SAO・D&R   作:羽瀬川小鳩

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演劇ギルド(回想)


次の日、夢の中で少女3人は第1層始まりの街にある、演劇ギルドの公演を観に来ていました。

ヒカルと元少年の装備を新調する前に、鍛冶職人の少女が条件として提示したのがこの舞台でした。

絶望に閉ざされた始まりの街に、一筋の希望を与えてくれた、ある悲劇の騎士の物語。


物語はSAOに捕らわれる所から始まるようです




第18話

 

舞台は証明が落とされ、薄闇の中、落ち着いた声が響き渡ります。

 

『西暦2022年、人類はついに―完全なる仮装現実を実現した。』

 

一転今度は明るい声が舞台を包みます

 

『―世界中が大注目、ソードアートオンライン、略してS・A・Oをピックアップしちゃいまーす。』

 

元少年はその台詞を聴きながら、ログインする直前妹が出掛けるところを思い起こします。

 

再び薄闇の中複数の声が舞台を包みます

 

『LINK―START!』

 

明転、舞台には始まりの街をミニチュア化して再現したようなセットが置かれていました。

 

セットの中では小さな人形達がナンパをしたり、走り回ったり、店を眺めたりしています。

 

元少年は最初の日、ある青年に声をかけられた時を思い出していました。

 

『おーい!そこの兄ちゃーん!』

 

『…お、俺?』

 

呼び止められ足を止め振り向くと、息を切らして青年が。

 

『その迷いの無い動きっぷり、アンタβテスト経験者だろー。』

 

『ま…まぁ…』

 

『俺、今日が初めてでさぁ、序盤のコツちょいとレクチャーしてくれよ。』

 

やや馴れ馴れしくもあるのですが、嫌な馴れ馴れしさでは無いので断ることもしません。

 

舞台は暗転、始まりの街の西にある草原フィールドを再現したようなセットに切り替わります。

流石はSAOというべきか、実際の舞台のように時間はかかりません。

唯一人物だけは不可能ですが、セットに関してはストレージから出し入れするだけなので、一瞬の作業のようです。

 

猪型モンスター相手に戦闘のレクチャーをして貰う青年に、βテスト経験者の少年は言います。

 

『大袈裟だな、痛みは感じないだろう?』

 

『あ、そっか、ついな。』

 

『言ったろ?重要なのは、準備動作(プレモーション)だって。』

 

『んなこと言ったってよう、猪野郎(アイツ)動きやがるしよう?』

 

その台詞を待たず少年は小石を拾い上げ

 

『ちゃんとモーションを起こして、ソードスキルを発動させれば、あとはシステムが技を命中させてくれるよ。』

 

青年に説明しながら、拾い上げた小石を猪型モンスターに向かって光の軌跡を纏いながら投げつけます。

 

それを聞きながらブツブツと呟く青年に、少年は更に続けて説明します。

 

『ほんの少し溜めを入れて、スキルが立ち上がるのを確認したら、ズパーンって撃ち込む感じ。』

 

それを受けて、青年は持っている武器を上段に構えます。

 

(スキルが立ち上がる効果音に合わせて武器が光る)

 

それを見て少年は、猪型モンスターをタイミング良く青年に向けて追い込みます。

 

『うりゃぁーっ!』

 

青年は刃と一体となり、まるでライフルの弾丸のように突き進む。

 

猪型モンスターの頭から右上半身そして尻尾にかけて、一筋のラインが描かれます。

 

刹那、猪型モンスターのバルーンオブジェクトは破裂音と共に光の粒子になって消滅します。

 

歓声を上げる青年に少年はハイタッチをして、剣を背中の鞘にしまいます。

 

しかしその後の台詞に青年は驚き少年は

 

『んな訳あるか』

 

と一言

 

青年はソードスキルを発動させては色々と持ち方を変えて、敵の居ない場所で攻撃の仕方を予習しています。

 

『スキルは無数にあるって言われてる、その代わり魔法は無いけど。』

 

少年はSAOの世界観について説明しています

 

『RPGで魔法無しか、大胆な設定だよな!』

 

世界観の説明を受けながら、青年はソードスキルを発動させます。

 

少年はそれを見守りながら

 

『よし、じゃあ次行くか。』

 

青年はそれに

 

『おう!ガンガン行こうぜ!』

 

とやる気を見せます

 

 

 

再び暗転、夕刻の草原フィールドに。

 

『なぁ、βん時は何処まで行けたんだ?』

 

『2ヶ月で8層までしか行けなかった、今度は1ヶ月もあれば充分だけどな。』

 

『さて、もう少し狩りを続けるか?』

 

『ったりめぇよ!って言いたいとこだけど、腹へってよぉ…一度落ちるわ。』

 

『こっちの飯は、空腹間が紛れるだけだからな。』

 

『17:30に熱々のピザを予約済みよ!』

 

『準備万端だな』

 

『おうよ!まっ、飯喰ったらまたログインするけどよ。』

 

『…そっか』

 

『なあ、このあと俺他のゲームで知り合った奴等と落ち合う約束してるんだ、どうだアイツ等ともフレンド登録しねぇか?』

 

少年は言葉に詰まります

 

『勿論無理にとは言わねぇよ、その内紹介する機会もあるだろうしな。』

 

『悪いな、ありがとう。』

 

『おいおい、そりゃこっちの台詞だぜ!このお礼は、その内ちゃんとすっからよ、精神的に。』

『ほんじゃぁ、マジにサンキューな、これからもよろしく頼むぜ。』

 

『また聞きたいことがあったら、何時でも呼んでくれ。』

 

『おう!頼りにしてるぜ!』

 

しかし青年が熱々のピザを食べることはありませんでした、青年がログアウトしようとした時、そこにはログアウトボタンが無く。

 

『…あれ?…ログアウトボタンが無ぇや』

 

『良く見てみろよ、メインメニューの一番下に…。』

 

少年がメニューを開くと、そこには。

 

Option

Help

 

あるべきはずのログアウトボタンがやはりありませんでした

 

『無ぇだろう?』

 

『…うん…無い』

 

そして青年が運営を茶化すようなことを言い、少年がお前もなと続けます。

 

『今17:25だけど?』

 

絶叫する青年に少年はGMコールをするように言います、しかし青年はとっくに試したが反応が無いと言います、ウインドウに表示されているGMは目を逸らした刹那顔が消えていました。

 

どうにかログアウト出来ないか試行錯誤する青年に向けて少年は事実だけを伝えます

 

『無いって言ったろ、マニュアルにも緊急切断方法は一切載ってなかった。』

 

『…オイオイ嘘だろ?』

 

青年がナーヴギアを頭から外そうとするも、少年は脳から身体への運動命令がナーヴギアにより物理的に遮断されていることを伝えます。

 

途中少し話が逸れましたが、少年が無理やり話を戻します。

 

(鐘の音)

 

暗転、舞台のセットが始まりの街の広場に切り替わります。

 

『…強制テレポート?』

 

誰ともなく、あっ上、と呟きます。

 

その声に呼応してか、舞台の証明が血のように赤く変わります。

 

明転、再びミニチュア化された始まりの街。

 

赤いローブの人影が顔を隠して現れます

 

『プレイヤーの諸君、私の世界にようこそ』

 

『…私の…世界?』

 

『私の名前は茅場晶彦、今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ。』

 

舞台の登場人物達は動揺します

 

『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う…しかし、これはゲームの不具合ではない。』

 

『繰り返す、不具合ではなく、ソードアートオンライン本来の仕様である。』

 

『諸君は自発的にログアウトすることは出来ない、また…外部の人間の手による、ナーヴギアの停止或いは解除もあり得ない。』

 

『…もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し生命活動を停止させる。』

 

『残念ながら、現時点で…プレイヤーの家族、友人等が警告を無視し、ナーヴギアを強制的に解除しようと試みた例が少なからずあり…。』

 

『…その結果213名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している。』

 

『ご覧の通り、多数の死者が出たことを含め…この状況を、あらゆるメディアが繰返し報道している。』

 

『…よって、既にナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっていると言って良かろう。』

 

『諸君等は、安心してゲーム攻略に励んで欲しい。』

 

『…しかし、充分に留意して貰いたい…今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。』

 

HP(ヒットポイント)がゼロになった瞬間、諸君等のアバターは永久に消滅し、同時に。』

 

『…諸君等の脳は、ナーヴギアによって破壊される。』

 

『諸君等の解放される条件は只一つ、このゲームをクリアすれば良い。』

 

『現在君達が居るのは、アインクラッドの最下層、第1層である。』

 

『各フロアの迷宮区を攻略し、フロアボスを倒せば上の階に進める。』

 

『第100層にいる、最終ボスを倒せば…クリアだ。』

 

『…それでは最後に、諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントを用意してある…確認してくれたまえ。』

 

スキャン、ナーヴギアは高密度の信号素子で顔をすっぽり覆っている、その為顔の形を把握出来る、そしてキャリブレーション、ナーヴギアを初めて装着した際自分の身体を触ることでデータを取り、アバターの姿が現実での姿と同一となる。

 

『諸君は今、何故?…と思っているだろう、何故ソードアートオンライン及びナーヴギア開発者の茅場晶彦は、こんな事をしたのか?…と。』

 

『…私の目的は既に達せられている、この世界を造り出し…観賞する為にのみ、私はソードアートオンラインを創った…。』

 

『そして今、全ては達成せしめられた。』

 

『…以上で、ソードアートオンライン正式サービスのチュートリアルを終了する…プレイヤー諸君の、健闘を祈る。』

 

暗転、舞台は薄闇に変わり少年独りがスポットライトに照らされています。

 

『…これは、現実だ。』

 

明転、舞台上の登場人物達は次々に現状を認識、既に舞台上はパニックに陥っています。

 

 

暗転、少年は路地裏に青年を連れてきています。

 

『よく聞け、俺はすぐに次の村へ向かう、お前も一緒に来い。』

 

『えっ』

 

少年はSAOで生き延びる為に何を優先するべきかを説明します、しかし青年には断られます。

 

『悪りぃ、お前ぇにこれ以上世話んなる訳には行かねえよな、だから気にしねえで次の村へ行ってくれ。』

 

顔の見えなくなるほどの暗がりで、明るく振る舞い別れを告げます。

 

配役が男女であれば、フラグが立ったと言うところでしょうか。

 

少年は振り返り、青年の姿が無くなった事を確認して、誰よりも早く次の村を目指し走ります。

 

道中の敵は突進系ソードスキルで走る速度を落とさないように倒します、レベルが上がってもステータスポイントの振り分けはしません、誰より早く次の村へ着くために無駄な作業は後回しです。

 

会場を再び薄闇が支配します、落ち着いた声が響き渡ります。

 

『ソードアートオンラインの正式サービスが開始されて1ヶ月、生命の碑に滑らかな横線が刻まれたプレイヤーは2割に達する、未だ第1層はクリアされていない―』

 

明転、舞台の登場人物達は夕刻の広場のセットに並んでいます。

 

明るい女性の声が響き渡ります

 

『西暦2022年12月02日金曜日16:00、第1層迷宮区から程近い谷あいの町トールバーナ、巨大な風車塔が立ち並ぶのどかな町の中央広場にて、初のボス攻略会議が開かれていました。』

 

若く活気に溢れた自称騎士(Knight)の青年が、自分のパーティーがボスの部屋を発見したこと、そしてまず6人ずつのレイドパーティーを組んで欲しいと皆に伝える。

 

『ちょお待ってんか!』

 

茶色いサボテン頭の片手剣使い(ソードマン)は広場の真ん中に躍り出る

 

『ワイはキバオウってもんや、ボスと戦う前に、言わせて貰いたい事がある。』

 

『こん中に、今まで死んでった連中に、詫び入れなアカン奴が居る(おる)筈や!』

 

『キバオウさん、君が言う奴等とはつまり、元βテスターの人達の事…かな?』

 

『決まってるやないか!…β上がり共は、こんクソゲーが始まったその日に…ビギナーを見捨てて、消えよった。』

 

『奴等は美味い狩場やら、ボロいクエスト独り占めして、自分等だけポンポン強なって(つよなって)、その後もずーっと知らんぷりや。』

 

キバオウと名乗った片手剣使い(ソードマン)が再び一同を睨み付けます

 

『こん中にも居る(おる)筈やで!β上がりの奴等が!』

『そいつ等に土下座さして、溜め込んだ金やアイテムを吐き出して貰わな!…パーティーメンバーとして、命は預けられへんし…預かれん!』

 

『発言良いか?』

 

静まり返った広場に、長身のプレイヤーが立ち上がる。

背中に両手用戦斧(ツーハンド・バトルアックス)を吊るした、スキンヘッドの男が名乗り出ます。

 

『俺の名前はエギルだ、キバオウさん、アンタの言いたいことはつまり、元βテスターが面倒を見なかったからビギナーが沢山死んだ…その責任を取って、謝罪・賠償しろ…ということだな?』

 

『そ…そや…』

 

『このガイドブック、アンタも貰っただろう?…道具屋で無料配布してるからな。』

 

『貰うたで、それが何や!』

 

『このガイドブック、新しい村や町に着くと必ず道具屋に置いてあった、まるで予め内容が分かっているかのようにな、情報が早すぎるとは思わなかったのか?』

 

『せやから早かったら何やちゅうんや!』

 

『一介のプレイヤー、それもビギナーが…どんなに頑張ったところで、そう毎回先回りして且つ正確な情報を提供出来るとは思えない…こいつに載っている内容諸々は、βテスターが正式サービス前の経験を元にして、情報屋に提供した物だ、それも無料でな。』

 

『いいか、情報はあったんだ。』

『たくさんのプレイヤーが死んだ、そしてその死んだプレイヤーの内…少なくとも1割はβテスターだったんだ。』

 

 

『彼等は、βテストの時との違いを調べていた、後続のプレイヤー達が少しでも安心して攻略出来るように…本来なら無視して良い筈のエリアまで調査してくれたんだ!』

『その犠牲を糧として今、俺達はここに居る!』

『確かに始まりの街を真っ先に出たのはβテスターだった、だが戦いの礎を築いてくれたのもまた彼等だった、そして彼等のおかげで誰にでも情報は手に入れられた。』

 

『なのに、たくさんのプレイヤーが死んだ、その失敗を踏まえて、俺達はどうボスに挑むべきなのか…それがこの場で論議されると、俺は思っていたんだがな。』

 

 

『よし、じゃあ再開して良いかな?』

『ボスの情報だが、実は先程…例のガイドブックの最新版が配布された。』

 

会場が一瞬にして緊張に包まれる

 

『それによると、ボスの名前は…。』

 

イルファング・ザ・コボルドロード

取り巻きに、ルインコボルド・センチネルが3体。

ボスの武装は斧とバックラー、4段あるHPバーの最後の1段が赤くなると、曲刀カテゴリーのタルワールに武器を持ち替え、攻撃パターンも変わる。

 

『しかし、これはβテスト時の情報で、正式サービス開始後は変更が予想されるとも書いてある。』

『最後の1段が赤くなったら、皆にはいったん下がって欲しい、無駄な犠牲を出さないための作戦だ。』

 

しかし、少年はその作戦を疑問に思いました、が…ここで異を唱えて初のボス攻略に水を差して足並みを乱すより、安全第一で戦うことにしました。

 

少年の疑問はこうです、HPバーの最後の1段、確かにそれが赤くなると攻撃パターンの変化があり対応しきれなければ危ないのは事実…それでも、全員で一斉に攻撃して間をおかず倒せれば被害を出さずに倒せます。

 

悪戯に様子見をして、誰か一人がタゲられることの方が、よほど危険度は高いのです。

 

取り巻きと違い、ボスの攻撃力はその比ではありません、集中的にソードスキルなど使われてしまえばHP全損など訳無いでしょう…それはつまり、プレイヤーの死を意味します。

 

『君たちは、取り巻きコボルドの潰し残しが出ないように(ボス戦の邪魔にならないよう)E隊のサポートをお願いしていいかな(後方で大人しくしててという意味だろう

)。』

 

『了解、重要な役目だな、任せておいてくれ。』

 

『ああ、頼んだよ。』

 

まるで歯磨き粉のCMに出てきそうな俳優のように前歯を光らせ、自称騎士の青年(Knight様)は戻っていった。

 

舞台は暗転、明るい女性の声が響き渡ります。

 

『その翌日、2回目の攻略会議で…レイドパーティーのメンバーを役割別に多少入れ換えて、現在17:30互いに士気を高め会うように挨拶を交わして解散となります。』

 

舞台のセットが酒場やレストランのセットに切り替わり、客席からは全ての店が横一列に、まるで列車を輪切りにしたように並んでいます。

 

その中で、攻略会議に出ていた幾人ものプレイヤー(役者)が食事という行為を模した演技をしています。

 

勿論実際に食事することも出来ますが、これは舞台なので細かい部分は全て演技で補います。

 

 

暗転、舞台に落ち着いた声が響き渡ります

 

『12月04日―日曜日11:00迷宮区到着―同12:30最上階踏破―』

 

舞台の中央には、獣頭(じゅうとう)人身の怪物がレリーフされた、灰色の石材で形作られた巨大な二枚扉のセットが、スポットライトに照らされています。

 

『聞いてくれみんな…俺からいうことは、たった一つだ…勝とうぜ!』

『…行くぞ!』

 

暗転、舞台にはボス部屋を再現したセットが現れます。

 

壁の左右には、粗雑な松明(たいまつ)がボッと音を立てて燃え上がります、そして次々に部屋の奥へ向かってその数を増やしていきます。

 

ひび割れた石床や壁の各所には大小無数の髑髏(ドクロ)、部屋の最奥部には粗雑かつ巨大な玉座(ぎょくざ)が設けられ、レイドパーティーのA隊が近寄るとそれまで微動だにしなかった巨大なシルエット、獣人(じゅうじん)の王イルファング・ザ・コボルドロードが、空中でぐるりと一回転して地響を伴い着地します。

 

狼を思わせる頭部を震わせ、その獰猛な牙を剥き出して吼える。

 

『グルルラアアアアッ!!』

 

客席からは一瞬小さな悲鳴が上がり、当時のボス戦の様子が思い起こされます。

 

勿論舞台の上に居るのは、取り巻きのルインコボルド・センチネルを含め偽物ですが、そこは役者の腕の見せどころ、恐らくモンスターの声を録音するアイテムか何かで再現しているのでしょう。

 

『―12月04日12:40―ついに最初の対ボスモンスター戦闘が開始された』

 

戦闘自体は順調に見えた、ボスのHPバーが最後の1段を赤く染め獣人(じゅうじん)の王は怒り狂う。

 

武装解除と同時に無敵時間が発動、主武装を曲刀カテゴリーのタルワールに持ち替えこちらからの攻撃が通るようになる…筈だった。

 

『…下がれ、俺が出る!』

 

自称騎士(Knight)の青年が、レイドパーティーを下がらせて自分独りで攻撃に出る、当初の作戦と違う…ここは様子を見るために全員で距離を取るんじゃ無かったのか?

 

見ればそこには、既に準備動作(プレモーション)を起こした自称騎士(Knight)の姿があり、相対するボスの右手は今まさにタルワールを抜き放つ瞬間だった。

 

『…ッ!駄目だ、全力で…後ろに跳べッ!』

 

しかし、その声が彼に届くことは無く、コボルド王の巨躯がロケットのような垂直ジャンプと共に地響きを起こした、空中で身体を捻り、落下と同時に竜巻の如く蓄積されたパワーが一気に解き放たれ、武器の威力を底上げする。

 

全方位(円周水平)重範囲攻撃、(カタナ)専用ソードスキル…。

 

旋車(ツムジグルマ)

 

更に浮舟(ウキフネ)の特殊効果で金属鎧を着こんでいるにもかかわらず、高く宙に浮かされる。

 

そこから緋扇(ヒオウギ)による三連撃技、レイドメンバーの頭上を越えて20メートル近くも吹き飛ばされる。

 

少年は駆け寄り、HP回復アイテム(ポーション)を飲ませようとするも、その手を押し返されてしまう。

 

『…何故独りで!』

 

『……お前も…βテスターなら、分かるだろう?』

 

『…ッ!』

 

『……俺達は…始まりの街を、見捨てた。』

 

『でも、それは!』

 

『……そう、仕方の無いことだった…けれども、同じβテスタ…が…』

 

『喋らなくて良い、早くコレを!』

 

静かに首を振る

 

『……他のみんなが、命をかけて…此処までの道を、整えてくれた……なら、あとは俺が…』

 

『何を…言ってるんだ…』

 

『……ガイドブックは確かに有効な情報が記載されている、だが……これから先の層に上がる為には、それは諸刃の剣にも…なりかねない。』

 

『…誰かが、盲信することの危険性を…示さないと、なら…俺は。』

 

『自分が攻撃を受けることで、対処法を示そうというのか…なら、もう充分だろ。』

 

しかし青年は、回復を拒み続けます。

 

『…奴は、所詮最初のボスに過ぎない……この先もボス攻略を続けるなら、何時か……犠牲者を出すだろう、なら……早…い方が、いい。』

 

『……あとは、頼む……この世界…、希望……。』

 

アインクラッド初のボス攻略レイド指揮官、彼は青い硝子の(ガラス)欠片へ(かけら)その姿を変えて四散させる。

 

『………何で……何でや……リーダーのアンタが、何で最初に……』

 

ボスが放つ辻風(ツジカゼ)、居合いの発動する直前に少年はレイジスパイクの突進で相殺するも双方2メートルノックバックする、そこへリニアーで右腹を深々と打ち抜く細剣使い(フェンサー)

 

続く上段からのソードスキルを相殺しようと少年はバーチカルを、対する上下ランダムの幻月(ゲンゲツ)が襲う。

 

『しまった…!』

 

吹き飛ばされ技後硬直(ポストモーション)に陥る少年、代わりにリニアーで応戦しようと細剣使い(フェンサー)が突っ込む。

 

『…駄目だ!』

 

幻月(ゲンゲツ)技後硬直(ポストモーション)が短い、高く斬り上げた刃は緋扇(ヒオウギ)のモーションに移行する。

 

『ぬ……おおおッ!!』

 

細剣使い(フェンサー)の頭上を両手斧系範囲ソードスキルのワールウインドでひと薙ぎする

 

『回復するまで、俺たちが支える、ダメージディーラーにいつまでも(タンク)やられちゃ、立場ないからな。』

 

『………すまん、頼む。』

 

しばらく戦線から離脱し、後方待機していると…ボスが旋車(ツムジグルマ)を放つモーションになる、咄嗟にレイジスパイクでは不可能な上空への攻撃が出来るソニックリープを放つ。

 

『届……けェーーーーッ!!』

 

旋車(ツムジグルマ)発動寸前、イルファングの左腰をざしゅうっ!という効果音とクリティカル特有ライトエフェクトが眩く輝く斬撃が捉える。

 

見ると人型特有のバッドステータス、転倒(タンブル)が発生し身動きの取れないコボルド王。

 

『全員、全力攻撃!!(フ ル ア タ ッ ク)

 

リーダーの弔い合戦と言うべきか、立ち上がれない瀕死の獣人(じゅうじん)の王を取り囲み、文字通り袋叩き(リ ン チ)にするレイドメンバー達。

 

そこに先程迄の威厳も恐怖も無い、あるのは只、無抵抗となった元王に対する殺戮劇だけだった。

 

『お……おおおおおおッ!!』

 

それまで悲しみに打ち拉がれていたキバオウが、切り落とされたボスの右手から野太刀(のだち)を奪い取ると、その持ち主をやたら滅多に滅茶苦茶に鬼のような形相で斬りつけていく。

 

獲物を失ったコボルド王は為す術無くHPバーをガリガリ削り取られる

 

―刹那―怨念とも執念ともつかない叫びに呼応するかのように、キバオウの持つ野太刀(のだち)が、浮舟(ウキフネ)幻月(ゲンゲツ)緋扇(ヒオウギ)を放つ、最早勝敗は決した…そう思われた。

 

『グルルロオオオオッ!!』

 

断末魔かと思い一同が手を止めたのが悪かった、いやそれ以前に皆技後硬直(ポストモーション)で動けない、そんな中四肢の切り落とされたコボルド王は最後の悪あがきとでも言わんばかりに、取り巻きのルインコボルド・センチネルを呼び寄せた。

 

自分を取り囲む人間達の更にその周囲に、まるで逃がすものか、生きては還さぬという捨て台詞が、今にも聞こえてきそうな程に。

 

『………間に合わないか!!』

 

このまま、全員こんどはセンチネルに殴り殺しにされるのか、そう思いかけた…いつの間にか近くに立っていた細剣使い(フェンサー)に向けて声を張り上げる。

 

『最後のリニアー、一緒に頼む!!』

 

『了解!!』

 

センチネルがみんなを襲い始める前に、ボスを倒してしまえば取り巻き共は消え失せる筈だ、確証は無かった…しかし少年には他にこの場から生還する方法など思い付かなかった、絶叫と共に2人はまだ僅かに残るコボルド王のHPバーを消しとばそうと特攻をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗転、ボス部屋を再現したセットが静寂に包まれる。

 

ぽつり、と誰かが呟く。

 

『お疲れ様』

 

『Congratulation、この勝利はあんたのものだ。』

 

『いや……』

 

その時だった半ば裏返った、ほとんど泣き叫んでいるかのようなその響きに、勝利の美酒に酔うものは皆言葉を失う。

 

『なんでだよ!!』

『…なんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだ!!』

 

C隊のシミター使いと残りの4人が少年を睨みます

 

『見殺し……?』

 

『そうだろ!!だって……アンタは、ボスの使う技を知ってたじゃないか!!アンタが最初からあの情報を伝えてれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!!』

 

その声を皮切りに、他のレイドメンバーもざわめく。

 

『そういえばそうだよな』

『なんで……? 攻略本にも書いてなかったのに……』

『俺……俺知ってる!! こいつは、元βテスターだ!! だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか狩場とか、全部知ってるんだ!! 知ってて隠してるんだ!!』

 

『でもさ、昨日配布された攻略本に、ボスの攻撃パターンはβテスト時代の情報だ、って書いてあったろ? 彼が元テスターなら、むしろ知識はあの攻略本と同じなんじゃないのか?』

 

『そ、それは……』

 

『あの攻略本が、ウソだったんだ…情報屋が嘘を売りつけたんだ、アイツだって元テスターなんだ、タダで本当のことなんか教えるわけ無かったんだ。』

 

 

(…まずい、この流れはまずい。)

 

『おい、お前……』

『あなたね……』

 

スキンヘッドの両手斧使いと細剣使いの2人が、止めに入ります。

しかしこの2人だけでは場を静められる訳が無い、そこで…。

 

『…フ…ハハハハハハハハッ!…ゥアハハハハハハハハハハッ!』

 

一同は少年を見つめます、中には少年から後退りする者もいます。

 

『……元βテスターだって?………俺をあんな素人連中と、一緒にしないで貰いたいな。』

 

『なん…だと…?』

 

『いいか、よく思い出せよ……SAOのCBT(クローズドβテスト)はとんでもない倍率の抽選だったんだぜ、受かった千人のうち、本物のMMOゲーマーが何人いたと思う? ほとんどはレベリングのやり方も知らない初心者(ニュービー)だったよ、今のアンタ等の方がまだマシさ。』

 

『でも俺はあんな奴等とは違う……俺はβテスト中に、他の誰も到達出来なかった層まで登った……ボスの(カタナ)スキルを知ってたのは、ずっと上の層で、刀を使うモンスターと散々戦ったからだ………他にも色々知っているぜ、情報屋なんか……問題にならないくらいな?』

 

『……………なんだよ、それ……そんなの……βテスターどころじゃねぇじゃんか……もうチートだろ、チーターだろそんなの!』

 

数々のチートやチーターやβテスターという言葉が、やがて混じり合い、ビーターという言葉を作り出す。

 

『………ビーター、良い呼び名だな……それ。』

 

『そうだ、俺はビーターだ……これからは、元テスター如きと一緒にしないでくれ………。』

 

少年は漆黒のロングコートを装備すると、コートの裾を翻してレイドメンバー達の正面、それまで自分の背後にあった小さな扉に向き直ると、首だけを斜めに振り向かせると言い放ちます。

 

『2層の転移門は、俺が有効化(アクティベート)しといてやる……この出口から主街区まで少しフィールドを歩くから、ついてくるなら初見のMobに殺される覚悟しとけよ……まあ、1層で犬死にしたテスター連中の仲間入りしたいなら、止めはしないけどな………。』

 

『……あぁ、そうそう………お前らのリーダーだった、あのディアベルとかいう男………アイツも元テスターだったな、LA狙って返り討ちにされてりゃザマアないな?』

 

『フハハハハハハ……アーッハッハッハッハッ!!』

 

『貴様……ッ!!』

 

シミター使いが殺気を少年に向けて今にも斬りかかろうとしますが、それを…。

 

『…ヤメイ、ディアベルはんの死を…無駄にする気ぃか?』

 

『クッ…』

 

キバオウに諭され、床に崩れるシミター使い。

 

『フン…せいぜい生き残れよ……じゃなきゃあ、本当の犬死にだからなぁ?』

 

その背中をキバオウが追いかけます

 

『今日は助けてもろたけど、ジブンのことはやっぱり認められん……わいは、わいのやり方でクリアを目指す。』

 

転移門の有効化(アクティベート)自体は、ボスが倒されて2時間後には自動的に行われる、しかし一刻も早くこのデスゲームを攻略したいと考えるなら2時間も放置するより、主街区の転移門を目指すべきだろう。

 

そんなことを迷っていると、フレンドメッセージが受信される。

 

【大変な迷惑かけたみたいだナ】

 

語尾が独特なこのメッセージは、情報屋の鼠からのものだ。

 

【お詫びに、情報をなんでもひとつタダで売るヨ。】

 

『……ほう』

 

【おヒゲの理由を口頭で教えてくれ】

 

送信ボタンを押し、第2層の主街区(ウルバス)に向かって歩き出した。

 

 




星なき夜のアリアとアニメ版の場面を自己解釈で悪化させてみました、もっと悪人役に徹底しても良いのでは?

そんな風に考えたからです
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