「はい、それではお願いします。失礼します。」
ここは福田総合の職員室。
とても教師とは思えない風貌の男が一人、受話器を取っていた。いつもとは違う丁寧な言葉遣いに周囲は動揺の色を隠せない。
「どうしたんですか、鮫島先生?そんな似合わない言葉遣いしちゃって!」
「うるせえやい、練習試合の申し込みだよ、練習じ・あ・い!」
たまらず話かける同僚の言葉に返した言葉はまるで子供のようにわくわくした色が感じられた。
「「(き、きもちわるい)」」
職員室の誰もがそう思った...
「全員集まれ!!監督から話がある!!」
「よく聞け、お前ら!!練習試合が決まったぞ!相手は全国常連...秋田県陽泉高校だ!!」
体育館に動揺が走る。陽泉とは何度も戦ったことがある。結果は五分五分。
しかし、それも去年までの話。
今年は...
「陽泉ってたしか、紫原が行ったとこかいの?」
「ああ、たぶんそうだとおもうぜ。」
この二人の言葉はいつも緊張を走らせる。
「紫原ってキセキの世代センタ、紫原敦!?」
「身長2m越えの人間離れした大型センターの!?」
名前を聞いただけでこの騒ぎよう。
いかにすさまじい選手なのかが分かる。
「まあ...強いっちゃあ強いが、キセキの世代の中じゃあ一番怖くないの。データは揃っとる。あとは、それに合わせた練習しとけば勝てる相手じゃ。」
「本当かよ!?」
キセキの世代の強さを最も体感しているのはこのチームでは紅海斗。そのおt子がこうもあっさり勝てると宣言した。
入部してすぐの紅白戦以来、紅の発言力は日に日に増していた。
実力もあり、努力もしている。部の皆が紅を認めるのにそう日はかからなかった。
「本当じゃ。先輩、皆でデータの共有したいんじゃがどうかの?」
「ああ、そうだな。いつも通りに部室でミーティングだ!」
いつも通り。そう、すでにこのチームは紅の色に染まっていた。
「(もっとじゃ、もっとわしの色に染まれ。そうすれば、あいつらの称号を奪える...)」
...練習試合当日。
今回は陽線高校が福田総合の体育館に出向いている。
「ねみぃ。もう帰りたいんだけど。この試合、俺いらなくね?」
「まあそう言うな、敦。相手のチームには敦の同級生がいるんだろ?たのしみじゃないか!」
紫原をなだめるのは氷室辰也。今はまだ無名。しかし、この先かならず全国にその名を轟かせる逸材である。
「今回はお前ら2人が主役じゃい。頼むぞ、二人共。」
「だそうだぜ、二人共。このアゴに免じて頑張ってくれや。」
「アゴアルな。」
そう言うこの3人も全国に名を轟かせている名選手達である。
…
「今日はよろしくお願いします。」
「いや、こちらこそ。実りのある試合にしよう。」
両監督が手を合わせる。実はこの2人、知り合いだったりする。
「さーて、今日の試合だが。新チームの初お披露目だ。特にルーキー2人のな。ここで勝てないならまたオーダーの組み直しだ!そのつもりでいけよ!!」
福田総合チームオーダー
4番PG 石田英輝
11番SG 望月和宏
6番C 北博史
10番F 灰崎祥吾
7番? 紅海斗
「さて、むこうも気合充分のようだ。こちらも全力で迎え撃て。紫原、状況次第ではお前もOFに参加しろ。さじ加減は自分で決めてかまわん。」
「んんー。分かった。」
陽泉高校チームオーダー
4番PF 岡村健一
5番PG 福井健介
11番SF 劉偉
12番SG 氷室辰也
9番C 紫原敦
「よろしく。」
「ああ、こちらこそじゃ。」
互いの主将が握手を交わす。握手を交わせば相手の力量が分かるとは言わないが、それに近しいものは感じ取れる。
「(さすがは全国区の主将というとこか。)」
「(さすがじゃ、握手だけで力が分かるわ。)」
奇しくも、両主将は似たものを感じていた。
「これより福田総合対陽泉高校の試合を始めます!!互いに礼!!」
「「お願いしあす!!」」
ピー-
試合をまず決めるのはジャンプボール。これを制することができれば流れを掴むきっかけになる。
「あれ」
そう言う意味では紫原は絶対のアドバンテージを持っているかのように見えた。ピー--
「ヴァイオレーション、黒9番!」
「やっちった。」
ジャンプボールはボールが最高点に達するまで触れてはならない。
そのルールに触れる者が日本に何人いることか。
「あいかわらずじゃの、紫原。」
「んー?あ、くれちんじゃん。それにざきちんも。久々だねえ、奇遇だねえこんなところで。」
元チームメイトがいるチームさえ知らない、これが紫原敦という男。
「ええけ、はよボールくれや。こっちははやくお前らをぶちのめしたいんじゃ」
これは挑発。その男に潜む獣を引きずり出すためのもの。
「くれちんでも、捻り潰すよ?俺にくれちん達が勝てるわけないじゃん。忘れたの、くれちん達はずっと控えだったんだよ?」
「おめでてえな、てめえは。」
そう言い残し、灰崎はOFに回る。
「よし、まずは一本!!」
紫原がいる以上、慎重にならざるをえない。それは昨日のミーティングで折込済みである。その上で得点をするためには。
「紅っ」
ボールは紅に渡る。そしてそれと同時にフォーメーションチェンジをする。俗に言うアイソレーションである。1on1のためのフォーメーションだ。
「紫原、教えてといてやるわ。わしはお前ら全員のデータを持っとる。これからお前らがどう動くかなんぞ手に取るように分かる!!」
全力のドライブ。しかし、そのドライブはキセキの世代のそれには遠く及ばない。
「いくで、ジャンプシュート。」
「はあ?なに自分で言っちゃってんの!!」
当然、紫原はそれをブロックする。しかし、ブロックしたと思っていた手にはボールはない。わずかにチップしたのみであった。
「(おかしい、こんな角度で打ってもシュートは入らない。なんだ、あれは?)」
「ナイス、紅!!」
灰崎は空中でボールを取り、そのままダンクを決めた。
「お前のブロックする手の高さ、角度が分かっとればそれに合わせてボールを放るだけでアリウープになる。しかもお前は後ろ方向へのダッシュが弱いけえのう。紫原、わしが貴様らを見とるだけじゃと思うなよ。わしは貴様らに劣っていると思ったことは一度もない・・・!!」