if〜刹那君は引きこもり〜   作:猫舌

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第42話

刹那サイド

 

 

凛さん達とのレッスンが終わると、僕達はデスクに座る。そして千川さんがニコニコと良い笑顔で説明する。

 

 

「それではここから私が説明しますね。刹那君と真希ちゃんにはこの領収書の山を計算してもらうわ」

 

「あの、ちひろさん?これって事務員の仕事なんじゃ・・・」

 

「ウチの事務所にそんな余裕ありませんよ~。ほら、真希ちゃんのお父さんも頑張ってるし」

 

 

千川さんの視線の先では、別件の書類を超スピードで片づけて行く祐樹さんの姿があった。諦めて僕は領収書の一枚に手を伸ばす。そこからはひたすらに無心で作業を続けた。

やがて作業が終わり、纏めた書類を千川さんに渡す。

 

 

「あの、チェックお願いします」

 

「は、早くないかしら?・・・間違いも無し」

 

「次は何をすれば・・・」

 

「本当はこの作業午後まで掛かると踏んでたんだけどなー。ご褒美にお菓子とジュース持って来るから、刹那君は休んでて」

 

「わ、分かりました」

 

「それから、私の事はちひろって呼んでください」

 

「・・・ちひろさん?」

 

「こっふ・・・鼻血が」

 

 

ちひろさんは鼻血を拭きながら給湯室へと消えて行った。僕は席に戻ってチラッと隣を見る。

 

 

「うぅ・・・」

 

「・・・はぁ」

 

 

山田先生と真希の手は全然進んでなかった。てか真希は前世社会人だったのに何してるんだ?それに計算すれば良いだけじゃないか。

 

 

「刹那早くない・・・?」

 

「あれ位の計算すぐ終わるでしょうに」

 

「私教師としての自信無くなってきました・・・」

 

「ていうかまだ作業始まって一時間程度よ。あの山をどうやって崩したの!?」

 

「いや、片っ端から見て計算しただけだよ?電卓置いてあったの気付かなかったけど」

 

「ま、待って。それって暗算で終わらせたって事?」

 

「まあ、そうなるね」

 

「「何この天才・・・」」

 

 

なんか二人が落ち込んでる。おーい、休んでないで手を動かせー。そう思っていると、ちひろさんが僕の前にオレンジジュースとクッキーを持って来てくれた。

 

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます。はむ・・・おいひぃ」

 

「か、可愛い・・・!」

 

 

ちひろさんは僕を見ながら引っ切り無しに携帯で写真を撮って来る。鬱陶しいが、物を貰っている以上、下手に言えずになすがままにされる事にした。

暫く経ち、真希と山田先生の前にあった山も半分以上なくなっていた。そんな時、ちひろさんが手をポンと叩いた。

 

 

「一旦休憩にしましょう。もうお昼ですし」

 

「やっとお昼・・・お腹空いたわ」

 

「実は私も・・・」

 

 

真希と山田先生はグッタリしながらお腹を鳴らす。僕も中途半端に食べた所為か、お腹が空いた。すると祐樹さんが僕達の前に来る。

 

 

「それじゃあ昼飯にしようか。外のファミレスで奢るよ」

 

「よっし!私ハンバーグとピザ!」

 

「わ、私は自分で払いますので・・・」

 

「良いんですよ。先生もお疲れでしょうし、家の娘がお世話になってるお礼とでも思ってください」

 

「・・・外、か」

 

 

そう外。しかも東京なんて人口が多い県で外食。正直な所、気絶する未来しか見えない・・・。そんな僕の思いも露知らず、空腹に耐えきれなくなった真希が僕を小脇に抱えて街へと歩き出した。

 

 

~市街~

 

 

「うう・・・人ぉ」

 

「本当に苦手なんだな彼・・・」

 

「はい。それについては触れてあげないでください」

 

「はい。でも彼の怯え方は異常だ。なんであんなに?」

 

 

祐樹さんと山田先生の会話が聞こえるが相手する余裕がない。フードを被って、顔を隠す。それがせめてもの抵抗だ。あとは・・・

 

 

「行くぜクリアマ~インド♪」

 

 

この馬鹿真希を潰すだけだ。今度ザケル300発の刑に処す。

なんだかんだで僕達はファミレスに着き、席へ座る。祐樹さんの隣に真希が、山田先生が僕の隣に座る。

真希は鼻歌を歌いながらメニューを見る。

 

 

「私コレとコレとコレ!」

 

「おいおい。ちょっとは遠慮してくれ」

 

「え~?」

 

 

親子らしい会話をする二人を見て、僕は胸の奥にチクリと痛みを感じた。その痛みを振り払うかの様にメニューを見る。

結局この食事で、僕はオムライスを一皿だけギリギリ食べきった・・・。

事務所へ戻ると、再びスタジオへ。今度は歌の練習の様だ。流石アイドルと言うべきか、凛さん達の歌は素晴らしかった。歌い終わった凛さん達にドリンクを渡す。

 

 

「お疲れ様でした」

 

「ありがと。・・・ねえ、刹那も歌ってみない?」

 

「嫌です」

 

「うん。さ、こっち来て」

 

「話聞いて?」

 

 

即答したのにも関わらず強制的にマイクの前へと連れて行かれる。台を使って高さを調節し、なんとか届く。なんでこんなに高いの?身長が小学生レベルの僕に対する当てつけかコレ?

溜息を一つ吐き、僕は覚悟を決める。そして凛さん達が歌っていた曲を覚えている限り歌った・・・。

その結果が、

 

 

「刹那君、真面目にウチの事務所でアイドルやらないか?このままにしておくのは勿体ない」

 

「いや、あの、祐樹さん?」

 

「経験が足りないと思うのなら、知り合いの経営するアイドル養成学校に話を通す。なに、女子高だが刹那君の見た目と性格なら問題ないだろう」

 

「ひえぇ・・・」

 

 

祐樹さんが今までにない位の目つきで迫って来るからマジで怖い。それにアイドルとか死んでも嫌だ。大衆の目に晒されるとか僕からすれば死刑物だ。余裕で死ねる。

沖縄の時だって、無我夢中だったし・・・。

 

 

「ちょっとお父さん。刹那が困ってるじゃない」

 

「あ、すまない・・・」

 

「・・・まき」

 

 

僕は真希の後ろに逃げる。へタレではない。戦略的撤退だ。

この後は特に変わった事もなく、今日の体験は終わりを告げた。そして僕達はアイドル寮へと向かう・・・。

 

 

刹那サイド終了

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