【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第十三話「賢者の石」

第十三話「賢者の石」

 

 クリスマス休暇が終わり、ホグワーツに活気が戻って来た。寮の談話室も昨日までと打って変わって騒々しい。

 

「レネ!」

 

 アランの視界に私やハーマイオニーの姿は映っていないようだ。一直線にレネの下へ向かうヤツの足を引っ掛けてやった。派手にすっ転ぶアランを笑っていると、エリザベスやジェーンがクスクス笑いながら近付いてきた。

 

「アランってば、汽車の中でそわそわしっぱなしだったのよ!」

「アラン……」

 

 エリザベスの密告に顔を赤くするレネ。よろよろと立ち上がったボーイフレンドに駆け寄っていき、二人だけの世界を作り始めた。

 休暇中はずっと一緒にいたのに、所詮は友情より愛情か……。

 

「当分はアランにレネを貸してあげましょうよ」

 

 不貞腐れている私にハーマイオニーが言った。

 

「おもしろくねー!」

「どうどう。落ち着きなさいな、エレイン」

 

 まるで馬でも宥めているかのような態度だ。

 私はハーマイオニーにヒヒーンと威嚇してやった。

 

「相変わらず、君達は騒がしいね」

「ん?」

 

 声の方に目を向ける。そこにはカーライルが立っていた。

 

「よう! 久しぶり!」

「久しぶりだね、エレイン。ハーマイオニーも元気そうで何より」

「カーライルも元気そうで良かったわ。ねえ、その手に持っているのは新聞?」

「うん。どうやら、グリンゴッツの金庫を何者かが破ったみたいなんだ。あの難攻不落の要塞をどうやって攻略したのか、実に興味深い」

 

 珍しい。いつも冷静沈着なカーライルが妙に熱くなっている。

 

「それって凄い事なのか?」

「もちろんだよ。グリンゴッツを守っている存在はゴブリンだけじゃない。強力無比な古代の呪文、凶暴な魔法生物、果てはドラゴンが金庫に近づく不埒者に襲い掛かるんだ。金庫まで辿り着くだけでも至難の業さ」

 

 金庫破りってのは犯罪の筈なんだが、カーライルの話しぶりを聞いていると、犯罪者ってよりも遺跡に挑むインディー・ジョーンズって感じだ。

 

「どんな人が攻略したのかな」

 

 キラキラした瞳。カーライルの意外な一面を見た。

 

「カーライル。金庫破りは犯罪なのよ?」

 

 案の定、ハーマイオニーは批判的だ。その反応を予想していたのだろう。カーライルは特に否定する事もなく、「そうだね」とだけ言った。

 

「それで? 破られた金庫にはどんなお宝が入ってたんだ? 金銀財宝の山か?」

「いや、空っぽだったみたいだよ」

「空っぽ? 空の金庫を破ったってのか?」

 

 だとすると、そいつはカーライルみたいな変わり者って事になる。

 

「いいや、そうじゃないよ。空の金庫だったんじゃなくて、空になった金庫だったんだ」

「……要するに、金庫の持ち主が先手を打ったって事か?」

「そういう事だろうね。破られる筈のない金庫が破られる事を見越した人間がいる。僕はそっちの方も気になってるよ」

 

 ◆

 

 翌日、魔法史のレポートに使える資料を探しにハーマイオニーと図書館へ行くとハリーに会った。悩ましげな表情を浮かべて分厚い本を広げている。

 

「おい、ハリー!」

「ん? ああ、エレインにハーマイオニーか」

 

 声をかけるとハリーは大きなアクビをした。ひどい間抜け面だ。

 

「宿題?」

 

 ハーマイオニーが聞くと、ハリーは首を横に振った。

 

「ちょっとした調べ物だよ。二人はニコラス・フラメルって知ってる?」

 

 当たり前だ。

 

「賢者の石の製作者だろ? 魔法史の教科書にも載ってるぜ?」

 

 その言葉にハリーは目を丸くした。

 

「疑うなら読んでみろよ。ここだ」

 

 近代の偉大な発明品を紹介するページを開いて見せる。

 

「ほんとだ! ありがとう、エレイン!」

 

 眠気が吹き飛んだようだ。椅子が倒れる勢いで立ち上がると、ハリーは出口に向かおうとした。

 その襟を掴む。踏まれたカエルのような声を上げるハリーに私は問いかけた。

 

「なんで、ニコラス・フラメルの事なんて調べてんだ?」

「えっと……、宿題だよ! 宿題!」

 

 ハリーに舞台俳優の才能は無さそうだ。目が泳ぎまくっている。

 怪しい。怪し過ぎる。後ろめたい事を考えているヤツの反応は貧民街(スラム)でも、魔法学校(ホグワーツ)でも変わらないものらしい。

 ハーマイオニーもハリー達が悪巧みをしているのではないかと疑いの眼差しを向けている。

 

「なあ、ハリー。一緒に七面鳥で死にかけた仲じゃねーか。隠し事は無しにしようぜ?」

 

 肩に腕を回して逃げ道を塞いだ上で言うと、ハリーは観念したように言った。

 

「誰にも言わないでよ?」

「安心しろよ。口の堅さで私達の右に出るヤツはいないからよ」

 

 ギリギリと肩を掴む手に力を篭めると、ハリーは渋々といった様子で話し始めた。

 

「僕、ホグワーツに来る前、ハグリッドと一緒にダイアゴン横丁で学用品を揃えたんだ」

「あの森番のおっさんとか? 私の方はマクゴナガルだったぜ」

「そうなの?」

「ちなみに、私の方はスプラウト先生だったわよ」

 

 ハーマイオニーは迎えに来た人間の違いに食いついてきた。

 まずいな。これは話が脱線する流れだ。

 

「まあ、誰が迎えに来たかは重要じゃないな。それより、続きを頼むぜ」

「う、うん。それで、ハグリッドと一緒にグリンコッツにも行ったんだよ」

「グリンコッツ……、あっ」

 

 何となく、繋がった気がする。

 

「どうしたの?」

 

 ハーマイオニーが首を傾げる。

 

「おい、ハリー。もしかして、新聞にあった金庫破りが破った金庫に賢者の石が入ってたってオチか?」

 

 私の言葉にハリーとロンが揃って目を丸くした。

 どうやら正解だったみたいだ。さすが、私だ。

 

「あっ、そっか! カーライルが言ってたものね。破られる筈のない金庫が破られる事を見越した人間がいるって。そんなあり得ない事態に備えられる人なんて、ダンブルドア先生以外にいないもの。つまり、ハグリッドはダンブルドア先生のお使いをしたのね!」

「……そうだけど、うん」

 

 ハリーは釈然としない表情を浮かべながら頷いた。

 

「なるほどな。けど、それでどうしてニコラス・フラメルを調べる流れになったんだ?」

 

 そこがよく分からない。一緒に金庫に行ったのなら、そこで賢者の石を目撃している筈だ。

 

「金庫に何が入っていたのかは知らなかったんだ。ただ、ハグリッドを問い詰めたら、ニコラス・フラメルの名前をポロっとね」

「それで……、金庫の中身が分かった上で、貴方達は何をするつもりなの?」

 

 ハーマイオニーが尋ねると、ハリーとロンは深刻そうな表情を浮かべて頷きあった。

 

「……賢者の石を狙っている人間がいるんだ」


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