if〜刹那君は引きこもり〜   作:猫舌

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第33話

三人称サイド

 

 

今日は珍しく大雨の降る日だった。土砂降りの道を中学生である蒼乃 真希は下校していた。広げている傘にこれでもかと言わんばかりに雨音が響く。本来ならば直帰する筈の彼女は、家を通り過ぎて先にある刹那の家へと向かっていた。愛と欲望に忠実な彼女は恋人に会う為ならそんなものは気にしない質なのだった。暫く歩くと、刹那の家の前で一人の少女が傘も刺さず立ち尽くしていた。その目に光は無く、目元から流れている物は涙なのか雨水なのかも分からない程に濡れていた。

 

 

「・・・何してんのよ《アリシア》」

 

「あ・・・真希」

 

 

目の前の少女《アリシア・テスタロッサ》を傘に入れて真希は冷めた目で見る。刹那を無理矢理管理局へ入れようとした馬鹿の一人。そんな立ち位置に居る少女はボソボソと口を開いた。

 

 

「あのね・・・フェイト達と喧嘩しちゃったんだ」

 

「そう。で、何故此処に居るの?」

 

「分かんない・・・気が付いたら此処に歩いて来てたんだ」

 

 

そう言うアリシアの足は何も履いていなかった。両足は霜焼けで赤くなり、痛々しい。家から飛び出して来たのだろう。そんなアリシアを見て真希は溜息を吐いた後、刹那の家のインターホンを押す。

 

 

『はい。あ、真希ですか。・・・ソレは』

 

「何か居たのよ。どうする?」

 

『・・・シャワーと着替えだけなら貸します。入れてください』

 

「了解よ」

 

 

真希はアリシアの手を取って如月家へと連れて行く。

 

 

「セシアに感謝しなさい。私や貴方を入れてくれるんだから・・・」

 

「・・・」

 

 

アリシアは俯き、下に視線を向けたまま如月家の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ、ホットココアです」

 

「ありがとう・・・」

 

 

シャワーと着替えを借りたアリシアはセシアにリビングでココアを貰っていた。このデバイスも何気に甘い。言葉だけ聞けば優しい世界と言った感じだが、アリシアの周りからは警戒の視線ばかりであった。針の筵状態である。そんな中ココアを飲んでいるとソファに座っていたアインスがアリシアに聞く。

 

 

「テスタロッサ。此処に来た喧嘩の原因は何だ。余程の事だろう、お前がそんなになるなんて」

 

「・・・私ね。管理局辞めたんだ」

 

 

アリシアの言葉にその場の全員が固まる。あの管理局馬鹿一代である高町なのはの取り巻きのアリシアが辞めるなど誰も予想していなかった。更にアリシアは続ける。

 

 

「私ね、本当は真希が刹那の身の潔白を教えてくれた時、何となく分かってたんだ」

 

「なら何で刹那の事、信じてあげなかったのよ・・・」

 

「私以外誰も信じて無くて、ある日他の子にこのままだと虐めるって言われたの」

 

 

アリシアはココアをもう一度飲んでから話を続ける。

 

 

「最初はそんなの気にしないって思ってた。でも、ある日その子達に無視されたり陰口を言われる様になったの。・・・怖かった」

 

 

そう言ってアリシアは震える。今まで経験した事の無い自分に対する明確な嫌悪、敵対心に恐怖していた。

 

 

「このままだとフェイト達にも見捨てられちゃうって思ったら、何も出来なくて・・・」

 

「それで刹那を見捨てたのね」

 

「最低なのは分かってる・・・でも私だって怖かった!一人は嫌だって・・・」

 

「・・・ふざけるな」

 

 

心の底が冷え切る様な声でアインスがアリシアを床に押さえつけ、眉間に魔力陣を展開した手を突き付ける。その目は目の前の獲物を狩る獣そのものだった。アインスは殺気を抑えることなく激昴する。

 

 

「何が怖かっただ。刹那はお前の何倍も無視され陰口を叩かれ、挙げ句の果てに暴力まで振られ続けた。私はその時居なかったから聞いた話だが、教師にレイプ紛いの事だってされている」

 

「・・・嘘」

 

「嘘な訳無いだろう。それなのに一人が怖かった!?その要因を作り上げたのがお前達だ!知らないだろう、刹那が何度も自殺を図っていた事もこの前まで真面に笑顔すら浮かべられなかった事も!」

 

 

アインスの怒りに周りも思わず気圧される。それでも全員アリシアに対する敵意の目を止める事は無かった。アインスは続ける。

 

 

「刹那は優しい子だ。自分を裏切った真希やその仲間の元主従である私をこうして愛してくれている。だからこそ私達はその優しさを踏み躙るお前達が許せない」

 

 

今にもアリシアの頭部を消し飛ばさんとする右手を収めてアインスはアリシアから退く。

 

 

「セシア。アレを読ませるのはどうだ?」

 

「・・・罪の重さを自覚させるのには丁度良いですね」

 

「私は刹那のプライバシーを侵害してるみたいだからちょっと反対ね」

 

「でもそうしないとこの馬鹿は事の重さを分からないままだよ」

 

「・・・分かったわよ。只、この子に耐えられるのかしら・・・?」

 

 

顔を青ざめながら真希は震え上がった。そんな中、セシアが一冊の日記帳を持って来た。其処には刹那の名前が書かれていた。それを机に置いてセシアはアリシアに言う。

 

 

「これは昔、マスターが日課にしていた日記です。これを読みなさい。そこには貴方の、貴方達の罪が記されています」

 

 

アリシアは今までに無いくらいに震えながら日記を開く。丁度買い換えたのだろうか、そこには刹那が小学校4年生の途中からの日記が記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[1月8日]

 

今日から3学期が始まる。達也達とまた学校で楽しい生活を送れると思うと楽しみで仕方ない。でも、セシアとの鍛錬も頑張らなくちゃ。

 

 

[3月15日]

 

朝、僕の合成写真と根も葉も無い噂が出回っていた。達也が庇ってくれたけど、これからどうなってしまうんだろう・・・。

 

 

[3月23日]

 

今日は終業式で4月までは春休みだ。最近、無視される事が多く、教科書を捨てられる回数も増えた。挫けそうな僕を支えてくれる達也達は本当に優しい子達だと思った。新学期からも頑張ろう。

 

 

[4月9日]

 

達也達と同じクラスになった。僕の噂は何時の間にか肥大化していて、その出処も掴めなかったと謝られた。別に達也達は悪くないのに・・・。今日はお腹を殴られるだけで済んだ。

 

 

[4月20日]

 

最近、担任の田辺先生が怖い。心なしか僕によく触ってくる気がするし、先生が教室を急いで出るのを見た後、僕の体操着にベト付いたナニカがぶちまけられていた。思わずそれは捨ててしまった。今日は鳩尾を殴られて暫く動けなかった。

 

 

[5月11日]

 

達也達から距離を置く事にした。このままだと彼らも僕の事に巻き込まれてしまう。助けられていた僕が言う事では無いけど皆には安全な所に居てほしい。今日は上級生に財布を取られてしまった。今日のご飯はお茶漬だ。ごめんねセシア。

 

 

[5月30日]

 

僕の机に花瓶が置かれていた。花は近くに生えているタンポポだった。本当なら泣くのだろうが、好きな花だったので、少し和んだ気がした。昼休みに体育倉庫でドッジボールの的にされた。ドッジボールは普通ハードルで殴ったりはしない。

 

 

[6月3日]

 

下駄箱に手紙が入っていて、指定された場所へ行ったら中等部の人達が居た。僕の噂は高等部やその上にも伝わっているらしい。体をライターで炙られた。顔ではなく服の下に傷を付けてくれるからセシアにバレないのが唯一の救いだ。

 

 

[6月7日]

 

高等部の人達にレイプされた。世の中には僕みたいな顔に興奮を覚える輩が居るらしい。全てが終わった時には18時を回っていた。写真も撮られたからこれからもネタにされるのだろう。

 

 

[6月12日]

 

今日は女装して高等部の人達の父親の相手をさせられた。彼らの父親は県の議員らしく、学校にも寄付している為、融通が効くらしい。友達の安全を保証してくれると言った。達也達を守れるのなら頑張ろう。

 

 

[6月14日]

 

何時もの様に議員さん達の相手をしてシャワーを浴びると思わず血が出るまで体を擦ってしまう。最近自分の体に嫌悪感が湧いてきた。

 

 

[6月20日]

 

最近は議員さん達の相手をするのが嫌では無くなって来た。この時だけは誰も僕を否定せずに優しく接してくれる。この時間が続けば良いのにと思った。それに気持ちよくなれるお薬もくれた。

 

 

[6月23日]

 

もう相手をしなくて良いと言われた。少し寂しい気もするが目的は果たす事が出来たので良かった。相変わらず学校では暴力が絶えないけど・・・。お薬が無くなってからイライラする事が多くなった。

 

 

[6月29日]

 

今日、達也に屋上へ呼ばれた。僕は最初から彼の手の上で踊らされていたんだ。なのは達も僕を信じてくれなかった。好きだっただけあって真希に見捨てられた時は辛かった。なら僕のして来た事は何だったのだろうか。こうして日記を書けている辺り、そんなにショックではなかったのか、それとも僕が可笑しくなってしまったのだろうか・・・。恐らく後者だろう。セシアに傷を直してもらったらイライラは無くなった。背中に一つだけどうしても傷が残った。

 

 

[7月3日]

 

学校に行かなくなった。それからもずっと自分の全てが気持ち悪い。無意味に汚れた体も再び快楽に溺れて忘れたいと思う思考にも嫌気が刺す。セシアは気持ち悪くなんか無いと言っていたが、きっとこの体は隅々まで汚れきっているのだろう。背中の傷が痛む。

 

 

[7月10日]

 

ニュースであの議員さん達とその息子が豚箱に入れられたと報道していた。これで完全に縋る物が無くなった。僕はこれからどうすればいいのだろうか・・・?

 

 

[7月11日]

 

試しに自殺してみる事にした。セシアを強制スリープモードにして飲まず食わずで餓死してみる事にした。どれくらいで死ねるかな?

 

 

[7月24日]

 

自殺チャレンジから数週間が過ぎた。その間何も食べてないし飲んでも居ないが未だに死ぬ傾向は無かった。どうやら餓死は無理らしい。こればかりは丈夫な体を呪う。無くなっていく感覚の中、背中の傷の痛みは消える事は無かった。

 

 

[7月27日]

 

試しに崖から飛び降りて見た。頭部から凄まじい衝撃と痛みがあったが、気が付くと傷一つ無かった。この程度では死ねないらしい。

 

 

[8月5日]

 

田辺が僕の家まで来た。家に無理矢理入って来て僕の服を引きちぎった。自分のズボンに手を伸ばした所で思わずザケルを撃ってしまった。でもこれで二度と来る事は無いだろう。胃には何も入ってないのに嘔吐し続けた。その日はトイレから出られなかった。背中の傷も死ぬほど傷んだ。

 

 

[8月10日]

 

レアスキルで毒を作ってみた。テトロドトキシンやトリカブトを飲んでみたが、苦しくなって気絶して、目を覚ませば何とも無くなっていた。この体は毒でも死ねないらしい。どうすれば死ねるのだろうか。

 

 

[8月18日]

 

意を決して体をバラバラにしてみた。目が覚めるとバラバラになっていた部分それぞれが僕になっていた。プラナリアかよ・・・。レアスキルで元に戻した。

 

 

[8月20日]

 

レアスキルで絶対に死ねるスキルを創ってみたが、それでも死ねなかった。お願いだから僕を殺して欲しい。

 

 

[8月30日]

 

死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

 

日記は此処で終わっていた。アリシアは日記を置いて床に胃の中身をぶちまける。自分達がまんまと騙され、仲間内で笑っている間に優しい少年はその心をすり減らしていた。この日記では彼は何回自殺した?流し読みしても100回は自殺し、失敗している。そして自分の死ぬ道を探し続けていた。小学4年生をその思考に至らしめた自分は、自分達は何故のうのうと生きてられるのか。そんな考えがぐるぐると回り続ける。するとリビングのドアが開かれた。

 

 

「あの・・・大丈夫ですか?」

 

 

目の前に現れたのは車椅子に乗った白髪の少年だった。自分に向かってタオルを渡す彼は昔よりもやせ細り、身長も全く変わっていない。小学生どころか幼稚園児と言われても納得する幼さであった。その体は震えていて、まるで初対面の相手に震える猫の様だった。

 

 

「あ、ありがとう・・・」

 

「いえ・・・」

 

 

刹那からタオルと受け取ると、トリエラが直ぐに刹那をアリシアから離す。刹那は為すがままであった。暫くして落ち着いた頃にはセシアが吐瀉物を片付けていた。皆が警戒心を解かない中、刹那だけは心配そうな目でアリシアを見つめる。アリシアはその眼差しに罪悪感を感じずには居られなかった。

 

 

「・・・今のマスターには記憶がありません」

 

「え・・・」

 

「管理局に襲われて私達やクズに人質にされていた人達を守る為にこうなったんです」

 

「そんな・・・戻る見込みは無いの!?」

 

「貴方に言ってメリットありますか?」

 

 

セシアの言葉にアリシアは顔を手で覆う。またやってしまった。全てが遅すぎた。自分の罪を認めた時には全て終わり、取り返しの付かない事態に陥ってしまっていた。涙が止まらない。刹那への罪悪感、自分への嫌悪に泣く事を止められなかった。そんな彼女の頭に小さく、暖かな感触があった。顔を上げると、刹那が微笑みながらアリシアを撫でていたのだ。

 

 

「よく分かりませんけど・・・泣いてる時はこうすると落ち着くってセシアさんがいってました」

 

「・・・私にはそんな資格無い。大切な人の繋がりを壊しちゃったから」

 

「えっと・・・なら新しく作れば良いじゃないですか」

 

「作る・・・?」

 

 

?を浮かべるアリシアに刹那はなるべく優しく言った。

 

 

「確かに一度壊してしまった物は元通りには直りません。でも、別の物に新しく作り変える事は出来ます。だから今とは違う繋がりでその人の事を大切にしてあげてください」

 

「新しい繋がり・・・うん、頑張ってみる。ありがとう」

 

「どういたしまして・・・えっと・・・?」

 

「私はアリシア。アリシア・テスタロッサ。アリシアで良いよ」

 

「・・・如月刹那です。刹那で良いですよアリシアさん」

 

 

そう言って二人は自然に握手を交わしていた。その後アリシアは前回の千冬達同様口止めをされてから帰路に着いていた。その目に確かな決意の光を持って進む彼女の上では満天の星が輝いていた・・・。

 

 

三人称サイド終了

 

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