原作キャラが変なことを言ったり、変な行動を取ることについては原作一年前だからという寛大なお心でスルーしてください。
気にしてたらこの先の話は耐えられなくなります。
感想・評価・批評・誤字脱字の報告がありましたら、よろしくお願いします。
それでは第二話、どうぞ。
今更だけど、
「慣れって怖いよな」
「どしたの急に」
食堂で昼食を食べながら今の心境を呟いてみる。
入学してから早三日。相変わらず周りからの視線を感じるが、四六時中視線に晒されてたせいか初日のようにストレスを感じることはない。
「いや、この状況にも慣れたなと思って」
箸で視線を向けている人たちの方を指すと、歌穂たち(歌穂、友美、幸貴の三人。更識さんも居るけど、彼女は特に何のリアクションもしない)は渋い顔で納得したように頷いた。
初日の昼休み、歌穂、友美、幸貴の三人(歌穂からの”友人なんだから名前で呼べ!”とのご達しでこう呼んでいる)と昼食を摂ろうとしたら、食堂中から浴びせられる視線、視線、視線。
味のしない食事に殆ど会話のない食卓に周りからは色々な感情を孕んだ視線という気が休まるどころか、むしろガリガリと精神を削られていった昼休みだった。今思い出しても、アレはキツイ。
何故そんなに視線が集まったのか、その時はテンパっていたから分からなかったが、後から考えてみれば当然のことであった。
世界中から注目を集めている(嫌だなあ)男が、初日から女子を侍らせていた(ように見えたのだろう)ら注目を集めないわけがない(そのことに気づくなり三人に平謝りしたのはある意味良い思い出である)。
閉鎖的であるが故に娯楽の少ないIS学園においては、僕やその周りの人間が話のタネにされるのは当然といえば当然のことであった。
今でも食堂の女子の半分くらいが僕らに視線を向けるけど、初日のことを考えれば随分マシになったほうなのだ。
「……こんな状況に慣れるのは嫌」
「だな」
「そうですね」
「うんうん」
ボソリと呟かれた幸貴の言葉に皆が同意する。
確かにこんな状況に慣れるのは嫌だ。
もうこの会話はやめようと、各々自分の前に置かれている料理に手を伸ばす。うん、美味い。
「ねえタク」
「何だ?」
「タクってどれ位強いの?」
昼食を食べ終わり、食後の緑茶を啜っていると、突然歌穂が聞いてきた。
なんでか目がキラキラと輝いている。まるで自分が知りたいことが今すぐにでも知ることができると思っている子供みたいだな。
って、この喩えは分かりづらいか。
「急にどうした? そして何が?」
「ただの興味。IS。で、どれ位?」
とてもシンプルな回答ありがとうございます。あと、彼女の言っているタクとは僕のことだ(拓人→タクト→タク)。
目をキラキラさせながら聞かれてもな。どれ位強いか、か。
うーん、
「分からん」
「へ?」
「いやなあ、二ヶ月前にISが使えるってことが分かって、その後はほぼ家に監禁状態。一ヵ月ぐらい経ったらどこぞの科学者に拉致られて、ひたすらISの訓練(?)をさせられて。身近に比べる対象がいなかったんだよ。ハハハッ……」
いやー、あの頃は大変だった。
あらゆる国家機関からの強引な誘いを(過去に自分で作った対人用非殺傷トラップを使いながら)必死に断っていたら、いきなり黒服の人間が現れて「君を保護する」とか言い出して変な所に連れて行かれそうになるし。
「あ、表情が沈み始めた」
「どうしたのかな?」
「…………?」
必死に交渉して家に残れることになったら、今度は「家から出るな」とか言って黒服の男たちが玄関を溶接し始めるし。
「今度は遠い目になったよ」
「何か思い出しているのかな?」
「絶対に碌でもない事だと思う」
監視の目を誤魔化して別の出口(二階の窓)から家を抜け出し、近所まで買い物に行ったら、包丁を持って目を血走しらせた女性が「死んでしまえ!! 私たちの世界を乱すゴミ虫!!!」とか言いながら襲いかかってくるし。
「乾いた笑いが出てるよ」
「だ、大丈夫かな?」
「拓人も苦労してきたみたい」
周りの人の協力もあって女性を捕まえたと思ったら、黒服の男たちに捕まり、更に徹底した密室に閉じ込められるし。
軽くノイローゼになりかけた頃に現れたよくわからない人(まあ博士だけど)に何時の間にか拉致されるし。
「あ、目が虚ろになった」
「ほ、本当に大丈夫かな?」
「ちょっとマズイかも」
その後は博士作の常任には理解不能な発明との(何故か其処にあった初期のクロガネを使っての)戦いの毎日だったし……。
思い返してみると碌な事がなかったな、あの二ヶ月。
ははは、鬱に成りそう……。
と、過去に耽っていないで、歌穂の質問に答えよう。
「まあそんなわけで、一般の生徒よりはISの操縦時間は長いけど俺の強さは謎。これで満足した?」
「あー、うん、ありがとう。それとタク、私たちは何があっても友達だからね」
「うん?」
「辛いことがあったら言ってください」
「はあ」
「相談に乗る」
「えっと、ありがとう?」
なぜだろうか。三人の僕を見る目が妙に温かい。こう「苦労しているんだね。大丈夫、私たちは分かっているから」的な視線を向けてくるんだけど、どう対応するべきなんだろうか?
結局、視線の意味を問いただしても三人は答えてくれず、唯々温かい視線を送ってくるのだった。
その後はダラーっと実りのない雑談をし、昼休み終了10分前になった頃、今の今まで殆ど喋らなかった更識さんが僕らに話し掛けてきた。
「ねえ四人とも」
自分から話を振ることがなかった彼女が話し掛けてきた所為か、なんだなんだと全員が彼女の方を向く。
「放課後、ISの訓練をしない?」
「へっ?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「そんなわけで此処に居るのだが」
「突然どうした、四宮」
いえいえ、三時間ほど前のことを思い出していただけです、織斑先生。
更識さんに誘われISの訓練をするためにアリーナに来た訳なのだが、今日は博士から例の物が届く日だった。なので、僕だけピットに来ている。
監督責任だとかなんだとかで織斑先生と山田先生(さっき連絡を受けて何処かに走っていった)も居る。
二人は相変わらずの黒スーツ(こっちは織斑先生。相変わらず似合いすぎて怖いです)と、違和感しかない大人物の服(山田先生。見た目が高校生並に若いせいで違和感バリバリ)を着て、対して僕は、ISスーツ(IS操縦の際に着るスーツ。対衝撃だとかISの操縦を容易にする為だとかの役目あり。僕はインナーシャツとスパッツのスーツで、女子はスクール水着のようなレオタードと膝上サポーター。ハッキリ言うと目の毒)という恐ろしく場違いな格好。うん、なんだか恥ずかしい。
「それにしても来ませんね」
羞恥心を押さえ込み、なんとなく独り言を言う。
例の物が届くのを待ち初めて早30分、未だに届く気配がない。
更識さんと三人は、既に訓練を始めているだろう。僕としても、早く訓練に参加したいのだが、件の荷物が届かない限り何も出来ない。
それに、
「…………」
(何か喋ってくれないかな)
織斑先生と二人きりで居るっていうのはスゴく心臓に悪い。
いやまあこの人は美人だよ? 美人だけれど、その印象を全て上書きする程の威圧感というか圧迫感というか「私不機嫌です」的なオーラを現在進行形で放っているんだよ? 怖すぎるよこの人。
あ、もしかしてその所為で今の今まで嫁の貰い手がないのかな?
「叩かれたいようだな、四宮」
「滅相もございません!」
先生が(何処からか取り出した)出席簿を構えたのを見るやいなや即土下座。
プライド? そんなものより命です。というか今のやり取り、初日もしなかったっけ? あとこの人、ナチュラルに僕の心を読んだよね? 怖いから聞かないけど。
早く届いてくれないかなぁ、荷物。
「四宮くん四宮くん四宮くん四宮くん!」
また回想(という名の現実逃避)をしようとしていたら、ピットの入口から名前を呼ばれた。そちらに目を向けると、息を切らした様子の山田先生が居た。
「どうしました山田先」
「荷物!」
僕の言葉を遮り、山田先生はそう叫んだ。
「えっと、山田」
「荷物が!」
「あの」
「荷物が外に!」
あの、山田先生、落ち着いてくれませんか?
何を言いたいのかわかりませんよ?
「落ち着け、山田君」
興奮状態の山田先生を見かねたのか、織斑先生が山田先生を落ち着かせようと声を掛けた。
山田先生はその言葉にハッとした表情になり、次の瞬間には顔を真っ赤に染めた。
「す、すいません。スー、ハー。スー、ハー」
二、三度深呼吸をして、山田先生は落ち着いて喋り出した。
「四宮くん、倉持技研から荷物が届きました。今外から搬入しています」
「……………………本当ですか!?」
「ひゃ!?」
先生の言葉を自分の中で咀嚼し終えなり、それが虚言ではないかを確認する。
「本当に届いたんですか!」
「は、はい。本当です」
「それでそれは今何処に!?」
「え、えっと……」
「何処に有るんですかですか!?」
スパーンッ!
嬉しさのあまり、矢継ぎ早に山田先生に質問していたら、頭頂部に強烈な衝撃と痛みが襲いかかってきた。
あー、うん、これはアレだ。織斑先生式出席簿スマッシュだ。
「落ち着け馬鹿者。山田先生、荷物は?」
「あ、もうすぐ搬入口から来るはずです」
痛みに悶えている僕は無視ですか、そうですか。って、このやり取りも初日に有ったような気が。
などと無駄なことを考えながら搬入口の方に目をやる。
少しずつ開かれていく搬入口から、ソレは、ゆっくりと姿を現した。
漆黒
他の何モノにも染まらず、他のモノを全て喰らい尽くしてしまう黒より昏い黒。
待機状態で鎮座するソレは、兵器よりも、ある種の芸術のように思えた。この世のどんなものよりも危険で、それ以上に美しい何かに。
僕は、頭の痛みなど忘れ、食い入るようにそのISを見つめていた。
「これが四宮くんの専用機、黒鉄(くろがね)です」
クロガネ、と脳がこのISの名前を認識した瞬間、世界から音が消えた。いや、世界の音が消えたのではなく、僕の認識する世界から音が消えただけだ、と頭の中で声が響いた気がするが、それすらも聞こえない。
消えたのは、音だけではない。
他者の匂いも、姿も、立っている床の感触も、五感で捉えるモノすべてが、世界から消えてしまった。にも拘らず、僕はクロガネの存在を捉えていた。
そのままフラフラと、僕は夢遊病患者の様な足取りでクロガネに近づき、抗い難い誘惑に駆られ、手を伸ばした。
──やっと、見つけた! 私の──
「……!」
伸ばした手がクロガネに触れた瞬間、声が聴こえた。
子供のような、大人のような、ソプラノのような、アルトのような、人のような、魔のような、言い表すことができない声が、聴こえた。
反射的にクロガネに触れていた手を引っ込めると同時に、世界が元に戻った。
「四宮くんどうかしましたか?」
背後から聞こえた声にハッとする。
僕は今、どんな状態になっていた?
五感が機能していなかったよな?
「あの、四宮くん?」
結構相当かなり危険な状態だったな、あははー、などと恐怖からくる乾いた笑いを心の中で浮かべて、表面上は普通の表情を作り、大丈夫ですと山田先生に返事をする。
そうですかとあっさり僕の言葉を信じてくれる教師に内心感謝する。隣で険しい表情をしている世界最強はスルーしよう。
この事を考えるのは、部屋に帰ってからにしよう。
「コレ、もう乗ってもいいんですよね?」
「はい、良いですよ」
とりあえず疑問も恐怖も横に投げ捨て、今はクロガネ(これ)に乗ろう。山田先生からGOサインも出たことだし。
鎮座しているクロガネに登り、背中を預けるようにその上に立つ。
すると、待機状態だったクロガネは、瞬く間に僕の体を黒い装甲で覆った。
「これは……」
珍しいものを見るような目で山田先生が僕(クロガネ)を見る。
全身装甲(フル・スキン)のIS。それが、クロガネの正体だった。
そもそも、シールドエネルギーを使い形成されているバリアーのおかげで操縦者が傷を負う事がないISに装甲などというものは必要であるのか?
答えは否。そんな物を付けても重りぐらいにしかならない。精々、人をISに固定する為の装甲が有ればいいのだ。
だからこそ、全身装甲のISなど片手の指ほどの数しか存在しなかった。
世界で唯一ISを使える男が、世界でも数えるほどしか存在しなかった全身装甲のISを使う、か。
……ハァ、いらない注目を集めそうだ。面倒なことに成りそう。
って、今更か。そもそもISを使える時点で面倒なことになっているんだし。
ま、夜になったら博士に文句でも言おうかな。
「四宮、調子はどうだ」
「良好です、先生」
シールドエネルギーはFull。
ハイパーセンサーは360度全方位を見渡せる。うん、ちゃんと機能しているな。
PICも異常なし。
簡易チェックの結果、全部問題なし。いつでも動かせるな。
「織斑先生、今日はデータを取らないんですよね?」
「ああ。データを取るのは来週からだ」
「よし!」
なら問題ないな。
イメージする。
ISの機能を使う上で重要なのはこのイメージだ。PICの力で浮遊するのも、量子化した武器を取り出すのも、全てイメージが重要なんだ。これがダメなら、全てが駄目になる。
イメージする。
博士の下でISを動かしていた時に形作ったイメージを、再び作り上げる。
スー、と目線が少し上がった。成功したみたいだ。
ゆっくりとピットからアリーナに向かって浮遊していく。
本当ならば、すぐにでも加速して飛んで行きたいが、こんな狭い場所でそんな行動を取ればどうなるか分かったものではない。操縦早々壁に激突は勘弁なのだ。
「それじゃあ先生方、俺は訓練があるので」
「はい、頑張ってくださいね、四宮くん!」
ハイパーセンサーで背後を見てみる。
山田先生はニコニコと笑い、手を振っている。
対して織斑先生は険しい表情で何かを考え込んでいる様子だ。
まあ僕如きが何か出来るわけではないし、放っておこう。
「行こう、クロガネ」
加速。
僕はピットから、アリーナに向かって飛び出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「スタート」
眼鏡の少女が呟くと、数十m離れた位置に複数のターゲットが浮かび上がる。
暗い緑色のIS──ラファール・リヴァイヴに身を包んだ青髪の少女はアサルトライフルを呼び出す(コール)。
そのまま腰だめに構えた銃から撃ち出された弾丸は、一つも外すことなくターゲットの中心点を撃ち抜いた。
「全部真ん中に当たった……」
呆然と、もう一つのラファール・リヴァイヴに乗っている黒髪ショートの少女は呟き、すぐさまソレを成し遂げた少女の下に近寄る。
「すごーい!」
「凄いです!」
「流石国家代表」
「そうでもないわよ、これ位」
三人の少女たちから口々に賞賛を浴びる少女──更識は本当になんでもない様子でそう返す。
事実彼女からすれば、止まっているターゲットを動かずに撃ち抜くのは造作もないことなのだ。
更識楯無はロシアのIS操縦者国家代表であり、同時に裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部「更識」の当主である。
国家代表とは、国家代表候補生という国家に選ばれた人間の中でも、特に強い人間だけが選ばれる特別な役職である。
国家代表自体は13~15歳の頃に選ばれるものだが、国家代表はそうはいかない。
国家代表候補生は複数名存在し、その年齢もバラバラ。当然経験を積んできた年上の方が強く、国家代表として選ばれることが当たり前だ。
その数多くの候補生に競り勝ち、弱冠15歳で代表に選ばれた彼女は、正しく天才と言えるだろう。
その天才、更識楯無が二ヶ月前に国家代表として課せられた仕事は、突如として現れたイレギュラー、四宮拓人の調査。
彼の発見当初は、どの国も我先に彼を手に入れようと他国への妨害と自国への勧誘を行い続けたために、何れの国も彼に関するデータを手に入れられなかった。
発見から一ヶ月経った頃には、謎の人物が彼を拉致監禁し、そのデータを独占してしまった。
どんな方法をもってしても”世界で唯一ISを扱える男”の情報が欲しかったロシアやアメリカなどの大国は、自国の国家代表候補生に、手段を問わず四宮拓人のデータを少しでも多く手に入れろと命令した。
他とは立場が違う楯無も、対象と同じ年齢であることなどを理由に、この命令を受けたのだ。
一方、「更識」は対暗部用暗部という名のとおり、世界の裏側で暗躍する者たちを調査、場合によっては殲滅する役目を持った特殊な家系なのである。
今現在、「更識」としての彼女が行なっている勤めは、四宮拓人の調査と護衛。
調査自体は代表としての仕事とほとんど同じなのだが、護衛は全く違う仕事だ。
四宮拓人という男がISを扱えると発覚し、世間が騒いでいた頃、彼は一人の女性に殺されそうになった。
彼を殺そうとした女性は、今の女尊男卑社会では典型的な女性社会絶対主義者であり、今の支配体勢を崩しかねない四宮拓人という存在を消そうと考えたのだ。
結局女性は彼本人の手で捕まえられたが、彼がこれから生きていく上でその時のようなことは何時でも起こりうる事だ。問題はそれを実行するのが、その時のように唯の女性かどうかだ。
対暗部用暗部とは言っているものの、多数のISを保持していると思われる「亡国企業」、ソ連KGBの残党たちが設立したと言われている「愛国会」など、「更識」がその実態を掴みきれていない裏組織は世界中に存在する。
何れの組織も、彼を消す、或いは手に入れようとする動きを見せているらしく、四宮拓人は、そういった組織を誘き出すための撒き餌なのだ。
彼女にとって幸いなことに拓人とは同級生で同クラス、しかも初日の彼のミスで友人関係を結べたため、どちらも容易い仕事であると彼女は考えている。
昼休み、楯無が拓人と歌穂たちを訓練に誘ったのは、何気ない会話(一ヶ月の間、誰か分からない人間の下でISの訓練をし続けた)を聞いて浮かんだ好奇心と、自身の仕事のため、彼の力がどれ位なのかを調べるため、そして彼を鍛えて、まだ見ぬ敵少しでも逃れられるようにするためだった。
生憎、件の少年は用事で少し遅れると言ってこの場に居らず、楯無は三人の先生役を請け負っている。
「それじゃあ今私がやったみたいにターゲットを撃ってもらうわ。最初は早く撃たなくていいから的に当てることだけ考えて。まずは」
近藤さんから、と楯無が喋ろうとした時、彼女のラファールのハイパーセンサーがアリーナに現れた別のISを捉えた。
厚い装甲で覆われ、ずんぐりとした印象を与える胴体。上腕部まで覆う肩部装甲。ロケットノズルのような形状の足とは思えない脚部。赤いデュアルアイの存在で辛うじて顔であると認識できる四角い頭部。
おおよそまともな思考から作られたとは思えない見た目のISであった。
学園が保有するIS、打鉄ともラファール・リヴァイヴとも違う黒のISは、暫しアリーナの入口で固まり、次の瞬間、楯無たちの方に飛んで来た。
勢い良くピットから飛び出したのは良いものの、肝心の更識さんたちが何処に居るのか分からないという事に気づき、すぐに停止。
ハイパーセンサーで周囲を探知。視界の端(ハイパーセンサーの視界は全方位360°なので端という表現はおかしいが)に四人の人影を発見。
とりあえず、更識さんたちの所に飛んでいく。彼女たちの下に到着し、その表情を見てみると、
「……」
「……」
「……」
「……」
全員がなんとも言えない表情をしていた。
具体的に言うと珍妙なものを見た人みたいな顔である。「え? 何コレ? IS?」みたいな表情である。誰一人として例外なくそんな表情をしている。思わず笑いそうになる光景だね。
「どうしたんだ皆。そんなアホ面晒して」
本音込みの疑問を固まっている彼女たちに問いかける。すると彼女たちはムッとした表情になった。まあ女性に対してアホ面は失礼だったか(男性でもか?)。
「あなた、四宮くん?」
更識さんのラファールから全体通信(オープンチャンネル)で通信が来た。
「ああ」
返事をすると更識さんと、同じくラファールに身を包んだ歌穂が無言で僕に近寄り、
ゴスッ!
何時の間にか呼び出したショットガンの銃身で頭を叩いてきた。
シールドで守られているうえ、クロガネの(無駄な)重装甲のおかげで痛みも衝撃もないが突然やられるのは心臓に悪いのでやめてほしい。突然でなくてもやめてほしいけど。
「何すんだよ」
「女の子に対してアホ面は無いわよ」
「そうだそうだ~!」
抗議したら、冷たい目をした更識さんといかにも怒っている様子の歌穂に反論された。二人の後ろで友美と幸貴もうんうんと頷いている。
流石にアホ面は言い過ぎたな、反省。
「ごめんなさい」
「ハァッ……。まあ良いわ」
素直に謝罪したら楯無さんに溜息をつかれた。三人も、まあいいか、といった表情をして頷く。なんだか傷つくなその反応。
「で、その微妙な表情の理由は?」
事の発端を聞いてみると、一転して彼女たちはなんとも言い難い表情に変わり、全員が目を逸らした。
え? そんなに言いにくいことなの!?
「オーイ、なんで目を逸らす」
「だって、ねぇ」
「ええ。これは、その」
はっきり言ってよ。気になるじゃないか!
「……だから」
相変わらず目を逸らしたまま、ボソリと幸貴が呟いたのをクロガネのセンサーが拾った。
「なんて言ったんだ幸貴?」
「そのISが不細工だから」
(不細工?)
無言でクロガネを見回してみる。
上半身の各部は、ゴツゴツと角ばった装甲に覆われ、ずんぐりとしている印象を与えてくる。
下半身は、腰周りの大して厚くない装甲に反比例するかの如く脚部の装甲が分厚く、恐ろしい程不格好である。
なんて言うか、前になにかの本で読んだゴーレム(土で作られた魔術人形のこと。額にエメトと刻むと動くらしい。空想上の産物である)みたいだ。
改めて見てみると確かに不細工だな、クロガネ。
「つまり、なんとも言えない見た目をしたISが突然現れ、しかも俺がそれを使っていたからどう反応すればいいか分からなかった、と。そういうわけか?」
分かりやすく(?)要約してみるとこういうことだろう、多分。
というか更識さんでもあんな表情をするんだな。
「ま、姿形については気にしないでくれ。それについては俺もなんとも言えん」
こればっかりは製作者の趣味やセンスに左右される。造る方は、乗る方のことなんて殆ど考えてはくれないのだ。
さて、下らないことを言ってないで仕切り直そう。
「訓練するんだろ。さっさと始めようぜ」
「それもそうね。四宮くんも来たことだし、復習を兼ねて今日の訓練を一からやりましょう」
元の出来る人状態(勝手に命名)になった更識さんが歌穂たちに指示を出す。
さてと、頑張るか!
って、これも初日に言った気がするな。
いかがでしたか?
よろしければ、次も彼の物語にお付き合いください。