IS one years ago   作:工藤

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自分の文才の無さが恨めしいと今回ほど思ったことはない。


感想・評価・批評・誤字脱字の報告がありましたら、よろしくお願いします。
それでは第十五話、どうぞ


そして地獄は現れる

 

 

 中学時代、異常なまでに僕と友人たちは騒動に巻き込まれてきた。

 ヤクザ騒動、呪われた人形事件、熊襲来など、言い出してしまえばそれこそ数限りない(まあ限りは存在するけど)ほど、それらの中心に位置していた。不自然なまでに。

 その中で命の危機が無かったことなど皆無と言える。不自然なまでに。

 どれもこれも誰かの手を借りたり、自分たちが持てる限りのあらゆる手段を持って立ち向かったが、その全てが逃げる、放置するという選択を取れば間違いなく事態が悪化し、より最悪なことが起きることが明白であった。不自然なまでに。

 

 今では僕も大和屋も石動も槇島も、それらを偶然起きたことと笑い話で済ませているが、普通に考えればそんな短い周期で命に関わるような事件に巻き込まれる偶然などありえない(・・・・・)

 そんな風に、ある種の怪現象が僕らを襲うようになったのは中学一年の時、大和屋たちと友人になってからだった。

 そう、僕が他人と必要以上に関わり、生きてるとも死んでるとも取れない状態から多少復帰してからだ。

 

 当時の僕の状態を(どこまでかは知らないが)把握していたのは叔父夫婦のみ。

 その叔父夫婦にはどんなことがあっても迷惑をかけないようにと、昔はあらゆる手段を持って二人に僕が巻き込まれた事件の情報が届かないように動いていたため、僕の状態復帰と事件の多発について結び付けられる人間は僕を除いて誰もいなかった。

 が、過去の僕は、その自然に起きている不自然についてたいして考えもしなかった。

 いや、考えられなかった(・・・・・・・・)、なのかもしれない。

 

 今ならわかる。そうなっていたのは必然なのだろう。

 たとえ何があっても、どんなことになっても、嘗ての僕が気づくことは絶対にありえないことだった。

 たとえ気づいても、唯の偶然だと笑い飛ばしてしまっただろう。不自然なまでに(・・・・・・・)

 

 本当に、なんで僕は気づかなかったんだろう?

 気づけていれば、少なくとも僕以外は傷つかなかったかもしれないのに。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「ウボァー……」

 

 眠い。

 寝たい。

 でも寝られない。

 なにせ今日はこれからISトーナメント。

 日々鍛えてきた能力と知略がぶつかる激闘が繰り広げられる(かもしれない)からだ。

 ましてや僕はあの楯無に勝とうとしているのだ。寝ている余裕など無し。

 ……でも寝たい。

 

「……何やってんのよアンタ」

 

 背後からアイリスの呆れたような、と言うか呆れそのものの声が聞こえる。

 振り返ればあの見慣れた金髪碧眼の姿が見えるのだろうが、ぶっちゃけそんな気力は湧かない。

 

「見ての通り寝不足だコノヤロー」

「試合当日に寝不足って、アンタ馬鹿?」

 

 それについては否定しない。

 まあそれはそれとして、

 

「侵入した手段についてはこの際なんにも言わないけどさアイリス、男子更衣室に堂々と侵入するのはどうかと思うのだが」

 

 どうでもいいが、今僕が居るのは男子更衣室。つまり女子不可侵領域である。無駄にセキュリティが高い。

 そこに堂々と侵入してくる人間は、そういった技術を極めた変態か、あるいは馬鹿のどちらかである。

 アイリスの場合、恐らく後者だろう。

 彼女は腐っても貴族(?)。そのへんに関しては無駄に清廉潔白(?)なのだ。

 

 ……楯無? 彼女だから仕方ない。

 

「別にいいでしょ、アンタしかいないんだから」

 

 偶に楯無が居るけどね。言わないけど。

 

「で、何の用だ?」

「どっかのバカが緊張でもしてるんじゃないかと思って様子を見に来たのよ。

 まあ、杞憂だったみたいだけど」

「もう慣れちまったからな。試合前のこの感じにも」

 

 五月のコイツとの試合の時なんか、かなりガチガチになって楯無たちに手の込んだ緊張解しをされたものだが、それが今となっては懐かしい。

 アレから約四ヶ月、色んな事がありすぎて今更試合がどうのとかじゃ驚きも興奮も緊張も無いに等しい。……まあ、面倒事が起きるのだけは勘弁して欲しいが。

 それもこれも、

 

「…………」

「なによ?」

「いや、ちょっとな……」

 

 コイツとの初戦が印象的すぎたからかもな。

 想定以上に綱渡りをした戦い。

 負傷してまでのギリギリの勝利。

 それに比べれば、学園の生徒同士での試合は唯のお遊びみたいなものだ。

 当人たちにとってはそうでないのかもしれないけど、僕にとってはそうでしかない。

 少なくとも、楯無や目の前で首を傾げている代表候補生との戦い以外は。

 

 僕が心の中でそんな事を考えているとは露知らず、アイリスは疑問符を消した。

 

「まあいいわ。別にアンタが何を考えていようと知ったことじゃないし」

 

 コイツの思いきりのいいと言うか、サバサバした性格は本当に付き合いやすい。

 僕と彼女は、友人として一緒にいるのはどうしても馬が合わないから無理であるが、ISでのタッグを組む場合、(無駄に)相性が良い。

 誰しも利点や欠点があるものだが、僕とアイリスの場合、その辺りが見事に両極端なのだ。

 スピード型遠距離ISを装備して、慎重且つ冷静に戦おうとするあまり色々と張り詰めているが故に、一度折れてしまえば簡単には復帰できない僕。

 スピード型近距離ISを装備して、やることは近寄って斬るだけの単純且つ短気な突撃思考、しかしその性格と諦めの悪さで一度の失敗どころか百度の失敗をしてもすぐに元通りになれるアイリス。

 

 見事に対照的だが、だからこそ組んだ場合、欠点を補いあえる最高のコンビと言えるのだ。

 ……まあ人間的相性はそれに反比例するぐらい最悪だけどね。

 

「あっそ。ならさっさと出てってくれ。こんなとこ他の人間に見られたらどんな誤解を招くかわかったもんじゃない」

「私もそうしたいのは山々だけどね、もうそろそろトーナメント表が発表されるのよ」

「へ、もうそんな時間?」

「……時間ぐらい気にしときなさい、バカ宮」

 

 ああ嘆かわしいとアイリスは待機形態のアルストロメリアを付けた手を額に当ててやれやれと頭を振った。

 至極どうでもいいが、アイリスのスタイルはかなり整っている。

 あまりその手の美辞麗句は知らないので上手く表現できないので黛の言葉を借りると、楯無より少し小さい胸、キュッと引き締まった腰周り、安産型の尻、だとか。どっからこの情報を持ってきたんだろうか、あのパパラッチ少女。

 まあそんな訳でして、ISスーツに着替えた目の前のパートナーの姿はかなりアレである。

 しかも本人は、僕が相手だからかその辺にかなり無頓着。

 人百倍性的欲求が弱く、まかり間違ってもアイリスに対して欲情することはないと言い切れる僕であるが、それでも目の前の少女の姿はこれまでの人生の中でも一、二を争うほど目の毒だ。

 

 まあそれだけ気を許してもらってるのだから、その辺は嬉しくないわけではない。

 本人には絶対に言わないけども。

 

「と、話をすれば──」

 

 アイリスが僕から目線を外し、僕の後ろ、少し上へと目を向ける。

 振り返り、そこにあるモニターが表した情報を取り込んでいく。

 

 ふむ、

 

「楯無と戦うのは、決勝戦みたいだな」

「そうね」

 

 最初に僕とアイリスの名前が表示され、その真反対の位置に楯無ともう一人の名前が表示された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一回戦 四宮拓人&アイリス・ブルートンVS凪原美里&凪原美里

 

 

 

「同一人物? いや、偶々名前も苗字も同じだけの赤の他人? それとも、双子?」

「なーにブツブツ言ってんのよアンタは」

 

 インフォメーションボードを流れる対戦相手の名前が一字一句違わず同じことに疑問を抱きながらも、やってきましたこの場所(ピット)へ。

 

 僕らは軽くストレッチをしたり、邪魔にならないように髪の毛を後頭部で纏めたり(所謂ポニーテール)、軽口を叩いたりしながら開戦の時を待ち続けていた。

 アイリスの諸動作が妙に色っぽいから目の毒すぎる。

 

 そして遂に、僕らの出番を告げる放送が鳴った。

 

「ようやくこの時が来たな」

「そうね。思い返せば、色んな意味で長い一週間だったわね……」

「ああ、そうだな……」

 

 一緒に訓練して、喧嘩して、作戦を考えて、喧嘩して、名前を呼び合うようになって、喧嘩して。

 ……あれ? 喧嘩しかしてない気がする。

 

「とは言っても、この一週間の成果を発揮するのは楯無との試合の時だけだ。他の生徒との試合で手間取る気は毛頭ない」

「それについては同感。

 っていうか、あそこまで私を色々と付き合わせたんだから、それ相応の結果は残してよ、タクト」

「合点承知だ、アイリス」

「何よその返事」

 

 僕の返事が可笑しかったのか彼女は笑う。

 楯無とも、友美や歌穂とも違う笑顔だが、見ていて少しだけ安心する。

 そういえばアイリスが笑うのを見るのは初めてだった。

 釣られて僕も少し笑った。

 

「出番よ、<アルストロメリア>」

 

 一瞬、光がアイリスの体を包んだかと思えば、次の瞬間には見慣れた白の装甲を身に纏った少女がいた。

 既にその顔は笑っておらず、戦う人間特有の雰囲気をまとっていた。

 

「それじゃあ先に行ってるから」

 

 チラッと僕を見てからアイリスはカタパルトに乗ってアリーナの中へと飛んでいった。

 と、僕もボーッとしているわけにはいかないな。

 

「行こう、<クロガネ>」

 

 約半年の間、何度も繰り返してきた行動を実行する。

 下半身から黒い装甲が出現し、瞬く間に僕の肉体すべてを覆い尽くした。

 360度、あらゆる場所まで視界が広がり、同時にほんの少しの拘束感を感じた。

 慣れ親しんだ感触、いや、触覚は殆ど死んでいるから慣れ親しんだ感覚、かな?

 

 軽く手を開いたり閉じたり、動作に問題がないことを確認し、カタパルトに脚を乗せようとしたとき、それは起こった。

 

「……ッ!?」

 

 極度の脱力感が襲いかかり、まだ機能している五感が曖昧になっていく。

 ハイパーセンサーで見える視界はボヤけ、狭まり。

 ピットの出口から聴こえる音は、それが不特定多数の観客の声だと判断することもできない雑音に変わり。

 三半規管も正常に働かず、今の自分がどんな体勢であるかも分からない。

 

 咄嗟に右腕の装甲を解除し、手近な物、クロガネの装甲を殴りつけた。

 

「~~~~!」

 

 唯一正常に働いていたらしい痛覚がその痛みを神経から脳まで送り、消えそうになっていた意識を無理やり覚醒させた。

 

「~~~ッ!! なんだ、今のは……」

 

 痛みに悶えながらも、倒れていた身体を起こす。

 正直、これから直ぐに試合が行われるというのがキツくて仕方ないが、今は悩んでいる暇などない。

 原因はまたあとで探ればいい。

 

 少し重くなった体を引きずって、アリーナへと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「遅い! アンタ一体何やっ……て?」

 

 叱責とともにアリーナに現れた拓人を振り返ったアイリスは、その姿に違和感を覚えた。

 彼の専用機、クロガネは全体的に丸い形状をして、他のISに比べて横幅や縦幅が大きい。

 が、彼女の眼前に現れたISは普段と比べて、縦幅こそ一切変わっていないが、横幅が小さくなっている。

 それだけではない、クロガネの一番の特徴とも言うべき瞬間加速の心臓部、肩部装甲のバーニアが装甲ごと無くなっている。

 更に遠目からはほとんどわからないが腕部、脚部など一部の装甲が角張ったものになっていた。

 寮で同室の友人が呆れるほど拓人の動きや癖の研究に余念がなかったアイリスは、その変化をひと目で見抜いたのだが、だからといってどういう反応をすればいいのかまでは分からなかった。

 

「試合時間には遅れていないから別にいいだろ」

「あー、まあ、そうね」

 

 取り敢えず何も言わないことにしたらしい。

 生返事を返されたことに首を傾げ、まあいいかと横に流して拓人は正面の対戦相手二人にセンサーの焦点を合わせた。

 ラファールと打鉄にそれぞれ身を包んだ二人の少女は、全く同じ顔をしていた。

 それだけではない。

 ざっと見、身長、体型、髪型など、およそ個人を特定するのに必要な要素がすべて同じだ。

 そんな鏡写の少女たちの姿をたっぷりと眺めること五秒。

 

「……ドッペルゲンガー?」

『ぷっ、あははははははははは!!』

 

 全体通信で拓人は思わず呟いてしまったが、その発言を聞いて本物と偽物扱いされた当の本人たちは大笑いし始めた。

 反対に、アイリスは何故か顔を顰めた。

 

「え、何?」

『四宮くんが、まさかブルートンさんと同じ反応をするとは思わなかったよね、美里(みさと)!』

『そうだね。しかも私たちを見てから言葉を発するタイミングまでほとんど同じだったよ、美里(みり)!』

「…………マジで?」

『うん』

『一字一句同じ言葉を言ったよ』

「……………………」

 

 今この場が空中でなければ、拓人は地面に平伏して落ち込んでいたことだろう。

 生憎とそういう動作が出来る場でもないし、状況がそれを許してくれない。

 だから拓人は顔を顰めるだけに留めたが、もしもその顔が見られていればまた大笑いされただろう。

 アイリスと同じ顔をしている、と。

 

「それについてはもう横に置いておくとして、君たち双子?」

『そ。一卵性双生児の双子でーす』

『私が姉の美里(みさと)で!』

『私が妹の美里(みり)だよ!』

 

 ラファールに身を包んだ少女はミサトと名乗り、打鉄を纏った少女はミリと名乗った。

 どちらも妙にテンションが高く、第一印象から拓人は既に苦手意識が芽生え始めていた。

 

「何でこう僕の周りって両極端な人間ばかり集まるのかな……」

 

 愚痴をボソリと呟く拓人。

 初対面こそ表情の変化をあまり見せず、冷静沈着そのもの、その本性は他人をからかうことが好きな若干サドの楯無。

 天然おバカ、運動秀才という言葉に尽きる歌穂。

 基本的には常識人、しかし一度タガが外れると楯無にも止められない状態になる友美。

 無表情がデフォルト、拓人のマニアックな話にもついてこれるがどこかズレている幸貴。

 彼女たちもそうであるが、拓人の友人、ひいては一定以上の交友がある人物はなにかが普通から大きく外れている。

 

 しかし本人は気づいていないようだが、これは類は友を呼ぶ、という諺を体現しているだけである。

 

『四宮くんとブルートンさんが強いのは知ってるけどね』

『私たちは同時にすごく仲が悪いのも知っているんだよ』

『だからコンビネーションっていう一面だけで見るなら私たちの方が圧倒的に有利だし』

『どんなに個々の能力が高くても統率が取れなければ勝つことはできないよね』

『『つまり私たちが勝てる可能性もあるってことさ!』』

 

 ビシィ! と漫画であれば擬音表現が付きそうな勢いで二人を指差す凪原姉妹。

 まあその通りだよなぁ、とある種似た者同士のペアは心の中で双子の発言に一部賛同した。

 同時に片方は「斬り捨ててしまい」と、もう片方は「こんだけ元気があるなら死にはしないよな?」とどこからどう見ても危険な思考を脳内に展開させていた。

 

 

 

 

 ─5─

 

 

 

 ふざけあっている内に、試合開始五秒前を意味するカウントが表示された。

 アリーナ内のIS装着者四人は口をつぐみ、各々の得物を格納領域から取り出した。

 

 ミサトはラファールの基本装備の一つであるアサルトライフルを。

 

 ミリは打鉄の唯一とも言える武装の刀を。

 

 アイリスは片手に大盾、もう片方の手に剣とも槍とも言える近距離武装を。

 

 そして拓人は、

 

 

 

 

 

 右手に従来よりも小口径の五連装ガトリング、左手に八門の砲塔がついたロケット砲、右肩に大型の荷電粒子砲、左肩に大量の鋼球が詰まったコンテナ、腰に二丁のアサルトライフル、脚にミサイルが積み込まれたコンテナを、一気に展開した。

 

 

 

『……………………は?』

 

 

 その瞬間、選手、観客、来賓問わず、あまりの重装備っぷりに言葉を失いポカンとなった。

 当の本人のみが試合開始のブザーとともに全部の武装を構えた。

 

 

「まあ頑張って避けてくれ。避けないと死ぬかもしれないからな」

 

 無責任にそう言い放ってから、拓人は全武装ロックを解除し、トリガーを引いた(あくまで比喩表現であり、実際にトリガーを引いた武装はない)。

 

 

 回転する五つの銃身から弾丸を、毎秒数百発放つ右腕。

 速さだけで正確性に欠けるものの、その分を爆発範囲で補っている左腕。

 一撃放ってから次を放つまでにラグがあるが、それに相応しい威力を誇る右肩。

 広範囲に広がり、恐怖を煽る見た目で精神的にも相手を痛めつける左肩。

 補助兼攻撃の腰。

 相手を追尾し、しかも弾数は数十発ある脚。

 

 爆発音と射撃音にかき消され、悲鳴を上げることすら出来ずにそれらに一度に襲われた少女二人の心境は如何なものだっただろう。

 

 

 

 

 試合開始から十秒後。

 攻撃は止み、地に二つの影が落ちた。当然それはラファール・リヴァイヴと打鉄、凪原姉妹である。

 

 無言。

 ひたすら無言。

 観客席の同級生も、管制室の教師も、目の前のインパクトが原因で誰一人として開いた口が塞がらなくなっていた。

 

 そんな中、重爆撃の跡のようになったグラウンドを眺めつつ、惨場を作り上げた張本人は呟いた。

 

「……やべ、やりすぎたか?」

「やりすぎだこのバカ宮!!」

 

 黒いフルフェイスメットに、真正面から白いISのドロップキックが炸裂した。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 拓人が一回戦からクロガネのパッケージ【怒涛】でやらかした被害。二回戦、三回戦と試合が進むごとに拓人、アイリスの両名がやらかした真剣白刃取りや喧嘩については真面目に語るのも馬鹿らしいので割愛する。

 取り敢えず、二人が喧嘩するほど仲がいいという印象を他の生徒に植えつけ、試合は消化されていった。

 その結果、拓人とアイリス、歌穂と幸貴、そして楯無のペアとイタリアの国家代表候補生のペアの四組が準決勝に駒を進めた。

 

 四組の内、三組が専用機持ち、ないし国家代表候補生がいるタッグであるが、歌穂と幸貴の二人はそのどちらでないにもかかわらず、国家代表候補生がいるタッグを打ち破り準決勝まで来た。

 とんだ大番狂わせが起きるかもしれないと期待が高まる準決勝第一試合。

 

 四宮拓人&アイリス・ブルートンVS近藤歌穂&松本幸貴

 

 両者の激突は目前まで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「で、近藤の壁蹴りに対処するにはハイパーセンサーだけでアレを見ていればいいわけね」

「ああ。みんなあの動きに惑わされがちだけど、動き自体はそこまで速くないんだよ、アレは。だから頭を動かしたりするよりも早くハイパーセンサーで動きを追った方が、ずっと対処しやすい」

 

 ピット内で試合前のブリーフィングを行う拓人とアイリスは、まず最初に次の試合相手である歌穂と幸貴の特徴である空間蹴りと百発百中の銃撃への対抗手段を話し合っていた。

 とは言っても、拓人はこの五ヶ月のあいだに見慣れたその二つへの対処方法を既に考えており、それの確認と実行可能かを話している。

 

「歌穂の体力だって無限にあるわけじゃないし、捌いていれば、何時かはボロが出る。そこを一気に叩けばこっちのもんだ」

「後ろ向きとかで対処しろと?」

「お前なら出来るって信じてるからな」

「……まあね」

 

 ため息をつきながら、アイリスは拓人の出した難題を可能だと返事を返した。

 拓人に素直に褒められるのは慣れていないからか、少し恥ずかしそうである。

 

 拓人が歌穂の対処方法として提示したのは(拓人曰く)ごく単純で簡単な策であった。

 空間を蹴って三次元的に動く歌穂であるが、それはあくまでも目で追いかけて対処しづらいだけであり、ISのハイパーセンサーは360度全方位を見ることが可能なため、攻撃を防ぎ続けれればなんとかなる。

 普通の人間であれば反射的に首を動かして対処しようとするだろうし、攻撃を防ぎ続けるのは難しいことこの上ないが、拓人はその辺をアイリスならばどうにかできるだろうと丸投げしてしまった。

 丸投げされた少女もそれで何とかなると応えているあたり、この二人は本当に何だかんだで良いコンビである。

 

「それで、松本の方は?」

「幸貴は俺が火力で押し切る。それだけだ」

「……それでいいの?」

「彼女の攻撃は正確無比だけど、その分攻撃が薄い。だからクロガネの武装で攻め続ければ押し切れる」

 

 彼が押し切れると言うと同時に、インフォメーションボードに試合開始十分前の表示が出る。

 二人はそれを一瞥すると、自機の軽いチェック作業を始めた。

 その間、二人は相手を見ず、また喋ることもなかった。

 そして拓人よりちょっとだけ早くチェック作業を終えたアイリスはアルストロメリアを展開した。

 

「それじゃあ先に行ってるから。さっさと来なさいよ」

「ハイハイ」

 

 何度も繰り返せばこのやりとりも慣れたもの。

 勢いよくアリーナへと飛んでいったアイリスを見送り、チェックを終えた拓人も己のISを展開した。

 

「さて、僕も行きますっ!?」

 

 パッケージの【怒涛】を外し、通常形態の黒鎧を身に纏った拓人がいざ飛び立とうとした瞬間、一回戦の時と同じように身体中を脱力感が駆け巡り、残っている五感すべてが曖昧になった。

 否、一回戦と違うことが幾つかあった。

 それはは、手も足も、体が一切動かせないこと。

 そして、激痛が体中を駆け巡り、その呼吸を止めていることだった。

 拓人は立っていることもできずに地に倒れ伏し、軽度の酸欠状態に陥りながら、それでも必死に動こうと四肢に力を込めた。

 

(クソッ……まだ……試合は終わっていないのに…………)

 

 しかし、現実は非情。

 彼の努力も虚しく、意識の光は徐々に深い闇の中へと消えゆく。

 

『大丈夫だよ。私が全部、終わらせるから』

(え?)

 

 失われていく意識の中、拓人は声を聞いた。

 深い深い、闇を孕んだ少女の声を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして彼は消え、

 

 

 

 

 彼女が姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い、何やってんのよあの馬鹿は!?」

 

 何時まで経ってもアリーナに現れない自分のコンビに対して、うがー! とアイリスは今にも吠え出しそうな雰囲気を纏っていた。

 自分が先にピットから出て既に五分。

 対戦相手の幸貴と歌穂が現れてもなお、パートナーの少年はその姿を見せず、二、三度秘匿回線で呼びかけてみたが一切反応が無い。

 人よりも短気なアイリスがキレるには十分すぎる出来事であり、事実彼女はキレている。

 

「いやー、ちょっと落ち着こうよ、アイちゃん」

「うんうん」

「うっさい! ていうかアイちゃん呼ぶな!」

「えー、可愛いじゃん」

「諦めたほうがいいよ。歌穂には何を言っても無駄」

「あのねぇ……!」

 

 更に、天然を炸裂させた歌穂と合いの手(?)を入れる幸貴が彼女の苛立ちを助長させる。

 それでも彼女たちに八つ当たりしようとはしない辺りが彼女の良さであろう。

 

 そんなこんなが約三分続き、遂にアイリスのフラストレーションが限界まで達しようとしたその時。

 

「……………………」

 

 漸く、黒いISがピットとアリーナを繋ぐ出入口から飛翔した。

 そしてアイリスに一言も声を掛けずに初期位置で停止した。

 

「遅すぎる! 何やってたのよバカ宮!!」

「……………………」

 

 そんな所業をされて彼女が黙っていられるはずもなく、今にも掴みかからんばかりの剣幕で叫ぶ。

 が、黒いISは何も答えず、無言でその場に佇んでいた。

 ブチッ、とアイリスの中で何かが切れる音が鳴り、相方へ向けて突進しようとしたその時、

 

 

 ─5─

 

 

 空中に試合開始五秒前を表す文字が出て、アイリスはその動きを抑制せざるを得なくなった。

 

「チッ! 試合が終わったら覚えてなさいよ、タクト!」

「……………………」

 

 やはり何も答えないパートナーへの怒りを抑え、アイリスは槍剣と大盾を実体化させた。

 そうして対戦相手も武装を構える中、黒いISは何も動きを見せない。

 武器を取り出す素振りを見せず、それどころか何かをしようとする様子すらなかった。

 

 アイリスだけでなく、歌穂も幸貴もそれを不審がるが、問いただすだけの時間はなく、試合開始一秒前となり、

 

 

 

 そして、ブザーが鳴ると同時に瞬間加速を使い、アルストロメリアの背後へと一瞬で接近した黒鉄がシリンダーの様な物がついた大型の腕で、その白いボディを殴りつけた。

 殴ると同時にシリンダーが腕の中へと差し込まれ、発生した膨大な衝撃が無防備な白いISをアリーナの壁へと吹き飛ばした。

 

 空中できりもみ回転し、顔面から壁へと激突することはなかったものの、身体中を衝撃の余波が苛み、激痛からろくに呼吸すら出来ず、PICの制御すらまともに働かなくなった少女は地面へと墜ちた。

 

「……カ、ハッ…………」

 

 その一連の流れによって、視界がホワイトアウトしかけてもなお、彼女は持ち前の負けず嫌いの根性から目の前を見、

 

「…………ァ」

 

 そして自分の前に立つ黒い巨人が振り下ろす巨腕を防ごうと左腕の大盾を構えるのを最後に、その意識を閉じた。

 

 

 

 

 僅か十秒足らずで国家代表候補生一人を地に沈めた黒いISはゆっくりと浮かび上がり、その赤いデュアル・アイを打鉄とラファールを身に着けた少女二人に向けた。

 

「タ、タク?」

「……………………」

 

 同士討ち。

 すぐ目の前で起きたその事実は、少女を混乱させるのに十分すぎるものであり、親友がそんな事をしたと信じたくない歌穂は、困惑気味ながらも声をかけた。

 

「ね、ねえ、なにやってるの? アイちゃん、倒れちゃったよ?」

「……………………」

 

 その声に応えず、黒鉄はその目を再び壁に寄りかかりながら気を失う白いISを纏った少女に向けた。

 そして、シリンダーの付いた巨大な腕を量子化し、左右の手に二連装ガトリングを展開。その銃口をアイリスへと向けた。

 

「ッ! 止め(ガァン!)な、幸貴!?」

 

 止めてと叫ぼうとした歌穂の言葉を遮り、アサルトライフルを構えた小柄な少女が黒いISに発砲した。

 それ自体は何でもないことのように回避されたが、結果、黒鉄は標的をアイリスから二人へと変更した。

 

「違う、アレは、あんなのが拓人のはずない……!」

 

 戦慄き、怯えながらも、幸貴は真っ直ぐに黒鉄を見やる。

 幼馴染であり親友でもある少女の姿に覚悟を決めた歌穂も太刀を構えて黒鉄を睨みつけた。

 

 その一切を意に介さない黒い鎧は何の迷いもなく二人を攻撃し始めた。

 

 

 




彼にとっての地獄は現れました。
それでもいいという方は、次も彼の地獄にお付き合いください。
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