刹那サイド
事務所から徒歩数分。僕達の目の前に大きな寮が建っていた。ちひろさんが誇らしげに笑う。
「此処がアイドル寮です!事務所よりも大きいですよ!」
「いや、それダメでしょ」
思わずツッコむ。
流石にそれは笑えないっす・・・。
「さあ、入って入って!」
「「「お邪魔します」」」
挨拶して中へ入り、玄関で靴を脱ぐ。そして廊下を歩くとリビングへと出た。寮全員が入る事を見越してか、中々に広い。
そのリビングに備え付けられた共有の大型テレビをソファーに座って見ていた女性が僕達を見た。
「ちひろさん、そこの方々は?」
「あ、《美波》ちゃん。こちら、職業体験に来た祐樹さんの娘さんの真希ちゃんと、そのクラスメイトの刹那君。その担任の真耶さんです」
「初めまして、蒼乃真希です」
「・・・如月刹那です」
「担任の山田真耶です」
「初めまして、《新田 美波》です」
そう言って目の前の女性、新田さんは微笑んだ。そして僕に視線を向けて来る。僕は思わず真希の後ろに隠れた。
「あ、あれ?」
「ごめんなさい。刹那は極度の人見知りなんです。普段は凄く良い子なんですよ?」
「そうなの?ごめんね、ジロジロ見ちゃって」
「あ・・・いえ」
コミュ症な自分を此処まで恨んだ事は中々無いだろう。新田さんは明らかにショボンとしてしまっている。結局僕は謝る事も出来ずに案内された部屋へと入った。
部屋のベッドで寝転んでいると、携帯が鳴ったので出る。
「もしもし?」
『マスター、セシアです』
「セシア・・・!うぅ・・・」
『ま、マスター!?』
セシアの声を聞いて、僕の緊張の糸が一気に切れた。暫く泣いた後、新田さんの事を相談する。すると電話の向こうでセシアが無言になる。
「・・・セシア?」
『あ、すみませんマスター!マスターが初対面の人に関して気に掛けるなんて初めてだったのでつい・・・』
「ごめんね、変な相談持ち掛けちゃって」
『いえいえ!マスターが真剣に悩んでいるんです。助けにならなくて何がデバイスですか!』
「そっか。ありがと」
僕はセシアにお礼を言う。本当、僕には勿体ないパートナーだよ。するとセシアは電話の向こうで悩んでいる声を出す。やがて、溜息を吐きながら言った。
『手紙、と言うのはどうですか?』
「手紙?」
『はい。夜中に新田さんの部屋のドアに手紙を差し込んでおくんですよ。ごめんなさいって。マスターでも手紙でなら本音で話せますよね?』
「うん!流石セシアだ」
『あはは・・・(普段のマスターならすぐに考えるんでしょうけどね)』
「早速書いてみるよ」
『頑張ってくださいね。因みに今の会話を聞いていた全員が応援してますから』
「ファッ!?」
セシアの言葉の後にレヴィ達の声が幾つか聞こえて電話が切れた。家族全員に聞かれていたと思うと顔が熱くなる。
熱の籠った顔をブンブンと振って頭の中から雑念を捨てる。そして真希に呼ばれて晩御飯となった。今日は寮に居るアイドルの何人かが県外へロケに出ている為、美波さんだけらしい。凛さん達は実家から通っているらしく、帰って行った。
テーブルの上に乗っている料理を一心不乱に食べる。僕の隣では真希もパクパクと食べていた。
「うまひ・・・うまひ・・・」
「真希・・・ゆっくり食べなよ」
「き、如月君も食べ過ぎじゃないかな?」
「そうですか?家じゃコレ位普通ですよ」
「それじゃあ刹那君のお母さん大変じゃないかしら?」
ちひろさんが言った瞬間、僕と真希の箸が止まる。それによって場が静まり返ってしまった。ちひろさんは冷や汗を流し始め、山田先生はオロオロし、真希と祐樹さんは顔を青くする。美波さんも首を傾げていた。
僕はなるべく場を白けさせない様に言葉を選ぶ。
「えっと、家では僕が食事を作っているんです」
「ええ!?ご両親はもしかして共働きとか?」
「まあ、そんな所です」
嘘です。
なんとか乗り切り、食事を終える。食器を片づける手伝いを終わらせて部屋へと戻る。ごめんなさい新田さん。必ず手紙で色々話しますから・・・!
心の中でジャンピング土下座をしながら部屋へ戻る。備え付けのシャワーを浴びてパジャマに着替えた僕は机に座って、真っ白な紙と向き合った。
「えっと・・・[突然のお手紙、すみません]でいいかな」
よくよく考えたら人に手紙を書くなんて経験の無い僕はどうしたら良いかも分からずに自分の心をそのまま書いて行く。気が付けば時刻は12時を周っていた。僕は透明化の魔法《グ・リアルク》を発動して廊下を歩く。新田さんの部屋は電気が消えていて、もう寝ている事が分かった。
手紙をドアの間に差し込んだ僕はそのまま部屋まで歩く。途中のリビングで透明化を解除して溜息を吐く。緊張で死にそうです・・・。
ソファーに座って深呼吸をして落ち着いてから歩き出す。
「あ、刹那君」
「にゃっ!?」
物陰から新田さんが出て来て僕は情けない声を上げる。バクバクと鳴っている心臓の音が耳に響く。そんな中、新田さんが僕の隣に来る。
「隣、良いかな?」
「は、はい・・・」
僕の隣に座った新田さんとの無言の時間が続く。な、なんとか抜けださねば・・・!気まずいよぉ!
「刹那君?」
「ひゃいっ!?」
「ふふっ。落ち着いて、ね?」
「ご、ごめんなさい・・・」
新田さんに頭を撫でられて恥ずかしい気持ちになる。何故この人は僕のあんな態度に対して此処まで優しくしてくれるのだろうか。
「あ、あの・・・」
「どうしたの?」
「どうして僕に普通に接してくれるんですか?あんな態度を取ったのに・・・」
思ったよりもスムーズに質問できた。そんな僕に対し、新田さんは優しい笑顔を向けてくれた。
「刹那君って小さい頃の弟にそっくりなの」
「弟さん、ですか?」
「うん。私の弟も一時期は凄い人見知りで家族にすら君みたいな感じだったから」
「そうなんですか・・・」
「そうだよ。実は弟は養子なの」
「えっ」
新田さんの言葉に僕は何も言えなくなった。そんな僕を余所に新田さんは話を続けた。
「弟は小さい頃に両親が事故で無くなっちゃって、その後親戚の所をたらい回しにされていたの。それで孤児院にいたその子をお父さん達が連れて来たのよ」
「・・・」
「あの子、その所為で人間不信になっちゃって。その時の目と君の目がなんとなく似ていたから」
言葉が出ない。想像以上に重い家庭事情に何も浮かばない。むしろ気まずさが思いっきりクリアマインドしたんですけど・・・。
「急にこんな話してごめんね?」
「いえ・・・僕も、似た感じなので」
なんか僕このまま無言だったら凄く失礼な気がする。そんな事を思いながら、魔法とか転生者の事を省いて自分の現状を伝える。あれ?コレ手紙の意味なくね?
気付いた時にはもう遅く、僕はガッチリと新田さんにホールドされてました、はい。えっと・・・何故?
「あ、あの新田さん?」
「ぐすっ・・・」
「む、胸が・・・苦し・・・」
顔が新田さんの胸に埋まって呼吸し辛い事この上ない。僅かな隙間から酸素を取り込みながら新田さんが正気になるのを待つ。
~五分後~
「新田さん?」
「・・・」
~十分後~
「あの・・・」
「・・・」
~十五分後~
「に、にったさん・・・」
「・・・スーハースーハー」
「ごめんなさいマジで離れて!?」
結局更に十五分後に彼女は離れた。
僕はようやく呼吸が普通に出来て安心する。チラッと視線を向けると物足りなさそうな表情の新田さんがいらっしゃった。
「あと五分・・・」
「なんか一晩中掛かりそうなんで嫌です」
「・・・!」
「いや[その手があったか!]みたいな顔止めて!?」
「だって良い匂いがするから・・・」
「僕が悪いみたいに言わないでください」
僕は自分の匂いを嗅いでみるが、これといった何かは感じなかった。だって自分の匂いだもの。分かる訳が無い。
「・・・なんか悩んでた自分が馬鹿みたいだ」
「あ、初めて笑った!」
「はい?」
「刹那君の笑った顔初めて見た・・・可愛い」
「可愛くない!」
「お、男の娘だよね?」
「ニュアンスにイラッと来たけど間違って無いですよ」
この人なんか接し易いな。
ポンポン会話が弾む。気が付けば小一時間程経っていた。
「あー、眠くなって来たんで寝ます」
「私も眠くなって来たから寝ようかな」
「そうですか~」
「そうだよ~」
二人で寝惚けた意識のまま会話をする。この後の事は覚えていない。気が付けば僕の部屋で新田さんと寝ている所を真希に起こされて嫉妬と言う名のナデナデを喰らっていた・・・。
刹那サイド終了