なので、サブタイトルの付け方を変えてみました。
主人公を追い詰める手段を考えるのが楽しすぎる今日この頃。
感想・評価・批評・誤字脱字の報告がありましたら、よろしくお願いします。
それでは第十二話、どうぞ。
「ただいまー」
中学校から帰宅し、玄関を開けて挨拶をするが、家の中からから返ってくる声はない。
家の中に誰も居ないのだから当然のことである。
約九年間、この四宮家にお世話になってきたが、おかえりの言葉が返ってきたのは数える程しかない。
それぞれ、技術者と研究者を纏める立場にいる叔父と叔母がまだ日も高いうちに家に居る事など極希である。だから今のようになるのは仕方ないのかもしれないが、やっぱりちょっと寂しくもある。
まあ、養ってもらってる手前、そんなことばかりも言ってられないけども。
「とりあえず二人の着替えと、差し入れはクッキーとコーヒーでいいかな?」
忙しい時、健介と陽子の二人は倉持技術研究所、通称倉持技研に篭もりっきりになる。
そんな時は、大抵拓人が着替えや差し入れなどを持っていくようにしている。
小学生時代に始めたことであるが、倉持技研は四宮家から歩いて約一時間。走れば三~四十分で着く距離にある。
昔は趣味のランニングがてら、倉持技研に遊びに行ったものであるが、流石に中学生になってからは着替えと差し入れを持っていくか、後学のために無理言って中を覗かせてもらうぐらいであった(叔父夫婦のコネと、子供の頃からその手のことには実地の人間も舌を巻くほど真面目に話を聞き、そのことを知っている人間が数多く働いているからこそ許されているだけである)。
勿論、見させて貰ってるのはあまり機密という物が無い空間のみだ。
「えっと、今日は21番実験だから……ISの起動実験!?
うわっちゃー、今日は中に入れてもらえないかな?」
持っていく荷物を纏め終えた拓人は、叔父夫婦がカレンダーに書き込んでいる予定と三年前に偶々見てしまった書類に載っていた秘匿記号の知識とを照らし合わせ、悲鳴を上げた。
少し早いが高校入学も決まり、今日は倉持技研の顔見知りたちにその報告も兼ねて差し入れを持っていこうと友人たちの誘いを断っただけに、何も報告できませんでした、というのはちょっと勘弁して欲しいのだ。
「はぁ~、まあいいや。
取り敢えずさっさと行きますか」
二人分の着替えといくつもの差し入れでパンパンになったカバンを持ち、防寒具を着込んだ拓人は家をあとにした。
二月の寒空の中、およそ四十分の時間をかけて倉持技研まで来た拓人が視界に捉えたのは、妙に厳重な警備の中、忙しなく動いている顔見知りたちだった。
「なんだこの状況」
大型のトレーラーが一台。
技研の搬入口辺りに止まるそれの周りには、一目見ただけで武装していると分かる男、所謂ボディーガードとかSPと呼ばれる役職の人間たち。
これまで、修羅場としか表現できない出来事をくぐり抜けてきた彼の目にも、異様としか言えない光景である。
「すいません、
「うん? ああ、拓人君か」
「なんですかこの異様な雰囲気は」
拓人は直ぐ様、トレーラーの傍で作業していた顔見知りの研究員の一人に声をかけ、現状の詳細を求めた。
すると研究員──貫井は護衛の男たちの様子をちょっと伺ってから拓人をトレーラーから離れさせ、顔を近づけるようジェスチャーした。
「あんまり大きな声で言えることじゃないんだけどね、これからISの実験機を運び出すんだ」
「ISを!? 今此処にあるんですか!?」
「うん。それで、政府のお偉いさん方はそのISを守るためだけに、あんな黒ずくめたちを寄越したみたいなんだ」
「なるほど。どうりで物々しいわけだ」
インフィニット・ストラトス──ISの登場から早九年。
ISの心臓部、コアの数が467しかない関係上、コアの奪い合いは苛烈そのもの。
その為か、一つの国が所持しているコアの数はどんなに多くとも十未満。
しかも、非公式ながらコアを奪われている国も存在するらしい。
公で披露することはできない知識を、保護者経由で知っていた拓人は貫井の説明に納得し「それで」と次の疑問に移り始めた。
「あのトレーラーに運び込まれる予定のISって何処にあるんですか?」
「いやいや、君であっても流石にそれは教えられないよ」
「ですよね。あ、それじゃあ俺は帰ったほうがいいですか?」
先ほど貫井は実験機と言った。
実験機には当然ながら機密保持など、一般人からすれば絶対に関わってはいけない問題が多数存在しているはずだ。
これまでもそういった問題が一切発生しない範囲でのみ倉持技研での自由を許されていた拓人はその可能性に気づき、貫井に相談した。
彼の言葉に貫井は考え込む仕草をしてから「ちょっと待ってて」と言い残して研究所の中に入っていった。
寒空の下、待つこと十分。
外に出てから約一時間が経過し、手足の先が本格的に冷え始めた頃、パタパタと駆け足で貫井が戻ってきた。
「お待たせ、拓人君」
「あ、貫井さん。何処に行ってたんですか?」
「ちょっと上司のもとまでね。まあそれは置いといて。
拓人君、朗報だよ」
「はい?」
「ちょっとだけなら、今日此処に来ているISを見ても良いってさ」
「……………………………………………………本当ですか!?」
貫井の言ったことを処理・理解するのに時間が掛かり、ちょっと固まった拓人であったが、理解すると同時に貫井の両肩を掴み、彼の言葉が嘘偽りのないものであるかを問うた。
あまりの早業、あまりの興奮ぶりに貫井は顔だけ後ろにそらし(強い力で肩を掴まれているため首から上以外動かせない)ながら頷いた。
「何時、何処で、どのタイミングで、どの位眺めていいんですか!?」
「えっと、今運び出されるところだから、トレーラーに積み込まれるまでのほんのちょっとの間だけ──」
貫井の言葉が終わる前に拓人はトレーラーに向かって駆け出していた。
今日最高の速度だった。
「うわぁ、これが、本物のISか!」
目の前に鎮座する黒いIS。
フォルムこそ、フランスのデュノア社製ISラファール・リヴァイヴと同じく世界に広く知られている日本製IS<打鉄>に似ているが、メインカラーが黒であることや待機形態であっても存在するはずの小楯が無いことなどが、打鉄ではないことを如実に表している。
貫井さんは実験機と言っていたから、何かしら特殊な一面があるはずなのだろうが、ただ見ているだけでは分かるわけがない。
しかしながら、こんな間近で見られる機会がこれから先に有るかどうかも定かではない。時間も有限。
なので、今は余計な考察は後回しにして見れるだけ目の前のISを見ていようと思う。
「四宮拓人くん。分かっているとは思うが、」
「映像記録として残すな、でしょ? そこら辺は分かっていますから大丈夫です。他者に口外もしません。今日此処には何も無かった。それでいいんでしょう?」
「……ああ(本当にこの子は中学生か?)」
当たり前だが、このISの存在を外部に漏らすようなことをしてはいけない。
技研から黒いISを運び出してきた健介さんの話によると、このISは存在其の物が公にできない物らしい。
それを一般人の目に触れさせているなど、政府の人間にでもバレてしまえば、技研の人間だけでなく、護衛を受け持っている人間全員の首が飛ぶこととなる。
だから、護衛の男たちは最初僕にこのISを見せる事を頑なに拒否していた。
だが、誠心誠意、僕とその場に居た技研の全員でお願いしたところ、幾つかの条件付きでなら見せる事を許可してくれた。
護衛の人たち。見た目がアレだが、なんだかんだ言って良い人たちのようだ。
何か変なものを見るような目で見られている気がしないでもないが、気にしない気にしない。
そうしてあらゆる角度から黒いISを眺めること十分ほど。
ついに黒いISを運び出す準備が整ったらしく、離れるように言われた。
「もう終わりか。もうちょっと見ていたかったな」
「無理を言わないでよ。こうやって見せているだけでも、大分無理をしているんだから」
「分かってますって、陽子さん」
これ以上は技研の皆にも、護衛の人たちにも迷惑が掛かってしまうのは理解している。
個人的感情や事情で何度も振り回してきた身としては、今回の無茶も心苦しくはあった。
だから引き下がれと言われたら大人しく引き下がっておく。
「でもその前に」
少しだけでも、このISに触ってみたい。
ほんのちょっとの子供心が芽生え、今まさに運び出されようとしている黒いISに向かって、僕は手を伸ばした。
そして、声が聞こえた──
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おーい、時間だよー。起きろ、タクー」
「ぅん、んん? んぁっ……」
九月の熱気の中、教室の机に伏せてまどろみに落ちておいた拓人の意識は外部からの刺激によって覚醒した。
寝ぼけ眼を擦りながら机に突っ伏していた頭を上げ、彼は教室を見回した。
一年一組の教室に残っているのは彼と、彼を起こした歌穂、後は物好きな生徒が片手で数え切れるだけ。
何時も通りといえば何時も通りの光景であった。
前日、同級生に複数の機械修理を頼まれ、徹夜してまでその全てを直し終えた拓人は眠いと言って放課後の教室で眠っていた。
眠いのであれば自室で寝ればいいことなのだろうが、生憎とこの日はISでの訓練日と定めていた日。
唯でさえ弱い自分が練習をサボって寝るなどというのは愚の骨頂と軽い睡眠をとってからアリーナへと向かうことにした。
その際、一緒に訓練する相手である歌穂に時間になったら起こすように頼んだのだ。
「悪いな、こんなこと頼んで」
「別にいいよ、友達なんだし。タクの寝顔を眺めてたから退屈でもなかったし」
これが楯無辺りだったら、ここから更にからかいへと話がシフトするんだろうな。
「てなわけで、アリーナに行こう!」
「はいはい」
話が斜め上に飛んだものの、今に始まったことじゃないかと拓人は苦笑して席から立ち上がった。
「──でね、つっちーとアーちゃんてば織斑先生に連れてかれちゃったんだ」
「……土蔵とアルベルティの二人、生きてるかな?」
「うーん、生きてる、よね……?」
アリーナへ向かう道中、僕が寝ていた間に起こった事件(とは言えないような小さな出来事)の話をして言いる。
一学期と変わらず、僕らは普通の友人のように笑い合っている。
星見の日から、僕らの関係が何か変わったかと聞かれれば、僕も彼女たちも特に変わってないと答えるだろう。
僕自身のことを聞いた上で彼女たちが出した結論は、
「今までとなんら変わりなく接する」
当初こそ戸惑ったものの、正直あの場では一番良い選択だったのかもしれないと今では思えている。
そうして何も変化はなく、二学期からも今まで通りの平凡ではない日常が始まった。
あ、いや、一つだけ変わったことがあるか。
「どうだろう。
「あとで無事かどうか確認しとこうそうしよう」
「そうしろそうしろ」
八月七日に、今の僕”ら”に関する
だから何かが変わったか、と聞かれればやっぱり変わってないとしか言えない。
彼女たちが以前と変わらない状態で接すると決めてしまった以上、関係の変化が起きるとすれば、それはもう誰かと付き合った時ぐらいだろう。早い話が恋人関係。
が、それについては僕個人の心理的問題、ぶっちゃけると、恋愛? 何それ? 状態なので絶対に起こりえない。
そんな訳で、(さっきも言ったが)今も普通ではない日々が続いているのだ。
「話は変わるけど、今日はアリーナで何する?」
「二人きりだからな、やれる事も少ないんだよな。軽くアップしてから対戦でもするか?」
「お、いいね。それでいこう!」
二学期が始まってから、約一週間。
少しづつ近づいてるIS学園の学園祭を前にして、漫画研究部に所属している幸貴と、料理クラブに所属している友美の二人は、放課後は部活動に掛かりっきりになっている。なんでも、二人共期待の戦力なのだとか(料理クラブでこの表現はおかしいが、実際に部長を勤めている先輩が言っていたことだ)。
歌穂も陸上部に所属しているはずなのだが……そういえば彼女が部活動に行った場面を二学期が始まってから一度も見てないような気が…………。
「歌穂、つかぬことを聞くけど、二学期が始まってから部活動に行ったことある?」
「全部サボった!」
「笑顔で言うな」
満面の笑みで答える友人に思わずチョップを振り下ろしたが、僕は悪くないはずだ。
「痛いなぁ~、もう」
「うっさい。部活動くらい、ちゃんと行きなよ。自分で選んだんだろ?」
「どの部活にも入っていないタクに言われたくないよ!」
「仕方ないだろ。僕の場合は、入部しても殆ど部活動に出ることができないんだから」
確かに僕はどの部活にも入っていない(一部の人間からは料理クラブの幽霊部員扱いされているけど)わけですが、僕の場合は不定期に行われる運用試験の所為で入れないというのが理由であって、決して面倒くさいからとかではない。
それに、楯無だって部活動には入ってない。彼女が部活に入部していない理由は不明だけど。
まあどんな理由であっても僕は驚かない。だって相手が楯無だし。
と、楯無と言えば、
「そういえば、楯無は今日帰ってくるんだっけ?」
「うん。今日の夕食ぐらいに帰って来れるんじゃないかって言ってたよ」
「ふーん」
楯無は今現在IS学園に、どころか日本にいない。
なんでも、国家代表の仕事だとかで三日前から国外に居るらしい。
「たっちゃんも大変だよね」
「仕方ないさ。楯無はIS操縦者国家代表なんてとんでもない地位にいるんだし」
有名になったり、偉くなるとそれだけ義務やら責任やらが生じるんだよな。
現に僕はデータを取るための実験台にされているし。守秘義務とか背負わされてるし。
ま、何をしていたのかはどうせ国家機密に関わるとかで教えてくれないだろうけど、労いの言葉くらい送っとくか。
そう心の中で決めていると、歌穂が立ち止まってこっちをジッと見ていることに気がついた。
「ねえねえタク」
「なんだ?」
「タクってたっちゃんのことが好きなの?」
「ぶっ!」
思わず吹き出してしまった。
「いきなり何言ってるの君は!?」
「え? だって、タクってばこの三日間のあいだにたっちゃんの名前ばかり出してるんだもん」
そんなに彼女の名前を出したっけ?
記憶を掘り起こしてみても、そんなに言われるほどではなかったと思うんですけど。
「いやいやいや、それだけで好きかどうか判断するのは間違っているぞ!」
「えー? 大体そういうもんだけどなぁ」
うん、やっぱり女子って分からない。
「つぅか歌穂。お前は僕に恋愛感情諸々の認識が欠けているって知ってるだろ」
「あ……ぇと、その、ごめん」
「気にすんなって、な?」
歌穂は自分の言葉が失言だったと気づき、バツの悪そうな顔で謝ってくる。
僕は気にしていないと言って彼女の頭をポンポンと優しく二、三回叩いた。
自分に何か欠けているモノがあるっていうのは今更だ。この自分をすぐに変えることなど、できるはずもない。
それに僕自身、謝られるほど深刻に考えているわけでもないし。
だって恋愛感情がないっていうのは、ただ単純に朴念仁よりもなおタチが悪いっていうだけだし。
「ま、気遣ってくれるのは嬉しい限りだけど」
ちょっとだけ頭を撫でてみた。
幸貴には頻繁にやっている動作だけど、為すがままになっている歌穂の顔は幸貴と同じく赤くなっていた。
やっぱり女の子は、異性に髪を触られたりするのは恥ずかしいのかな?
なんて考えていると、
「キャアッ!?」
曲がり角の向こうから聞き覚えのある女性の声と誰かが倒れるような音が聞こえてきた。
僕らは二人揃って曲がり角の方を向き、無言で目を見合わせた。
「…………」
「…………」
行ってみるか。行ってみよう。
実際に口に出して言ったわけではないが、なぜか今だけは目で会話が出来てしまった気がした。
曲がり角の向こうにいたのは、案の定、拓人たち一組の副担任山田麻耶その人であった。
紙束を両手一杯に抱えて歩いていたところ、バランスを崩して転けてしまったのだとか。
ハッキリ言うとドンくさい。そういうところは友美といい勝負だ。
これで実力が僕らより上なんだから、世界って不思議に満ち溢れているなと関係ないことを拓人が考えていたのはどうでもいい余談である。
「うぅ~……すみません、手伝ってもらっちゃって…………」
「まぁちゃん、気にしたらダメだよ。私たちが勝手にやってるだけなんだし」
「そうですよ、山田先生」
どうでもいい事この上ないが、一年一組で山田先生のことを先生という敬称付きで呼んでいる人間は拓人と楯無、ギュンターの三人ぐらいだ。
全員、まぁちゃんだとか、まやまやだとか色々な愛称で呼んでいる。
笑えるものから、オイオイと思わずツッコミを入れてしまうものまで、女子のセンスはある意味脱帽ものである。
流石に床一面にぶちまけられた書類を前に、右往左往あたふたしている副担任をそのままスルーしてアリーナに向かうという選択は取れず、そんなに時間がかかるわけでもないしと二人は書類を職員室まで持っていくのを手伝うことにした。
結構な量がある書類を三人揃って両手で抱えながら廊下を歩く様は、なんだか滑稽である。
「にしても先生。これってなんの書類なんですか? バカみたいに量がありますけど」
「これは次回の学年別トーナメントの申込書です」
「申込書?」
次のトーナメントは参加するかどうかを選べるのか?
それ以前に、次のトーナメントは二ヶ月以上先のはずだけど。
生徒二人の頭上に多くの疑問符が浮かんでいるのを見て、麻耶は言葉を付け足した。
「実は今月、突然トーナメントを開催することになりました。それがペア戦なんです」
「はあ? どうして突然? ていうか、ペア戦?」
「さあ? 私たちも、ついさっきそれを知らされたばかりなんです」
麻耶も理由は分からないと不審げな表情を浮かべる。
暫し三人揃って理由を考えるが、誰一人として理由を上げられず、歌穂の「あー、もう、やめやめ! 難しいことは考えないほうがいい!」という叫び声で、止まっていた話を進めることにした。
「で、今運んでいるのが、そのトーナメント戦で使う書類なんですか?」
「そうです」
「でも先生、今の時期は学園祭の準備で手一杯だと思うんですけど、その辺はどうなってるんですか?」
「学園祭の開催日をずらして調整するみたいです。現にトーナメント戦の日も近いですし」
「ふーん」
ひょいっ、と両の手に抱えた書類に視線を落とす拓人。
そこに印刷されている文字を頭の中で処理していくごとに、彼の顔色はどんどんと悪くなっていく。
「成程な。これはめんどくさい」
「なになに? 何が書いてあるの?」
身長差が原因で拓人の様に抱えた紙束の文字を読み取れない歌穂は、彼の表情の変化に気づいていないのか紙に何が書かれているのかを聞いてきた。
「九月八日水曜日に学年別ISトーナメントを開催する。
今回のトーナメントは二人一組のペア戦となる。
ペアについては前日までに申込書にて申請すること。
なお、ペアが作れなかった者については、試合当日ランダムにペアを決定するので留意するように」
拓人はありありとメンドくさいという表情を作りながらも、必要そうな部分のみを簡略化して読み上げ、彼女に説明した。
今は八月三十日。およそ一週間後にトーナメント戦が開催される。
「早い話が、好きな奴と組みたいなら試合までにこれ持って職員室まで来いってことだろ」
「なるほど」
「それで山田先生。参考までに聞いておきますが、トーナメント戦の事はもう貼りだしたんですか?」
「はい、ついさっき」
「そうですか」
納得といった様子で頷く歌穂を横目に眺めながら、拓人の脳裏では警報が鳴っていた。
これまでの騒動が可愛く思えてくるような事態が発生する、と。
逃げなければ死ぬぞ、と。
彼は即断即決速行動とばかりにこれからの行動を決め、実行に移した。
「歌穂、訓練の予定はキャンセルだ」
「え?」
「俺は逃げる。じゃ!」
「ちょっ、タク!
……行っちゃった。なんで?」
「さ、さあ?」
拓人が何故逃げ出したのか。
少女と教師が理由を知ることになるのは、申請書を職員室まで届け終わる三分二十七秒後というそう遠くない未来のことである。
いかがでしたか?
よろしければ、次も彼の物語にお付き合いください。