【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第一話「出会い」

 突如目の前に現れた老婆によって、この『ダイアゴン横丁』に連れて来られて一週間が経過した。

 私は今、漏れ鍋という酒場の二階で寝泊まりしている。中々に居心地が良くて、すっかり新生活を満喫していると、コツコツという音が窓の方から聞こえて来た。

 

「なんだぁ?」

 

 窓を開けると、小さなフクロウが部屋に飛び込んで来た。

 フクロウは部屋中を飛び回って、散々羽根を散らかした後、『ホホー!!』と鳴いて、再び窓から出ていこうとする。

 

「おい、待てコラ」

 

 フクロウの鼻先で窓をバンと閉める。

 

「人の部屋を散々荒らしやがって……、丸焼きにしてやろうか?」

「ホホーッ!?」

 

 私のベストプレイスを荒らしやがって、このチキンめ。

 

「丁度、小腹が空いてた所だぜ」

「ホー!?」

 

 手をわきわきさせながら近づくと、フクロウはいきなり暴れだした。

 小賢しい奴だ。どうやら、私の言葉が分かるらしい。

 

「だぁぁぁ!! コレ以上、私の部屋を荒らすんじゃねー!! 大人しく、丸焼きになりやがれ!!」

「ホー!! ホホーッ!!」

 

 格闘する事数分、漸く捕まえたフクロウを床に押し付けていると、いきなり部屋の扉が開いた。

 

「リ、リチャード!!」

「あん?」

 

 素っ頓狂な声を上げて飛び込んで来たのは男の子だった。

 私と私が床に押し付けているフクロウを見比べて口をわなわなと動かしている。

 

「ボ、ボクのリチャードを離して!!」

「リチャード……? こいつの事か?」

「そ、そうだよ! ボ、ボクのリチャードを離してよ!」

「……断る! こいつは私の部屋を散々荒らしやがったからな、丸焼きにして喰ってやる」

「く、喰うって、リチャードを……? え、フクロウって、食べられるの?」

「ホーッ!?」

 

 男の子の予想外の反応にリチャードが仰天している。

 いや、私もビックリしたけどさ……。

 

「じゃなかった!! リチャードを返して!! 部屋はボクが片付けるから、お願い!!」

「……ッチ、仕方ねぇ。じゃあ、ちゃっちゃと片付けろよ。さもなきゃ、コイツを丸焼きにするからな。それまではこのままだ」

「なぁ!? う、うう……、待ってろよ、リチャード。直ぐに助けるからな……」

「ホー……」

 

 見つめ合う一人と一羽。実に感動的な光景だ。

 ちょっと、押し付ける力を強めてみる。

 

「ホホーッ!?」

「リチャード!?」

 

 大慌てで部屋を掃除し始める男の子。素直で大変よろし――――って、何してるんだ!?

 

「ちょっと待っ――――」

 

 止める間も無く、男の子は私の荷物が詰まったトランクケースを持ち上げ、案の定、バランスを崩しトランクの下敷きになってしまった。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

 教科書だとか、服だとかがわんさか詰まったトランクだ。

 慌てて駆け寄り、超能力でトランクを持ち上げる。

 男の子はすっかり目を回してしまった。

 

「……ったく、仕方ねぇ」

 

 心配そうに男の子を見つめるリチャードを窓から外に追い出し、彼をベッドに運ぶ。

 

「勘弁しろよ……」

 

 結局、後片付けは私の仕事となった。

 人のベッドを占領し、安らかに眠る男の子……。

 

「このクソガキ……」

 

 ◇

 

「……ん、うーん?」

 

 日がすっかり暮れた頃、男の子は漸く目を覚ました。

 読んでいた本をほっぽり出し、私はベッドに近づく。

 

「よう、目は覚めたか?」

「……えっと、君は?」

 

 鈍い反応に苛々してくる。

 

「テメェのペットに部屋を散らかされた被害者様だ!」

「…………あ、ああ! リチャード!? リチャードはどこ!?」

 

 謝罪より先にそっちの心配とは……、結構図太い性格してるじゃないか……。

 眉間をピクピクさせながら、拳を振り上げる。

 

「質問だけどよ。ぶん殴られるのと、人の部屋を散らかした事に対して謝罪するの、どっちがいい?」

「ひぇ!? あ、えっと……、ご、ごめんなさい!」

「そうそう……。謝るってのは大事だぜ。それと……、テメェのペットはあそこだ」

「え……?」

 

 指差す先には骨付きチキン。

 

「え……、嘘……、リチャード!?」

 

 皿に駆け寄り、男の子は体を震わせた。

 

「う、嘘……、リチャード……? 嘘でしょ……、う、うう、うぁぁ……」

 

 皿の上のチキンを抱きしめて涙を流す。

 あまりにも滑稽で吹き出してしまった。

 

「な、なんだよ……、何がおかしいんだよ!?」

 

 泣きながら怒ってる。器用な奴だ。

 

「ほれ、そっち」

 

 窓の外を指差す。そこにはこっそりと此方を見つめるリチャードの姿。

 

「リ、リチャード!? え、あれ!? じゃあ、これは!?」

「お前の夕飯だよ。何時まで経っても起きねぇから、トムさんがコッチに運んでくれたんだ」

「ゆ、夕飯……」

 

 ガックリと崩れ落ちる。

 ヤバい。こいつ、相当面白い。

 

「おい」

「……へ?」

「お前、名前は?」

「……ボク?」

「他に誰が居るんだよ……」

 

 キョトンとした表情を浮かべる彼にこっちまで脱力してしまう。

 こういうタイプの人間は貧民街には居なくて初めて見る。何だか、興味が湧いた。

 

「ボクはエドワード。エドワード・ロジャー」

「エドワード……? 古臭ぇ名前だな」

「ええ!?」

 

 エドワードは心外だとばかりに頬を膨らませる。

 

「そういう君の名前は?」

「私はアメ――――……エレインだ。エレイン・ロット」

 

 忌々しい事だが、これからは懐かしくも腹立たしい生来の名を使わなければならない。

 折角、この天才たる私に相応しいキュートな名前を考えたというのに……、ババアめ。

 

「それより、エド。お前ももしかして、ホグワーツに入学するのか?」

「え? それじゃあ、君も……?」

「おう!」

「……えぇ」

 

 物凄く嫌そうな顔をしやがった。

 

「おい、なんか文句あるのかよ?」

「ありません……」

 

 まったく、こんな可愛い子と一緒の学園生活を送れるのに不満を抱くとは贅沢な奴だ。

 

「おい、エド。お前はホグワーツについてどのくらい知ってるんだ?」

「えっと……、人並みくらいには……」

「その人並みってのがどの程度なのかを教えろ」

 

 一々びくびくして、何だか小動物みたいな奴だ。

 渋々といった様子でホグワーツについて話し始めるエドをちょいちょいからかいながら、私はホグワーツについての知識を深めた。

 ついでにエドの家族についても色々と突っ込んでみたけど、普通の中流家庭らしい。ただし、魔法使いの……、という枕詞はつくが。

 

「ふーん。エドの親父はそのグリフィンドールって寮だったのか」

「うん。それにしても、本当に何も知らないんだね、君」

「ウルセェ。いきなり、マクゴナガルのババアに連れて来られたんだから仕方ねぇだろ。それより、どの寮が一番良いんだ?」

「うーん。一概には何とも言えないけど、とりあえず、皆はグリフィンドールかレイブンクローが良いって言うよ」

「ハッフルパフってのと、スリザリンってのは駄目な所なのか?」

「そうじゃないけど……」

 

 エドの話を聞く限り、どうやらハッフルパフは落ちこぼれが集まり、スリザリンは悪党が集まるらしい。

 逆にグリフィンドールやレイブンクローは比較的優等生が集まるようだ。

 

「なるほど……、天才たる私はグリフィンドールかレイブンクローのどちらかだな」

「……君はスリザリンになると思う」

「あ”?」

 

 睨みつけると小さく縮こまり、情けない表情を浮かべるお前は間違いなくハッフルパフだな。

 

「よーし、エド! 今日からお前を私の手下に任命してやる!」

「……え、嫌だよ」

「なんでだよ!?」

「いや、いきなり手下になれとか誰だって嫌がるよ!?」

「なにぃぃ!」

 

 調子に乗りやがって……。

 一回締めてやろうかと拳を握り締めると、突然部屋の扉が開いた。

 

「ああ、トムさんの言った通りだ。こら、エド! こんな夜更けまで女性の部屋に居座るなんて駄目じゃないか!」

 

 入って来たのはビックリするくらいのイケメンだった。

 

「ウィ、ウィル兄ちゃん!?」

 

 どうやら、エドの話にあった彼の兄貴らしい。

 確か、名前はウィリアム。

 

「すまなかったね、お嬢さん。うちの弟が迷惑を掛けたみたいで……」

「い、いえ、お気になさらず……」

「ほら、エド! 彼女に謝るんだ。聞いたぞ。リチャードが部屋を荒らした上に色々と手を焼かせたそうじゃないか」

「い、いや、それは――――」

「あ、いえいえ。別に大丈夫ですよ」

 

 それにしても、本当に良い男だ。顔だけじゃなくて、体つきや声まで完璧。

 

「……本当にすまなかったね。私の名前はウィリアム・ロジャー」

「エ、エレイン・ロットです……」

「エレインか……。君も今年からホグワーツかい?」

「は、はい」

「そうか……。私はグリフィンドールの五年生だ。もし、君が我が寮に入る事になったら歓迎するよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 爽やかな笑みと共にエドを連れてウィリアムさんは部屋を出て行った。

 

「……素敵な人」

 

 私はすっかり彼にノックアウトされてしまった。


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