、どうにも人の気配が多すぎる。いったい今宵、この場で何が――ッ?
だが、そんな思考を脳裏から締め出すようにして、その時ルベルの目に飛び込んできたのは、すでに血祭りにあげられた代行とその護衛たちの死体。そして十字槍とヴァイキング・ソード。月光に濡れ光る二者二様の白刃の輝きであった。
ランサーが居るのはいい、ここはランサーを擁する島原の本陣。むしろいるのが当然であろう。しかし――まさかこの場にサーヴァント・セイバーまでもがいるとは予想だにしていなかった。
「おやおや、これは奇態な夜だ。代行殿に続き、まさかご当主殿まで」
歪んだような声で驚愕を囁き、錐人がまず赤い外套を翻す。
どういうことだ――? さすがのルベルも困惑せざるを得ない。なぜこの場に錐人までがいるというのだ? もしや今の今までこの場に錐人とセイバーが踏み入って戦闘を行っていたとでも――いや、違う。
今でこそ互いに刃を抜いて牽制し合っているが、今までサーヴァント同士が争っていた様子はない。もしもそうなら、この場に近づいていたルベルがそれを察知できないはずがないからだ。
だとするなら、もしや彼らは――会談の最中だったとでも言うのか?
ならば問題は代行がどちらと――誰と結託していたのか、ということだ?
『出合え、出合え――ッ!』鬨の声と共に、そこかしこから姿を現してきた島原の門人たちが、ルベルの退路を断つかのように周囲に人垣を築く。
手にはそれぞれ古めかしい形状の武器が握られている。おそらく魔術に届きうる程の歴史を重ねた逸品ぞろいなのだろう。もはや逃げるのも容易ではないということだ。
「いやはや、驚きましたよ。――まぁ、考えて見れば当然ですか? シュタウフェンが我らの会合など容認するはずもないですからな。しかし、よく気づいたものだ」
錐人が洒脱なジョークでも披露するような口ぶりで声をかけてくる。その前ではセイバーとランサーが隙なく油断なく互いへ向けて刃を構えている。
その場にいた夕子はルベルを見て何かしらの声を上げていたようだったが、門人らしい女達に連れられて奥に引っ込んでしまった。
「交渉は決裂ですな――まぁ、貴女方に知られたからには仕方がないことでしょうなぁ――ううむ、うむ。
まぁ、仕方がありませんので、予定を変更して――今夜で決めてしまいましょうか」
目を細めてそれを振り仰いだ赤マントの紳士――否、「紅い外套の悪魔紳士」は爬虫類のように微笑した。
「すべてを、ね」
錐人の言葉を契機とするかのように、門人たちが錐人とルベルに襲いかかり、セイバーの剣とランサーの槍が火花を散らす。
こうなっては、ルベルもアーチャーも対応せざるを得ない。
周囲はたちまちに混戦にもつれ混んだ。
どうする? ルベルは粒子の結界で身を守りつつ、懐の砂時計に手をかけて思考する。代行は死んだのか? それが確認できれば、彼女としてはこの場を逃げても構わないのだ。
しかしそう容易なことではないだろう。とくにセイバーとランサー、両サーヴァントを無視して逃走するなど不可能である。
戦うとするなら、どちらを攻めるべきか。パラメーターを見る限り、強力なのはやはりセイバーだといえる。合理的に考えるのなら、セイバーを先に始末するのが正しいだろう。
――しかし、ランサーには得体のしれない能力がある。シュタウフェンの屋敷の結界を活け造りのごとく切り裂き、くりぬいてしまった怪異な能力。それを加味せずにこの趨勢を推し量る訳には行かない。
現状のデータだけではどうにも判断ができない。ならば、なおのことルベルの取るべき行動はどうなるのか?
この場でセイバーを殺すことは可能だ。以前セイバーに貼り付けた
しかし、それをやってランサーが残ったルベルを狙ってきたなら、逆効果だ。むしろ、セイバーに協力してランサーを討ったあと、アーチャーにセイバーを始末させれば……。
ルベルの思索を読み取り、全てを見越してアーチャーも既に狙いをつけている。どちらを狙うのも可能だ。あとはルベルが決断を下すのみ。
しかしその時、それまで血だらけで倒れ伏していた代行と、その取り巻きの護衛たちが、まるで意志のない人形のような素振りで起き上がり、何を思ったのか、ルベルの周りを取り囲んだのだ。
そして何を思ったのか、黒水晶の両眼を見開き、血反吐を吐いて笑い声を上げた。
声もなく驚愕するルベルを余所に、代行達は彼女を背に負うようにしてセイバー、ランサーに向き直った。
抑揚のない、いっそ機械が快哉を叫ぶような奇怪な笑い声で合唱したあと、彼らはいきなり己の腹腔に腕をねじ込み、ズルリと血に濡れる何かを掴み出した。
「な、何を――」
ルベルは思わず胡乱な声を漏らした。彼らが腹腔から取り出したのは、あろうことか、あの男が何よりも軽蔑してやまない粗悪な道具――数珠つなぎの手榴弾だったのだ。
それらは引きずり出されて間もなく炸裂した。凄まじい発光と炎、そして血肉をまき散らし、それらは奇怪なほど透明度のない煙を吐き出して周囲を覆ってしまった。
「ハ――ハハハッ、なんという夜だ! まさか! ノウブルを気取るシュタウフェンが、いやはや、このようなモノを使うとは――」
錐人が油断のない視線をルベルに送りながらも、呆れたような笑い声を上げる。
その言葉の真意に、ルベルも数瞬遅れで気づいた。身体が重い? ――いや、魔術の行使に減退を感じる!
この感覚、そしてこの極めて透過性の悪い白煙には覚えがある。あのフォリアが使用したのと同じ、
第一、サーヴァントの前で使用してもなんの意味もない代物ではないか!? むしろ自分の首を絞めることになりかねない。
幸いセイバーとランサーは未だ互いを第一の標的として既に余人の介入できぬせめぎ合いを続けているし、錐人もすぐに仕掛けてくる様子はない。
しかし島原の門人を片付けながら、この場で最大の驚異とみなしているのであろうルベルと、そのサーヴァントであるアーチャーに対しての警戒を怠ってはいない。離脱は依然として困難だ。
だが、一方のルベルは内心でこの上ない混乱に見舞われていた。なぜ諸悪の根源と見ていた代行があっけなく死んでしまったのか。ならば本当の黒幕は誰だというのだろうか? 錐人なのか? それとも島原が代行を裏切って――。
――違う。ルベルは直感から、これを断じる。
錐人は完全にこれをシュタウフェン陣営による奇襲だと考えているし、島原の対応も、見る限り不測の事態に慌てふためいているようにも思える。
だが、それでは今しがた犬死にした代行の行動が不可解すぎる。まるでルベルの露払いにその身を犠牲にしたかのようにではないか――不可解ではあろうが、錐人も島原も、代行の行為がルベルの、シュタウフェンの勝利ための行いだったと判じているに違いない。
ルベルの混迷はここに極まる。代行は何故こんなことをしたのだ? 表面的にはノウブルを気取っても、何にも増して己の生にしがみついているかのような俗物だ。命ある限り、例え家門の栄光のためだろうと、聖杯と引換であろうと己の命をなげうつような真似はしない男だ。
とはいえ、操られているという可能性もまた、低い。
あれも一応は一流と言われる魔術師であることに違いはない。しかも極めつけの臆病ときている。相手がなんであれ、あの叔母のような醜態を晒すとは考えにくい。
第一アサシンは既に消滅しているのだ。となればどうなる? いっそ死体にでもしない限りあんな真似は――――――死体?
ルベルの脳裏に何らかの光が弾ける。同時に鉛を呑んだかのような後味の悪さが襲ってくる、そう、取り返しのつかない事態に陥ったことに、後から気づいた時のような感覚を伴って。
そうだ、『死体ならともかく、生きたまま操ることは至難』――ならば死体だったならどうだろう? 死体ならいくら体をちぎられても問題にはならない。そうだ、死体なら。
ゾッとするような疑念が、ルベルの身体を這い回った。
いつから? 代行はいつから死んでいたというのだ? そして一体いつから自分は欺かれていたというのか――?
考えても答えは見つからない。が、どこか決定的な違和感があった。謀られた、もしくは己が何かを大きく踏み外してきたかのような、いかんともしがたい悔恨と焦燥が早鐘を打つ。
そしてこの先には、その何者かが用意した結末が待っているということになる。
ルベルは感覚を広げて周囲を警戒する。しかしチャフのせいでうまくいかない。
『――マスター』
アーチャーからは案じる念波が届くが、応えている暇さえ惜しい。しかし、なにがあるというのだ? この御三家を巻き込んだ混戦になんの意味が?
『――マスター、アズルの様子がおかしいッ』
念波での通信であることさえ忘れて、ルベルは己が耳を疑った。
「何を言っているの? アーチャーッ、どうしてアズルが……」
その時であった。その疑念を、その疑念に行き着くものを待ちわびていたかのように。
ルベルは驚愕する間もなく、――その混沌の只中に、夜を割り割くようにして降り立った、灼熱の
魔術感知は直前まで役に立たなかった。視覚でのみ、それを捉えることができた。誰もが、唖然とそれを見た。あっけにとられるように見上げた。渾身の打ち合いに興じていたセイバーとランサーまでもが我が目を疑うような顔を見せる。
それはここに来て、予期すらしていなかったはずの――騎兵のサーヴァント・ライダーの来訪であった。
「――――――――人馬合越ッ! ――我ら、雄中に、有りぃぃぃぃぃぃッッッ!!!!」
虚空を駆ける騎兵は、流星のごとく飛来した。怒号が轟き、幾万もの刃を内包する嵐そのものが、その場にいた全ての者を襲った。
どんなサーヴァントでも容易には立ち入れないはずの「神域」たる島原の聖地、その多重結界を難なく粉砕して、それは迫る。
夜を一閃した真紅の騎馬とその乗り手は、ありえない規模、ありえない威力の「超」規格対軍宝具をぶちかました。もはやそれは物質化した大乱の刃嵐か、あるいは世界を飲み込むような大津波とも見て取れた。
なんとその刃の嵐はその山頂にあった島原の屋敷の全てを包み込み、山の形をごっそりと削り取って攪拌し微塵にして虚空へとばらまいたのだ。
生きているものなど居ようはずもない。セイバーもライダーも、不死身を誇ったキリヒトの肉体も、千年以上もの古よりこの地に有り続けた島原の本陣もが、まるで冗談のようにバラバラに粉砕されていく。
さしものサーヴァントたちも、そのタイミングと攻撃規模には流石に対応が出来なかったものと見える。――ルベルだけがかろうじて反応できたのは、単に位置的に向かってくるライダーを先に見つけられたことと、この状況に一人異様なほどの違和感を持っていたからであろう。
これを唯のシュタウフェンの奇襲だと判じていたセイバー、ランサー陣営には、正しく寝耳に水の事態――正しく天災にも等しい災厄だったに違いない。
サーヴァントたちも、不死身を誇った錐人も間違いなく粉砕され、その無尽の刃がルベルに迫る。マイクロセコンドまで「体内感覚」を加速しても、このライダーの宝具を回避する術は見当たらない。
ルベルは咄嗟に令呪を使用し、アーチャーをこの場に呼び出していた。それ以外に取りえる手段がなかった。「時計」を使用して身を隠すという暇もない。
アーチャーの身体を転移させても、どうにもならないことはわかっていた。アーチャーの身体を盾にしたところで、この嵐を避けることなどできはしない。
それ以上のことは、もはやルベル自身の思考も及ばなかった。自分でも、アーチャーに指令を出したのか定かではない。ただ、全魔力を注ぎ込んだ防壁結界と己の手足が、まるで砂糖菓子のように寸断されていく嫌な感覚だけが、最後の記憶だった。
そこでルベル・フォン・シュタウフェンの意識は消失した。