『
ヒカルから相談された少年は、しかし最前線からでは間に合わないかもしれない、そのことを理解した上で下層へ急ぎました。
もし、もし自分が目の前に、誰にも発見されていない扉を見つけて、まわりに頼れる仲間が居たとしたら、そこには少なからず油断や慢心が生まれるのではないか?
そして、そんな状況で、罠が無く状態異常は起きない、Mobは湧かない閉じ込められず転移結晶は使える、そんな何ひとつ不利な事態にならなかったとしたら。
それこそが罠の可能性が残る!
転移してすぐダンジョンへと少年は走りながら、誰も居ない月夜を駆けます、黒猫のように敏捷に。
そして誰に対してでもなく、焦りや苛立ちを口にします。
クソッ、あの時最前線に戻るんじゃなかった、いやすぐに用事をすませてからでも引き返すべきだった…。
間に合ってくれ、頼む…!
少年はダンジョンへと向かって走り続けます、少女の相談には少年達を止めろ、絶対に指南書に無いことは信用するな、これから向かうのでその時間さえ稼いでくれれば良いと伝えました。
少女がそれに気付くと同時に少年達を止められるか?どの程度の時間?少年達は諦めてくれるのか?
不安をあげればきりがありませんでした、仮初めの世界の仮初めの身体を、少年はこれでもかと早く早くと前へ踏み出します。
そしてちょうど、黒猫達は部屋から出てくるところでした。
黒猫のひとりが駆け寄ると、それまで誰も見たことも聞いたこともないレアアイテムが、誇らしげに掲げられました。
それから少し黒猫達はお説教の時間です、無事だったから良かったものの、寿命が縮む思いであったこと、レアアイテムだったとしてストレージに入れいない状態で安易に見せびらかしてはならないこと、踏破されているとはいえ圏外であること、何より自分をあまり信用し過ぎるな。
最後のはさておき、黒猫達は苦笑い、お説教されたことより自分達だけでレアアイテムが手に入った事実が嬉しくてなりません。
それからギルドホームへ着くまで、また6人で帰ることになりました。
小さなホームパーティーを開き、再会出来たこと、レアアイテムを手に出来たことを祝いました。
翌朝、どうやら情報屋が聞き付けたのか、それとも情報料としてお金を得て話したのか。
号外には『還魂の聖晶石』のことが書いてあります、SAO初の蘇生アイテム、様々な人に語り継がれ、また買い取りたいという声も多数ありました。
しかし売るつもりはありませんでした、死後10秒以内という事を説明しても、引き下がらないプレイヤーにはうんざりしましたが、運が良ければ自分達にも手に入るかも知れない。
こんな下層で見付かったのだから、まだまだ未発見の宝箱はあるはずだ。
そう思って自力で探そうとする者、売ってくれるまで待つという者、勝手にオークションにしようと言い出す者、売るのか売らないのかを賭けの対象に儲けようとする者、様々な人が居ました。
わずかばかりの希望は人々をまるで生者の椅子取りゲームのように駆り立てました、その波紋は黒猫達を弄ぶには十分な威力を持っていました。
アニメでは武力行使してまで、手に入れたいと思う程の物であるように描かれていました、果たして現実に存在したら誰が正気を失わないと言えるでしょうか。