IS one years ago   作:工藤

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やっぱり今回も彼女のキャラが壊れてます。
ついでにちょっとメタ発言があるかも……。
ご注意ください。


今年最後の投稿がこんな話ですいません。
こんな駄作者でも見捨てないでいてやろうという広い心の読者様は、また来年もよろしくお願いします。


感想・評価・批評・誤字脱字の報告がありましたら、よろしくお願いします。
それでは第二十話、どうぞ


邂逅 離別

 中学時代、数々の騒動・事件の中で僕は色々な人と関わりを持っていた。

 

 呪われた人形事件から始まり、数度も助けてもらったはぐれ陰陽師。

 怪文章の解読、オカルト知識の説明などでネットを通して話したとある外国人の少年。

 出処不明の大金+白い粉事件の時に色々やらかしたせいで、さん付けで呼び慕ってくるようになった極道(義賊)の方々。

 他にも警察関係者やら放浪の武道家やら、結構変わり種の人といつの間にか知り合いとなっていた。

 

 

 彼ら彼女らのおかげで、僕は数多の怪事件、大騒動を生き残ってきた。

 その中で僕らは世界に溢れている神秘や未知の一端を見てきたが、どうにもこうにも、人の闇というものには関わる機会が少なかった。

 その為過去の経験から色々なことに耐性が有る僕であるが、裏世界の生々しい話や事情には耐性など無いに等しかった。

 

 だからあの日、楯無が話そうとしていた彼女の出自を聞くのが怖かった。

 

 楯無に話した理由も嘘ではない。

 寧ろ理由の八割は彼女に語ったアレであった。

 

 でも残りの二割は間違いなく恐怖から来るものだった。

 

 自分が知らない世界への恐怖。

 その世界を彼女を通して知る恐怖。

 そして僕に裏世界(それ)を知らせた彼女を恐れてしまう事への恐怖。

 

 だから僕は、彼女に勝つことで覚悟を決めたかった。

 楯無の生きている世界に踏み込むこと、今まで避けていた何かを知る覚悟を。

 

 でも同時に、楯無のすぐそばにいる理由を欲していたのかもしれない。

 どんなカタチであっても彼女に勝って、対等な友人関係になりたかっただけなのかもしれない。

 

 人より少し不思議な体験と複雑な精神構造をしているだけの普通の人間である自分では、強くなければ彼女のそばにいることもできない。

 そう思っている部分も、確かにあったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇だった。

 何もない虚だった。

 存在しない無だった。

 

 視界が黒一色、だとか言う以前に”色”という概念が存在していなかった。

 自己という壱すら存在しない零の世界。

 全てが零に完結しているが故に、全てが有って、何も無い。

 

 異質であるが狂ってはいない。

 異常であるが壊れてはいない。

 

 

「────」

 

 四宮拓人の存在はその世界に在った。

 零の世界の中をただ一つの壱という存在となって漂っていた。

 自己の欺瞞と嘘を受け入れ、捨てた記憶と失くした感情を取り戻し、大切な存在を自らの手にかけ、意識がバラバラになった少年だったものが、黒の世界において唯一の白として存在していた。

 

 だが彼の白はあまりにも淡く儚く、今にも黒の世界に同一化して消えゆく様に見えた。

 

 

 

 そして其処に、白でも黒でもない場違いな色が一つ、落とされた。

 

 

 

 例えるならそれは、無色。

 

 全てと同一化出来るが、それ故独自性がない色。

 何にも成れるが、自分には決して成れない色。

 この世界に存在する何もかもに認識されているが、あまりにも当たり前の存在である為、無いものとして扱われる色。

 

 

 

 黒の世界に落ちたソレは侵食してくる”黒”を歯牙にもかけず、拓人を”黒”から引きずり上げ、彼諸共消えた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 ──君は誰?

 

 

 

 

 女の声が聞こえた。

 きっと同年代位の、一度聞けば簡単には忘れられないだろうソプラノボイス。

 

 相手は何処に居るのだろうと目を向けてみるが、何も見えない。

 そもそも目を開いていないのだとその時になって気がついた。

 

「…………」

「目、覚めた?」

 

 ボンヤリと晴れていく視界の先には、思ったとおり僕と同じくらいの年頃であろう少女が、すぐそばの椅子に座り、膝の上で本を広げていた。

 顔立ちは整っており、十分美少女と呼べるものであったが、彼女の纏うどこか陰鬱な雰囲気がそれを相殺し十人並の、早い話がどこにでもいそうなごく普通の少女に止めていた。何故かIS学園の制服に身を包んでいる。

 

「起きれる?」

 

 少女は立ち上がり、閉じた本を椅子の上に置いて僕に手を差し伸べながらそう言った。

 

 言われて、自分がベッドに寝ているのだと知った。

 自力で体を起こそうとするも上手く力が入らず、少々恥ずかしいが素直に少女の手を取って体を起こした。

 

「大丈夫?」

「ああ、うん……」

 

 実際は頭は妙にボーっとするし、体は思ったとおり動いてくれない。

 しかも今の状態になるまでの記憶が抜け落ちている。また気絶したのだろうか。

 全然大丈夫ではないのだが、初対面の人間に余計な心配をかけたくないという強がりでそう答えた。

 

 少女は僕の内面を知ってか知らずか、何も言わずに椅子に深く腰掛け、僕の目をジッと見つめた。

 

 ──何か質問は?

 

 相手が目で語りかけた、気がした。

 

「此処はどこだ? 君は一体……」

「此処は貴方の世界」

「僕の?」

「そう、貴方の世界。不確かで、曖昧な、貴方の居場所を写した空間。

 ほら、よく見て」

 

 言われて辺りを見回した。

 

 少々広めの白い無地の部屋の隅には、昔僕が作って、自分の部屋に放置したガラクタの山。

 反対側には、IS学園に持ち込んで、ノートや日記を入れている小さめの本棚。

 楯無たちと寮の自室で囲んだ机の周りには、中学時代の騒動などで手に入れた、或いは知り合った誰かに送られたヘンテコな物品の数々。

 机の上には、ポツンと一枚の写真が置かれている。

 

 ……なんと言うか、中学時代とIS学園での思い出が綺麗にごちゃ混ぜになっているな。あれ、言葉が矛盾してる?

 

「なんだこのカオス」

「そうね、何も知らない人間から見ても、この混沌とした状況はある意味すごいと思う」

「知っている人間からしても、ある意味すごいとしか言えないような……」

 

 和洋折衷、妙ちくりんな魔除けの御札やら魔道書という名の意味不明な日記やらどっかの財宝だという金貨やらただの木刀やら、完全に統一感ゼロだからな。

 

 って、そうじゃなくて、

 

「それで結局、此処はなに?」

「貴方の世──」

「それはもういい。そんな抽象的な表現じゃなくて、もっと直接的に教えてくれ!」

「…………ハァ」

 

 僕がさっさと教えろと促すと、顔に手を当てやれやれと言わんばかりに首を振る少女。

 何を考えているのかは分からないが、物凄く馬鹿にされているのはなんとなく分かる。

 

「端的に言うならISのコア内の世界。

 貴方が所有していたISの内部」

「クロガネの?」

 

 クロガネの内の世界というとアレだよなぁ?

 

 僕の記憶とかを読み取って構成された再現の世界。

 欠落した記憶があるために所々不完全になるっていうアレ、だよなぁ。

 にしては普段と情景というか、雰囲気というか、色々なものが違いすぎるような気が……。

 

 

「……貴方のISも、黒鉄なんだね」

「……貴方(・・)のISも?」

 

 少女が呟いた一言が耳にとまり、僕を彼女を見た。

 

 貴方のISもって、どういうことだ?

 まるで他にもクロガネ、ないし黒鉄と名付けられているISが存在して、それに乗る人がいるみたいな口ぶりだけど、同名のISは一機もないはずだ。

 

 僕の視線を受けながら少女は閉じていた本を再び開いて、ソレに目線を落とした。

 

「平行世界って、信じる?」

「うぇ?」

 

 突然の問いかけに思わず間の抜けた返事をしてしまった。

 何、突然?

 

「信じる?」

「あ、う、え、ま、まあ……」

 

 強い言葉に押し切られるように頷いてみせた。

 

 しかし少女は一切僕の方を見ようとせず、のんきに本のページを捲った。

 

「貴方の現実は、いえ、ISが存在する現実は、ある一つの地点から分岐した平行世界なの」

「は?」

「篠ノ之束、ISの開発者にして、無限の可能性を求めた人。彼女が生まれたその時から」

「あ、あのー?」

「彼女が生まれたその時から、ISが世界に放たれることは決まり、分岐が起きたの」

「あの、ちょっと?」

「……なに?」

 

 何度も話を遮ろうとしたことに気分を悪くしたのか、少女は僅かに不機嫌そうな顔で僕を見た。

 若干気圧されそうになるも、とりあえず主張した。

 

「すいません、話が見えません」

「……世界の分岐はまさに無限。発表直後にISが世界に受け入れられたこともあるし、逆に科学の闇へと葬られようとしたことすらあったわ」

 

 僕の主張に対して何も言わずに、どこか呆れた表情で少女は再び話し出した。

 いや、無視しないでよ。

 

「そして必ず、ある一つの転機が訪れるわ。何かわかる?」

「え!?」

 

 ISの大きな転機?

 え、えっと、新世代のISの登場でもないし、ヴァルキリーの誕生でもないし──。

 

 ……………………あ、

 

「男性操縦者の登場?」

「そう、発表から十年目(・・・)に発見される男性IS操縦者。それがISの大きな転機となるの」

「へ、十年目?」

 

 今年は発表されてから九年目、だよな?

 あれ、聞き間違えた?

 

「そして十年目に現れた十五歳の少年、織斑■■がISに乗れることが発覚する。それが大元の道筋」

「いや、え、ちょっと待って、十年目?」

 

 やっぱり聞き間違いじゃなかった。この子、十年目って言ったよ。

 いや、うん、彼女が言った誰かの名前がノイズで打ち消されていたのも気になるけど、十年目っていう単語の方が聞き逃せない。

 

「まだ今年で九年目だし、僕が一人目だぞ」

「そう、そこが分岐点なの」

 

 

 その後彼女が語ったのは、色んな意味で驚きの真実だった。

 

 

 

 

 博士が生まれた瞬間、そこが全ての始まり、つまり零地点。

 そこから分岐が始まり、博士に男の幼馴染が居たり、理解者が出来ていたりなど、小さなことからとんでもないことまで様々に分岐している。

 が、大概は織斑先生以外まともに話せる人間はいないらしい。

 

 そしてそこから更に時間は進み、十年目に織斑先生の弟がISを動かすというのがほとんどの場合らしい。

 ここがまた一つの分岐点となっている。仮にここを開始地点とする。

 開始地点の後に少年、或いは青年がISを動かす時もある。

 その人数が一人とは限らないし、織斑先生の弟(何故か発生するノイズの所為で名前が聞こえないので以後織斑弟)と何かしら関係がある場合もある。

 

 少女が言うには、クロガネ内の世界にそれらの世界に関する記録が残っていたらしく、彼女が読んでいた本がまさにそれらしい。

 一体誰がそんな事をしたんだろうか?

 僕以外に興味のないクロガネの人格がそんなことをするとは思えないし、干渉出来る存在なんて居る訳が……まさか”ぼく”か?。

 いや、今それは重要じゃない

 話を戻そう。

 

 織斑弟が普通の環境で育って、彼一人が中心となって事件が進む分岐世界が仮称B世界群。

 織斑弟が異常な環境で育ち、IS学園に入学する分岐世界が仮称H世界群。

 織斑弟含む複数の男子が中心となっている分岐世界が仮称A世界群。

 etcetc……

 

 そんな風に特定の条件で無数に分岐した世界があると少女は言った。

 

 そして僕の生きる現実、発表から九年目の時点で初の男性操縦者が表立っている世界もその一つであり、残っている記録によれば”織斑弟と全く関わり合いのない男が十年目より早くISを動かしてしまう分岐世界”仮称X世界群だ、とも。

 

 

 

 

「その無数の分岐の中には、僕の知るクロガネとは違う黒鉄も存在して、君はその世界の出身者だと、つまりはそういうこと?」

「そういうこと」

「はぁ~……」

 

 頭が痛くなってくるな……。

 

 不可思議なことにはある程度耐性があるし、俄かには信じ難いパラレルワールド論とかもある程度は信じているけど、どこのSF小説だよ。

 ……あ、いや、IS自体、結構SFだったな。そう考えれば今更か。

 

 ん、待てよ?

 

「ってことは君は、平行世界からクロガネのコア内部に意識だけを飛ばしているってことになるのか?」

「そうだとも言えるし、違うとも言えるかな」

「え、違うの?」

「……………………」

 

 僕の疑問に少女は答えず、どこか遠くを見る目をして、本を閉じた。

 そして、無表情という表情を作り上げて、僕を見た。

 

「この数多の世界の連なりが生まれた理由、貴方には想像できる?」

「連なりが生まれた、理由?」

 

 表情と声色から、ここからが彼女が一番話したいことなのだろうと予想がついた。

 自然と背筋が伸びてしまう。

 

 で、連なりが生まれた理由だっけ?

 全くわからないな、うん。

 

 

「簡単な話、望む人がいたからよ。この、ありえたかもしれない可能性たちを」

 

 僕が答えれないことに眉ひとつ動かさず、少女はなんでもないことのようにそう言った

 

 望む()がいた?

 ……なんだ、その言い方。

 それじゃあまるで、

 

「君の言う無数の平行世界は誰かの手で創られたものなのか?」

「恐らくは、という言葉が頭につくけど、そうよ」

「…………いやいやいやいやいやいやいや、流石にそれは有り得ないだろ!」

 

 平行世界が、ひいては僕らの世界が誰かの手で創られたなんて、信じられるわけがない。

 だってそれが本当だとしたら僕は、僕らは、

 

「誰かの、いえこの場合は神様、創造主とでも呼びましょうか。

 貴方や、私、ネモ、ユウキ、カナデ、アリス、セツナ、カイト、レイ。

 多くの人たちが、神様が鑑賞して楽しむ為に造られた人形。世界はその人形を配置するための箱庭、なのでしょうね」

 

 

 鑑賞して楽しむ為に造られた人形。

 その単語から、僕は昨日の夢を思い出した。

 

 まるで物語の登場人物のように動いている一人の少年と彼を取り巻く少女たち。

 自分の意志で動いていると思い込み、その実誰一人として自分の思うようには動けない操り人形のような彼ら彼女らは、見ていてとても気持ち悪かった。

 みな自分が、何者かの意思に操られた人形だとは気づいていないし、気づくことはできないだろう。

 

 でもそれは、僕だって同じだった。

 

 あの姿を気持ち悪いと思ったのは、自分もそういう存在だと、誰かの思惑で動かされている人間だと心の片隅で思ってしまったからだろうか。

 すべてが誰かに仕組まれている、その事実が気に入らなかったからだろうか。

 

 

「そして今、この世界の中心に居るのは貴方。

 差し詰め、四宮拓人という人間の物語を演じているところかしら」

 

 

 僕が、物語の中の人間?

 誰かの娯楽のために、十六年間を生きてきた!?

 

 

「……冗談じゃない、そんなことあってたまるかよ!

 だって、だってそれが本当なら、芽生や、父さんや母さんは、僕という人間を作る為に、演出するために死んだっていうのか!?」

「そうね。貴方の妹やご両親が死んだのは、今の貴方という人間を作り上げるための必要な事象だったのでしょうね」

「嘘だ、そんなの嘘だッ!!」

 

 少女の言う事実を否定しようと大声で叫んだ。

 その行動に意味がないとわかっていても、そうせずにはいられなかった。 

 

 少女はそんな僕の態度に少し目を伏せ、淡々と言葉を紡いだ。

 

「残酷かもしれないけど、真実よ。

 貴方の家族は、神様の道楽の為に殺された。貴方という人間の物語を作り上げようとする世界に殺されたの」

「じゃあ、じゃあ……」

 

 全部、僕の、所為?

 芽生が、父さんが、母さんが死んだのは、僕の、所為?

 

 あの炎獄が。

 崩れた家屋に潰される芽生が。

 何もかも、僕の所為?

 

 そんな、そんなこと……!

 

 

「あってたまるかーーー!!!」

 

 

 事実への拒絶が、少女への憤怒が、己への憎悪が、心を黒く蝕んだ。

 

 

 

 瞬間、

 

 僕の内からそれは溢れ出てきた。

 

 

 

 クロガネが、アイリスを、歌穂を、幸貴を、学校のみんなを、楯無を殺そうとしていた。

 

(ダメだ)

 

 発端は僕だった。

 

(駄目だ)

 

 僕がクロガネの人格を、■■を拒絶したからそれは起きた。

 

(ダメだダメだダメだ)

 

 色んなモノが壊れ、傷つく中で、捨てて逃げていた自分自身と向き合うことになった。

 

(駄目だ駄目だ駄目だ)

 

 そして、”ぼく”が消えた。

 

(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!)

 

 僕が捨てたいと思っていた記憶(モノ)、失くしたかった感情(モノ)が戻ってきた。

 

(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!)

 

 ■■を止めるために、楯無を助けるために、黒い少女の細くて冷たい首筋に手をかけ、そして──

 

(やめろぉぉぉーーーーーー!!!)

 

 

 そして僕は、砕けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーー!!!!!!」

 

 拓人は自分の身を両手で抱えて、悲鳴を上げた。

 もっとも、獣の叫び声ともとれるそれが悲鳴、という言葉を当てはめてよいのもかは分からないが。

 

「………ッ!」

 

 一時的に封じ込めていた記憶と感情の奔流によって精神を圧迫され、四宮拓人という人間の体にノイズが混ざり、輪郭が薄れ、目に見えてわかる崩壊を始めていた。

 崩壊はそれだけに留まらず、部屋に存在する拓人の思い出の品々が炎に包まれていた。

 

 この空間に存在するすべてのモノは精神、意識の塊。

 その存在を維持するのは、ソレがソレであるという誰かの認識。

 認識が、又は認識している意識が壊れれば、存在することを許されない。

 それは拓人や少女とて例外ではない。

 

 少女は拓人の記憶と感情の封印し負荷を抑え、一度はバラバラになって散逸した彼の精神を巨大なISのネットワークからサルベージしてつなぎ合わせ、自我を再構築した。

 

 そして今また記憶と感情を取り戻した彼は、闇に消えようとしていた。

 

「ごめんなさい、辛いのは分かる。苦しいのも分かる。

 でも……」

 

 だがしかし、少女はそれを良しとはしなかった。

 

 少女は慌てて拓人の(かたわ)らまで近寄り、彼を抱きしめた。

 ただそれだけのことで、薄くなっていた彼の存在が濃くなり、再び色を持ち始めた。

 

「でも、もう少しだけ、もう少しだけ私に付き合って」

 

 ギュッと強く、しかし彼への負担をかけないように少女は拓人を抱きしめる。

 

 いつの間にか、部屋をオレンジに照らす燃え盛る炎は消え、明かりのない白い部屋へと戻っていた。

 悲鳴が止まり、糸が切れたように脱力した拓人はそのまま少女にもたれ掛かった。

 

「…………」

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 とてもではないが何かを喋れる状態ではない虚ろな目の少年を、少女は悲痛な表情をもって抱きしめ続けた。

 そして謝り続けた。

 

 彼が話せるようになるまで。

 

 何度も、何時までも。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 明日、彼が、拓人くんがIS学園から日本某所の研究施設に護送される事が決まった。

 

 

 本人から事件の詳細を聞こうにも、未だ状態は回復せず、彼のIS<黒鉄>のデータを調査しても何も分からずじまい。

 IS学園の設備では流石に深い部分までは調べることができないが故に、専門の施設での取り調べが必要だという結論が出た。

 何より、いい加減IS学園に彼を匿い続けるというのも限界であり、マスコミや各国のお偉いがたの対応をしなければならない教師や、余程の事情がなければ外出すら許されない生徒たちのフラストレーションも臨界点に達しかけている。

 

 現状の事態すべての原因である人間を学園から排除することで、最低限学園の機能回復を図ろうという上の考えから、拓人くんは退学という扱いで此処を去る。

 

 

「よし、できた!」

「こんなんでどうですか、姉御!」

「どれどれ……うむ、上出来だ、お姉さんから花丸をあげよう」

「秋田谷先輩からお墨付き出ましたー」

「という訳で友美、ゴー!」

 

 空元気──なのかは定かではないが──を出している厨房のみんなは、この事を知る由もない。

 私が、私だけが知っている。

 

 

 正直、知りたくなんてなかった。

 

 知らないのであれば、まだ彼女たちの様に望みが持てた。

 また彼と話せる時が来ると、小さくても希望を抱いていられた。

 

 もう、希望はない。

 

 

「あ、楯無さん、一緒に拓人君の所に行きませんか?」

「今日は遠慮しておくわ。ちょっと考えたいことがあるの」

 

 何時ものように拓人くん用のスープを入れた器を載せたトレーを手に、食堂を出ようとした友美が拓人くんの下に行かないかと誘ってくるが、笑顔を作り上げてやんわりと断った。

 

 今会いに行ったら、感情を隠しておける自信がない。

 彼が居なくなる、誰にも知られてはいけない事実を、その悲しみを、隠し通せるとは到底思えないのだ。

 

「……楯無さん、何かありましたか?」

 

 完璧な笑顔を作ったはずなのだが、彼女は私に訝しむような目を向けてきた。

 

 流石にこの情報を言うことは出来ないので、嘘に嘘を重ねて誤魔化そうとごく自然体の振りをして答えた。

 

「いいえ、見ての通り何もないけど。突然どうしたの?」

「嘘です。今の楯無さん、何か大事なことを隠しているときの歌穂ちゃんと同じ目をしてます」

「そんなことは──」

「あります。これでも、五ヶ月も友達だったんですから、それぐらいは分かります」

「────」

 

 こう言ってはなんだが、歌穂と並んでこの手の能力に劣っていると思っていた親友が、こうもアッサリと私が何かを隠していると見抜いてしまったという事実に、思わず絶句してしまった。

 

 友人関係にあり、親しい交流があったとはいえ、目を見ただけで相手が嘘を言っているかどうかを見抜くなどという芸当は普通に出来るものではない。

 彼女とてIS学園に入学するだけの技能を持っているというだけのことなのかもしれないが、普段の姿──周りに振り回され、可愛いものに目がない普通の少女──を知っている私からすれば、正直驚きしかない。

 

「本当に大丈夫だから、ね?」

「…………」

 

 が、そんな内心を一切合切隠し、私は再び笑顔を浮かべた。

 

 友美は私の作り笑いを見て訝しげな目、いや、悲しげな目を向けてきた。

 

「大丈夫、なんですね」

「ええ」

「わかりました、それじゃあこれ以上は何も聞きません。でもこれだけは覚えててください。

 私は楯無さんの友達です。だから、辛いことがあったらお話を聞くぐらいは出来ます」

「そう。ありがとう、友美」

「いえ」

 

 それじゃあ行ってきます、と拓人くんの部屋へと向かう友美を作り笑顔で見送り、誰にも気づかれないように私は呟いた。

 

「全てを打ち明けられたら、どれだけ楽になるのかな」

 

 今の自分がどんな表情を浮かべているのか、想像するのは簡単だった。

 

 

 

 

 




いかがでしたか?
よろしければ、次も彼の地獄にお付き合いください。
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