SAO・D&R   作:羽瀬川小鳩

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最終決議(ミーティング)




第22話

……してやられた、とは……しかしヒースクリフはこの時思ってはいない、だが……と付け加える。ここは聖騎士としてまた血盟騎士団の団長というプレイヤーを演じる(ロールする)必要がある、と判断して咄嗟に回避することを≪敢えて≫しなかった。

 

(…今はまだその≪時≫では無いだろう)

 

と、口には出さずに意思のみで麻痺毒をその身に受ける。

……この上無く不快、その一言に尽きるだろうソレは、ダメージを受けたからでは無い。

SAOにおいて被ダメージによる痛覚は存在し得ない、この世界でのソレは端的に説明すれば正座をして脚が痺れるのに似ているらしい。

なればそこにあるのは、痛み等ではなくプレイヤーが持ちうる原始的な恐怖心に他ならない。

現実世界においての痛みはどれ程小さな傷であれ、精神に恐怖心を蓄積していく。

……或いはその恐怖心を忘れる事で、人は個を保とうとするのだろう。

 

 

例えば自転車に乗るという行為は、慣れてしまえばどうという事はない、しかし最初から乗れる者は少ないだろう。

多くの者はふらつきながら、或いは転んで擦り傷や青アザをつくりながら、それでも誰かに支えて貰ったり。

または自分だけで何度も挑み、また失敗を繰り返しては慣れていく、そう恐怖心を克服するのではなく痛みや恐怖に慣れていくのだ。

 

 

大人になるとその行為は多岐にわたる、―喫煙―飲酒―性交渉―乗り物の運転―バンジーやスカイダイビングなど様々に、そのどれもが個として存続するには必須という訳では無いのだが……。

そしてその中には当然として、暴力も含まれるだろう事は、誰しも1度は経験する……。

 

 

―言葉―態度―視線―陰湿な嫌がらせ―物理接触―SNSやメール―電話―学校や会社―親戚―親族―友人―血の繋がり―肌や目や髪の色―体格―筋力―その他挙げればキリが無い程のソレは、他者との区別でありまた同時に差別でもある。この二言の違いは主観的、つまり当事者にとっては同じ事だ。

 

 

麻痺毒とは、ダメージを受けた際の違和感とは別物だろう。

ナーヴギアを経由し脳から仮想の肉体(アバター)へと出力される信号……動け、という命令系統を阻害するものだ。

持続時間は状態異常(デバフ)のレベルにもよるが10分程度か、それだけの時間拘束出来るのであれば、普通は自力操作の出来ない仮想の肉体(アバター)を無理矢理操ってステータスメニューを可視化、装備やアイテム等を非合法にトレード(強奪)した上でデュエルPKなりMPKなりすることも可能。

 

 

(……ソレをしなかったと言うことは、奴等の狙いは単純なPKではなく、……少なくとも現時点ではだが何かしらの狙いがあると見るべきだろうな。)

 

 

簡易牢獄に拘束されているヒースクリフ、脱出する手段が無い訳では無いのだが、同じように他のギルドリーダーも拘束されているので自分だけ逃げ出すという訳にもいかない。

無論不可能という意味では無く、ただ≪敢えて≫そうしないだけなのだが。

彼等を捕らえたのはギルド内の恐らく笑う棺桶(Laughing Coffin)メンバー、またはその関係者。……自分の意思で行動している者、そうでない者とは分けられるだろうがこの場合そこはさして重要ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各ギルドリーダー不在による場当たり的な集会に、情報屋さんこと鼠のアルゴが現れたのはヒカル達がキッチンへと向かって暫く経った頃だった。

 

 

『アーちゃん居るかイ?……ん?良い匂い……邪魔しちゃ悪いナ』

 

 

教会に足を踏み入れ動物的嗅覚、という訳では無いのだろうが、客間に呆けている二人の男性プレイヤー(……一応)へと歩みを進めるアルゴ。

 

 

『お待たセ』

 

 

かき集めて来た情報を手渡そうと声をかけ、たところでガシリと手を握られてしまう、自分の口からは言の葉すら形作っていない異音、ソレを自覚しているのかいないのかアルゴは顔を真っ赤にしてしまう。

ソコから先の記憶は無い、気が付いた時には床に自分の手を握り締めた張本人が倒れ伏し、何かのスキルを発動させたらしきショートカットの黒髪に泣き黒子のある少女が、先刻までそこに座っていたはずの人物を押し退ける形で立ち尽くしていた。……恐らくは突進系統のスキル、手に武器の無いことからソードスキルではなくなんらかのエクストラスキルだろう。

体術の可能性もあるのだが、今はソレどころでは無い。

 

 

『…………………』

 

 

視線が痛い、帰りたい、何処へ?現実へどうやって?……だよなぁ。……等と無意味な自問を繰り返しながら、事の一端を見ていた筈の髭面野武士の青年に、今だけは視線で射殺せそうな程の無言の威圧(プレッシャー)を送る。

 

どうにかこうにか、謎のクライン空間(……俺は悪くない筈の)から逃げ出す事には成功したものの、そこからは雪崩の如くゴメンなさいが連発される、世界が世界ならL5を発症してもおかしくはない程だ。

 

 

『にしても珍しいナ、何時もならどんなに集中していても気付く筈なのにナ?』

 

『あ…?』

 

『あ、じゃないだロ?……全く、コレでも全プレイヤーの最上位数名に入るんだから、しっかりしろよ、ナ!』

 

バシーン!と叩かれるがダメージは無い、代わりに場がドッと笑いに包まれる。

確かに集中し過ぎだったのかもしれない、アルゴが来た気配にすら気が付かないとは、……圏内で良かった。と心の底からそう思う、コレが迷宮区やそうでなくとも圏外であればMobや或いはPK狙いの犯罪者(オレンジ)プレイヤーに狙われていたかもしれない。

 

 

『結論から云うヨ?実行犯はまず間違いなく笑う棺桶(Laughing Coffin)だナ、現在は地下迷宮の一部をアジトにしている、……らしイ。』

 

『らしい?』

 

アルゴにしては妙に引っ掛かる言い方が気になり鸚鵡返しになる

 

『……ああ、情報提供者は奴等に脅されていたからな、ソレ以上は聞き出せなかったんダ……。ちなみにこの情報は故意に与えられたものダ、向かえば十中八九……。』

 

 

『罠……』

 

『……か』

 

誰ともなく、異口同音に口にする、そう……各ギルドのリーダーがそう簡単に居なくなる時点で異常、そして生存が脅かされていないとなれば、そこには明確な意図があるのだ。

敵の狙いは解らない、身代金目当てか犯罪者(オレンジ)プレイヤーの解放か、はたまた餌場を用意しろと言ってくるかもしれない……、後者であれば最悪ギルドリーダーと他のプレイヤーの命を天秤にかける事にもなりかねないのだ……。

 

 

『……そのプレイヤーの身柄は?』

 

『…………』

 

……こういう嫌な予想だけはよく当たる

 

『情報提供を条件に解放されタ、そのプレイヤーは死んだ……自殺、だったヨ。』

 

『そんな!』

 

女性陣もクラインも息を詰まらせる、元少年を除いて。

 

『与えられた役割はメッセンジャー

、役目が果たせなければ大切な人が殺され、役目を終えても殺されル……守る手段はただひとつ、伝言し終えたなら外周部から飛び降りる事、だそうダ……。』

 

『下衆共がッ!』

 

ガッ!、とクラインがテーブルを叩き付ける、もっとも気持ちは此処に居る全員同じだろう。

テーブルには紫のシステムウインドウが表示され、そして消える……。

つまりは圏外であれば自分にもダメージが発生しておかしくない強打、少なくない人数が全身を怒りに震わせる。

 

『……奴等が約束を守る保証は?』

 

『無イ……』

 

『……だろうな』

 

『……止められなかったんですか!?』

 

アスナが理性で抑えられた声をアルゴに向ける、しかし語尾は荒くなり、それも仕方が無い、のだが……。

 

『止めなかったと思うのかヨッ!?』

 

今度はアルゴが声を荒げる、先程迄の和やかな雰囲気は、もうこの教会の何処にも無かった。

恐らくはアルゴも、いや皆誰もが無理をして笑っていたのだ、これ迄に無かった不安、そしてこれから訪れるであろう恐怖へのソレを一時的にしろ忘れる事で平静を保とうとする。

 

 

『……すみません、アルゴさん。』

 

『アーちゃんは悪くないヨ、オレっちの方こそ取り乱…し…テ……。』

 

その先は掠れるようにして消えていった、ごめんよ、と口の動きだけを何とかするのだが言葉にはならない。

恐らくは他にも居るのだろう、人質や或いはその人達を助ける為に自殺しなければならなくなったプレイヤーが、一人や二人で済むとは思えない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……っ!』

 

 

ベッドの上で苦しそうに眠るストレア、当然シリカを始め同室の子供達が異変に気付かぬ道理は無い。

 

『ストレアさんしっかり……』

 

『お姉ちゃん大丈夫……?』

 

『ストレア姉ちゃん……?』

 

サーシャを呼びに行ったひとりが戻ってくる、この世界に医者は居ない。

シスターらしき風貌を漂わせていても、呪文で病気を治したりは出来ないし、そもそもSAOにそういったバッドステータスは存在しない筈、……なのだが。

 

 

『……何があったの?』

 

『わかんない、帰ってきてから急にふらついたと思ったら、ストレア姉ちゃん起きないんだ……!』

 

『初めは遊び疲れが残ってて、眠ったのかと思ったんです、けど……呼び掛けてもうなされるばかりで……!』

 

『病気、ううんそんな筈は無いわ、でも、兎に角今は出来る事をしましょう!』

 

サーシャは子供達が不安がらないよう、大丈夫すぐよくなるわ、と励ましながら。みんなで交代にタオルを水に浸し、キュッと余計な水分を切っては新しくストレアの額へやります。勿論現実世界での病気であれば、SAOの中での看病が効果を発揮するとは思えません、……しかし何もせず見守る、という選択肢はありませんでした。

他にも具合の良くない子供が数人居ましたが、ストレア程ではなくその子達も彼女の手を握ったり看病を手伝ったりします。

 

 

『おいおい、いったいどうしちまったんだぁ……?』

 

『現実世界で、あの子達の身体に何かが起きてるのかな?』

 

『解らない、だがこうして仮想の肉体(アバター)が消えていないということは、まだ脳とナーヴギアとの間に信号のやり取りはされている筈だ。』

 

『私等に何か出来る事は無いのかしら……?』

 

『オレっち達は、医者でも無ければ科学者でも無いからナ

、……今ほどGMコールが出来ない事を歯痒く思ったことはないヨ……。』

 

『全くだ!茅場の野郎、こんな時くらい管理者の仕事しやがれってんだチキショーッ!』

 

『シッ!静かに!』

 

『……わ、悪りぃ』

 

今は考えても仕方無い、とは言えそう割り切れるほど大人でも無い、かと言って目の前の出来事に没頭出来る程の子供でもありませんでした。

 

 

一同は地下迷宮の話し合い、子供達の不調、そして今後の不安や恐怖をどう解決するべきか悩み、そして残存する全ギルドでの総攻撃という結論へと至ります。

 

笑う棺桶(Laughing Coffin)の兵力は未知、対してこちらはリーダーを始め人質に取られたプレイヤーも少なくはないありさまでした。

 

機会は恐らくは一度きり、そして≪どちらを優先させるべきか≫の話し合いをするべく≪あの日チュートリアルが行われた広場≫へ集まっていました。

集結した人数は、恐ろしく少ない、お世辞にも多いとは言えない人数でした……。

ここに居る人数でボスレイドを組めば、お釣りが来る、その程度です。

 

『厳しい、ね……。』

 

『……ああ』

 

『風林火山以外の殆どのギルドが、半分の人数が出てこないなんて……。』

 

『……解ってはいた事さ、統率の執れなくなった集団は所詮寄せ集めだ、サブリーダーにしても全員を纏め挙げるのは無理だろう。』

 

『それなら、始めから少数精鋭、か……。』

 

『人質が居る以上、逆らえないプレイヤーも居るだろう、最悪の場合は……。』

 

『…………』

 

敢えて、ではなく、その先は言葉には出来ませんでした……。

言葉にしてしまえば、もう引き返せなくなる、現実に、起こってしまう……。

けれど、自分達がどちらかを選択する時は必ず訪れる、その為の最終決議。

 

 

『みんな、聞いてくれ!』

 

 

広場に集まった攻略組、その全ての視線が1ヶ所に、黒髪の元少年と泣き黒子の少女、紅白に彩られた少女、メイド服の少女、髭面野武士の青年、その集団へと集まります。

鼠のアルゴは居ません、サーシャと子供達も教会に居ます。

 

 

意識が自分達に集まった所で、肝心な事だけを言葉にします。

 

 

『今日ここに集まった全てのプレイヤーに、まずは感謝する。……そして、これからのことを謝っておく。』

 

深々と頭を下げる一同、誰も皆動揺を隠せません。

 

 

『これから俺達は、地下迷宮に囚われているだろう人達を解放する為に乗り込む、そこは笑う棺桶(Laughing Coffin)のアジトになっているらしい、そして十中八九これは罠だ!』

 

ザワ…、と騒がしくなる広場、しかし続く言葉を待つように静まり返った所で説明を続けます。

 

『仮に奴等全員を首尾良く捕縛、或いは……、倒す事が出来たとしても……その時ここに居る全員が、いやここには居ないプレイヤーもいずれは選択しなければならない!』

 

何を、とは敢えて言葉にはしませんでした、それは人によって違うから、たとえ大切な人を失っても現実世界に帰る為に障害となる、笑う棺桶(Laughing Coffin)を生きたまま捕らえるのか。……それとも、ここで殺すのか。或いは大切な人を取り戻す為に、自らの危険を無視してでも、人質の解放を条件に彼等を見逃すのか。

既に喪われた命は帰っては来ません、笑う棺桶(Laughing Coffin)の側に着いたプレイヤーにも言い分はあるかもしれません、共感か或いは脅迫か……。

各ギルドリーダーが戻っても、ギルド内に内通者が居る不安は無くならないでしょう、攻略に支障が出るかもしれません。……それでも。

 

 

『俺達は、奴等を潰す!徹底的にだッ!犠牲者も出るだろう!人質になっているギルドリーダーも脅迫されたプレイヤーもみんな殺されるかもしれないッ!それでも奴等をコレ以上は野放しに出来ないッ!……でも俺達は死ぬ為に行くんじゃ無い!生きてこの世界を終わらせる為にこれ迄やって来たッ!……だから、最後まで生きる為に戦ってくれッ!』

 

 

こういう演説はヒースクリフやディアベルが向いてるんだよな、柄じゃないぜ、全く……。

そう思いながら再度頭を下げる一同、立ち去る足音は聞こえませんでした、反対する者も居ませんでした、勿論心の葛藤までは推し測れません……。

 

 

『…やろう!』

 

『…そうだ!』

 

『…取り戻そう!』

 

『…仲間を!』

 

 

いつしか合唱にも聞こえる程の大勢の声を、石畳に落ちる水滴と共に聞いていました。

 

 




おや?ストレア達の様子が?

はい、駄文ですね、文才が欲しい……。
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