感想・評価・批評・誤字脱字の報告がありましたら、よろしくお願いします。
それでは第四話、どうぞ
IS学園に入学してから常々思うのだが、僕は騒動というものに愛されているのだろうか?
渡された専用機が機能停止したり、歌穂がうっかり僕が専用機を持っているとクラスの人間にばらした所為で質問攻めに遭ったり、是非うちの部活に! と多数の部活動が勧誘(という名の拉致)を決行してきたり、取材させてー! と新聞部に所属するクラスメートに追い回されたり、今まで事あるごとに面倒なことが起きてきた。
今回もその類なのだろうか?
5月下旬。
他の高校では特に行事もなく(所によっては中間テストがあるが)、IS学園では一学期最初のクラス対抗戦が行われる時期。
トーナメント形式の対抗戦に出るのは、それぞれのクラスから選出された代表一名のみ。
我が一年一組は、現役のロシア代表である更識楯無が選ばれた。正確には、選ばれるように僕がクラスメートを誘導した。
当初は大多数の人から僕が推薦されたのだが、クラス対抗戦で優勝した際のメリット(半年間学食のデザートが無料になるフリーパス)を話し、国家代表候補生がいるならばその人の方が優勝できる可能性が高いと皆を説き伏せ、その上でクラスに国家代表候補生が居ないかを聞いた。
その結果、楯無がクラス代表に任命された。
6月の学年トーナメントには僕たち一般生徒も出ることになっているが、一週間後に行われる5月の対抗戦で楯無以外の一年一組の生徒が試合をすることはありえない。絶対にない。
なのにどうして。
通達
一年四組 アイリス・ブルートン、一年一組 四宮拓人
上記の二名はクラス対抗戦終了後、試合を行うものとする。
尚、これは決定事項である。
こんな事になってしまったのだろうか。
「どうしてだろうな、楯無」
「拓人くんのデータを取るためじゃない?」
夕食も食べ終わり、僕たちいつものメンバーは社会科目の勉強会を催していた。
楯無が教師で、僕と歌穂が教えられる側、友美と幸貴は傍観者だ。
今は小休止中で、なんとなく今朝のHRで通達された決定事項を話のタネにしてみたら、予想していた通りの身も蓋もない言葉が返ってきた。
「だからってイキナリ”戦え”はないだろ。そこんとこ、どう思うよ、幸貴」
「恐らくは多数の国家が直前になって”四宮拓人の試合が見たい”と学園に言い出したから、教師たちは慌てて決めたんだと思う」
「あ、そっか。クラス対抗戦には色んな国の偉い人が来るもんね」
僕が使っていないベッド(本来寮の部屋は二人で一つ使う。僕はその内の一つを一人で使わせてもらっている。使ってない方は撤去していいか、先生たちと相談中)の上で、僕の私物である技術書セット(素人から玄人まで役に立つ全二十冊。なお英語表記)を読んでいた幸貴に問いかけると、友美も幸貴の言葉に納得した様子で頷いた。
「そうね。どの国も、拓人くんがどの程度の実力を持っているかというのに興味があるんでしょ。なにせ拓人くんは”世界で唯一ISを使える男”なんて肩書きを持っているものね」
「その所為でこんなものまで作られてるんだぜ? 当の本人からすればいい迷惑だよ」
「それは新聞部が発行している学生新聞、ですか?」
「そ。ほれ」
ベッドの上で首を傾げる友美に、すぐ近くに放ってあるモノクロ新聞(新聞部発行)を投げ渡す。
どれどれと皆がそれを覗き込む。そこに書かれている記事は以下のとおり。
『号外
”世界で唯一ISに乗れる男”、試合参加決定!!
なんと、一年一組に在籍する男子生徒、四宮拓人くんが、今度のクラス対抗戦終了後、試合をすることになった。聞き込みの結果、学園から試合を行うようにと通達されたようだ。
当初、一年一組のクラス代表は彼とは別の人間が務めていたため、彼の公式試合を観るのは6月まで待たなければならないと思っていたのだが、これは嬉しい誤算である。
四宮拓人くんと、対戦相手のアイリス・ブルートンさんについては、次号で特集を組む予定なので気になる人は次号をお楽しみに!
以下省略』
今朝、僕とブルートンに通達され、僕が喋ったのは此処にいる友人たちだけの筈なのに、夕食時にはこんなものまで作られていた。ブルートンも不用意に情報は漏らさないだろうし、何処から情報が漏れたんだろうか?
それに新聞部、頑張りすぎだろ……。
「ちょっとしたことが記事にされるような生活は勘弁だ。俺はもうちょっと普通の学生生活が送りたいよ」
「諦めなさい。そもそもこの場所(IS学園)に君が来た時点でその願望は叶わないと思うわよ」
新聞から顔を上げ、肩を竦めて楯無は笑った。その仕草が妙に様になっているから釣られて僕も笑う。
若干現実逃避の念も込めて。
「で、肝心の試合の勝算は有るの、拓人くん?」
ニヤリ、と擬音が付きそうな笑顔を見せて聞いてくる楯無。この女、絶対に楽しんでやがる。
彼女も最初の頃に比べれば比較的色々な表情を見せてくれるようになった。
最初の頃はほとんどが何かを考えている顔かこっちを観察している顔がデフォルトだったな、と少しだけ昔(精々一ヶ月ちょっと前だが)を懐かしんでみる。
今でこそ彼女を楯無と呼んでいるが、前は更識さん呼びだったというのもまた懐かしい。
楯無式(地獄)訓練開始から二週間ぐらい経った頃、訓練中に彼女から更識さんじゃなくて楯無と呼んで良いと言われたので今は彼女を楯無と呼び始めた。それならついでにという訳で、僕も彼女に拓人と呼ぶように頼んだ。
そうして今に至る。
歌穂が言うには、友人とは互いに名前で呼び合うような間柄のことらしい。つまり、これで僕と彼女はちゃんとした友人関係になったのだとか。よくわからん。
と、思考が横にそれすぎたな。
「正直微妙。今まで楯無の(地獄)特訓をこなしてきたし、コイツも使えるけどな」
首からぶら下げた待機状態の<クロガネ>(黒い百合の花のペンダント)を指で叩いて示す。
専用機は、普段アクセサリーなどに姿を変えて装着者が管理することになっている。形状は千差万別摩訶不思議。一つとして同じものがなく、ペンダントやイヤリングに始まり、はては防具に似た形状のものまで存在するらしい。ちょっと見てみたいな。
「相手も専用機を持っているって話だし、勝てるかどうかは俺の頑張り次第ってところ」
学園での訓練初日から、僕は彼女監修のもと、一歩間違えれば昇天しそうなほど密度が濃いISの訓練を積み重ねてきた。内容は口に出したくもない。今思い返してみても、よく無事だったよな僕などと思ってしまうほどにはキツかったし、力もついたが、その代わりに何度か自分を見失いかけた。
結果的には生き残れたし、楯無からは少しだけ見直されたので良しとしておこう。
話を戻そう。
それだけの努力を積んでも、相手は代表候補生。文字通り別次元の相手だ。
勝つには、それこそ死ぬほど頑張るしかない。
「<黒鉄>ね……また、初日のように機能が停止するなんて事はないわよね?」
少し不安げに楯無は黒百合のペンダントに視線を向ける。
訓練初日の時の異常が原因で検査に出されたクロガネだが、倉持技研での調査の結果、特に異常無しと判断されて僕の下に帰ってきた。あれから一度も機能停止現象は発生せず、普通に使えてたりする。まあ、発生していたら、僕の手元にはないのだけれど。
「多分大丈夫だろ」
「多分って……」
「凄く不安が残りますね……」
「もしまた”幽霊巨人”に何かが起きたら、今度の訓練の時にずっと射撃の的になってもらう」
「オイオイ、本気かよ」
「本気と書いてマジ」
真面目な表情でサラリと物騒なことを言う幸貴に対して、皆少しだけ引いてしまう。
幸貴の言う”幽霊巨人”とは、一次移行を迎えた<クロガネ>を見て幸貴が付けたあだ名だ。あの特徴的すぎる見た目のせいか、そのあだ名が妙にしっくりくる。
戻ってきたクロガネを展開して最初に驚いたのは見た目であった。なにせ僕が
ずんぐりとしていた胴体は特に胸部の装甲が厚くなり、全体的に前に突き出したような形状になり、背部には大型のスラスターが付いた。
肩部の装甲は大型化し前腕部まで覆えるまでに大きくなり、腕から肩にかけて流線を描き、角張った部分が見当たらなくなった。さらに装甲の下にスラスターが増設された。
腕部は一番変化がなかった部位であるが、特定の武装をマウントできるように変形していた。
脚部は相変わらず足とは思えない形状をしているが、ロケットノズルのような丸い形状ではなく、少し四角くなった。
頭部は真四角の箱型から、丸みのある普通(?)の頭部になって小さくなった。スリットのようなものが追加され、そこから赤いデュアルアイが覗いている以外、一次移行前の面影はなくなった。
オマケに、機体のいたるところに赤いラインが追加され、クロガネは幸貴が称するところの”幽霊巨人”と呼ぶべきトンデモなく不気味な見た目になってしまったのだ。
体型は人型だが、足の作りなどが人とはかなり違うせいで、着けたまま土下座などしようものならまず間違いなく足回りの筋が引き攣ってしまうだろう。
不格好だった時とは違う意味でインパクトのある見た目になったものだよ、ホントに。
変わったのは見た目だけではない。
あれ以来、クロガネの過負荷を受けることも無くなり、クロガネの運用はかなり楽になった。
一次移行の際に、見た目と武装と機能が変化しまくったおかげで、未だにクロガネに振り回されてる面があるけど、それを差し引いても戦いの中で幾分かの余裕が持てるようになった。
「それで、拓人くんは勝率はどれくらいだと見込んでるの?」
「大体40%。現在の俺の腕じゃどんなに頑張ったとしてもそこまでが限界だ」
僕がクロガネに乗り、相手の実力が僕と同じレベル、乗るISが接近戦タイプと仮定すると、約9割の確率で勝つ事ができる。遠距離タイプの場合も大体7割は僕が勝てるだろう。
対戦相手のアイリス・ブルートンはアメリカの国家代表候補生で専用機を持っている。仕入れた情報が正しければ、ブルートンのISは近距離タイプ。
楯無と僕ぐらいの実力差が有るならば勝率は一割を切るが、アメリカという大国の国家代表候補生とはいえ、あくまで候補生でしかないブルートンが楯無に匹敵する実力を持つとは思えない。
で、幸貴と楯無が(何時の間にか)仕入れた本国でのブルートンの訓練風景(その時は何故か別のISに乗っていたので専用機の情報は手に入らなかった)の記録を見て、そこから導き出された実力その他もろもろを考慮に入れた結果、勝てる可能性はおよそ40%。約二回に一回は勝ちを拾えるだろうという結論が出た。
「四割ですか。結構自信あるんですね」
「あくまでもおよそでしかないし、あの馬鹿女も性格はともかく実力はある。それに専用機の性能やら不確定要素が多いから実際はどうなるか分かったものじゃないがな」
仮にもブルートンは国家代表候補生を務めているんだ。流石に一筋縄で倒せるとはこれっぽっちも思っていない。実際の勝率は30%もあればいい方だと踏んでいる。
「頑張れるだけは頑張ってみるさ。あの女に負けるのはまっぴらゴメンだしな」
そうだ。
あの馬鹿女に負けたりしたら、誰が許しても自分が許せなくなる。
なにせ、あの女は、
「男を馬鹿にするのは別にいい。心の底からどうでもいい。が、あの女は俺の友人をけなした。その報いをきっちり受けさせてやる」
あぁ苛々する。今思い出しても腸が煮えくり返りそうだ。
ふと、そこで苛立ちが籠った僕の言葉に楯無が反応した。
「ねえ拓人君、ブルートンさんとは知り合いなの?」
「一応な。あんなのとは知り合いでありたくないがな」
そう吐き捨てたら、周りが目を丸くして僕を見つめていた。なんだ?
「拓人くんが毒を吐くなんて珍しいわね」
「いやいや。俺だって人間なんだから毒ぐらい吐くって。特に、ムカつく相手にはな」
「……ブルートンさんとの間に何があったんですか?」
少し躊躇いながら友美がそう聞いてきた。
ま、暇つぶし変わりに話すとしよう。
「あれは確か、クロガネが戻ってきてから一週間ぐらい経った頃だったな」
◆◇◆◇◆◇◆◇
その日は、楯無が用事があると言って何処かに行ってしまったため、珍しく一人でISの訓練を行っていた。
当時の僕はクロガネのスペックに振り回されて四苦八苦していた。
一次移行前よりも大型化したアサルトライフル。二つを強引に繋げて一つにしたと思われる大型ガトリングガン。銃口五門、接近して相手を殴るのにも使えるミサイルランチャー。
その他にも使い回しが効かない武装ばかりが増えた。その所為で一次移行して僕に合わせられたはずなのに、クロガネの運用は困難を極めた。
どの武装も姿勢制御だけでも難しいのに、その上対象に命中させなければ意味がない。
初めの頃に比べれば確かに良くなっていたけど、それでも実戦で使えるものかと問われれば無理としか答えれない状態だった。
問題は武装面だけでなく、各部に追加されたスラスターのこともある。
一次移行の際に肩部装甲と腰に追加されたスラスターのお陰で、機動性が圧倒的に向上したが、同時にシールドエネルギーの消費量も格段に上がった。
使いどころを見誤れば、自分の首を絞めかねないのだ。
当たり前だが、初心者のレッテルが取れていない僕では効率の良い運用ができるはずもない。
そんな訳でクロガネのスペックに振り回され、訓練が終わると僕は何時も疲労困憊。その時もフラフラになりながらピットに戻った。
そしたらソイツが居た。
セミロングの金髪につり上がった碧い眼の少女。仁王立ちして腕を組んだ少女の第一印象はキツイ性格をした人間だったが、口を開いたらまさにその通りだった。
「アンタが世界で唯一ISを使える男?」
「ああ」
「ハッ! 思った通り、男は馬鹿でのろまなのね!」
会って早々、ソイツは僕を罵倒してきた。
何の反応も返さないのは色々と不自然なので、格好だけは怒ったふりをしておく。
「なんだと……!」
「だってそうでしょ。なんなの今の機動。あんな直線的な動き、初心者しかやらないわよ」
いや、僕は初心者(一応)なのだが。
「アサルトライフルでの射撃も、構えてから撃つまでに間がありすぎ。アンタは亀か何か?」
人間です。
「他にも(中略)」
流れるように罵倒が飛んでくる。いちいち反応するのもめんどくさくなったので、全部聞き流すことにした。早く終わらないかな。
「という訳よ。分かった? この駄目男。ああ、ごめんなさい。男という存在がそもそも駄目だったわね」
その日の訓練の様子について、10分余りその女は僕を罵倒し続けた。
そんなに元気が有り余っているなら、他のことに使えばいいのに。
「はいはい、わかったわかった。で、言いたいことはそれだけか? 俺は疲れているんだ。さっさと部屋に戻りたい。だから其処を退いてくれ」
「ハァ?」
今までの言葉と仕草から、アイリス・ブルートンが女性絶対主義思想の人間であることはわかったが、正直どうでもいい。
こんな場所まで来て彼女が何を言いたいのかも分からないし、態々尋ねるのも面倒なので適当に返事をしてさっさと更衣室に行こうとしたら、相手は怒った表情をして道を塞いだ。
「なんだよ」
「アメリカの代表候補生であるこの私が、アイリス・ブルートンがアンタみたいな駄目人間に直々にアドバイスしにここまで来てあげたのにお礼の一つもないわけ?」
アドバイスどころか罵倒しか貰ってないけど。何を言ってるんだろうこの代表候補生。
「何処にお礼を言う必要が有るんだよ。つーかアドバイスなんてしてねぇだろ」
「アンタがダメな男だって教えてあげたじゃない」
「それはただの罵倒だ。アドバイスとは言わない」
少女の言い分に反論し続けていると、苛立ってきたのか少女の表情が険しいものに成ってきた。
「男のくせに生意気ね! アンタ達なんて、大人しく私たちに従ってればいいのに!」
「生憎とこういう性分なんでな。はいそうですかと女に従う気はない」
「私たちにヘコヘコ頭を下げるしか能のない極東の島国の人間のくせに生意気よ!!」
「肥え太って慢心した挙句、その島国の人間が開発した兵器の扱いを間違えて貴重なコアを一つ破壊しかけた国の人間が偉そうに言うんじゃねえ!!」
「なんですって!!」
「なんだよ!!」
僕もブルートンも互いに相手を睨みつける。
自分らしくもないが、なんというか、コイツにだけは負けたくないと思ってしまい、ついつい本心から言い返し続けてしまった。
「何時かそのムカつく顔をボロ雑巾にしてあげる!」
「フンッ! 言ってやがれ! 逆にてめえのすかした顔をボロ雑巾にしてやるよ!」
その後も売り言葉に買い言葉の応酬は続き、互いに相手への最悪の印象を抱えたまま最初の会合は終わった。
後から思い返してみると、まるで10歳にも満たない子供のような稚拙な喧嘩だったと思う。当時の僕は何をやっていたんだろうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「とまあ、そんな事があったんだよ」
「…………」
なぜ僕がアイリス・ブルートンに対して敵対心(対抗心?)を持っているのか、経緯を交えて懇切丁寧に説明したら、友美と幸貴は引き攣った笑顔を浮かべ、楯無だけが何かを考え込んでいた。
「た、拓人君も言う時は言うんですね」
「少し意外」
僕は聖人君子じゃないからな。当然だ。
「ねえ拓人くん」
「なんだ」
「今回の件、それが原因なんじゃない?」
「は?」
今回のこと…………ああ、エキシビションマッチか。
「いや、どうして?」
「恐らくだけど、今回の件はブルートンさんが学園に対して拓人くんと戦いたいと直訴したことから始まったのよ」
「でも、たかが一生徒の訴えが通るとは思えないぜ?」
この前、山田先生から聞いたのだが、なんでも今度の対抗戦に僕と戦いたいという生徒が、一年生から三年生まで何人も職員室に現れたのだとか。一人二人ならともかく、三十人以上も居た為、その場に現れた織斑先生の出席簿が火を噴いて生徒たちを地に沈めたらしい。相変わらず容赦ないな。
僕も入学してから七回程喰らっているけどあの痛みは未だに慣れていない。というかあの一撃は先生と同年代の男性でもそうそう出せるものじゃないと思うのだが、あの人は本当に女性なのだろうか?
話を戻そう。
ブルートンは代表候補生ではあるが、このIS学園は一種の治外法権だ。この学園内では、彼女も唯の一生徒と変わりない。なので彼女の訴えであっても、個人的な事が聞き入れられるはずがない。
そんなことがまかり通れば、今頃この学園に僕の居場所は存在しないはずだし。
「ブルートンといえばアメリカでも有数の財閥よ。政治世界への影響力も強いはず」
「……つまりなにか。ブルートンの奴は学園の次に実家に訴えかけて、国を動かして今回の件を無理矢理成立させたってことか」
「ただの推測だけどね」
なんて無茶苦茶で、それでいて筋が通っている推論なんだ。反論しようがない。
どうやら僕は、厄介な奴に目を付けられたみたいだ。
「まあ試合頑張りなさいな」
「おう」
と、そう言ってからまたも楯無がニヤリと笑った。あ、ヤバイ。この笑顔は──
「骨ぐらいは拾ってあげるから」
「負けること前提かよ!」
「心外ね。勝つ(と良いな)と思ってるわよ」
「今の不自然な間はなんだ!?」
「それは勿論、ねぇ?」
「ハッキリ言えよ! 気になるだろ!」
「大丈夫よ…………きっと」
「そこは断言しろ!」
「そろそろ勉強会を再開しましょう」
「人の話を聞けぇぇぇぇ!!」
前と違い楯無は偶に僕ら(いや僕だけか?)をからかうようになった。多分これが彼女の素なんだろう。
こういった一面を見せてくれるようになったのは嬉しいのだが、やられている身としては喜んで良い変化かは分からない。今回はだいぶ軽いものだったけど、酷い時は二十分近くからかわれていた事もある。
「まあまあ、落ち着いてください拓人君。楯無さんもそのくらいにして」
楯無のからかいを止めるのは、いつも友美だったりする。というかこの集団の中では彼女が唯一の良心なのだろう。
幸貴は傍観するし、歌穂は天然バカだから変な方向に話を助長するし、楯無は元凶だし。僕は(何故か)振り回される人間だし。友美がいなかったら、このグループは一週間も保てないかもしれないなと思ってしまう今日この頃だ。
「もうそろそろ時間」
ボソリと幸貴が呟いた。時計を見てみると、休憩時間は終わっていた。少し長く話しすぎたようだ。
「よし、じゃ、続きを始めるか。で、歌穂はいつまでそうしてるつもりだ」
話を打ち切り、閉じていたノートを開いて、今の今まで机に突っ伏したまま微動だにしていない我が友人に声をかけてみる。
話は変わるが、この娘、近藤歌穂はハッキリ言うとバカなのだ。
IS学園に入学できるぐらいだから、世間一般で見るとそれなりに頭が良いのだが、IS学園内で比べるとバカなのだ。どれ位バカかというと、一年一組内で愛すべきバカという認識がわずか一週間で作られるほどバカなのだ。運動能力がすごい弊害なのだろうか?
当たり前のことながら勉強は大嫌いで、この勉強会で一番疲弊するのは彼女である。
「はうえにゃ~」
訳の分からない言葉を発しながら、歌穂は身じろぎ一つしない。
やれやれ、相変わらずだなこの
他の三人と顔を見合わせて嘆息する。
そもそもこの勉強会を始めたキッカケは、今から約四週間前。
IS学園入学から二週間が過ぎ、楯無の呼び方が更識さんから楯無になり、四人の少女達との付き合い方をある程度把握してきた頃まで遡る。
シャワーを浴びて、いざその日の宿題を終わらせようとしていた時だったと思う。
突然部屋に来た歌穂が、
「宿題がわからないよ~! 教えてタク~~!!」
開口一番そう宣った。
最初こそ呆然としたものの、丁度宿題を始める所だったので、とりあえず一緒にやるかと歌穂を招き入れて宿題に取り掛かったのだが、二人揃って途中で詰まってしまった。
散々悩んだ結果、助っ人’s(早い話がいつものメンバー)を呼んで教えてもらうことになった。
で、そのあとも二度三度と似たような事があり(その度に教える人、教えられる人が変わったりした。楯無以外は何かしらの苦手教科を持っているのだ)、流石にこのままでは不味いのでは? と思い、勉強会を開いてそれぞれの勉強のコツを教え合い、今のうちに苦手教科を克服しようということになった(意外なことに、言いだしたのは一番苦手科目が少ない幸貴である)。
幸い僕ら五人組の得意教科はほとんど被っておらず、その為二日から三日に一度、誰かを先生にして勉強会を開いているのだ、何故か僕の部屋で。別にいいけどさ。
そんな訳で催し続けている勉強会なわけだけど、
「歌穂は勉強出来るだけの気力が無い、と」
「うぇ~い」
勉強会の効果はそれぞれ出ているのだけど、歌穂は相変わらず勉強できない子のままなのである。学年順位は下から数えたほうが早いだろうな。こんな調子で期末テストは大丈夫なのか?
仕方ない。アレを出すか。
「オイ歌穂」
「にゃ~に~?」
ダレ過ぎたせいで遂には言葉が猫みたいになっているな。ちょっと和んでしまったよ。
「勉強会が終わったらなんか食わせてやるから続きを」
「分かった!」
復活早いなぁ、オイ!
ガバッ、と身を起こし、今までの状態が嘘のように勉強に取り組もうとしている現金な友人に対して、頭を抱えそうになったのは内緒である。
5月21日 木曜日
突然だが、今度のクラス対抗戦の後に僕が試合をすることになった。
突拍子もなく、これを書いている今でも信じられない、というか信じたくないことであるが、事実である。
楯無の推論が正しければ、国家権力で無理やり押し通されたようだ。つまり逃げることは許されない状況なのだ。
普段なら勘弁して欲しいとでも言うところだが、対戦相手がアイリス・ブルートンである今回だけは話は別だ。
初めて会った時には散々僕を馬鹿にしたという事実は、当時は憤りを覚えたが今となってはどうでもいい。問題は次に会った時、IS関係で僕に色々と教えてくれた楯無を馬鹿にしたことだ。
曰く、僕が弱いのは更識楯無の教え方が下手だから。
冗談じゃない。スパルタではあるものの、彼女の教え方は上手い。それこそ本物の教師のも引けを取らないぐらいだ。
正直、男のことであーだこーだ言われても心の底からどうでもいいのだが、僕の友人に対する暴言は許容できない。
一週間後のブルートンとの試合は何があっても負けられない。あの女に絶対後悔させてやる。
それはそれとして、簡易冷蔵庫の中の食料が(主に歌穂の所為で)少なくなってきた。この前作っておいたクッキーも全部食べられたし、スープなどのストックも殆どなくなった。試合が終わったら材料を買いに行こう。
今日のまとめ.とりあえず勝つ!
いかがでしたか?
よろしければ、次も彼の物語にお付き合いください。