【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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3rd.The best of friends must part.
第一話『不穏』


第一話『不穏』

 

 スリザリン対ハッフルパフの試合は中断となった。

 はじめは何がなんだか分からなかった。教師達に追い立てられるように寮へ戻されて、私達は談話室に閉じ込められた。

 寝室に向かう人間はいない。競技場で起きた出来事を明確に理解出来ている者はそう多くないが、誰もが異常事態の発生に気付いている。

 

「……ねえ、どう思う?」

 

 ハーマイオニーが小声で聞いてきた。

 

「どう思うって言われても……」

 

 ジェーンはお手上げとばかりに肩を竦めた。

 

「気付いたら目の前が真っ暗になってたから……」

 

 レネも困惑した表情を浮かべている。

 

「……大きな蛇が競技場に現れて、それから視界がブラックアウトしたんだったよね」

「うん。あの蛇のサイズからして、恐らくは魔法生物だと思う」

 

 エリザベスとカーライルはさすがの観察力だ。

 

「蛇か……。なんだと思う?」

 

 アランの問い掛けに応えられる人間はいなかった。なにしろ、種族を判別する間もない一瞬の事だったから。

 

「……また、ハグリッドがやらかしたのかな?」

 

 ジェーンが顔を引き攣らせながら言った。

 誰も反論しない。薄々、みんなもそうじゃないかと思っていた。

 ケルベロスのフラッフィー、ドラゴンのノーバート、アクロマンチュラのアラゴグ。

 他にも、ハグリッドがホグワーツに持ち込んだ超危険(・・・)な魔法生物は数知れない。

 

「ダンブルドアがあそこまで慌てるって事は、相当危険な生き物って事よね?」

「……あの男、やはり危険だ」

 

 ハーマイオニーが青褪めた表情で言うと、アランが深刻そうに呟き、レネを抱き寄せた。

 

「もう、あの男の下に行ってはダメだ!」

「ア、アラン……」

 

 二人の世界に突入したバカップルは無視しよう。

 どうせ、こうなるとまともな返事は返ってこなくなる。

 

「とりあえず、結果オーライではあるな」

 

 私の言葉にキョトンとした表情を浮かべるハーマイオニーとジェーン。対して、エリザベスとカーライルは悪い笑顔を浮かべている。

 こういう時、性格の違いが色濃く現れるな。

 

「スリザリン対ハッフルパフの試合が中断になった。つまり、現時点で、レイブンクローがトップという事だよ。あのまま試合が続いてたら、きっとハッフルパフはコテンパンにやられちゃって、今年もスリザリンの優勝が決まってただろうね」

「アハハ、ハグリッドのファインプレーだね!」

 

 カーライルとエリザベスの言葉にジェーンは苦笑した。

 

「それって、素直に喜んでいいの?」

「いいに決まってるだろ。運も実力の内だ」

 

 私の言葉にハーマイオニーは呆れましたとばかりのため息をこぼした。

 

「……まあ、犯人は決まったようなものだし、もう寝ましょうか」

「そうだね!」

「だね。ハグリッド以外に居ないだろうし」

「ああ、アイツに間違いない」

「異論を差し込む余地もないね」

 

 私はアランからレネを引き剥がして寝室へ向かった。

 幸い、ダンブルドアが迅速に行動したおかげで今回も被害者は出なかった。

 どちらかと言えば、エリザベスの言う通り、ハグリッドの行動はファインプレーと言える。

 

「へっへー、優勝!」

「うーん。喜んでいいのかなー……」

「それよりもハグリッドが心配だよ……。罰とか受けないといいな……」

 

 レネが心配そうに呟く。

 

「……ケルベロスやドラゴン持ち込んでオーケーだったんだぞ?」

「他にどんな怪物を持ち込んだら罰則になるのよ……」

「そ、そうだね……、あはは……」

 

 もし、今回の事で罰則を受けたら、あの蛇がケルベロスやドラゴン以上の危険生物という事になる。

 流石にないよな……?

 

 ◇

 

 翌日、起きて談話室に向かうと、フリットウィックが青褪めた表情で立っていた。

 

「どうしたんだ、先生」

 

 私が声を掛けると、フリットウィックは飛び上がった。

 

「お、おい、大丈夫か?」

「え、ええ、大丈夫ですとも! ああ、ミス・ロット。それに、ミス・グレンジャー、ミス・ジョーンズ。他の生徒達が起きるまで、ここで待機していて下さい。今日は寮の生徒全員で大広間まで移動します」

「全員で!? 昨日の蛇はダンブルドアが倒したんだろ?」

「……詳しい事は校長が話します」

 

 不可解だけど、いくら突いてみてもフリットウィックは応えなかった。まるで、何かを恐れているかのように、ときおり体を震わせている。   

 私達は顔を見合わせながら、他の寮生が起きてくるのを待った。

 

 寮生全員で大広間に向かうと、スリザリンとハッフルパフが既に着席していた。大分ざわついている。

 私はエドの後ろ姿を見つけて、そのすぐ傍の席を陣取った。レイブンクローのテーブルはスリザリンのテーブルと隣合わせなのだ。

 

「よう!」

「あっ、エレイン!」

 

 私が声を掛けると、嬉しそうに笑顔を浮かべた。可愛いヤツだ。

 

「へへー、今年はレイブンクローが優勝を貰ったぜ!」

 

 私の言葉が聞こえたらしく、他のスリザリン生が一斉に振り向いてきた。

 

「……言っておくけど、試合は中断されただけなんだ。このまま優勝が決まるなんて甘い考えは捨て給えよ、レイブンクロー!」

 

 青筋を立ててドラコが言った。

 エドの隣に座っていたらしい。その更に隣でゴリラみたいなヤツがウホウホ言っている。

 

「はっはっは、望み薄だけどな。だって、もうすぐ期末テストが始まるぜ? クィディッチの試合なんてやってる暇無いだろ」

「暇なんて無くても再開させてみせるさ。僕の父上はホグワーツの理事を兼任しているからね」

「ふーん。まあ、再開しても私に出来る事はセドリックを応援する事だけだけどな」

「えっ、なんで!?」

 

 エドが血相を変えた。

 

「なんでって……、セドリックが勝てば、レイブンクローが優勝するからだよ」

「……セドリックに勝って欲しい理由はそれだけ?」

 

 ドラコが渋い表情を浮かべて顔を背けた。まるで、レネとアランのラブシーンが始まった時の私のようだ。

 

「……他に理由なんてねーよ」

 

 ホッペを軽く揉んでやると「やめてよー」という情けない声を出した。

 これは嗜虐心が刺激されるな。ホッペの柔らかさも実に私好みだ。

 

「はい、そこまで」

「戻ってこい、エド」

 

 しばらく堪能していると、ハーマイオニーとドラコに止められた。

 

「ダンブルドアのお話が始まるわよ」

 

 いつの間にか、グリフィンドールも席についていた。教員席も二つの空きを残して埋まっている。

 

「あれ? スネイプとクィレルがいねーじゃん」

「静かにしなさいってば」

 

 ハーマイオニーに叱られてしまった。

 大人しく、口を閉じてダンブルドアの話に耳を傾ける。

 

「……諸君。君達にいくつか悲しい報せがある」

 

 その後に続いた言葉を私は信じられない思いで聞いていた。

 

「嘘だ……」

「そんな……」

 

 エドやドラコの呆然とした声が耳に残る。

 振り向けば、ハーマイオニーとレネもショックを受けていた。

 

「冗談だろ……」

 

 スネイプとクィレルが死んだ。そう、ダンブルドアはハッキリと口にした。

 一年生の頃、私の我儘でハグリッドが罰則を受けそうになった時に庇ってくれたクィレル。

 禁じられた森に入る時、嫌そうにしながら私達を守ってくれたスネイプ。

 二人の訃報を私はすぐに信じる事が出来なかった。

 

「な、なんでですか!? なんで、そんな事言うんですか!?」

 

 エリザベスが哀しみに満ちた声で叫んだ。

 その顔には、怒りや哀しみが入り混じり、瞳には涙が浮かんでいた。

 

「……ミス・タイラー。座りなさい」

「答えて下さい!! なんで、そんな……、嘘を言うんですか!!」

「嘘ではない」

「嘘です!! だって……、だって……」

 

 エリザベスが崩れ落ちた。慌ててジェーン達と共に駆け寄ると、エリザベスは嗚咽を漏らしながら蹲った。

 

「エリザベス……」

 

 エリザベスはスネイプが好きだった。これから、どうやって交際に持ち込むか真剣に考えていた。

 

「……ダンブルドア。嘘だよな? だって、なんでスネイプが死ぬんだよ」

 

 声が震えた。スネイプの事を器の小さいおっさん程度に考えていた筈なのに、死んだと聞かされた瞬間から、禁じられた森で過ごした時間を思い出してしまった。

 私達を守るために常に周囲を警戒する姿。フラッフィーに無闇に近づいた私達に説教をする姿。エリザベスみたいに恋心なんて抱いてないけれど、私もスネイプの事が好きだった。

 その事に気付いたのは、私だけじゃなかった。ハーマイオニーやレネも泣き崩れた。

 

「……本当じゃ。後日、二人の葬儀を執り行う」

 

 その言葉にスリザリン生が爆発した。

 

「事情を話せよ!!」

「なんで、スネイプ先生が!?」

「何があったんだ!!」

「あの競技場に現れた蛇が関係しているんですか!?」

 

 怒声はハッフルパフからも響いた。

 セドリックが涙を零しながら説明を求めている。

 グリフィンドールの席でも、泣いているジニーをハリーとロンが慰めていた。

 

「……詳しい事情は調査中じゃ。後日、改めて説明を行う」

 

 その後も説明を求める声は止まなかった。けれど、ダンブルドアは答えなかった。

 その姿は、どこかやつれて見えた。

 

 数日後、ダンブルドアの言葉通りに葬儀が執り行われた。

 棺に並ぶ二つの遺体。見間違えようがなかった。

 泣き叫ぶ者、怒りに身を震わせる者の数は、全体から見れば少なかった。スネイプは嫌われ者だったし、クィレルも人気のあるタイプじゃなかった。

 それでも、私達にとっては勇敢な教師だった。

 

「……スネイプ先生」

 

 私達が蛇を持ち込んだ下手人だと断定したハグリッドも涙を流していた。

 あの様子を見ると、犯人が別にいる気がしてくる。だけど、一体誰が……?

 

「ねえ、エレイン」

 

 ハーマイオニーが青褪めた表情を浮かべて言った。

 

「もしかして、先生達を殺したのって……」

「ヴォルデモートよ」

 

 怒りを滲ませた声でエリザベスが言った。

 

「……間違いない」

 

 エリザベスは参列した大人達に語りかけているダンブルドアを睨んだ。

 

「知ってた癖に……」

「おい、エリザベス。まだ、決まったわけじゃないだろ」

「他に誰がいるって言うの!? 先生を二人も殺したのよ!?」

 

 私は慌ててエリザベスの口を塞いだ。周囲の目が集まっている。

 私はハーマイオニー達に合図を送り、一緒に葬儀の場から離れた。エリザベスが藻掻いているが、騒ぎを起こすのはまずい。

 仮にエリザベスの推理が正しかったとしたら尚更だ。

 

「一旦、落ち着けよ、エリザベス!」

「うるさい!」

 

 エリザベスは目に涙を浮かべて怒鳴った。

 

「エレインは悔しくないの!? 私達は知ってたのよ! アイツが……、ヴォルデモートがこの近くに潜んでいるって! ダンブルドアなんて信じるんじゃなかった!」

「落ち着いて、エリザベス! 仮に相手が例のあの人だったとしても、怒りを向ける相手が間違ってるわ!」

 

 ハーマイオニーが諭すように言うが、火に油を注いだようなものだった。

 

「……分かったわよ」

 

 そう言って、エリザベスはハーマイオニーを突き飛ばすと、私達に敵意の篭った視線を向けて葬儀場へ向かった。

 私達も戻って警戒したけれど、それ以上、エリザベスが暴れる事はなかった。

 そして、表向きは元の日常が戻って来た。ただ、クラブ活動が全面的に禁止となり、放課後の無断外出も禁じられた為にクィディッチの訓練や魔法生物飼育クラブの活動も出来なくなった。

 エリザベスは私達と口をきかなくなった。それどころか、あんなにミーハーでお喋りだったのに、今は常に無表情で、誰とも関わろうとしない。

 それでも必死に声を掛け続けるジェーンと喧嘩を始めるようになり、何度も私達の寝室に泣きべそをかくジェーンが入ってくるようになった。

 不穏で、張り詰めた空気が漂う中、時間だけが過ぎていく。


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