徹夜のテンションで書き上げましたので、今回は普段の二倍以上の変な文&読みづらさかと思いますが読んでくださると嬉しい限りです。
感想・評価・批評・誤字脱字の報告がありましたら、よろしくお願いします。
それでは第十一話、どうぞ。
ぼくの四宮一家は、平凡、と言うにはぼくと双子の妹がちょっと、ちょっっと変わっていた。
誰かと遊ぶよりも本を読んでたり、機械類を筆頭にした様々な物を解体・組立することが好きで、自分の世界に閉じこもることが多かったくせに他人とのコミュニケーションは無駄にできていたぼく。
じっとしているよりも誰かと遊んだり走ったりすることが好きで、しかし他人とのコミュニケーションがうまく取れずにいつも僕に頼ってばかりで、僕とは違い、他人の争いに人一倍敏感だった芽生。
振り返ってみるとどんな子供だと言いたくなってしまうが、当時のぼくたちはそんな自分たちに疑問を抱くこともなく、達観していた割には、今の生活がいつまでも続くと錯覚していた。
そして、あの日が来て。
ぼくにありがとうと言って、目の前で燃えた木材に押しつぶされた芽生。
(後から聞いた話だが)殺害され、ガソリンなどの可燃物質を振りかけられ燃やされた父さんと母さん。
自分が生きているという事実に絶望することすらできず、何も思えないまま、”ぼく”を失い、”僕”が出来上がってしまった。
自分の心を恨めしいと思ったことは一度や二度ではない。
これからだって恨まずにはいられないだろう。
だって、今まで一度も、九年前の事件のことで泣いたことが無いから。
自分だけじゃない。
何処にでもある不幸だ。
よくある死なんだ。
そう心が割り切ってしまって、泣くことができない。
だから笑った。周りを不安にしないために。
何が楽しいのかもわからないまま、何度もワラッタ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「えーっと、こっちで合ってるんだよな、幸貴」
「うん」
午後七時半。
今現在、僕ら五人は今回の目的でもある星を見るために移動している、
「あ、ともっち、足下気をつけ──」
「わにゃぁぁぁぁぁ!?」
森の中を。
理由は簡単、森の中に一番良い星見の場所があるからなんだけれども。
朝十時に四宮の家を出て、電車とバスを乗り継ぐこと約三時間。
幸貴の親戚の家にお邪魔させてもらい、夕食をご馳走になったり、将棋を打ったりして時間を潰してから幸貴と歌穂の先導のもと目的地に向かっている。
僕や楯無、歌穂、幸貴は何の問題もなく森の中をスイスイと移動できているのに対して、友美は先程から転けたり怯えたり転けたり、あと転けたりしている。
相変わらず、僕らの中では一番ドンくさい少女である。
一応IS学園に入学できるレベルの能力は持っているはずなのに、なんでこんなにドンくさいのだろうか?
本人に言ったら間違いなく落ち込むだろうから言わないけど。
「大丈夫、友美さん?」
「うぅ~、痛いれすぅ~」
薄暗いのでよく見えないが、鼻頭の辺りを手で押さえている。あの部分を打ったようだ。
さっきは石に躓いたけど、今回は木の根っこに躓いたんだろうな。
「そういえば今ので何回目だ?」
「えーっと、確か七回目だよ」
「……それで掠り傷一つ無いってのが恐ろしい」
まったくだ。
「うぅ~、なんで皆は怖くないの!?」
「怖い?」
「そうだよ! 夜の森だよ! 田舎だよ!? なにか起きそうだよ! 何か居そうだよ! なにも思わないの!?」
すごい偏見を見た気がするな。
まあそれはともかく、なにも思わないのか、だって?
そう言われても、なあ。
「全然」
「慣れてるもん」
「特に何も」
「えぇー!?」
ほかの女子陣はあっけらかんと言い放ち、友美が信じられないという顔になる。
まあそんなんだよな、このメンバーなら。
「た、拓人君は?」
「中学時代にリアル心霊現象に襲われたことがあるからな。別段なんとも」
槇島に降りかかった呪いの人形事件で、何度も闇討ちを喰らったせいか、ただ暗いだけの空間など恐るるに足らずという風になってしまった。
よくよく考えてみれば、かなり精神的に図太くなったものだな。
……まあそれでも、IS学園での異性との付き合いはそれ以上にキツイけどね。
「拓人君、本当にどんな中学時代を送ってきたの!?」
「
「色々とおかしくいわよ!」
うん、まあ、普通っていうにはアレすぎる部分が多いけどさ、断言するのは酷くないかな楯無さん。
と言うか友美さんや、自分で聞いといて引かれるのはちょっとやめてほしいのですが。
何ですかその「おかしい。絶対におかしい」って表情は。
「つーか、俺よりも他の三人の返答には何のツッコミも無しか」
「ハッ! そ、そうだった。なんで皆は平気なの!?」
正気に戻って三人に叫ぶ友美。
それに対する楯無たちの返答は、
「怖くないし」
「昔ホラー映画見すぎちゃって慣れた」
「そもそも怖がるような環境じゃないと思うけど?」
僕の理由も相当アレだけど、みんなも大概アレだよね。
「私? 私がおかしいの……?」
「安心しろ友美。君は何もおかしくない」
友美は木に寄りかかり自分の現実がおかしいのかを悩み始めた。
慰めはしたが、全く効果が無いみたいでブツブツと何かを呟き始めてしまった。
うーむ、困った。
立ち止まっていないでサッサと目的地に向かいたいんだけどな。
よし、こういう時は、
「幸貴、ちょっとこっちに来い」
「どうして?」
「いいからいいから」
「……? 分かった」
何も警戒せずに寄ってきた幸貴。
その幸貴の頭を、
「みゃっ!?」
撫でる。
一切加減せず一心不乱に撫でる。
彼女の髪の毛が傷つかないように遠慮なく撫でる。
相変わらず、上質な絹のようというか、小動物の毛のようというか、とにかく良い撫で心地だ。
そしてやっぱり幸貴は真っ赤になっている。まるで熟したリンゴだ。
「な、ななな何をしてっ」
うん、やっぱり可愛い反応だ。
でもね、今は君に見蕩れている暇はないんですよね。
「幸貴、一応謝っておくぞ。すまん」
「へっ?」
「フ、フフ、フフフフフフフフ……」
ユラリ、漫画の世界であればそんな擬音が付くであろう動きで
興奮してるのか、目が爛々と輝いている。
新木友美暴走状態、顕現する。
……幽霊がどうのって言ってたけど、今は君の方がよっぽど怖いですよ?
「と、友美……」
「さぁ~きちゃ~ん」
ヤバそうな人の雰囲気を出しながら迫ってくる友人に恐怖を隠しきれない様子の幸貴。
友美を元気づける、または壊れた状態から元に戻すには可愛もの(人、物問わず)を見せるのが一番効果的である。
しかしながらこの場所でそんなものを見つけるのはハッキリ言うと不可能に近い。
なので、幸貴に犠牲となってもらう。
友美的には、どうも幸貴の赤面状態が一番心の琴線に触れるらしく、僕が頭を撫でたりした直後の幸貴を見つけると、彼女は毎回獣化(誤字にあらず)する。
その度に疲弊する幸貴を慰めるのに労力を使うので、出来ることならこの手段は使いたくなかったが仕方ない。
うん、仕方ないんだ。
だからまあ、僕に言えるのは、
「頑張って逃げろ」
「拓人のバカーーーー!!!!!」
「待ってーーーー!!!!!」
常ならば絶対に挙げない叫び声を挙げて、
純粋な身体能力なら幸貴の方が上のはずなのに、なんで距離が開かないのだろうか。
走り去る二人を五秒ほど眺めてから、引き攣った苦笑いを浮かべる歌穂と、額に手を当ててため息をつく楯無に声をかけて幸貴たちが進んだ方向に走り出した。
幸いにも、二人が向かった方向は目的地に向かう方角だった。
そして二人を追いかけること数分。
森の中を全力で疾走する二人に追いついたのは森の一角、とても開けた場所に出てからだった。
「居た居た。おーい、幸貴! 友美!」
「にゅふふー。あ、拓人君!」
そこでは、友美は幸貴に背後から抱きついてご満悦状態となっていた。
見慣れた光景ではあるものの、二人の身体能力の差を考慮すると、毎回毎回どうやって逃げた幸貴に追いついているのか疑問に思わずにはいられない。
「…………拓人の裏切り者」
「悪かったって。そう怒るなよ、な?」
「む~……」
疲弊した幸貴が恨めしそうに睨んでくるが、体格が小さい彼女が睨んできても怖いどころか可愛いという言葉が浮かんでくるだけだ。
謝りながらポンポンと頭を叩くと、彼女は頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
ただね、そんな見ていて微笑ましい動作をすると、
「幸貴ちゃぁん!!」
「わにゃあぁ!!??」
こうなるわけなんですよね。
しかしながら、目的地に向かうために放っておくわけにもいかないないわけでして。
「お約束というかなんと言うか。どうすればいいと思う?」
「あなたが原因なんだから、自分でどうにかしなさい」
楯無に助けを求めるがすげなく断られた。
どうにか出来るならどうにかしたいのだが、どうにもならないんだよな、この状態の友美は。
歌穂に視線を向けても首を横に振られた。
はてさて、如何なものか。
そうして悩むこと二秒。
僕の出した結論は、
「よし、見捨てよう」
「拓人ッ!?」
目的地までの道なら歌穂だって知っている(はずだ)し、態々幸貴を助ける意味はない。
うん、僕は間違ってない。
決して友美を止めるのに全体力を使って、明日ほとんど動けなくなるのが嫌だからではない。断じてない。
それに友美だって友達を取って食うわけじゃないんだから大丈夫(な筈)。
「そういう訳で、歌穂。目的地に行くには何処を進めばいいんだ?」
「もう着いてるよ。この場所が目的地」
「マジで?」
指を下に向けて地面を、と言うよりもこの開けた場所を指し示す歌穂。
直後に自分の口からひどく間抜けな声が漏れ出た。
「嘘だと思うなら、空を見てごらんよ」
「空を……」
歌穂に言われるがまま、僕と楯無、幸貴を抱きしめたままの友美は顔を上に向けた。
『拓人はこの
「…………ッ」
聞こえるはずのない声が聞こえた。
<うわぁ……>
<綺麗……>
違和感を覚えた。
楯無たちの声が遠くから響いてくる。
<どう? 凄いでしょう!>
自分が彼女たちから離れてしまった、わけではない。実際に距離など十mも離れていない。
でも、彼女たちと、自分の間に距離を感じた。
物理的な距離ではない。
『痛いなぁ、何も叩くことはないじゃないか』
時間。
逆らうことのできない時という距離が、広がっていた。
<あ、大三角形!>
『僕はこの先に、僕ら以外の
嗚呼
酷い吐 き気 がする
目の前がし ろくなるほ どの目眩がした
じぶ んが何者 か此処が何処かなに も考え られ なくなる頭 痛が襲ってきた
『そうか。拓人はそう思うのか』
『芽生の考え方も面白いな』
『うんうん、そういう発想は大事だ』
『この宇宙の先に行けば、違う世界があるのかもしれない』
『私たちの仕事でそれが達成できるようになるかもしれない』
うる さい
煩 い
五 月蝿い
ウルサ イ
お願いだから、僕の前から消えてくれ。
お願い、だから。
『拓人』
『拓人』
お願い、だから…………ッ!
”ぼく”の前から消えてくれ…………
「拓人!」
「拓人くん!」
「タク!」
「拓人君!」
「…………」
必死に、僕を呼ぶ声を聞いた。
闇に埋没しそうになった意識が引きずり戻された。
「たて、なし……?
みんな、どうしたんだ……?」
「どうしたじゃないですよ!」
「イキナリ音もなく倒れ込んで、何かあったのかと思ったよ!?」
「倒れ込んで……」
気がついた。
四人の顔が見えているのは楯無に抱きかかえられている状態で見上げていたから。
自分が倒れたことにすら気づかない程に、記憶に翻弄されていたことに軽いショックを覚えてしまう。
何をやってるんだか。
自分で自分のことをコントロールできていない。
その事実がまた、衝撃を与えてくる。
「大丈夫?」
「問題ないよ。よっこらせっと……」
「あ、急に立たないほうがいいですよ!」
「大丈夫だって……」
「死人みたいな顔で言われても、説得力ないよ!」
死人か。
言い得て妙だが、僕を言い表すには相応しい言葉だと思う。
今の”ぼく”は、半分死んでいる。
立ち上がり、四人から離れて背を向けた。
「……拓人君?」
見上げる。
星空はあの頃と変わらない。
記憶よりも綺麗で、
記憶よりも鮮明で、
記憶よりも幻想的で、
そして、記憶よりも……。
「無情、だな……」
何時、何処で、誰が、どの様に死のうと、この広い世界は、空は何一つとして変わらない。
人一人の存在なんて、それぐらいちっぽけなもの。
でも、ちっぽけだからこそ、とても大切なものなんだ。
今更だ。
今更そんなことに気がつくなんて。
嗚呼、気持ち悪い。
他人に自分を悟られないように嵌めた仮面も、
自分自身を誤魔化す為に作り上げた殻も、
何もかもが剥がれ落ちそうになる。
こらえきれない衝動が、堰を切ったように溢れ出してくる。
気づけば”ぼく”は、それを口にしていた。
「九年前、僕には両親と一人の妹がいたんだ」
「タク……?」
後ろから困惑したような歌穂の声が聞こえるが、無視した。
答えるだけの余裕が、今は無いから。
「どこにでもあるような、平凡で、だけど幸せな家庭だった」
父さんと母さんは、ハッキリ言うと凡庸な人間だった。
妹夫婦や息子たち、つまりぼくと芽生が殊更変わりものだったからそう見えただけかもしれないが、平凡な人たちだった。
でも、特別ではないからこそ、其処には普通の幸せがあった。
「ある日、ぼくらの家族は星を見に行った」
乗り気な両親と目を輝かせた妹、こんなことをするくらいなら機械を構っていたいと不平タラタラのぼくの四人で、星を見に行った。
「そこでぼくは、今と同じように空を見上げたんだ。
父さんと、母さんと、芽生と一緒に」
所詮星だろと馬鹿にしていたぼくは、その思いを一瞬にして打ち砕かれた。
自分の価値観を180度、とまではいかなくても、かなり変えられた。
目標、夢、憧れ、自分の中のそういったモノが全て塗り替えられる程、子供の時の星見は衝撃的な出来事であった。
でも、
「それから一ヶ月と経たないうちに、ぼくの家族はみんな殺された」
僅かに後ろを見る。
友美は顔を青くし、歌穂は何かに耐えるよう唇を噛み締め、幸貴と楯無は無表情を貫いている。
みんなの顔に驚きの色はない。
やっぱりか。
健介さんと陽子さんが、昨日楯無たちに話したのはぼくのことだったのか。
「みんなも知っての通り、その出来事の中、ぼくの目の前で妹が死んでね。その所為で、僕の心はだいぶ変な構造になったんだ。
「自分の心を守るために、苦しんだ”ぼく”を”僕”という殻に閉じ込めた。
「自分の弱さを隠す為に、他人を騙すための”俺”という仮面をはめるようになった。
「でもね、それだけじゃ終わらなかったんだ。
「多重人格じみた精神は、次第に本当のぼくを壊したんだ」
自分を守るために苦しみや悲しみ、絶望といった感情を”ぼく”に押し付けた結果、僕は確かに苦しむこともなく、悲しむこともなく、生きてこれた。
でも代わりに、諸々の感情を押し付けられた本当の”ぼく”は、誰にも、自分でも気が付かないうちに人としての心が捻れ、歪んでしまった。
感情はある。記憶もある。しかし、自分がわからない。
感情に実感が持てなくなってしまった。
苦しんでるかどうかも、悲しんでるかどうかも。
「だから、僕と俺を使い続けた。
「弱い自分を、壊れた”ぼく”を、守り続けるために。
「その結果が、今の僕なんだ。
「妹の行動を真似し、依存し。
「その歪みから抜け出せず、抗わず。
「自分を守ることに精一杯な、ブルートンが言うところの情けない男。
「それが、四宮拓人なんだ」
僕という存在については全て話し終わった。
誰も口を開こうとはしない。
しじまが空間を支配し、”ぼく”らから音を奪っていた。
「…………」
星空を見上げる。
この
僕はこの光景を見て何を思ったんだろうか?
「なんで今、そんな話をしたの?」
「…………もう耐え切れなかったからじゃないかな?
”ぼく”は自分が気がついていないだけで、結構限界に近かったんだと思うよ」
なんでこんなことを話したのか。
なんで皆の顔を見ることが出来ないのか。
やっぱり”ぼく”には分からない。
だから再び僕の殻を被り、いつもの自分に戻った
そうして自己分析した結果、心が限界だったのだろうと思った。
たとえ、自分の感情が、衝動が分からなくても、それを持っていないというわけではない。
痛みがないから死なない、熱さを感じないから火傷しないというわけではないのだ。
星空を見て、昔の自分を見て、それに釣られるように限界を迎えていたものが溢れ出した。
そう考えるのが一番自然だ。
なんて分析してみるが、こんなことをしている時点で自分が冷静ではないのだと気がついた。
そして、自分が気づいていなかった別の理由に気がついた。
「前言撤回、ならぬ前言追加。
限界が近いからってだけじゃないと思うよ。
多分だけど、今というタイミングを逃したら、”ぼく”は二度と表に出てこれなかったからかもしれない」
「え?」
「”ぼく”が僕という殻を脱ぐ方法は分かってないんだ。
今回だって表に出てこれたのは、記憶に引き釣り出されたからなんだ」
まるで他人のことを語るように言う。
ある種の多重人格と呼べてしまう精神構造だからこそ、そんな語り口となってしまう。
まあそれはともかく。
ぼく自心では、自分で創り上げた僕と俺の殻を壊して表面に出てくることは出来やしない。
そもそも、表に出る意味を見出していない。
だから外的要因で無理矢理表に出さなければならないのだが、それだけの威力を持つ外的要因など僕には存在しない。
そもそも恐怖や憤怒、歓喜といった感情の認識ができないのが”ぼく”なのだ。
今回のように、みんなの前で表に出てくる瞬間など、これから先の人生で存在する訳が無いと断言できる。
「貴方は、拓人くんじゃないの?」
「ううん、僕も、”ぼく”も、全部四宮拓人だよ。
今までの記憶も、みんなへの認識も、全部同じだよ。
ただ一つ、感情だけは別物だけどね」
僕は事件以前の出来事に対して何も思えない。
”ぼく”にすべての感情を押し付けてしまったから。
だから死んだ家族のこととなると、その存在が少しだけ浮き彫りになりそうになる(なりそうというだけで、今日までは一度も表に出さなかったが)。
僕が出来上がった直後は、文字通り無感情で無表情、家族の死を簡単に割り切り、取り敢えず笑っていたぐらいだ。
時間が経って、色々な経験を積んで、ようやく真っ当な感情が生まれたのが13歳の時。
その頃には、過去の出来事は唯の過ぎ去ったものだとしか思えなくなっていた。
自己の境界線が限りなく薄い”ぼく”と僕だが、現に在る今と過ぎ去った昔という一点のみが隔てている。
「怒りも、悲しみも、喜びも、今の世界でそれを感じることが僕にとっての当たり前。
”ぼく”にとっての当たり前は今の世界に何も感じないこと。
ただそれだけさ」
星空を見上げる。
あの日から、なんとなく見るのを忌避するようになった世界の姿は、やはり綺麗なものだった。
でも、僕にはそれだけしか感じられない。
先程の殻を破るような感覚も、堪えきれない何かも、一切湧いてこない。
僕が”ぼく”から受け継いだ唯一つの夢。
民間旅客機などの極一部を除いて、男が自由に空を飛べなくなってしまった今の世界では決して叶えられない『空を超えて、外宇宙の姿を見る』という、幼稚で、下らなくて、それでも本気だった願い。
”ぼく”はこの空に何を夢見たんだろう。
「君たちがこの話を聞いて、何を思って、何を為すかなんて僕”ら”には分からない。
でも、僕は君たちが僕から離れていくって決めたのなら、責めはしない。
だから、選んで欲しい。考えて欲しい。自分の行動を」
彼女たちが僕に恐怖し、離れていくというのなら、僕にそれを止める権利は存在しない。
僕という人間の異常性を語ったのなら、それは覚悟の上だ。
それでも、やっぱり友達が離れていくのは寂しいとも思う。
たとえ、始まりは妹の真似事だったとしても、恋愛感情や性欲をはじめとした一部の感情と衝動は無くても、今の僕には寂しさを感じるだけの心がある。
僕は空を見上げ、友人たちの表情を見ないようにして答えを待った。
星は何も答えてくれない。
ただ僕を、僕らを照らすだけだった。
8月7日 金曜日
今日は長々と書く気分じゃない。
なのでこれだけ書いて終わろうと思う。
今日のまとめ.”ぼく”が本物で、僕が偽物
いかがでしたか?
よろしければ、次も彼の物語にお付き合いください。