IS one years ago   作:工藤

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話の続きよりも死の瞬間ばかりが脳裏に浮かんでは消えていく。
こんな私は病気なのでしょうか?


感想・評価・批評・誤字脱字の報告、その他諸々がありましたら、よろしくお願いします。
それでは第二十一話、どうぞ


あなたの名前は

 

 

 

 ──君にだけは伝えておくけど、ボクは今週一杯で転校するんだ。

 

 

 夏休み間近の二年生教室。

 明日から二日間の休日という曜日だからか誰も彼もがさっさと帰宅、又は部活動に勤しみ、他の生徒が一人も居ない夕陽に彩られた部屋の中で、ソイツ──(あきら)は突然僕にそう告げた。

 

 

 ──転校? こんな時期にか。

 ──親の都合でね。ボクに拒否権はないみたいなんだ。

 

 

 家族を失って叔父さん達に引き取られ別の町に移り住んだ僕と、移り住んだ町で知り合った晶の関係は所謂腐れ縁というやつであった。

 

 中学生時代からいろんな意味で濃い付き合いである大和屋たち三人が親友であるならば、小学生時代から学校で少し話すだけであり、大和屋たちと比べると非常に薄く細い縁が続いている晶との関係は、それ以外に表現のしようがなかった。

 

 

 ──酷い話だと思わないかい? あと一年半で卒業だっていうのにさ、この住み慣れた町を離れろって言うんだよ。

 

 

 赤の他人かと言われればそれ以上の関係であると言えるが、友人かと問われれば、首を傾げなければならない。

 小学生時代から同じクラス、苗字の所為で毎回隣の席という妙に長い縁を持つが、話す機会は一年の間でそう多い方ではなく、中学生になって、大和屋たちに絡まれた後から漸く世間話や相談をするようになった程度。

 そもそも晶は社交的な面が強く、僕以外と話していることのほうが多い。

 だから僕と晶は決して仲は悪くないが、取り立てて良いというわけでもない、そんな間柄。

 

 それなのにこんな重要な事を聞いて良いのか分からない。というか聞いちゃいけないような気がしないでもないが、とりあえずいつもと変わらない調子で喋り続けた。

 

 

 ──仕方ないんじゃないか? 俺らは所詮十三、四年しか生きてないガキなんだ。そんなのに出来ることなんてたかが知れてるだろ。

 ──ククッ、ガキ、ねぇ?

 ──む、なんだよ、その含みのある言い方は。

 ──君が此処二年で大和屋くんたちと何をしてきたのか、ボクが知らないと思ってるの?

 

 

 そうだった、と僕は顔をしかめてしまう。

 

 それまでの数々の騒動、七回に一回程度ではあるが、晶に相談して解決したきたのだ。

 勿論ヤバイ事情(薬物だとか怨霊だとか)はかなり伏せてたが、晶はどこからかその時に起きた事の情報を仕入れ、僕にその後どうなったのかを聞いてきた。当然話したことはないが。

 

 

 ──うっさい。大概俺たちの力だけじゃ解決しないことばかりだったんだよ。だから、何が出来て何が出来ないか、嫌でも思い知らされてきたんだ。

 ──……やっぱり大変な思いをしてきたんだね、君たちは。

 ──少なくとも唯の中学生がやらないようなことばかりだな。おかげで笑えるような縁がアチコチに出来ちまったよ。

 

 

 (あきら)の呆れた、ともすれば同情を多分に含んだ言葉に軽口混じりにそう返すと、晶は目線を窓の外に向けた。

 夕日の橙に染まる、どこか憂いを含んだその横顔は、手の届かない遠い世界を写した絵画のようで、かと思えばひどく身近にある現実味に満ち満ちた彫像のようで、

 

 

 ──縁、か。此処を離れれば、君との縁も切れてしまうのかな。

 ──…………。

 ──……拓人くん?

 

 

 思わず晶に見蕩れてしまった。

 

 名前を呼ばれ、ハッとして言葉を返そうとするが、すぐに相手が何を言ったのか聞いていなかったことに気づいた。

 

 

 ──もしかして、話聞いてなかった?

 ──いや、その、悪い……。

 ──まったくもう、何を考えていたのやら。

 

 

 君に見蕩れていましたなんて、とてもじゃないが言えない。

 

 

 ──ボクと君の長く続いた縁も今日で終わりなんだから、ボクと話すときはもう少し集中して欲しいな。

 ──悪かったって。そう怒るなよ。

 ──絶対反省してないよね、拓人くん。

 

 

 むー、と頬を膨らませたかと思えばため息をつき、篠宮(しのみや)晶は机に頬杖を着き、再び窓の外を見やる。

 

 

 ──というかさ、なんでそんな重要な話を俺にするんだ?

 

 

 先にも述べた通り、僕と晶はそこまで親密なわけではない。精々知人以上友人未満だ。

 そんな訳で一番の疑問となっている部分について問い掛けてみると、晶は僕にニッコリと笑顔を向けた。

 心なしか顔が赤いような……って、夕陽のせいか。

 

 

 ──君がボクどう思っているかはわからないけど、ボクは君を好ましく思っているし、信頼しているんだよ?

 ──あ、そ、そう……。

 

 

 相手が僕じゃなければ普通に勘違いされてもおかしくないような言葉だな。

 僕もその手の発言を割と真顔で言う(らしい)けど、晶もよく言うよな。

 言われている側としてはなんと言うか、嬉しいやら恥ずかしいやら。

 

 返答に窮している僕を見て、彼女は笑みを深くした。

 

 

 ──君はさ、ボクが居なくなると寂しい?

 ──な、なんだよ、突然……。

 ──答えて。

 ──……何時かは俺ら全員、バラバラになるんだし、それが早いか遅いかってだけだろ。だから正直に言えば、そこまで寂しくはない。

 ──……そう。

 

 

 どこか苦しそうに、寂しそうに、晶は笑った。

 何故そんな表情をするのだろうと、僕は首を傾げる。

 

 が、すぐに彼女はその笑みを消し、いたずらっぽい笑みを浮かべて僕の顔を覗き込んできた。

 初めて見る彼女の表情に、思わずドキっとしてしまった。

 

 

 ──ねえ拓人くん。

 ──なんだ?

 ──人と人とを繋ぐ、一番強く深いモノ。それはなんだと思う?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時彼女に訊かれた質問の答えを、僕は未だに見つけることができずにいる。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いだから、もうこれ以上思い出そうとしないで。このままじゃ、本当に貴方が壊れてしまう」

 

 9月8日にあの黒い少女が起こした事を思い出した。

 僕がどんな選択をして、どんな結末を迎えたのかも。

 

 

 

 直って壊れ、再び直された反動から碌に体を動かせず、ちょっとした衝撃で心が砕けそうになっている僕を、少女はずっと抱きしめている。

 彼女が僕に触れている、または抱きしめている間しか”僕”の崩壊を抑えられないのだろう。

 

 でも、なんで彼女はこうまでして僕を助けようとするのだろうか。

 

「君はなんで僕を助けようとするの? 何が、目的なの?」

「…………」

 

 少女は黙して答えない。

 ただ、抱きしめる力が少しだけ強くなり、互いに何も喋らなくなった。

 

 何を言えばいいのか、どんな言葉をかければいいのか、僕にはわからなかった。

 それはきっと、この子も同じなのだろう。

 どんな声で言えば、相手は分かってくれるのだろう。

 どんな言葉で表せば、相手に伝わるのだろう。

 

 

 相手の顔を直視することもできず、自分の息遣い、相手の息遣いも聞こえない。

 ただ自分のモノではない温もりだけが、僕以外の誰かが居るという事実を教えてくれた。

 

 この温もりを失いたくない。

 その思いから、他の部位よりちょっとだけ機能している右腕を動かし、少女を抱きしめ返した。

 

 少女は微動だにせず、僕の成すがままに抱きしめられた。

 

「わかった、君の目的は聞かない。でも、これだけは聞いていいかな?」

「……なに?」

「君は一体誰なんだ。いや、なんなんだ(・・・・・)

 

 大切な者を、あの子をこの手で■し、自分がバラバラに砕けていったのを僕は憶えている。

 広大なデータの墓場を漂い、そこで何か(・・)によって欠片となった自分が集められ、今此処に在るというのも何故だか解る。

 

 それを為したのが目の前の少女の形をしたナニカだというのも知っている。

 

 少なくとも、彼女は人ではない。

 何もかもが謎に包まれた少女について、それだけが僕に解る全てだった。

 

 

「……私は観測者。

 世の断りから外れた、神様たちに最も近く、そして那由多の彼方まで遠き場所にいるモノ」

 

 少女が語りだした己自身。

 それがキッカケとなってか、黒い少女と僕の間に起きたものと同じ共鳴現象が、彼女と僕に起きた。

 

 

 少女が口にしたのは、人の時間に換算すれば百年は下らないであろう時、己が身を縛りつけてきた役目(呪い)だった。

 

「私もかつては貴方と同じ人であり、父も母も兄もいた。

 貴方のISと同じ名を持つIS<黒鉄>を駆り、多くの戦いを切り抜けてきた」

 

 少女は懐かしい過去を語る、という口調ではなく、あくまでも事実確認をするための淡々とした、感情を排除した言葉を紡ぎ続ける。

 

 それと相反するように流れ込んでくるのは、暖かい日々の記憶とそれを懐かしむ郷愁の念にも似た感情。

 

「私は幾多の戦いの中でISと深く繋がり、貴方と同じようにコアの人格と出会った」

 

 視えたのは嘆き悲しむ女だった。

 女といっても僕や少女と変わらない十代後半の見た目と、それに相反する幼い雰囲気を纏った幼女とも少女とも思える女だった。

 

「そして私は、その子の持っていた想いに共感し、共振し、共鳴した」

 

 誰とも触れ合えない寂しさ。

 その存在を認識してもらえない悲しさ。

 生みの親にも、姉にも、妹たちにも理解されない苦しさ。

 

 異常を異常と認識できていない女は悲嘆にくれ、変質した

 

「私が何者か。どういう存在なのか。どういう現象なのか。もう、わかったよね?」

 

 共鳴現象が途切れた。

 もう僕には彼女の内は伝わってこない。

 でも彼女の言わんとしていること、知らせたかったことは伝わっている。

 

 だから告げた、少女の名を。

 

「うん、わかったよ、クロガネ。

 いや、雪白(・・)

 

 博士と僕以外誰も知らない、そして知ることもないだろう名を。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 短い連続した発砲音の後、一台のトレーラーを囲むように配置されていた、見た目は普通の車と変わらぬ黒塗りの特殊装甲車の一つが、瞬く間に穴だらけになり爆発した。

 爆発の衝撃で運転席に体を叩きつけられた運転手の男は僅かに呻き声を上げる。

 

「クッ、”雲雀(ひばり)”報告ッ!!」

『”(うぐいす)”がやられました! ”(つぐみ)”もこれ以上の走行は不可能です!』

 

 トレーラーは横から叩きつけられた爆風によって一時的にバランスを崩しそうになるも、男の腕が良いのかすぐに車体を持ち直し、男はすぐさま周辺車両に乗っている仲間たちに通信回線を繋ぎ、仲間の損害状況を確認した。

 そうして返ってくるのは、最悪とまではいかないが十分に悪い報告ばかり。

 

 目的地まではまだ距離がある。

 

 救援を呼ぼうにも、遠すぎて間に合いはしない。

 そもそも、今襲撃して来てる敵に、普通の武器などで対抗できはしない。

 

 護衛は、襲撃者によって一つずつ沈黙させられている。あれだけの力が有るのならば、一瞬にして護衛全てを消滅させられるのにもかかわらず、だ。

 襲撃者は自分よりも格下の存在を嬲って遊んでいるのだろう。

 

(クソッ……!)

 

 敵の狙いは分かっている。

 

 今自分たちが護送しているトレーラー後部に積んであるIS<黒鉄>と、その操縦者である世界で唯一人ISに乗れる少年、四宮拓人の身柄。

 使い方によっては世界を変え、壊すことすら出来る、あらゆる可能性を秘めた人間。

 それがどことも知れぬ組織の人間の狙いだろう。

 

 リーダーであるトレーラーの運転手”烏”は心の中で悪態をつき、己たちの頭上を飛び回っているソレ(・・)へと悪態を放った。

 

「ISめ……!」

 

 

 左後方の護衛車がエンジン部を撃ち抜かれ、爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 始まりのコアの片割れであるコアNo.001<白騎士>は、生まれた時点である種の完成系であった。

 白騎士の役目は主の剣と成り、求められるままに戦う力を与えること。

 IS操縦者という者の始祖、”彼女”の最初の担い手たる織斑千冬はその力を十二分に発揮した。

 

 他を圧倒しうる単純で純然たる力の結晶。

 それが<白騎士>に求められた在り方。

 

 

 

 対してコアNo.002<Snow White>、 日本では”白雪姫”と訳される名を持つコアNo.002に求められたのは無限の可能性。

 あらゆる在り方を知り、取り込み、肯定し、自らが選択した最も適した形へと変わる。

 それは剣であり、盾であり、力であり、護りであり、光であり、影であり、祝福であり、呪詛である。

 

 雪のように白く、何も知らない幼子のような存在。故に何にでも染まり変われる無限の可能性を秘めたモノ。

 それが<Snow White>の在り方だった。

 

 

 Snow Whiteとは現代日本では”白雪姫”と翻訳されているが、日本語版グリム童話初版ではその名を”雪白姫”とされている。

 だから僕はクロガネのコア人格を雪白と呼んでいる。(もっとも、その名を口にしたことはないし、名を書いた物は全て黒く塗りつぶしてしまっているが)

 

「雪白、Snow Whiteが君の名前なんだろ?」

「半分正解、ってとこかな。

 私はSnow White──貴方が言うところの雪白──であると同時に、この娘でもあるの」

 

 僕から離れ、自分の身体に手を当てながら少女はまるで他人事のようにそう言った。

 

「……どういうこと?」

「私は、嘆き悲しむ女となっていた雪白は、私という人間と同化したの」

 

 同化、と聞いて一瞬思考が停止しそうになるが、その時はたと共鳴現象中のことを思い出した。

 

 彼女の淡々と語る口調には一切の思い出がなかった。事務的に、ただ事実のみを語っていた。

 その実、流れ込んできた感情は、疑いようのないほど心に迫ってくるものがあった。

 心を隠すことが得意な人間は、口調や声から感情を排することが出来るらしいが、少女のソレはそんなものとは違う、まるっきり異質な何かであった。

 同化、一体化したと少女は語っていた。

 それが融合、融け合うという意味であったのであれば、それについて納得できる。

 

 

 あの記憶を唯の記録として喋っていたのは雪白で、記憶として何かを思っていたのは少女だった。

 ただそれだけのことで済む話だ。

 

「だから君は、僕を助けようとしたのか? <Snow White>の声を聞ける僕を……」

「いいえ、それは違うわ。貴方を助けようとしたのは、人である方の私」

「人である方の君?」

 

 僕を助けようとしたのが雪白だったのであれば、全てに説明がつくのだが、助けようとしたのが融合してしまった少女だったというのなら色々と疑問が残ってしまう。

 

「なんで、なんで僕を助けるの? 君には僕を助けようとする理由がないよね」

「理由、理由か……」

 

 僕の質問に答えず何かをブツブツと呟きながら、少女は部屋の隅に置かれたガラクタの山へと歩いて行った。

 その足取りはどこか覚束無い、危うさを感じさせるものだった。

 

「なんて言えば、いいのかな。

 一人で眺め続けるのに疲れたから、仲間が欲しかった。眺め続けているうちに情が移った。ただの気まぐれ。いや、でも、私は……ッ」

 

 突然少女はガラクタの山の傍で蹲り、床に手をついて荒い呼吸を繰り返し始めた。

 未だにベッドの上にいる僕からは表情その他諸々は一切見えないが、明らかに普通の状態ではないのが分かる。

 

 ガラクタの山から何かを取り出して僕の方を振り返った少女は、誰がどう見ても絶対大丈夫ではないと断言する顔色だった。

 だが少女は自分の状態をまるで意に介さず、まるでB級ホラーのゾンビのようにノロノロと立ち上がり、フラフラと幽鬼の如き足取りで僕のもとに近づいてくる。

 

「ちょっ、大丈夫!?」

「大、丈夫…………ちょっと、干渉されているだけだから」

「干渉? 何に!?」

「神様」

「はぁっ!?」

 

 端的にとんでもないことを言い放つ少女。

 しかし次の瞬間、少女はその言葉すら霞むような一言を僕に投げかけてきた。

 

「貴方の運命は、どんなに廻り巡っても”十八歳までに死ぬ”という結末に直結しているの」

「……え?」

「死の運命。私たちの神様が決めた絶対的な悪夢の終わり方」

「ま、待って、何の話?」

「これから貴方が選ばされる未来の話よ」

 

 ……死ぬのが、僕の運命?

 

 




いかがでしたか?
よろしければ、次も彼の地獄にお付き合いください。
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