おかげで三回も書き直して、こんなに時間がかかりました。
こんな駄作を待って下さった人が居るかは分かりませんが、すいませんでした。
感想・評価・批評・誤字脱字の報告、その他諸々がありましたら、よろしくお願いします。
それでは第二十三話、どうぞ
何処かの研究所らしき場所に向かって走る少年の姿を見て。
──エネルギーの刃を発生させた変形した片手剣を振りかぶる少年の姿を見て。
ああ、またか、と嘆息した。
──ああ、またか、と苦笑いした
長い、長い、夢を見ている。
──いつもの短い夢を見ている。
それが夢であると自覚している夢、明晰夢だとかルシッドドリームなどと呼ばれる夢だ。
──目が覚める直前まで、それが夢だと自覚できないごく一般的な種類の夢だ。
”俺”じゃない誰かの、死へと向かう、死ぬことが決まっている物語の、夢。
──”僕”じゃない誰かの、成功と失敗の繰り返し、そして大成功までの物語の、夢。
その時”僕”は何を思っていたのか、別の誰かから見たらどんな風に見えているのか、その物語の”僕”が知りえない事まで知ることができる、夢。
──その時”俺”は何を考えているのか、他人から見たらどんな風に見られているのか、その物語の”俺”が気づけないことまで知ることができる、夢。
すごく、気持ち悪かった。
──すごく、呆れてしまった。
彼が死ぬまでのほんのひと時でも、その後に待つであろう結末を想像させるには十分すぎる情報が、幾つも連なり見えてくる。聞こえてくる。感じれる。
──いやそれは違うだろ、と思わず指摘せずにはいられないほど見当ハズレもいいところな思考を展開する彼。そして、それに振り回される周りの少女たちの声が、聞こえてくる。感じれる。
どれだけ逃げようとしても、どこまでも夢が追いかけてくる。
──全て終わるまで、夢が覚めることはなく、また見るのをやめる気はない。
この”僕”が俺の知るあの人ではないと分かっていても、死ぬ姿を見続けるのは気分が悪くなる。
──この”俺”が僕の知る彼ではないと分かっていても、的はずれすぎる事を考える姿は呆れる以外に何もできない。
あまりの残酷な結末に、吐き気がした。
──あまりのアホさ加減に、頭痛がした。
そして思った。
──そして思った。
また、今日が始まる、と。
──また、今日が始まる、と。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「アーハッハッハッハァッ!!」
空。
あの始まり日のように雲海を見下ろすその場所で、僕は襲撃者と戦っていた。
おかげで、スペックを最大限発揮することは難しいが、最低限の戦闘起動を取ることはできる。
「ホラホラホラホラホラァ!!」
「……クッ!」
襲撃者は大型のククリナイフと鍔にレバーのようなものが付いたナイフを縦横無尽、矢鱈滅多ら胴体目掛けて振り回し、襲いかかってくる。
とりあえず当たればいいという考えが見え隠れする子供のような攻撃だが、如何せん手数が多く、しかも普通では考えられないような体勢から振るわれるナイフの軌道を読むのは難しく、正直言って鬱陶しい。
一方僕は、両手のアサルトライフルの銃身でなんとか斬撃を弾き、逸らし、防ぎながら僅かな攻撃の隙間に発砲している。
が、僕はそれが銃であろうと近接武器に分類される武装の扱いがド下手な上に、本調子ではない状態で普段は全くやらないようなことをやっている為か、銃弾の命中率は十発に一発当たればいい方という有様。しかも敵の攻撃全部を防ぎきれてはいない。
「イキなさいッ!」
相手の背後に浮かぶ筒型の非固定装備が腕の形に変形し、左右から殴りかかってくる。
質量も然ることながら、距離、飛来速度、今の自分の体勢諸々から考えて、防御も逸らすも弾くも出来そうにはない。
「──なろォッ!!」
であるならば、回避するしかない。瞬間加速で巨拳が当たる直前に後ろへと下がる。
当たる直前というタイミングだったために、拳が僕の動きを追えるはずもなく、さらに一瞬ではあるものの僕と相手の視界から互いの姿を隠し、距離を作る役割をしてくれたおかげで今までのような無理な体勢ではなく、常通りの構えを作る僅かな間ができた。
決して上手いとは言えない僕の射撃技術であっても、十m程度の距離で攻撃を外すはずがない。
後ろに下がりながら体勢を整え、両腕を突き出す形で僕は銃を構え、
【避けて!!】
「…………ッ!?」
視線の先の腕が右と左に消えるのを見届けるよりも早く、自分が銃を撃つよりも早く、頭部へと飛んでくる
咄嗟に右のライフルの銃身をソレと頭部の間に置いて防ぐことは出来たものの、その瞬間、敵に向けていた意識が完全に外れてしまった。
眼の前を覆ったライフルを退かした先に、ククリナイフを今まさに振り下ろさんとする敵の姿があった。
「ハハッ!」
IS学園での過酷な(拓人に言わせれば地獄そのものの)操縦訓練で無意識に刻み込まれた回避意識から、反射的に瞬間加速を実行した拓人は間一髪大型ナイフの一振りを喰らわずに済んだ。
しかし無意識の行動であったからか、次の行動を起こすのに一、二拍子の遅れが出てしまう。
ククリナイフを振り下ろした体勢から
スペツナズ・ナイフ、またはバリスティック・ナイフなどと呼ばれる人間の暗器をIS用に改造したソレから電磁加速で射出されたナイフの刃は、弾丸よりやや劣る速度ながら、短い間隔での瞬間加速使用で反応が鈍くなった拓人には回避しきれるものではなく。
一発目のナイフのように銃で防ぐことも出来ず、発生していたレッドゾーンの異常”一部防御機能の停止”によってエネルギーシールドが発生していない部位──スリットの左目部分を突き抜け、刃の先端が拓人の左目に突き立った。
「グッ、アァァァァァァァァァァァッ!!?」
実を言うと拓人の視覚は既に彼の肉体にその機能を残しておらず、今は繋がっている黒鉄のハイパーセンサーに依存している状態だ。
よって眼球という部位はただの飾りに等しいものとなっているのだが、未だに痛覚だけは残っているらしく、熱した鉄を押し付けられたような熱く焼け付く痛みに、瞬きの間、彼は叫び声を上げる以外の行動を取れなかった。
「ァァァ、うぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
それでも、瞬きが終わる時には痛みを押さえつけてライフル二丁を構えようと動けたのは、敵に勝って生きようとする、今までの拓人が持ち合わせていなかった意志のなせる技だろう。
だが全て遅かった。
今まで味わったことのない類の痛みは、それだけで彼の動きを大きく静止する役割を果たし、あらゆる意味で致命的な隙を作り上げていた。
「クヒッ!」
女のIS──<四手の悪魔>の腕の形に変形した非固定装備の片割れの中から、黒鉄やラファール・リヴァイヴのアサルトライフルなど可愛く思えてくるほど大口径の銃身がせり上がり、ナイフを消してマシンガンを両手に構えた女と共に黒鉄に狙いを付けた。
痛みに動じる事がなければ、間違いなく拓人の方が早かっただろう。
たった瞬き。
されど瞬き。
絶対に縮まらない差の前に、一方的に攻撃が始まった。
「堕ちなさい!!」
銃弾よりも大型の砲弾とも呼ぶべき巨大な弾丸が、ナイフの突きたったライフルを彼の手から弾き飛ばし、シールドが発生していない部位の装甲を砕いていく。
同時にサブマシンガンの銃弾が身体中、余すことなく降りかかり、元々半分を切っていたシールドエネルギーがみるみるうちに無くなっていく。
それだけでなく砕けた装甲の下、銃弾や装甲の破片が守るものが存在しない肉体を傷つけていき、大小様々で散発した痛みが拓人の精神を削り潰していき。
女がマシンガンの弾倉一つを撃ちきり攻撃を止める頃には、拓人は動く気力もなくなり意識朦朧状態に陥っていた。
「それじゃ、さよなら、坊や。それなりに楽しめたわよ」
辛うじて空中に浮いている黒鉄に、ダメ押しとばかりに一対の腕が踊りかかり、避ける気配もない黒鉄を殴りつけた。
呆気なく、黒いISは重力に従って空の上から姿を消した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
(すごく、眠いや………………)
見えるものは一枚ガラスを隔てたように妙な透明さと不透明さを兼ね備え、身体中が訴えてくる痛みは遠く、触れるモノは全てが有って無い。
感じれるのに何もかもが薄ぼやけている。まるで肉体と精神が切り離されたような。
いや、まるで、ではない。
僕の肉体と
【お兄ちゃん、お兄ちゃん!】
僕を呼ぶ少女の声が響く。
誰のものか、なんて考えるまでもない。
僕を兄と呼ぶ者なんて、黒の少女──雪白以外居やしない。
さっき敵の奇襲気味の攻撃を受けそうになった時も僕に警告したのはこの声だった。
名前も知らない
まあ、今となってはどうでもいいか。
【PIC……制御系…………ダメ、コッチから手出し出来ない…………!
起きてお兄ちゃん! このままじゃ地面に落ちちゃう!!】
必死になって呼びかける少女の言葉が何を意味するのか、何となく
眠い。
眠くて眠くて、今すぐ自分が感じている全てとの繋がりを落としてしまいたい。
そうすれば、この眠気に身を委ねてグッスリと眠れるのだろうか。
【ダメ、眠っちゃダメ! お兄ちゃん……!!】
嗚呼、うるさいな。
お願いだから、もう寝かせてよ。
(ん? 確か同じクラスの四宮、だっけ? 何してんだ?)
クロガネとのリンクを切った直後、大和屋の声が聞こえ、姿が見えた。
その姿は自分が知っているものよりも幼く、何故か中学時代の制服に身を包んでいる事に疑問を抱いて、すぐに納得のいく答えが出た。
──これが、走馬灯か。
(ふんぐるい、むんぐるいな~)
(ちょっ、なんか唱えてるで!?)
(止めろ、全力で阻止しろッ!!)
中学時代の嘘みたいな本当の出来事の記憶。あれらはトラウマものだった。
(君、中々面白い才能があるね。どうだい、私と武者修行の旅に)
(行きませんからね)
変じ……普通から色々と外れた人たちとの交流の記憶。あの人たち、元気にしてるかな?
(熱ーーいっ!!??)
(お、仕掛けといた罠に掛かったみたいだな)
(自業自得だな)
アホな騒動の記憶。本当にバカばっかだ。
(修理できましたよ)
(お、どれどれ……すごい、ちゃんと動いてる)
(当たり前ですよ、修理したんですから)
倉持技研での何気ない日々の記憶。僕の人生で一番お世話になった場所だった。
なんだか、な。
脳裏に浮かぶ記憶は、どれもあの日以降のことばかり。
幼い時の記憶が殆ど浮かんでこない。
あんなに、子供の頃の出来事に縛られ生きてきたのに。
苦しくて悲しい思い出は、どうしてだか一つも現れない。
浮かぶのは、笑い話で済ませている出来事の記憶ばかり。
(拓人のバカーーーー!!!!!)
(待ってーーーー!!!!!)
(……ほどほどにしろよー)
僕が原因で暴走した友美に追いかけられる幸貴を哀れみの目で見つめていたこと。これももう、見ることはないんだな。
(にゃー、分かんないー!)
(おまえ、よくIS学園に入学できたな……)
何時もの勉強会で歌穂に勉強を教えて呆れていた時のこと。何だかんだで楽しんでいたんだよな、コレ。
(運動系は左右に展開! 文化系は私に続けー!)
(だぁー、しつこーい!!)
第一回目の僕対女子生徒’Sの逃走劇のこと。楯無たちが参加していたら捕まってたかもしれない。
(私と勝負しなさい!)
(だが断る)
アイリスとのほぼ日常的掛け合いとなっていたやりとりのこと。結局、最初の試合以外一度も戦わなかったな。
(んふふ~、タークトくーん)
(……おい楯無、後ろから抱きつくな。当たってる、なんか当たってる)
(当ててんのよ♪)
数えるのも馬鹿らしくなる楯無のからかいの一幕のこと。彼女には、あらゆる意味で勝てなかったっけ。
僕にとって当たり前だった日常。
もう戻らない日々の、記憶。
この幸せな記憶をずっと抱いていられるなら、このまま眠るのも悪くないかもしれない。
戦っても、まともな勝負にすらならなかったんだ。
だからもう、寝よ、う。
嗚呼、眠い、な──
【……諦めるの?】
……………………………………?
【生き残るんでしょ、諦めないんでしょ!】
……あき、らめる?
…………僕の……一番嫌いな…………言葉だ。
【今ここで眠ったら諦めることになるじゃない! そんなの、そんなのお兄ちゃんらしくないよ!】
…………そうだ。
諦めるのは、どんな選択よりも容易いもの。
今ここで眠れば、もう二度と目を開けることはないだろう。
痛みに苦しむことも、喪失に悲しむこともないだろう。
でも、諦めたら何の希望も手に入れることは出来ない
何かを成す事は出来ない。
芽生を失った時だってそうだった。
助けることを諦めてその場に立ち往生して僕が得たものは、絶望と壊れた自分だった。
だから僕は、諦めるのが嫌になったんだ。
だから、諦めるって言葉を他人に言われると、
「ーーーーーーーッッ!!!」
全力で、抗いたくなる!!
自分という人間の内側から湧き上がった感情、一種の反骨心と言うべきものが没しようとしていた意識を強制的に覚醒させた。
無意識のうちに切断していたクロガネとのリンクを一斉に繋ぎ直し、精神と肉体の乖離を巻き戻した。
「…………ッ!!!」
今更思い出したように、身体のあちこちから痛みが押し寄せてくる。
が、目の前に迫ってきている森林地帯に比べると
慌ててPICによる速度調節と姿勢制御を行い、地面すれすれで停止した。
その際の軽い揺れすら全身の傷という傷に響き、痛みで意識が飛びそうになった。
頭がフラフラする。
今にも身体がバラバラに壊れてしまいそうだ。
こんな状態で戦うなんて、無理がある。
【お兄ちゃん、上!】
でもそんなのは今更だ。
この程度の事態は、今に始まったことじゃない、昔からずっとそうだったんだ。
893騒動のときも、怪奇現象のときも、宇宙的恐怖のときも、アイリスとの試合も、楯無に勝ちたいって願いも、あらゆる場面で無理と無茶と無謀を重ねてきたんだ。
だから今更だ。命懸けの状況だけど、何時も通りの自分で対処すればいいんだ。
楯無たちとの五ヶ月で作り上げた、自分の戦い方で。
というか僕はなんであんなに弱気になっていたんだろう。
意志が変な方向に持っていかれてたというか、改めて思うと色々とおかしかった。
……とんでもなく阿呆な何かの介入でも受けたのかもしれない。
具体的に言うと神様とか。うん、考えたくない。
【お兄ちゃん敵、敵が来てるから!?】
「……わかってるよ」
いつもの様にこんなことを考えていられるなってるあたり、なんだか余裕が戻ってきたみたいだ。
ぶっちゃけ肉体の痛みは退かない──むしろ強くなってる──し、油断すれば意識は飛びそうだし、下手すれば今すぐ死んでしまいそうだけど、
「勝つぞ、雪白」
【うん】
今なら、楯無にだって勝てるような気がする。
明らかに意識がない状態で落ちていった遊び相手が回収目標であることを、墜とした後になって思い出した女は「あー、メンドくさい。このまま帰ろうかしら」と半ば以上本気で考えた。
しかし、一応ギリギリ辛うじて存在する組織への忠誠心から、死体の確認ぐらいはして、可能ならそのまま持って帰ろうと雲海を抜け、遥か下、木々の乱立する森林地帯まで降りていった。
「お、見つけた」
光学探知から熱源探知に切り替えたセンサーで地表付近を探った女は、木々の間に隠れるように存在する他よりも温度の高い物体を見つけた。
それが黒鉄、ISのものであると判断するのに一秒とかからず、さっさと仕事を終わらせられると嬉々として女はその場所に飛んでいった。
そして森まで目と鼻の先という距離まで近づいた瞬間。
聞き慣れた銃声が耳をつき、ガトリングとライフルから吐き出された銃弾が木の葉を撃ち抜き、女を襲った。
「なっ!?」
拓人が墜ちた時の状態から完全に油断していた女は、予期せぬ攻撃による動揺ですぐに回避行動に移れず、広範囲にばら蒔かれた銃弾の網に自ら突っ込んでしまった。
幸いにして──拓人からすれば不幸にもと言うべきか──集中的にではなく広範囲に散射された銃弾の直撃は多くはなく、正確に狙いを付けられる前に女は動揺から回復し、アンロック・ユニットを盾にしながら回避行動をとった。
「チッ!」
木々の中に身を隠した拓人は五秒ほどそのまま銃撃を行うが、攻撃が当たらないと判ると二連装ガトリングを収納し、身を隠したまま木々の合間を縫って移動しながらライフル一丁で攻撃し始めた。
女は彼の攻撃の勢いが落ち、防御しなければならないほどではないと判断するや否や、アンロック・ユニットに内蔵された大型機関銃で移動する黒鉄を狙い撃ちながら追跡を開始した。
「……ッ! 鬱陶しいわね!」
葉っぱどころか枝や、時には木そのものを撃ち砕く弾丸の雨を、しかし黒いISはどういうわけか自分に直撃する弾だけ的確に回避し続け、逆に一発一発正確に当てていく。
機動、攻撃、先読み、全てが五分前の拓人とはまるで別人のものとなっている。
それは一方的だった戦いの流れが変わったことも意味していた。
今までのような自分主体の遊びから、拓人主体の戦闘に切り替わった状況に女は次第に苛立ちを募らせ、動きや照準に若干の乱れが出始めた。
女の戦いに僅かな僅かな、針の穴程度の綻びが生まれ、そこを見逃すまいと黒鉄は攻撃を強くする。
女はその事実に苛立ちを強くし、また少し乱れが生まれる。そして拓人はソコを突く。
その繰り返し。
此処に、負のスパイラルが完成した。
「こっ、のっ! クソガキがッッッ!!!」
追い詰めていたと思った状況から、まさかの逆襲によって募りに募った女の怒りはすぐに限界に達した。
攻撃していなかったもう片方のアンロック・ユニットから大型砲台が姿を現し、その砲口にエネルギーが集まる。
そして、臨界まで溜まったエネルギーは、巨大なレーザーとなって黒鉄が潜む位置周辺に向けて放たれた。
【お兄ちゃん、急いでこの場を離れて!】
「はぁ?」
【いいから早く! ジャマーも全力で起動!!】
「わ、分かった!」
戦闘再開から今まで、冷静に敵の攻撃着弾位置や機動予測、攻撃タイミングを僕に見せていた雪白が切羽詰った様子で僕に逃げろと言う。
何かただならぬことが起きるのだというのが嫌でも理解できた僕は、彼女の言うとおり対ISセンサー用ECMを発動させ、全力──勿論瞬時加速などは使わず──で今の位置から逃げた。
一秒後。もとい一瞬後、上空から落ちてきた光が背後の木々を飲み込んだ。
それだけでは飽き足らず、光柱は辺り一帯をなぎ払うように動き回り、飲み込んだ物体を一つ残らず消滅させていく。
とんでもなく高出力かつ高密度のエネルギーだというのは嫌でも分かる。ついでにこれが敵の攻撃だというのも分かる。
まあ、有り体に言って、
「ヤバイッ!!」
幸い敵のハイパーセンサーは無効化しているし、さらに上空から対象を視認しづらい森の中に潜んでいる僕を狙って攻撃できるわけがない。
というか狙えてないと願いたい。どっかの金髪バカ女みたいに地獄耳とか持ってないと信じたい。
だが願い虚しく、滅茶苦茶に動き回るレーザーは僕が逃げた先に向かってきた。
まともなエイミングもせずにただ撃ってるだけのレーザーは、どういうわけか逃げる僕を追尾し、真後ろまで迫っていた。
「ライフルがッ!?」
光が僕を飲み込もうとした直前、瞬間加速で回避したものの完全に避け切れたわけではなく、二丁目のアサルトライフルが半分飲み込まれ、融解してしまった。
それから二秒後、森の一帯を消滅させたであろうレーザーの照射は止んだ。
「不味いなぁ……」
あの高出力兵器のエネルギー消費量はおそらく馬鹿にならないほど多いだろう。
そんな武装をおよそ二十秒も発射していたのだから、少なくとも百や二百じゃ済まされない量のエネルギーが今の攻撃で消費された。
そんなことをするくらい、相手は頭に血が上っている。
つまり今はこれ以上ないチャンス。相手が冷静になって立て直す前にこっちから打って出れば、勝てる可能性はゼロじゃない。
ただしそれは、
「雪白、残りの武器と残弾は?」
【<タイフーン>二百二十三発、<サーペント>追尾弾十五とスモーク十、<オニビ>七本、<ヤシャ>、あとは……】
「……くそったれ」
武器があればの話だ。
雪白がIS学園で散々暴れた時、未知の武器を大量に使っていたが、それらは全てクロガネに収納されていた武器を改変したモノ。当然、弾薬なども元になった武器や他の武器を改変して造っていた
そして彼女が戦っていたISの数は三十にも及ぶ。
それを相手に戦っていたのだから──格納している武器の種類の関係上──無駄に多いクロガネの弾薬も大量に消費されるというもの。
まだアサルトライフルはそれなりに残弾があったのだが、格納されている二丁は両方共破壊されてしまった。
残りの遠距離武器で押し切れるとは到底思えず、また相手の残りシールドエネルギーがどれだけか正確に把握することは出来ない現状、近距離武器で博打に打って出るには敵のククリナイフや腕になって殴りかかってくるアンロック・ユニットの存在によって躊躇われる。
(クソ、クソクソクソ!)
近距離攻撃も一撃なら入れられるだろう策はある。
だが、一撃で今の相手を倒せるような武器はクロガネに搭載されていない。
かといって、遠距離攻撃では圧倒的に火力不足。
駄目だ、勝つためのピースが足りない。
あと一点、火力だけが不足している。
今の状態じゃ、何をしても勝つことが出来ない。
「どうすれば、どうすればいいんだ……!」
焦燥感と苛立ちが興奮状態の肉体の熱を急激に覚ましていく。
エンドルフィンの分泌が抑えていた痛みが身体を苛み始める。
蘇ってきた痛みはひどく、特に腕は指を動かすことすらままならない痛みが──
「……腕?」
【お兄ちゃん……?】
「雪白、アレは創れるか!?」
【え、アレ?】
「お前がIS学園でアイリスたちを倒すのに使ったあの武器だ!」
【……! ちょっと待って!】
数秒して雪白が返してきた言葉は創れるの一言だった。
まだだ。
まだ、希望はある。
方法さえ問わないのであれば、アレが有るのならば、相手を倒すことは出来る。
【何か思いついたの?】
「ああ。この策が上手くいけば、絶対に勝てる。
だから雪白、搭乗者保護機能を全部切れ」
エネルギー兵器による攻撃を終え、女が荒い息をつきながら興奮状態の心を落ち着けようとしていた、その時。
低い銃撃音が鳴り響き、森の中から黒鉄が姿を現した。
「甘いわよ!」
単調なガトリングの攻撃は当然のように浮遊する一対の腕に防がれ、間もなく残弾二百発の弾丸を撃ちきった。
間髪入れず女はライフルでの反撃を行いながら、黒鉄へと接近する。
(殺す! 殺してやる!!)
的ではなく、ある程度の反撃と抵抗をする遊び道具。
その程度にしか認識していなかった拓人に手こずらされ、あろうことか自身の奥の手中の奥の手を使っても倒せなかったという事実が女には屈辱以外の何でもなく、バイザーで隠れているものの、女の目は血走り、鎮めようとしていた心は憤怒で満たされていた。
(まずは一手……!)
もはや誰が制止しようと止まらないだろう女の精神状態は、その実拓人が想定していた通りであり、それ故ライフルでこちらを牽制しながら接近してくるという行動は先読みできるものであった。
ガトリング二丁を両腕から排除、ミサイルランチャー<サーペント>を両腕に装備し、追尾弾十発を発射。
慌てる素振りも見せず、女は飛来したミサイル全部を撃ち墜とした。
が、そんな結果を、行動に出た時点で予想しきっていた拓人は、爆発で発生した煙に紛れて自分から女に接近していた。
「舐めてるわけぇ!?」
ハイパーセンサーでそれを捉えていた女は、拓人の行動に怒りを顕にしながらククリナイフと一対の巨腕でそれを迎え撃とうと構えた。
そしておよそ1m弱、互いの近距離武器が届く範囲にまで近寄った拓人をククリナイフが襲う。
「やれ、雪白!」
【単一仕様能力、矛盾理解発動!】
拓人の右手に、2m超の大太刀<ヤシャ>と爆発式短刀<オニビ>七本を分解・再結合した、使い捨ての爆薬剣が出来上がる。
ククリナイフにぶつける様に振るわれたソレは、<黒鉄>と<四手の悪魔>の二機を巻き込む大爆発を発生させ、ナイフと黒鉄の右腕部装甲を吹き飛ばした。
「ァァァァァッ!?」
「ッッッッッ!!」
爆風の衝撃で吹き飛ぶ女。
右前腕部の装甲の大半を失い、焼け爛れた右腕を晒しながら痛みに悶え苦しむ拓人。
二人は一時的に怯むもののほぼ同時に持ち直し、女は腕に変形したアンロック・ユニットを撃ちだし、少年は瞬間加速で飛んでくる腕を回避して、さらに瞬間加速を行使し、頭から女に突進した。
「ガッ!?」
頭突きがモロに腹部へと直撃した女は仰け反り、続けて顔面に左拳を受けた。
女を殴り飛ばした拓人はすぐに女の横を通り過ぎ、瞬時加速を使って逃げていく。
女はしばらくの間殴られた頬を手で押さえ震えていたが、飛ばしたアンロック・ユニットが戻ってくると、瞬時加速を使って拓人を追いかけ始めた。
「この、クソガキャァァァァァァァァァァァァ!!!!」
鬼の形相を湛えて追いかけてくる女の姿を捉えながら、拓人は内心ほくそ笑んでいた。
思ったとおり、あの女はアイリス以上に短気で短絡的だ。
すぐにキレて無闇矢鱈と直線的な攻撃を仕掛けてくる。
しかも、激昂したら感情の制御を完璧に行えなくなるという短所もあるみたいだ。
さっきだって、あんなエネルギーを喰う武装を長時間発射したりしているぐらいだったし。
腕は確かなんだろうけど、アイリスや楯無と比べると、まだまだお粗末な操縦者ってことだ。
まあ僕だって人のことを言えた義理じゃないから、そのお粗末な部分を利用するしかないんだけど。
「雪白、準備はいいか?」
【何時でもいけるよ、お兄ちゃん】
背後から二本の腕が飛んでくるが、当たるより早く、僕は空へ向けて急上昇を始めた。
下から「逃がすかァァ!!」と女の怨嗟にまみれた声が響くも、僕はそれを一切合切無視して飛び続ける。
それよりも問題は、
「ぐっ、がぁぁぁ……」
【お兄ちゃん大丈夫!?】
「だい、じょう、ぶ、だ…………」
エンドルフィンの作用が弱まって、他の傷は普通に痛みを訴えているのに、外気に晒された右腕からは最早痛いという情報が入ってこない。
敵にすぐに追いつかれないよう、最高速度で逃げている為に発生するGは容赦なく僕を押しつぶし、また脳を揺らす。
体温が低下し、ただでさえ芳しくない体調が崩れていく。
今の僕には搭乗者保護機能、即ちGや攻撃、外気などから身を守るものが無い。
そういった些細なエネルギー消費すら致命的な事になりかねない現状、それ以外に手はないとはいえ、コレは、キツイ…………。
早く、終わらせないと……。
「待ぁぁぁぁてぇぇぇぇぇッッ!!!!」
「……ッ」
狙い通り、敵は僕の真後ろから追いかけてきている。
地表からの距離も十分に稼いだ。
後は、打ち込むだけだ……!
脚を空に、頭を大地に向くよう姿勢調整。
速度を殺さず、脚が接している空間を壁と認識して、歌穂の得意とした壁蹴りならぬ空間蹴りを行い、女へ向けて最高速度で突撃を敢行した。
「シネェェェェ!!!!!」
反転して向かってきた僕に、女はありったけの武器を撃ってくる。
僕は目の前に迫るそれを何でもないモノとして扱い、ただ直進した。
──ああ、これが最後の攻撃か。
装甲が吹き飛び、痛みが身体中を駆け巡り、何かを叫ぶ雪白の声が聞こえる。
──そういえば、みんなとの星見の約束、果たせてないな
両腕を覆うように、空気を圧縮・開放するためのシリンダーを取り付けた巨大な腕型武装が取り付けられる。
──楯無との賭けも、結局有耶無耶になった
シリンダーが限界まで引き絞られた。
──学園祭に招待するっていう大和屋たちとの約束も果たせなかった
右腕を振りかぶる。
──色々な人との再会の約束も、もう果たせないかもしれないな
レーザーが彼の右腕を飲み込み、肩から下を塵一つ残さず消滅させた。
──彼女との、楯無たちとの再会も、出来ないのかな
無くなった右腕を気にせず、左腕を相手の顔面に打ち込み、シリンダーを押し込んだ。
──……嫌だ、そんなのは、いやだ
吹き飛んだ相手を瞬時加速で追いかける。シリンダーを再び引き絞る。
──もう二度とあの声を、表情を、温かみを感じれないなんて、嫌だ……
追いつき、再び拳を顔面に打ち込む。加速と衝撃で発生した運動エネルギーで、敵は更に吹き飛ぶ。
「アァァァァァァァァァッッ!!!!」
瞬時加速と瞬間加速で敵に追いつき、三度目の攻撃を相手の顔面に入れた。
ISの絶対防御すら透過し、短時間で同じ箇所に蓄積したダメージは女の肉を、骨を砕き、頭蓋骨、延髄の急所二部を破壊した。
女は負けた。
二度目の衝撃の時点で殆ど意識を失っていたが、駄目押しとばかりに打ち込まれた三撃目で、完全に事切れた。
「……………………し」
拓人は勝った。
だが、肉体は無事な部分を探すのが困難なほど傷つき、身体を覆う黒鉄は七割が破壊されていた。
左目も刺し潰され、右腕は丸々無くなり、過度な衝撃を三度に渡って受け続けた左腕は、指先から肩まで骨が粉々に砕けていた。
辛うじて彼の意識を繋いでいた「敵を倒す」という目的を果たした今、意識を保つことすらままならず、呼びかけるコア人格の声すら聞こえない。
「…………て……し」
右腕の消滅痕は敵のエネルギー兵器に焼き潰されており、大量出血こそ起こしてないものの、戦闘で負った傷から既に血液を流しすぎていた。
脳に血が回らず、低酸素状態へと陥りかけている。
「……た…………………し」
エネルギーの切れたISが解除される。
地に着いた足は、一秒と保たずに身体を支える役目を放棄した。
「……た…………て………………し」
力なく倒れた少年の目は、白く染まって何も写さない。
少年の耳は、吹きすさぶ風の音も拾えない。
少年の鼻は、むせ返るような血と硝煙の匂いも嗅げない。
少年の舌は、口中に溢れた鉄の味も感じない。
少年の皮膚は、自分が何に触れているのか教えてくれない。
「………た…………て………………な…………………し」
──僕は……まだ…………生きた……………………
少女の名を呟いて、少年の意識は深い深い闇に落ちた。
次で彼の地獄は、物語は終わります。
よろしければ、次もまたお付き合いください。