IS one years ago   作:工藤

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一話当たりの文字数が多すぎるんじゃないかと思う今日この頃。


感想・評価・批評・誤字脱字の報告がありましたら、よろしくお願いします。
それでは第五話、どうぞ


代表候補生VS……

「みんな元気だねぇ~」

 

 アリーナのピット内で観客席からの歓声を聞きながら歌穂が呑気に言った。

 確かにその通りだと思う。

 少し前まで観客席で試合観戦をしていたから分かることなのだが、見ているだけというのは結構に苦痛だ。最初のうちは良くても、後半になると観客席の生徒たちはみな大なり小なり疲れが出てくる(一部例外あり)。少なくともこんな歓声が聞こえることはないはずなんだ。というか最初よりも元気になってる気がするんだけど。

 

「皆拓人の試合を楽しみにしているから」

「今日は拓人君の試合がメインだからね。それを見ることが出来るなら多少の疲れぐらい無くなるんだと思うよ?」

 

 怖っ! なんだよその回復力!?

 男でもそんな回復力を発揮できる人間、は、……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………うん、知り合いにもっとヤバイのが一人いるけど普通はいないぞ。

 

「そういうものかな?」

「女性が甘いものを前にするとお腹が空くって言うし、それと同じじゃないかしら」

「あ~、成程」

 

 いやいやいやいや納得したら駄目だろ!

 僕がおかしいのか、周りがおかしいのか、思わず頭を抱えたくなってしまった。

 

「それにしても拓人くん。さっきから一言も喋ってないけど大丈夫?」

 

 はっはっはっ、大丈夫じゃない、まともに喋ることすらできないくらい大丈夫じゃないよ、なんて軽口も叩けない程にガチガチです。

 首を横に振って楯無の言葉に答える。

 

「重症かしら」

「まずいですよね……」

 

 僕の様子を見て深刻そうな表情で楯無と友美が言った。

 仕方ないだろ。こっちは初めての試合(厳密には違うけど)なんだ。緊張するなというのが無茶なんだ。

 そもそも、初めての試合で緊張しない人間は、相当神経が図太いのか、バカな人間のどちらかしかいない。

 技術者兼研究者(の卵)上がりの僕は、生憎そのどちらでもないんだ。緊張するなと言われても絶対に無理なんですよ。

 

「こんな調子で大丈夫かしら……?」

 

 楯無の言葉が耳に痛い。

 

「拓人」

 

 緊張のあまりガチガチに固まって立っていたら、幸貴が近寄って声をかけてきた。

 

「ガンバッ」

 

 本人にとっては僕を勇気付ける為の行動なのだろう。

 だが、無表情のままガッツポーズをする幸貴の姿は、普段はほとんど無表情、あまりこういった動作をしない、身長差がある(僕→約170cm 幸貴→およそ145cm)せいで上目遣いになって言っているなどの多数の条件もあって、その姿は勇気づけられるよりも可愛らしくみえた。

 

 うん、なんというか、

 

「ふみゃっ!?」

 

 頭を撫でてしまいたくなる。

 というか現在進行形で撫でてる。

 身長差のおかげで妙に撫でやすい位置にある幸貴の頭は小さくて撫でやすく、髪はサラサラとしていて、それに撫でるたびに「にゃっ!?」とか「へぅっ!?」とか、妙に可愛い反応をするもんだから、なんというか、何時までも撫でていたくなる不思議な魅力が────

 

「た、拓人?」

「はっ!?」

 

 顔を赤くして、見るからに戸惑っている幸貴の言葉に、変な方向にシフトしていた思考が元通りになる。

 普段の調子に戻るなり、(普段は全くと言っていいほど当てにならない)直感が何かを感じとった。

 恐る恐る、周りを見回してみると、

 

「へぇーー」(ニヤニヤ)

「あぁ。顔を赤くした幸貴ちゃん可愛いな。私も撫でたいな!」

「落ち着きなよ、トモっち」

 

 いい弄る材料を見つけたと言わんばかりにニヤニヤと笑う楯無(間違いない。あの目は獲物を見つけた狩人の目だ)、幸貴の普段見せない表情に興奮している友美(端から見ているとそっちの趣味の人間に見える。可愛いもの、この場合は幸貴に反応しているんだろうか)、めんどくさそうな表情で友美を制止している歌穂(普段は逆の立場。すごく珍しい)という非常に、うん、表現しづらい、アレな光景が広がっていた。

 

「幸貴ちゃん! 私も頭を撫でていい!?」

「あ、その、友美、落ち着いて……」

「いいよね!?」

「あ、えと……」

「幸貴ちゃん!」

「…………うん」

「わぁーい!!」

 

 興奮状態の友美に押し切られた幸貴は、彼女の手の中に収めれて頭を撫で回されている。

 それなりに離れていた場所に立っていたはずなのに、なんで次の瞬間には幸貴を拉致って元の場所に戻れるんだろうか。人間の神秘、いや、女の神秘だな。

 友美の腕の中で「あーうー」と呻いている幸貴に向かって合掌しながら、友美を呆れた、というよりも諦めた目で眺めている歌穂がすごくシュールだ。

 まあそれはいい。別にいい。HELPと目線で幸貴が訴えているがどうでもいい(いや良くないけど)。

 

「うふふー」

 

 それよりも、僕のすぐ横ですッッごく良い笑顔を浮かべている楯無をどうにかできないものだろうか。

 

「ねえ拓人くん」

「……どうした楯無」

「松本さんの髪の感触はどうだった?」

「ノーコメント」(目線をそらす)

「どうだったの?」(ニヤニヤと笑って回り込む)

「…………」

「…………」

「……まあ、気持ちよかった」

「へぇー」

「なんだよ」

「ロリコン」

 

 

 グサッ!

 

 

 真顔で楯無が言い放った言葉が心に刺さった。

 

「違うからな!? 確かに幸貴は145cmと小柄だけど俺はそういう性癖はないからな!?」

「身長140cm台の女の子の頭を撫でて気持ちよかった、なんて言ってあんな表情していた癖に?」

 

 

 グサグサッ!

 

 さらに二本、言葉の針に貫かれた。

 

「た、たとえ、そうであっても、俺は違う……」

「あら、あんな光景見せられた後で、その言葉に説得力があると思ってるの?」

 

 

 ドスリッ!

 

 

 嗜虐心丸出しの笑顔で反論しようのない言葉を言い切った楯無。

 言葉は針や刃になる。

 中学時代の友人が言った名(迷)言を、僕は今、実感した。

 あの時は、それはないだろと笑ったが、今は笑うことができなくなってしまった。

 言葉って、痛いんだね。

 

 絶望感やらなんやらに打ちのめされて、僕は四つん這い状態で項垂れた。

 

「少しは楽になった?」

「え?」

 

 心なしか優しげな楯無の声が聞こえた。

 顔を上げると、先程までのドSな顔が嘘のように、親しみやすい何時もの顔で笑っている楯無が居た。

 

「緊張。さっきまでガチガチに固まってたでしょ?」

「あっ。そういえば……」

 

 ついさっきまで感じていた緊張が何時の間にか無くなっている。完全に消えたわけではないが、少なくとも試合に支障をきたすような状態ではない。

 

「その様子を見る限り、もう大丈夫そうね」

「ああ。なんか知らないが、楽になった」

「なら安心ね」

 

 そう言ってクスクスと楯無は笑った。

 (認めたくないが)いつも通りのやり取りをしただけだったのに、随分と楽になった。不思議だ。

 

「拓人君! そろそろ時間ですよ!」

 

 もしかして自分はとても単純にできているのではないか? と、疑問が頭をよぎった瞬間、先程から幸貴に抱きついて頭を撫でている友美が試合の時間だと教えてくれた。

 

「リョーカイ。って、いつまで幸貴をそうしておくつもりだ」

「ずっとこうしてたいです!」

「胸を張って言うな」

「あうっ!」

 

 ビシッ! と友美の頭にチョップを入れて、友美が痛みに悶えている間に幸貴を解放してやる。

 

「オーイ、大丈夫か?」

「無理。大丈夫じゃない……」

 

 幸貴が弱音を吐いた、だと?

 

「相当堪えてるな」

「あはは~、暴走中のトモっちは一番アレだからねぇ」

「なら止めろよ」

「それは無理。アノ状態のトモっちは私たちには止められない」

 

 遠い目をして歌穂が断言した。

 どうやら歌穂も過去に止めようとしたことがあるみたいだ。結果は言わずもがな、ってところだな。

 コイツも苦労していたんだなと考えつつ、フラフラしている幸貴を歌穂に預ける。

 

「拓人君! 女の子に手を上げるなんて酷いですよ!」

「ならフラフラになるまで友人を構うなよ」

「出来ません!」

「だから胸を張って言うな」

「あうっ!!」

 

 涙目で訴えてくる友美にもう一発チョップを打ち込んでから、アリーナ口の前に立つ。

 

「よし。頼むぞ、クロガネ」

 

 目を閉じて、クロガネの姿をイメージする。

 足元から装甲が展開され、一瞬で僕の体を包み込んだ。

 目を開けると、慣れ親しんだ360度の視界が広がる。

 各部のチェックを簡単に済ませ、歌穂たちの方を向く(視界が360度だからわざわざ向き直る必要はないが)。

 

「タク、目指すは勝利だ!」

 

 サムズアップをした歌穂が言う。

 

「ファイト」

 

 歌穂に支えられた幸貴が言う。

 

「無理はダメですよ!」

 

 僕がチョップした場所を手で抑えながら友美が言う。

 

「頑張りなさい、男の子」

 

 微笑んだ楯無が言う。

 皆は僕が何かを言う前に、四者四様の激励を送ってくれた。

 なら、男としてはその期待に応えるしかないだろ!

 

「リョーカイ! 行ってくる!」

 

 僕は彼女たちの言葉に頷き、アリーナに向かって飛んだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 僕がアリーナに入ると、観客席からの歓声がより一層強くなった。

 なんだか昔の動物園のパンダかウーパールーパーの気分だ。僕は珍獣か何かか。

 

 下らないことを考えていると、もうひとつのピットからISに身を包んだブルートンが姿を現した。

 

(アレがブルートンのISか)

 

 彼女の専用機、<アルストロメリア>の見た目を一言で表現するとすれば、ドレス、という言葉が当てはまるだろうか。

 黒い重装甲に赤いラインという見た目のクロガネとは違い、全体的に白い装甲が目立ち、上半身に行くほど装甲が薄く、或いは無くなり、腕部や胸部などに付けられた蒼い装甲が可憐さや華やかさを醸し出している。クロガネとは正反対だな。クロガネなんて幽霊呼ばわりされてるんだし。

 まあ、見た目は戦闘には関係ない。気にしないでおこう。

 

『ちゃんと逃げずに来たみたいね、四宮拓人』

「逃げる理由がないからな、アイリス・ブルートン」

 

 お互い試合開始の位置で停止するなりブルートンが秘匿回線を開いて話し掛けてきた。

 のっけから罵倒に近い言葉が飛んできたが、真正面から言い返す。

 

『負けて恥を晒すのが怖くないのね』

「そもそも負ける気がないからな」

『へぇー、言うじゃない、駄目男のくせに』

「言われっぱなしは趣味じゃないんでね、馬鹿女」

『なんですって!』

「なんだよ!」

 

 売り言葉に買い言葉。相手が何かを言えば言われた方も言い返す。

 相も変わらず、コイツと向き合うと何故かこんな風に暴言を言ってしまう。

 

 

 ─5─

 

 

 あわやいつもの罵倒合戦に発展しそうになった瞬間、試合開始のカウントが表示された。

 少し忘れていたが、今は試合があるんだった。

 試合のことを忘れていたのはブルートンも同じらしく、慌てて通信回線を閉じた。

 

 

 ─4─

 

 

「叩き潰してあげる」

 

 ブルートンが左手に四角形の大型盾、右手に柄が長く、横幅が広く刀身が薄い剣のような槍(?)を展開する。

 

 

 ─3─

 

 

「絶対に負けない」

 

 僕は両手に通常よりも大型のアサルトライフル<タイラント>を一丁ずつ持つ。

 

 

 ─2─

 

 

 余分な思考は一切排除。相手が誰かも気にしない。目の前の敵を倒すことにだけ集中する。

 

 

 ─1─

 

 

「勝負だ」

「勝負よ」

 

 

 ─0─

 

 

 開戦のブザーがアリーナに鳴り響いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 黒鉄の腕が跳ね上がり、両の手に握られたアサルトライフルから鉛弾が吐き出される。およそ一ヶ月に渡る地獄の訓練のおかげで、撃ち出された弾丸は狙い違わずアイリスに向かって直進する。

 対するアイリスは、左手の大盾を正面に構えて銃弾を防ぎながら拓人に突っ込み、瞬く間に距離を詰めて右手の槍を突きこんだ。

 拓人は、槍の軌道を読んでアイリスの左手側に避ける。

 

(甘い!)

 

 が、アイリスはその動きを先に読んでいた。彼女とて、伊達に専用機持ちの代表候補生をやっているわけではないのだ。

 本気ではない突きの動作を止め、拓人に追いすがり、槍を振るう。

 彼女の槍、<クレイモア>は槍として突くよりも、名のとおり、斬ることに特化した武装であり、概念としては斧槍に近い。

 試験的な武装ながら威力は認めれており、ISの装甲を切ることすら可能である。

 

「チッ!」

 

 銃を構えていた拓人は、舌打ちと共に身を翻し、辛うじて振るわれた槍を回避する。

 そのまま間合いを開こうと逃亡するが、近距離武器を主体とするアルストロメリアは、当然のことながら速度重視のIS。

 見るからに鈍重そうな黒鉄では逃げ切れる相手ではない。アイリスはそう確信した。

 そして、その確信を裏付けるかのようにアルストロメリアはすぐに黒鉄に追いついた。

 そして、未だ逃亡を図る無防備なISの背中に向けて側面部の刃を振り下ろした。

 当たった。

 彼女はそう信じて疑わなかった。

 だが、

 

(なっ!?)

 

 アルストロメリアの正面で背を向けて飛んでいた黒鉄が、一瞬にしてその姿を消し、振り下ろされた槍は空を切った。

 一瞬動揺するも、アイリスはアルストロメリアのハイパーセンサーで周囲を見渡した。

 センサーが捉えたのは、何時の間にか自分の頭上に移動して、無防備な姿を晒している自分に銃弾の雨を降らせる黒いISの姿だった。

 

 チッ! と舌打ちをしてアイリスはすぐにその場から離れる。

 動きを止めていたのが僅かな時間だったために、シールドが受けたダメージはほんの30。

 目の前で消えてことに驚きはするものの、多少のダメージは気にする必要がないと結論を出し、アイリスは再度黒鉄に接近戦を仕掛ける。

 

 先とは違い、緩急をつけた動きで距離を詰める。

 拓人も必死に銃で弾幕を張るが、アイリスはそれを回避、或いは盾で防ぐ。

 二度、三度と正面から振るわれる槍の斬撃を、拓人は必死に回避し僅かな隙を見つけて後ろに下がる。

 

(かかった!)

 

 だがそれは、アイリスの狙い通りの動きだった。

 槍を振るっていたのはただのブラフであり、今回の彼女の本命は斬撃ではなく刺突であった。

 距離が開いた為に、槍にとって絶好の攻撃ポジションに動いてしまった拓人に向けて、抉るような突きが放たれた。

 しかし、またも一瞬にして黒鉄の姿が正面から掻き消え、アイリスの右側面にその姿を現した。

 

(また!?)

 

 直後にアサルトライフル二丁の射撃が行われる。

 アイリスは盾を構えて後退、右へ、左へ細かく動き、射線を安定させない。

 拓人の動く標的への射撃の命中率はそう高くない。二丁の銃を使っていても、小刻みな動きと大盾に阻まれ、結果アイリスに命中する銃弾はほとんどなかった。

 尚も連射しようと銃のトリガーを引くが、

 

(弾が切れた!)

 

 頭部装甲内のディスプレイが、右手のアサルトライフルの残弾がゼロであることを告げてきた。

 拓人は量子変換で両手のタイラントの弾倉のみを格納、新しい弾倉を格納領域から直接右手のアサルトライフルに装着する。

 

(今!)

 

 何度も練習したその工程を済ませるのに五秒もかからないが、そのために立ち止まったのは失敗であった。

 拓人が攻撃を止めると同時にアイリスは瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動し、拓人に接近した。

 速度重視のISだけあり、僅か四秒足らずで黒鉄の目前に迫ったアルストロメリアは、突然の瞬時加速に怯んだ黒鉄に槍の先端を突き立てた──

 

 

 

 

 はずだった。

 

(そんな……)

 

 槍の穂先は、何も捉えておらず、すぐ目の前にいた拓人はまたしてもその姿を消した。

 

 そして、ハイパーセンサー越しにアイリスは見た。

 まるで、スロー再生された動画のように、時間の流れが切り離された世界の中で。

 自分に二丁のアサルトライフルを向けるクロガネの姿を。

 

 白いISに無数の銃弾が浴びせられた。

 

 

 

 

 

 

(あ、危なかった!)

 

 再度距離を取るブルートンの姿を視界に入れつつ、先と同じ手順で左手のタイラントの弾倉を新しい弾倉に交換しながら、僕は密かに安堵の息を漏らした。

 

 恐らくブルートンは僕が突然消えたと思っているだろうが、アレは消えたのではなく、クロガネの機体能力のおかげだ。

 それは、一次移行の際に肩と背中に増設されたスラスターから、瞬時加速と同じ原理でエネルギーを放出。瞬時加速とは違い一瞬だけ任意の方向に最高速以上の加速を行う機能である。

 僕はこの機能を瞬間加速(アクセル・ブースト)と名付けた。

 限定的ながら三次元的に高速移動できるため、至近距離の敵からすれば目の前の相手が瞬間移動したように見えるだろう。これのおかげで、僕の取れる手段はグンッと広まった。今回の僕の切り札その一である。

 

 だが、瞬間加速には幾つもの欠点がある。

 

 一つ目は移動距離。

 恒常的な加速を行う瞬時加速とは違い、あくまでも一瞬しか加速できないため、一度の加速で移動できる最高距離は精々10m。この移動距離制限の所為で、遠距離型相手だとあまり効果がない。なにせ、一度攻撃を避けてもすぐに追撃される。

 

 二つ目はエネルギー消費。

 瞬時加速に比べればその消費は微々たるものだが、塵も積もれば山となる。一試合の中で使える回数は自ずと限られてくる。

 

 三つ目は僕への負担。

 瞬間加速を使用すると、ISの保護機能でも減衰しきれない加重が掛かる。

 一回使用するだけなら特に問題はないが、短い間隔で二回、三回と使用すれば僕に掛かる負担はかなり大きいものとなる。最悪ブラックアウトを起こしてしまう。

 身体を鍛えればもう少し耐えれるようにはなるそうだが、それまでにどれだけの時間がかかるかは分からない。この欠点が一番ネックだと僕は思っている。

 他にも欠点と呼べるものはあるが、大きく挙げるならばこの三つだろう。

 

(やっぱり、ちょっとキツイ……)

 

 既に三回、ブルートンの攻撃を避けるためにそう短くない間隔で瞬間加速を使用した。すぐに回復するレベルだが、少々身体が怠い。

 限界になる前に早く決着をつけないといけない。

 少し使い回しが効かないけど、アレを使おう。

 

 僕は弾倉の交換が終わったアサルトライフル二丁をしまい、拡張領域から別の武器を呼び出す。

 

「させるか!」

 

 僕の手から武器が消えると同時にブルートンが急加速して接近してくるが、薙ぎ払われた槍を瞬間加速で回避し、距離を空ける。

 僕が呼び出した武器は、二つを強引に一つに繋げたような形状のガトリング砲<タイフーン>。弾の命中率はタイラントに比べると圧倒的に落ちるが、距離が近い今なら、タイラント以上のダメージが見込める兵装だ。

 

「喰らえ!」

「クゥッ!?」

 

 両の手に一つずつ現れたソレを、ブルートンに向かって掃射した。

 左手の盾では全部防ぎきれないと悟ったのだろう。すぐさまブルートンは回避運動を始め、流石スピード型と賞賛したくなる速さで距離を離していく。

 

 良い選択だ。

 接近型でもガトリング四門の射撃は耐え切れないだろうが、離れればガトリングは全く当たらない。更に、こっちから接近すれば、その瞬間反転して襲いかかってくるのも目に見えている。

 というか、僕は移動しながら射撃をするなどという芸当は全くできない。だから今も殆どその場に停止してガトリングの弾をばら撒いている。

 このまま逃げ続けていれば、いつかは弾切れになるだろうし、隙もできるだろう。

 だからその選択は何一つ間違ってない。現状では最善の選択と言える。

 でも、

 

「まだだ!!」

 

 右手のガトリングを格納し、別の武器を呼び出し(コール)、五門の砲門があるミサイルランチャー<サーペント>を右手にマウントする。

 

 サーペントの中には、対象を追尾するタイプのミサイルがセットしてある。

 普通に発射したところで、当然あの大型盾に防がれるだろう。だが、少なからず隙が生まれるはずだ。そこをアサルトライフルで撃つ。

 たとえ与えられるダメージが少なかろうと、僕が勝つにはその積み重ねしかない。

 薄くなった弾幕を掻い潜りながら少しずつこっちに接近してきている白いISをロックオン。ガトリングによる攻撃をやめる直前に、右手のランチャーに発射信号を送った。

 左手のガトリングをライフルに持ち替え、すぐに攻撃できるようにした。

 

 

 次の瞬間、ブルートンは驚くべき行動に出た。

 

 

「エヤァァッ!!」

「は?」

 

 投げた。

 何を投げたかというと、右手の槍を。

 ブルートンは気合の声と共に右手の槍をミサイルに向かって投げた。ミサイルはそのまま飛来した槍にぶつかり爆発した。

 …………近距離型が自分の武器を自分から手放した!?

 

(まずい、アイツの姿が見えないッ!?)

 

 ブルートンの暴挙に暫し呆然としてしまったが、そんな暇はなかった。

 爆煙の中から大剣を振りかぶったブルートンが突進してきた。

 

「ハァッ!!」

 

 キツイだとか肉体へのダメージが大きいだとかそんなことは言ってられなかった。

 アレを喰らってはマズイ。

 本能が告げた答えに背かず、後ろに向かって瞬間加速を行う。

 

「チッ!」

 

 紙一重。そう表現するのが正しいだろう。

 ほんの一瞬反応が遅れていたらあの大剣に装甲を、生身の部分まで斬られていた。

 現に、大剣が掠ってしまった左手のアサルトライフルは鈍い断面を晒している。これ、打鉄の刀を真正面から防ぐだけの強度を誇っているはずなのだが。

 

『駄目男、いえ、四宮拓人』

 

 突然、秘匿通信が繋がった。

 

『私は少々アンタを見くびっていたわ。正直、槍だけで勝てると思ってた』

 

 色々と言い返したいことを宣っているが、こっちはそれにリアクションを返すだけの余裕もない。

 攻撃すらもできない。

 今攻撃しても、全て避けられてしまう。そんな確信めいたものがあるからだ。

 

『アンタは敵でもなんでもなく、障害物みたいなものだとも思っていた』

 

 ブルートンの言葉を聞きながら、改めてアルストロメリアの武器を観察する。

 槍と大盾を仕舞い、3mはある巨大な片刃の大剣を両手で保持している。

 ただの大剣なら、たとえISのパワーアシストがあってもあんなに早く振れるはずがない。

 一体どういうことだ……?

 

『でもね、その認識は改めるわ。

 四宮拓人。アンタは私が勝つべき敵よ。ここで、倒させてもらう』

 

 ブルートンが大剣を構えた。

 来る!

 右手のミサイルランチャーに追尾性能の低い高速ミサイルをセットして撃ちだす。

 

『無駄』

 

 それに対してブルートンが取った行動は非常に単純なものだった。

 こちらに向かって突っ込んできて、すり抜けざまにミサイル五発を大剣で切り裂いた。

 

「……ッ!」

 

 思わず言葉が無くなる。

 なんていう技術。これが、代表候補生の実力。

 舐めてかかっていた訳ではないが、それでも、僕が知っていたブルートンの力は本当に一部だけだったみたいだ。

 

『行くわよ!!』

(クソッ!)

 

 心の中で悪態をつき、僕は銃を呼び出した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 歌穂、友美、幸貴、楯無の四人は特別に許可を取って管制室から見させて貰っている。

 彼女たちの見ている管制室のモニターには、常人では捉えることすら困難な速度で片刃の大剣を振り回すアルストロメリアと、大剣の斬撃を必死に避けながらも確実にシールドエネルギーを削られ、反撃もままならない黒鉄の姿が映っていた。

 

 最初こそ拓人の駆る黒鉄が有利だったはずなのに、武器が変わっただけで状況が一変してしまったことにある者は絶句し、ある者は不安げな表情になったりと戸惑いを隠せないでいた。

 

「そういうこと」

「なるほど」

「どうしたの」

「あの剣の仕組みが分かったわ」

「ホント!?」

 

 冷静にアルストロメリアの動きを観察していた楯無と幸貴の呟きに歌穂はすぐさま喰らいつく。

 

「あの大剣の片側には推進器が隠されているみたい。その推進器で機体の加速と攻撃速度の上昇を同時に行なっているのよ」

「多分拓人は槍に反応するのでさえ精一杯だった」

「だからそれ以上の速度で動かれたら、拓人くんにはどうしようもないわね」

「なんとかならないの!?」

「黒鉄の能力なら何とかならない訳じゃないわ」

 

 慌てている歌穂とは対称に冷静に楯無はそう言った。

 

「但し、拓人くんに対処出来るだけの余裕があれば、だけどね」

 

 あくまでも客観的に楯無は告げ、それを聞いた歌穂と友美は不安と心配で慌て出す。

 落ち着きなさい、と楯無が二人を宥めているのを尻目に、幸貴は祈るようにモニターを見ている。

 

(拓人……)

 

 楯無を除き、拓人の訓練に一番長く付き合ってきたのは他ならぬ幸貴であった。今までどれだけ頑張ってきたのかを知っている。

 だから勝って欲しい。そう願った。

 あれだけの努力が報われないなんて、そんなことは起きて欲しくなかった。

 

「頑張れ」

 

 その言葉が皮切りとなったかのように、モニターの中の拓人はアイリスから距離を取ることに成功し、アリーナの外周を飛行し始めた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 反転して、後ろ向きにアリーナの外側を飛び、後ろから追いかけてくるブルートンに向けて右手のアサルトライフルと左手のガトリング砲を撃つ。ブルートンは左手に大盾を呼び出して防ぐが、呼び出すまでに数発命中した。

 再び反転して飛ぶ。

 

「待てぇッ!」

(やっと慣れてきた)

 

 幾度目かなんて数えてはいないが、少なくとも二十回以上大剣の斬撃を受けたあたりでようやくあの大剣の動きが読めるようになってきた。

 完全に読めるわけではないから三発に一発は攻撃がカスるけど、少なくとも直撃するよりかはマシだ。

 

「ハァァァァ!!」

 

 背を向けて逃げていたこちらに追いつかんとする白いISから、気合の声が聞こえた。

 360度全方位を写すハイパーセンサーが捉えた相手の構えから、恐らく左後方からの袈裟斬りが来ると予想する。反転して避ける時間は無い。

 

 急停止、同時に上昇して回避する。

 攻撃を避けた為に僅かながら隙ができた眼下のブルートンに銃を撃ちまくる。

 

「逃げるなァ!」

(逃げるに決まってるだろ!)

 

 正面切って戦えば間違いなく負ける。

 

 今更なことではあるが、これは確定事項なのだ。試合が始まったばかりの油断していた状態のブルートンならいざ知らず、今のブルートンはほとんど油断も隙もない。

 次の策で倒しきれなかったら、ほぼ確実に僕の負けだ。

 

(でも勝つんだ、絶対に!)

 

 両手の銃を仕舞い、ミサイルランチャーを展開。

 切り札その二をセットして下から襲いかかってくるブルートンに向けた。

 

 

 

 

 

 下から急上昇したアイリスから放たれた切り上げを回避し、拓人は両手のミサイルランチャーをアイリスに向けて撃った。

 

「だから無駄ッ!?」

 

 すぐに体勢を立て直したアイリスは大剣でミサイルを切り払うが、予想に反してミサイルは爆発せず、代わりにアリーナ全体を覆いこんでしまうほど大量の煙が発生した。

 

(無駄な足掻きを!)

 

 アイリスはハイパーセンサーを通常視界から切り替え、煙の中にいる拓人の姿を探した。

 ISのハイパーセンサーは、人間の視界とは違い、光の反射、熱、音、振動、空間に発生した圧力すらも捕捉できる。

 だが、

 

(……え?)

 

 センサーは黒鉄の姿を検出しなかった。

 

 そんなはずはないともう一度アリーナ全域をくまなく探したが、やはり黒鉄の姿を見つけることは出来なかった。

 熱、振動、音。あらゆるセンサーが黒鉄の存在を否定した。

 

「一体」

 

 何処に、とは言わなかった。いや、言えなかった。

 ガトリング砲の低い銃撃音が響き、白いISに無数の銃弾が飛来したからだ。

 

「クッ、そこかぁ!」

 

 すぐさま銃弾が飛んできた方向に加速し、大剣のブースターを利用して独楽のように回転して拓人の居ると思われる空間を切り裂いた。

 しかし、そこに黒いISの姿はなく、大剣は空を切った。

 アイリスは再びハイパーセンサーをアリーナに走らせ、拓人の姿を探すがやはりその姿は映らない。

 

(消えた!? いえ、そんなはずはない! 確かにさっきまで四宮拓人は此処にいた)

「何処に居る、四宮拓人!」

 

 アイリスは油断なく、一匹のネズミも逃さないと言わんばかりの気迫で周囲を警戒する。

 

「きゃあッ!」

 

 が、360度全方位を警戒していたにもかかわらず、左側面から飛来したミサイルに反応できず、爆風に吹き飛ばされた。センサーは何も感知しない。

 

「な、なんで……」

 

 驚く暇もなく銃弾が彼女の身体を包む装甲を傷つけていく。

 

「──ッ!!」

 

 代表候補生として培ってきた経験から大盾を展開し、見えざる敵からの攻撃を防ごうとする。

 しかし、それも上手くいかない。

 当然である。相手が何処に居て、どんな攻撃をするのか、アイリスには見えないのだから。

 

「あぁ~~、もう、何処に居るのよーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

『あぁ~~、もう、何処に居るのよーーーー!!!!』

 

 アリーナ全体を覆い隠す煙の中でブルートンが吠えた。

 仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。

 今僕が取っている戦法は、やられている方からすれば面倒なことこの上ない。苛立ちもするだろう。

 

(ま、知ったことじゃないけど、ね!)

 

 盾でガードしきれていない頭部部分にアサルトライフルの銃弾を数発撃ち込み、すぐに移動する。一箇所に留まっていたら間違いなく見つかってしまう。

 銃弾をまともに喰らったブルートンはついさっきまで僕がいた場所に突っ込み、大剣を空振りした。

 

 ブルートンをかく乱している方法は何の事はない、旧式の単純なものだ。

 

 ECMというものがある。

 電子対抗手段の略語であるそれは、機械のセンサーなどを妨害する機能を持つジャミング装置などを指す言葉だ。単純ではあるが、その分、効き目はスゴイ。

 

 このクロガネには、対IS用のECMが搭載されている。

 それを使ってアイツのハイパーセンサーを機能しない(と言ったら語弊があるが)ようにしただけだ。

 

『何処だァ!』

 

 煙だらけで自分の視覚が頼りにならないなら、ISのハイパーセンサーを頼るしかない。しかし、そのハイパーセンサーも頼れなくなってしまったらどうなる?

 答えは今のブルートンと同じ状態まで追い込まれる、だ。

 

 勿論、この方法にだって弱点はある。

 ECM自体は事前に知っていれば、ある程度対策、所謂、対電子対策というものが取れてしまうのだ。そうなってしまえばこのECMは殆ど役立たずだ。

 もう一つ、とても大きな弱点がある。

 

(そろそろ時間が迫ってる)

 

 それは連続使用時間に制限があること。

 この機能は博士曰く「一次移行の際に偶発的に生まれたもの」らしく、元々存在しなかった為か色々と不安定なのだ。瞬間的な使用すらも大きな負担に成りかねない。

 そして今、使用限界がすぐそばまで迫ってきている。

 見たところ、まだまだブルートンのISはシールドエネルギーをそれなりに残している。

 今の武装では残り時間で倒しきれないだろう。

 

(あまり使いたくないけど、仕方ないか)

 

 両手のアサルトライフルの弾倉を全て撃ち尽くしてから、すぐに最大限ブルートンから離れ、とっておきの、そして一番使いづらい武装を呼び出す。

 大型試作電磁砲(レールガン)【カグツチ】。

 本来の<黒鉄>にも搭載されていた切り札で、使い勝手は群を抜いて最悪な武装。但し、威力は折り紙付きという困った兵器だ。

 

 打つまでの充電時間にECMが停止しないことを祈りながら、照準をブルートンに合わせて構えた。

 

【…………10%、…………20%……】

 

 頭部装甲のディスプレイに電磁砲の充電率が表示され、数値が大きくなるほどに低い唸り声のようなものが聞こえてくる。

 

『音?』

 

 センサーが、静止しているブルートンの呟きを拾った。

 ……何故だろう。無性に嫌な予感がする。

 

『…………そこかッ!!』

 

(なッ!?)

 

 離れた位置(アリーナの反対側)から、ブルートンは真っ直ぐ僕に向かってきた。

 どうやら電磁砲の音を聞き分けたらしい。まだECMが機能しているのを見る限り、自分の耳で聞き取ったようだ。どんな地獄耳だ。

 って冷静に考えてる場合じゃない!!

 

【70%、……】

 

 このままでは撃つ前に切られてしまう。

 まだチャージが終わってないけど、撃つなら今しかない。あの速度で向かってきてるなら相対速度的に避けることはまず不可能なはず。

 こいつで、

 

「墜ちろ!!」

 

 トリガーを引いた。

 瞬間、両手で保持した試作電磁砲の砲身は、強大な電気量で加速した金属を射出し、それは、センサーに映る白いISを飲み込んだ。

 空間に衝撃が走り、アリーナを包んでいた煙のほぼ全てを吹き飛ばした。

 およそ80%のチャージで放ったが、多分シールドエネルギーを削りきれたはずだ。

 

(やったか?)

 

 電磁砲の発射、着弾によって一時的に高まっている温度が、ハイパーセンサーによる捜索を妨害し、煙が視界を遮っている現状では、相手の様子を確認することもできない。ハイパーセンサーの機能切替が未だに使いこなせない所為で、今は警戒しながら待つしかない。

 そして、煙が晴れ、そこから現れたのは、

 

「ハァァァァ!!」

 

 黒い痕がそこかしこに付いている白いISを身に纏い、片手剣を両手で振り上げたブルートンの姿だった。

 

 




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よろしければ、次も彼の物語にお付き合いください。
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