IS one years ago   作:工藤

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説明と次の状況への繋ぎ回。
なのでちょっと短め。
今更ながらとある人が絶賛キャラ崩壊中です。


感想・評価・批評・誤字脱字の報告がありましたら、よろしくお願いします。
それでは第十九話、どうぞ


壊乱る学園

 

 

 

 たった一人の男性IS操縦者の手によって起こされた、後にIS学園史上最悪の事件と呼ばれることになる事件から、二週間が経った。

 

 

 奇跡的に死者こそ出なかったものの教員、生徒、合わせて四十名以上──内半分以上が制圧部隊──が重軽傷を負い、アリーナ一つが半壊。

 兵器としてのインフィニット・ストラトスの側面を間近で強く見せつけられた一年生数名が退学。

 代表候補生数名が国に連れ戻され、学園長以下無事だった教員のほとんどが各国から寄せられる苦情の処理及び何処からか今回の事件を嗅ぎつけたマスコミの対応に追われた。

 

 結果、学園としての機能は大きく損なわれ、現在IS学園は休校状態となり、多くの生徒がマスコミ対策などから外出を禁じられていた(寮に残っている生徒たちに対して自習という形で簡易ながら勉学は行われているが)。

 

 

 そして、今回の全ての元凶とされている少年、四宮拓人は────

 

 

 

 

 

 

 

「……四宮くん、起きてるか? 秋田谷だ、入るぞ」

 

 扉をノックし、返事が返ってくる前に三年生の秋田谷司は寮の一室の扉を開いた。

 

 部屋の灯りは消え、脱ぎ散らかされた制服がベッドのそばに落ちているかと思えばシャワールームの出入口にはキチンと畳まれた衣類が置いてある。

 少々大きめの丸机、所謂卓袱台の上には中途半端に何かが書かれたまま放置されたノートが幾冊も重なり合っていた。

 

 ベッドの上ではこの部屋の主、四宮拓人が何を見るでもなく、何を聞くでもなく、何をするでもなく、ただ佇んでいた。

 

「四宮くん……」

「…………」

 

 秋田谷の呼びかけに何の反応も示さず少年は、否、少年の肉体は闇に包まれた虚空に視線を彷徨わせていた。だがそれは何かを見ているわけではない。彼の目に光はない。

 

 そこに、拓人の意思は存在していなかった。

 

「近藤くんも、松本くんも、ブルートンさんも怪我人とは思えないほど元気に同じ部屋で騒ぎまくっていたが、その甲斐あってか、近々三人が退院することが決まったよ」

「…………」

 

 幸い致命傷こそ無かったものの腕・脚の骨折、内蔵の損傷、頭部強打など軽くないダメージを受けた幸貴たちは入院を余儀なくされ、二週間あまりを病院の一室で過ごしてきた。

 が、幸貴とアイリスはともかくあの歌穂が大人しくしていられるはずもなく、一度だけ、秋田谷が部活の後輩である友美に誘われるがまま興味本位で病室を訪れた時は、まだ満足に動けないでいるアイリスのベッドに(足が骨折しているはずなのに)侵入して彼女の胸を揉みしだいていたぐらいだ(当然その直後に顔を真っ赤にしたアイリスにど突かれた)。

 

「相変わらず君の友人は元気そのもので、なんだかんだ言いながら入院生活を思い思いに過ごしていたよ」

「…………」

「それで、入院生活が終わったら何がしたいのか私は聞いてみたんだ」

「…………」

「そしたら性格の違う三人が三人とも私に言った言葉はなんだと思う?」

「…………」

「君に会いたい、だよ」

「…………」

 

 今の(ある意味)楽園的な生活が終わったら何がしたいのかという秋田谷の質問に、表情やその目的などは違えども、三人は拓人に会いたいと言った。

 しかも三人の目には怒りや憎しみなどはなく、ただ純粋に彼に会いたいと言っていた。

 

「なあ、誰も君を恨んでなどいないよ」

「…………」

「みんな、私も含めてみんな、君があんな暴挙をする人間ではないと信じているんだ」

「…………」

「……だから、帰ってきてくれよ」

「…………」

「なあ、四宮くん……!」

「…………」

 

 少し涙混じりに彼に語りかける秋田谷。

 しかし、拓人は何も返さない。そこに意思が無いから。

 

 と、その時、秋田谷の背後に人の気配が現れた。

 

「秋田谷先輩、明かりくらいつけた方がいいですよ」

「っ、更識くんか」

 

 俯いていた秋田谷は自分以外の来訪者が現れるやいなや目元を拭い、その少女に向き直った。

 スープを載せたトレイを手に部屋を訪れた水色の髪の後輩は二つ年上の先輩が泣いていたのを見ないふりをして、その先輩と、そしてベッドの上で相変わらず何もしない拓人へと視線をやった。

 

「拓人くんは……」

「相変わらずさ。何の反応も返ってこない」

「そう、ですか……」

 

 楯無は悲しげに拓人を見下ろし、知らず知らずのうちにトレイを握る手を強く握り締めた。

 

 

 黒鉄の暴走が終わったあと、拓人の心、精神は崩壊してしまった。

 アリーナで倒れているところを確保された拓人は一昼夜目を覚まさず、目を開いたと思ったら完全に物言わぬ人形(ひとがた)と化していた。

 

 何も見ず、何も聴かず、何も応えない。

 診断した医師は症状が回復するのかどうかすらも分からないと言われており、少しでも状態が良くなればと彼の下を訪れた少女たちは皆一様に何かを語りかけるが、帰ってくるのは無言ばかり。

 食事についても、無理にスープを飲ませることはできるものの、やはり自発的に何かを咀嚼はしない。

 

 未だ拓人が目覚める様子は、ない。

 

「なあ、更識くん。彼は、本当に目覚めるのか? いやそれ以上に、目覚めるのは本当に彼の為になるのか?」

「……何を言ってるんですか?」

「君なら予想できているはずだろう、今の彼を取り巻く環境を」

「それは……」

 

 秋田谷の指摘も、もっともだった。

 

 今回の事件の顛末。

 全ての元凶である拓人が精神崩壊状態になってしまっては今回の事件の動機などを訊けるわけもなく、回復の見込みもない彼から各国は早々に手を引いた、などということにはならなかった。

 

 ”我が国の最高の設備で彼を保護しよう”

 

 そう申し出る国が多数現れたのだ。

 

 当然だが、保護という言葉には監視・研究・専有という副音声が付いていた。

 彼の発見当初から、彼の身柄を確保したいと思っている国は多く、正直なところ日本の研究機関主導でデータ集めをしていたことを快く思っていない国が大半だった。

 故に今回の事件をこれ幸いと前述のとおり各国が確保に動き出した。

 

 しかしながら、今の彼を日本以外のどこかの国で保護(という名の専有)させるのは、文字通り彼が社会から姿を消すというのと同義。

 それを阻止するために日本政府は、彼の身柄をIS学園に預けた。

 各国が直接的に関与することができない治外法権の場所であるIS学園ならば、一時的にでしかないが彼へのあらゆるアクションを止められる。

 

 それだけではない。

 今回の事件を嗅ぎつけたマスコミというハイエナから彼を引き離すのも目的の一つとなっている。

 

 全て考えた末の苦肉の策であった。

 表向きは彼が回復するまでの療養。実際は今後の対処が決まるまで、あらゆる害から遠ざけ、隔離する為。

 結果として、IS学園にあらゆる機関から情報を寄越せと言われる始末。

 

 

 もしも今、拓人が回復してしまえば、それら全てが彼に襲いかかり、彼は無事では済まないだろう。

 

「彼が目覚めたくないのなら、何もせずにそっとしておくべきなんじゃないか。私は最近そんなことも考えているんだ」

「……ッ」

「まあこれは、あくまでも私一個人の考えに過ぎない。あまり深く考えすぎないほうがいいぞ」

「待ってください。本当に、そう思っているんですか?」

 

 楯無に背を向けた秋田谷の表情は伺えない。

 しかし、部屋のドアの前まで来てポツリと秋田谷が呟いた言葉が彼女の今の表情を如実に語っていた。

 

「私だって、目覚めて欲しいさ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつものように彼の部屋で彼に話しかけ、そして何の反応も返ってこない事に(分かっていても)落胆し、無理やり具無しスープ(友美を筆頭とした一年一組生徒作)を喉に流し込んで彼の部屋をあとにした。

 

 いつものように、なんて頭に付いてしまうが彼が、拓人くんが起こしたとされている暴走事件からまだ一ヶ月も経っていない。

 

「まだ二週間しか経っていないのに、ね……」

 

 私にトドメを刺そうとした彼が、いや黒鉄が突如機能停止してからまだ二週間ちょっとしか経っていない。

 にも拘らず、一ヶ月以上の時間が経ってしまったように錯覚してしまう自分がいる。

 理由は、考えるまでもない。

 

 IS学園に入学してから夏休みを除き、拓人くんと会わなかった日、喋らなかった日は殆ど無かった。

 隣の席だということや、彼のIS学園での最初の友人だということからか行動するときは殆ど一緒だった。

 なのにこの二週間、彼とは一度も喋ってない。

 拓人くんの部屋に行かない限り、彼と会うこともない。

 

 ただそれだけで、自分の心は暗い昏い、光のない世界を彷徨っているかのように狂いそうになった。

 

 怖かった。

 このまま、拓人くんと何も話せないままになってしまうのが。

 怖かった。

 この五ヶ月の何もかもが無に帰すかもしれないということが。

 怖かった。

 唯々、怖かった。

 

 

「あ、楯無さん」

 

 食器を返そうと食堂に向かう。

 食堂に着くと、沈んだ雰囲気の友美が声をかけてきた。周りには彼女と一緒にスープを作っていたクラスメート達もいる。

 

「拓人君の、様子は?」

「…………」

「そう、ですか……」

 

 私が無言で首を横に振ると、友美の顔に落胆の色が広がった。

 友美だけではない。その場に居た、一年一組生徒全員が、今回もダメだったと落胆している。

 

「……それじゃあ、明日の分、仕込んできます」

「あ、手伝うよ」

「私もー」

 

 が、落胆していても、彼女たちの目に諦めは浮かんでいない。

 いつか、きっと、拓人くんが目覚めると信じている。

 拓人くんが、たった半年にも満たない時間で作り上げた信頼関係のようなものが、目の前にあった。

 

 なんだかみんなが羨ましい。

 純粋に、純粋に拓人くんが目覚めるのを信じれるみんなが。

 

 なまじこの学園で彼と一番長く接してきた──と自分では思っている──ために、もし今拓人くんが目覚めてしまえば、さっき秋田谷先輩が言っていた拓人くんを取り巻く環境が襲いかかり、彼が社会的後ろ盾も、それらを乗り切れるだけの交渉術なども持ち合わせていないのは、(多分)誰よりもよく知っているために、彼がどんな形であれ殺されてしまうのは容易に想像できてしまう。

 

 認めたくないことだが、秋田谷先輩が言っていた通り、精神が崩壊している今が一番拓人くんにとって安全なのだ。

 

 彼は目覚めてはいけない。

 でもそれ以上に、彼が現在の状態から復帰する可能性はあまりにも低い。

 ……誰にも言っていない情報だけど、拓人くんを看た医師が言うには「彼は精神崩壊中の人間であっても発している意識の波が殆ど無い」のだそうだ。

 途中からあまりにも専門的な話へと説明が飛躍したので理解できたのはそこまでなのだが、それでも一つだけ解った事があった。

 彼がまともに喋れるレベルまで回復するのはまず不可能である、ということだ。

 

 この情報は【更識楯無】である自分を含め、限られたひと握りの人間しか知らない。

 当然、守秘義務が発生し、他者へと喋ることは許されない。

 もとより私はこのことをクラスメートや友人たちに話す気などない。話せるわけがない。

 

 このことを話すということは、彼女たちの希望を摘み取る事に他ならない。

 そんなこと、五ヶ月前ならいざ知らず、今の私に出来るわけがない。

 更識楯無ではない、少なからず彼の影響を受けてしまったただの■■に。

 

 でも、そんな彼はもう──

 

(……いけない)

 

 【更識】家当主としての御役目を果たしているときはその限りではないけども、こうしてただの学生をしているときは、事あるごとにマイナスなことを考えそうになってしまう。

 みんなも大きなショックを受けているというのに、自分だけがこんな状態になっているわけにはいかない。

 

 彼が居るのであれば、こんなことになってしまうこともないのに。

 彼さえ、居れば……。

 

 ……拓人くんの事で大きなショックを受けているのは、私も同じなのかもしれない。

 こんな自分らしくもないことを普通に考えてしまうんだもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャーン!

 

 大きな鉄製の物体が叩きつけられたような音が、調理場から食堂まで響き渡った。

 食堂に居た生徒たちはなんだなんだと野次馬根性丸出しで調理場まで向かった。

 

 楯無もマイナスの方向に進んでいた思考を一端切り替え、友美たちに何かあったのか? と心配しながら音の発生源へと向かった。

 

「な、何するんですか!?」

「五月蝿い! あんな男の食事なんて作らなくていいわよ!!」

 

 そこには、無残に散らばった食材と直前までお湯(或いは何かの出汁)が入っていたと思われる鍋が床に落ち、その中心で言い争う友美たちと見知らぬ女子生徒の姿があった。

 女子生徒は見るからに怒りによる興奮状態であり、相対している友美たちも女子生徒ほどではないが怒りをあらわにしている。

 

「大体なんで一組(アンタ達)はあんな奴の肩を持つのよ! アイツの所為で学園もみんなもボロボロにされて、今の有様なのよ!?」

「っ! そ、それは……」

 

 反論しようとして友美は言葉に詰まった。

 楯無、アイリス、歌穂、友美、幸貴、それに一組生徒や秋田谷たち料理クラブの部員たちなど、何かしらがあって拓人と縁の深い生徒・職員たちは、皆一様に拓人が自分の意志で今回の事件を起こしたとは思っていない。

 

 が、それはあくまで彼女たちが四宮拓人の為人を知っているからこそそう思えるだけであり、碌に交流のない大多数の生徒・職員からは恨みつらみを向けられている。

 

「そ、それでも、こんな事していいい理由はありません! 何か栄養のあるものを食べてもらわないと拓人君がもちませんよ!」

「うっさいわね、あんな人殺し紛いの男に食べさせるのは生ゴミで十分よ!!」

「……っ!」

 

 鋭く、短い音が調理場に響き渡った。

 

 女子生徒の物言いに怒りを抑えきれなくなった友美が、女子生徒の頬を平手打ちした。

 打たれた頬を手で押さえ暫し呆然とした少女はすぐに自分が何をされたのか理解し、今まで以上に顔を紅くして激昂し、友美に掴みかかった。

 

「何するのよ!?」

「さっきの発言を取り消してください!」

「なによ、本当のことじゃない!」

「拓人君は人殺しなんかじゃありません!」

「落ち着いて友美!」

「あやめもやめなさい!」

 

 掴み合いに発展した二人の間に一組の生徒と野次馬に居たあやめの友人が止めに入った。

 が、暴れる二人は思いのほか力が強く、結局騒ぎを聞きつけた織斑千冬が出張ってくることとなった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 寮の屋上から見上げる雲一つ無い夜空に輝く無数の星が、酷く虚ろに見えた。

 

「…………」

 

 あの日から毎夜訪れているこの場所に、二週間前の様に人影はない。

 自分以外の誰も居ない。

 

 独りだった。

 まるでこの夜に、自分だけが取り残されてしまったように。

 

「……拓人くん」

 

 もう一度この星空を見たい。

 彼が何の気なしに言った言葉に、私は軽い気持ちで「また見れる」と返してしまった。

 でも、此処に彼はいない。

 

 怖い。苦しい。辛い。

 でも、この感情(こころ)を訴えれる相手はいない。

 

 強くなければいけない。弱くてはならない。

 ■■という名を捨て、”楯無”と成った自分に与えられたたった一つの単純な、そして何よりも大きな枷。

 だから虚にも、簪ちゃんにも、誰にも弱い自分は見せられなくなってしまった。

 ずっとずっと、耐え続けてきた。

 

 

 でもただ一人、彼には、彼になら、その全てを曝け出してしまっても良いと思った。

 幻滅されるかもしれない。笑われるかもしれない。

 それでもいいと、思ってしまった。

 

「…………ッ」

 

 

 ……二週間前の事件は、私への罰だったのかもしれない。

 ほんの僅かでも、更識楯無ではなく、更識■■としての生を望んでしまった自分への天罰。

 ”更識楯無”になった最初の理由こそ妹に「凄いお姉ちゃんだ」と思われたいという幼稚なものだったが、今は楯無である自分を誇りに思っていた。そう、思っていた(・・)のだ。

 二週間前、此処で彼に全てを打ち明けようとしたその時までは。

 

 拓人くんがどんな境遇、どんな環境で生きてきたのかは断片的にしか知らない。

 でも彼は、自分が普通からかけ離れていると知ってもなお、普通の世界で生きる人間という立場だけは捨てていなかった。

 それを知った時、私の中に今までの自分からは考えられない感情が生まれた。

 

 疎ましかった、自分の立場が。

 疎ましかった、自分の名が。

 疎ましかった、私と彼とを隔てている”更識”というモノ全てが。

 

 

 ”更識”の長として働いているときはその感情を忘れられた。

 でも、一度(ひとたび)休んでしまうとその感情が溢れ出し、自分の中で何かが壊れようとしてしまう。

 

 どうすることも出来なかった。

 この場所で、誰にも知られず、誰とも関わらず、空を見上げる間しか想いは止まってくれなかった。

 

 たったの二週間前までは拓人くんとの絆は確かに在ったと思っていた。

 でももう、拓人くんとの絆は、何処にもない。

 夜毎この場所で彼のことを想い、空を見上げても、そこに在るのは何も写さない月の鏡だけだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一週間後、IS学園に彼の姿はなかった。

 

 




いかがでしたか?
よろしければ、次も彼の地獄にお付き合いください。
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