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それでは第三話、どうぞ
訓練が開始され、まずは飛行訓練が行われた。
博士の下で一日約六時間×二十五日間飛んでいた僕にとっては、非常に単純で簡単な訓練だったが、友美が何度も壁に激突しそうになったり墜落しそうになったのが印象的だった。
次に射撃訓練をした。
計算しただけと本人は言っていたが、幸貴の命中率は異常に高かった。初心者が的の中心への命中率90%以上、的への命中率が100%とかないだろ普通。ついでに言うと、僕の的の中心への命中率は30%以下であった。
最後に行なった回避訓練では、歌穂に度肝を抜かれたな。
僕の中の、回避とはこういうものだろう、という固定概念がアッサリ破壊されてしまったよ。更識さんも歌穂のアホ機動にポカーンとしていたし。どうやったら空中を蹴って避けるなんてことができるんだよ。
歌穂本人は「なんとなく」でそれを行なったそうだ。彼女が色んな意味で凄い人間だとわかった時間であった。
そうして、とても二時間で行なったとは思えないほど(ある意味)密度の濃い訓練が終わり、
『準備はいいかしら、四宮くん』
僕は更識さんと戦うことになりました。
うん、ちょっと待て。
どうしてこうなったとか初心者が国家代表に勝てるわけないだろとか巫山戯んなとかよくよく見ると更識さんってスタイル良いんだなとか色々と言いたいことがあるがちょっと待て。
なんでこんな事になったのだろうか?
今までのことを少し整理してみよう。
まず僕が訓練中に、クロガネの一次移行が起きる気配がない→どうしてだろうと全員に相談する→みんなで考える→「戦闘でもすればすぐ起こるかも」と歌穂の謎発言が炸裂→何故か更識さんがその案に乗る→結果、今に至る。
うん、なんでこうなったのか、全くわからない。
残留する余分な情報を消去して機体の中を真っ白な状態にする
一次移行が起きない限り、クロガネは真の意味で僕の専用機ではない。だから、更識さんと戦って一次移行が起きるなら確かに万々歳である。
が、だからと言って彼女と戦いたいかと問われれば、答えは否、である。
国家代表の実力がどれくらいであるかは興味があるけど、こんな形で知ることになるのは勘弁して欲しい。
そもそも、戦闘をするだけでいいなら、歌穂でも幸貴でも良いはずなのに、何故更識さん? イキナリ国家代表と試合をするのはハードルが高すぎるだろ。こっちは仮にも初心者なんだぞ。
「頑張れー! タクー!」
「頑張ってください!」
「フレー、フレー、たーくーとー」
暢気に応援していないで今の状況をどうにかしてくれ。
なんてボヤいてみても状況が変わるはずもなし。現状を受け入れるしかない。
観客席で応援している三人に報いるためにも出来る限り頑張ってみよう。
「俺は準備できたぞ」
『そう。それじゃあ始めるわよ!』
彼女が言い終わるや否や、互いにアサルトライフルを呼び出し、相手に向かって発砲した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ワンサイド・ゲーム。
両者、或いは両チームの間に大きな力の差があり、試合が一方的に展開されること。
今この場で繰り広げられている戦いが正しくソレだ。
少年の操る鉄の巨人が、少女の駆る疾風の鎧に一撃放てば、少女の駆る疾風の鎧は少年の操る鉄の巨人に三度の衝撃を撃ち込む。
模擬戦開始から十分と経たず、黒鉄のシールドエネルギー残量は200を下回っていた。
対して、ラファール・リヴァイヴのシールドは、拓人の放った銃弾のまぐれ当りで削れた23という数値以外全くの無傷だった。
今の黒鉄とラファール・リヴァイヴの性能に大差はない。
互いに使う武器は銃のみ。
ならば何が、四宮拓人と更識楯無の間にこれほどの差を生んでいるのか?
答えは簡単。経験の差だ。
ISを使い始めて一ヶ月。
その殆どを回避訓練に費やした拓人は、確かに一般生徒と比べれば強いのだろう。
だがそれは、一般生徒と比べた場合だ。
国家代表という椅子を、数いる代表候補の中から勝ち取った楯無からすれば、彼は唯の弱者と遜色ない。
どのタイミングでアサルトライフルを撃つのか、どの方向に動くのか、実力の半分も出していないにもかかわらず、容易にそれ等が読めてしまう。
楯無の心の中にドロドロとした黒い感情が渦巻いていた。
(一ヶ月訓練を積んでいたといっても、所詮こんなものか)
彼は弱い。才能の欠片も見えないくらいに弱い。
訓練の時の動きはまだ良かった。
近藤さんや松本さんのように突出したものはなかったが、全体的に見れば誰よりもバランスが取れていた。僅か三日間、彼と友人として接してみたが頭の回転なども悪くはなかった。だから、少しだけ期待していた。
守る対象ではなく、共に戦ってくれる仲間に成ってくれるのではないかと。
だが蓋を開けてみたらどうだ。
訓練の時とはまるで別人のように動きは緩慢で、攻撃は隙だらけ。しかも時間が経つにつれ、それらは酷くなる一方。
世の中には実戦に強い人間と弱い人間がいるけど、彼は後者の類なのだろう。ハッキリ言うと最悪だ。彼がその道のプロと戦えば1分ともたずにやられてしまう。
結局、彼は守る側の人間ではなく、守れる側の人間でしかなかった。
ただそれだけの事実が、ひどく彼女の心を揺さぶり、暗い感情を生み出していた。
楯無は自分でも気づかないうちに唇を噛み締めて、アサルトライフルのトリガーを引いた。
相手がライフルを向けてくる。照準警報が鳴る。すぐに右へ動くが、被弾した。
「──ッ! こん、のぉっ!」
自分も両手で構えたアサルトライフルをフルオート射撃。全弾回避される。
(クソッ!)
さっきから止まることなく動き続けているが、それが無意味だと嘲笑うかのように更識さんの射撃は僕に当たり続ける。
腕が重い。
いや、腕だけではなく、体中が重い。まるで骨の代わりに鉛でも詰められているかのようだ。
当然だ。パワーアシストが殆ど機能していないのだから。
またアレが来た、と頭の隅で何かが囁く。
博士に拉致されていた期間中に何度も起こった現象、ISの反応速度やパワーアシストなどが徐々に低下、或いは停止していくという現象が。
訓練ではなく、戦いになると起きてしまうということしかわからない。
理由も、理屈も、何一つとして分からない。
ただ一つ分かることがあるとすれば、それが現在進行形で僕を苦しめているということだ。
右腕に抱えたアサルトライフルが徐々に重みを増していく。
相手の攻撃に反応できているのに、
現在使用可能な武装は、唯一アンロックされているアサルトライフル一丁。弾数は限られている。他の武装は全てロックが掛けられていて使用不可。
時間が経つほどに、肉体に疲労が蓄積して動きが鈍くなり、唯一の武装であるアサルトライフルの残弾は少なくなる。
現在の状況は最悪だ。何も打つ手がない。
相手がアサルトライフルを構える。
(う、ごけッ!)
どの位置に、どのタイミングで弾が飛んでくるか、博士のラボで行なった回避訓練のおかげでなんとなく分かる。
だけどクロガネは、僕の思い通りに動いてくれない。
更識さんが撃った三発のうち二発が命中する。
シールドエネルギーの残量は126。
(クソッ、クソクソクソクソッ!!)
「なんで、なんで動いてくれないんだ、クロガネ!」
『その程度?』
「ッ、更識!?」
更識さんから
音声のみに設定されている為、相手がどんな表情をしているかはわからない。それ以前に、試合中に通信が飛んできた理由がわからない。
「……何だよ」
『四宮くん、あなたは弱い』
彼女は冷めた声で容赦のない一言を僕に突きつけた。
『あなたからは才能の欠片も感じないわ。本当に一ヶ月間ISを動かしてきたの?』
相手の顔が見えないはずなのに、彼女がどんな顔をしているかが見えてしまう。
あの、侮蔑の視線。女が男を見下す際の蔑んだ顔。
抗いたい表情が、抗わなければいけない表情が、目の前に浮かび上がる。
そこで思考が一時的に停滞し、動きがを止めてしまった。
『これで終わりよ』
彼女が、国家代表の少女がそんな致命的な隙を見逃すはずがなかった。
更識さんのラファールがグレネードランチャーを呼び出し、僕に向けて構えた。
「ふざけるなッ……!」
その瞬間、先程までの暗い感情を打ち消すほどの激情が心の中を支配する。
こんな状態で終われない。まだ動ける。まだ戦える。まだ負けられない! 負けたくない!!
1秒後には撃ち出されるだろう榴弾を避けようと、必死に機体を動かした。
──エラー,エラー──
いや、動かそうとした。
突如視界をエラーメッセージが覆い、クロガネは動かなかった。
それどころか、次の瞬間には視界が黒く塗りつぶされ、身体が重力に引かれ始めた。PICも、ハイパーセンサーも、ISの全機能が停止してしまったのだと、すぐに気がついた。
(なッ!?)
何故、と考える間もなく、僕は爆風と衝撃に飲まれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
──来て
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」
走る、走る、走る。
──私の所に来て
「はぁ、はぁ、えっと……?」
何処からか、ぼくを読んでいる声を目指して走る。
──こっち、こっちだよ
「はぁ、はぁ、こっち、かな?」
周りには誰も居ないのに、なんで呼ばれているかも分からないのに、その声に何の疑いも抱かず、パジャマを着た七歳のぼくは走る。
「どこ! きみはどこにいるの!?」
草木も眠る丑三つ時。夜の住宅街に幼い声が響き渡る。
光もなく、人の気配すらしない道をぼくは走る。
──私は此処に居るよ
「こっちか!」
何処から届いているのか分からない声だけを頼りに走り続ける。
やがて、ぼくはある場所にたどり着いた。
そこは、見覚えがあり、そしてもう存在しないはずの公園だった。
錆びた鉄棒、歪んだジャングルジム、途中で途切れた滑り台。
記憶に残っている本物から大きくかけ離れた形状をした、歪で、壊れた遊具たち。
その遊具の中で、一人の少女が、俯いてブランコに座っていた。
「あのこ?」
七歳のぼくは、その少女が今までの声の主なのかな、と何も警戒せずに近づいていった。
キィ、キィと少女の漕ぐブランコの声が小さな公園に響く。
二十メートルほど近づくと、少女はぼくが近づいてきたことに気づいて顔を上げた。
ドクン!
少女の顔を見た瞬間、心臓が大きく鼓動した。
「嘘だ……」
低い、震えた声が口から零れた。
何時の間にか7歳のぼくは其処から居なくなり、ISスーツに身を包んだ一五歳の僕が此処に居た。
僕は、青ざめて二歩、三歩と後退りした。
「なんで……なんで、君が…………」
「力をあげる」
狼狽した僕の様子を気にかけることなく、黒いワンピースに身を包んだ少女は囁いた。小さく、儚く、だけど、ハッキリと耳に残り、気を抜けば吸い込まれてしまいそうな不思議な魔力を秘めた声だった。
「貴方を此処に呼んだのは力をあげる為なんだよ?」
「な、何を」
「まだ貴方は此処に来るべきじゃなかったけど、身体があんな状態じゃ仕方ないよね」
意味のわからないことを言って少女はブランコから降り、僕に近づいてくる。
ゆっくりと、ゆっくりと。
恐い。
恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな!!!
生存本能が、動物としての最も原始的な部分が、恐怖を訴えてくる。そして叫ぶ。
その少女から逃げろ、と。
絶対的な捕食者からすぐに離れろ、と。
なのに、僕は少女から逃げない。逃げられない。
足が動かない。
足だけでなく、身体中の筋肉が金縛りにあったかのように動こうとしない。
怖かった。逃げたかった。でも、逃げられなかった
僕の様子に、クスクスと黒い少女は笑う。
「そんなに怖がらなくていいよ。すぐに終わるから」
目の前まで来た少女は、ペタリと僕の剥き出しの腹部に手を当てた。
その手は、酷く冷たかった。
まるで────
「あッ、クッ!」
少女の触れている部分から、何かが流れ込んでくる。
熱くて、なのに冷たい。
あの時のような■■が。
「もう大丈夫。これで、身体は貴方のモノに成った」
「ハァッ、ハァッ、君は、いったい……」
流れ込んでくる何かが無くなると、クスリ、と少女は笑みを見せ、腹部に当てていた手を引いた。
「いつかは迎えに行くけど、今はそっちの世界に居させてあげるから」
少女は僕の言葉に答えず、謎の言葉を残して僕に背を向け離れていく。辺りは既に公園ではなく、無残に解体された遊具が放置された荒地になっていた。
少女に手を伸ばそうとして、そこで体が動かないことを思い出す。
「それじゃあ頑張ってあのISに勝ってね。バイバイ、お兄ちゃん」
僕が必死に体を動かそうと奮闘していると、少女は一度だけ振り返り、残酷で、悪魔を連想させる孤独な笑みを向けてそう言った。
必死に体を動かそうとしても、指一本、筋一つ動かなかった。
「ま、待て、待ってくれ!」
──
背を向けた少女に、僕の声は届かなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
背中を中心として響く鈍痛と共に、真っ暗な世界が僕を迎えた。
……………………………………………………………………………………さて、状況を整理しよう。
今は模擬戦中で、僕は全身装甲のISに身を包んでいる。更識さんのラファールが撃ったグレネードを、ほぼ真正面から受けて墜落。今は(恐らく)地面に仰向けに倒れている。そして視界が見えない。
そういえばハイパーセンサーが停止したんだっけ、というかグレネード直撃+空中(7~8mぐらいの高さ)から地面に堕ちて良く無事だったな僕、などと暢気に考える。
まあ僕が無事なのには当然理由がある。
そもそもグレネードは対人用の武装であり、対IS用に強化されていても、正面から装甲を破るだけの威力はない。
クロガネは(無駄に)重装甲であり、それが榴弾の爆風を防いでくれたのだ。流石に衝撃を殺しきることは出来なかったらしく、僕は気絶してしまったみたいだが。
地面に叩きつけられて何ともなかったのは、どうやらISのシールドのおかげらしい。
目の前の黒い空間に現れたシールドエネルギーの残量表示が93になっている。
絶妙というか、微妙というか、変なタイミングでシールドの機能が回復したらしい。おかげで肉体へのダメージは身体中が痛いと悲鳴を上げるだけに済んでいる。
尤も、空を飛ぶことは出来ないし、当たりを見ることもできないし、腕も上がらない。
シールド以外の機能は相変わらず停止中のようだ。
『四宮くん、大丈夫!?』
「更識?」
ISの展開も解除できないしどうしようか、と悩み始めた矢先、焦った様子の更識さんから通信が来た。どうも通信機能は生きていたみたいだ。
「そんなに慌ててどうした?」
『どうしたじゃないわよ!! 地面に真っ逆さまに落ちたと思ったら微動だにしないから心配したのよ!?』
できるだけ落ち着いて聞いてみたら、普段の彼女からは考えられない剣幕で怒られた。
「あ~悪い。ちょっと動けなくなってただけだ」
『全く。心配かけさせないで』
彼女の言葉からは結構心配していたことがうかがえた。
確かに、自分が撃ったグレネードが原因で友人(だよね?)が倒れたりしたら、そりゃ心配もするか。うん、当たり前当たり前。
『そういえば動けないって言ったけど、どういうことなの?』
「ISの機能が9割9分停止中。シールドと通信以外何も動いてない」
『……それ、大丈夫なの?』
「問題ない。これから元通りになるからな」
『……? どういうこと?』
更識さんが(多分)眉をひそめて聞いてくるが、答えない。僕は、目の前の真っ暗な空間に浮かび上がった一つの文章に興味の全てを奪われてしまったのだ。
──初期化と最適化が完了しました。一次移行を承認しますか?
Y/N
待ち望んでいた短い一文に、自然と口角が釣り上がるのがわかった。
「当然Yesだ」
──承認確認。一次移行開始
そう表示された瞬間、クロガネは量子になって弾け、再び僕の体に装着された。
同時に、頭の中に大量の情報が流れ込んで来た。
アンロックされた機能、機体の動かし方、装備。クロガネに関するありとあらゆる情報が、頭痛を感じるほどの勢いで脳に流れ込んでくる。
ハイパーセンサーが復活し、何も見えなかった視界に光が流れ込んでくる。
PICの力で体を起こし、そのまま空に浮かび上がる。
身体が軽い。
今なら、どんな事でも出来てしまいそうなほどに。
「一次移行、完了だ」
ようやく、クロガネは僕のISとなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
4月9日 木曜日
今日僕の下に専用機が届いた。
名前は「黒鉄(クロガネ)」。
名前のとおり全身が黒く、おまけに全身装甲という色々とインパクトが強いISだ。
十中八九、博士が造った(と言うよりか、改造した)ISなのだろうが、どういう訳か倉持技研名義で届いた。どんな手段を使ったのか凄く気になる。
やはり裏で色々と脅したのか? それとも別の手段でも使ったか? あの人ならどんな事でもやりそうだから怖いな。
これ以上の博士に対する個人的な感想は置いておこう。言い出したらキリがない。
今日の放課後はいつもの三人と一緒に、更識さんからISの訓練を受けた。僕は届いたばかりのクロガネで操縦訓練を行った。
友美は結構もたついていたが、歌穂と幸貴の二人はそれなりに操縦が上手かった。
特に、歌穂の行なったアホ機動(PICの応用で空中に足場のようなものを作り、それを蹴って跳ね回る)には僕も更識さんも開いた口がふさがらなかった。
本人曰く、なんとなくやったら出来た、だそうだ。なまじISの知識や操縦経験が有ったせいで思いつかなかったことを目の前でやられると、結構驚くものなんだな。
途中、2時間動かしたにもかかわらずクロガネが全く一次移行をしないことに僕が悩み、その場にいた4人と話し合った結果、何故か更識さんと模擬戦をすることになった。
模擬戦の結果だけを書くなら、最悪であった。
模擬戦中に例のアレが発生してまともに動けなくなるわ、ISの機能が9割9部9厘止まった状態でグレラン打ち込まれるわ、なんとか一次移行は行えたものの、クロガネの機能が何時止まるかも分からない、との更識さんのお言葉で模擬戦は中断されて決着をつけられないわ。
踏んだり蹴ったり、泣き面に蜂だ。
調査の為だ、とかで倉持技研にクロガネは送られちゃったし。
部屋に戻って一次移行の際に頭の中に入ってきた情報をまとめてみたけど、驚くほど課題が見つかり、しかも解決策が全く見いだせなかった。
これから先、実験だとかデータ取りだとかで必ずISでの戦闘を行うことになるんだろうけど、この機体でどう勝てばいいんだろう。
ハァ、世の中ってままならない。
そういえば、模擬戦の中で不思議な夢を見た。
途中までは、あの日のように7歳の僕が謎の声に導かれて公園に行く夢だった。
公園にいたのがあの人ではなく、芽生にそっくりな黒い少女だったこと、公園の遊具が所々おかしかったこと、僕が15歳の僕であったことがあの日との違いだった。これだけだったら、僕が見た質の悪い夢で済ませられたのだが、生憎とそんなものではないと思う。
人の見る夢は、大きく分けて二種類ある。
一つはその人の知識や願望が混ざり合い発生する夢。
もう一つは記憶や過去の体験をそのまま、或いは多少歪んで追体験する夢。
あの夢は後者なのだろうが、ただの夢と言い切るには不可解な点が一つある。芽生に似たあの少女だ。
芽生は僕を”お兄ちゃん”とは呼ばなかったし、あんな風にスラスラ喋ることは出来ない子だった。何よりも、周りの争いに敏感でよく泣いていた子なんだ。僕に”頑張ってあのISに勝って”などと言うはずもない。その事は誰よりも僕が一番知っている。
あの少女、黒芽生が僕の歪んだ願望の産物だとするなら、あんな言葉を言う筈がない。絶対にない。
以上のことから、黒芽生の正体は、歪みに歪んだ僕の願望が作り上げた幻想、または幽霊などの超常的なものだ。
結局、彼女は一体何者だったんだろう。
…………考えても仕方がない。
時間も遅いし、今日はもう寝よう。
今日のまとめ.世の中は謎だらけである。
いかがでしたか?
よろしければ、次も彼の物語にお付き合いください。