if〜刹那君は引きこもり〜   作:猫舌

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第44話

刹那サイド

 

 

「はい、"せっちゃん"。あ~ん♡」

 

「一人で食えるんでその手退けてもらって良いですか?」

 

「ぐぬぬ・・・」

 

「蒼乃さん!お箸折れてます!」

 

 

どうも、僕です。昨晩以来、新田さんが凄い近いです。物理的に。

今も尚、朝食の卵焼きを僕に向けては勝手に愛称で呼んでいます。そんな新田さんの隣では真希が血涙を流しながら箸を片手で折った。そしてそれを山田先生が慌てながら止めている。

なんともカオス極まりない光景だ。朝食を終え、リビングで僕達は今日の予定を確認する。新田さんは大学に通っているらしく、今日は部活もあって遅くなるらしい。やったぜ。

 

 

「今日は神埼さんの撮影の見学だって」

 

「楽しみね」

 

「私、なんだか緊張して来ちゃいました」

 

「ファイトです」

 

 

適当に言葉を掛けて予定表を読む。やがて祐樹さんに声を掛けられ、事務所の方へと向かった。

 

 

~事務所~

 

 

「煩わしい太陽ね!(おはようございます!)」

 

「・・・お久しぶりです」

 

「おはよう蘭子。元気いっぱいね」

 

「前世からの悲願が果たされる!(刹那君達が来るって聞いたから!)」

 

 

相変わらずのキャラに僕は何故か安心感を覚えた。そんな僕の隣では・・・。

 

 

「はわわ、本物の蘭子ちゃん・・・!」

 

 

見事にテンパってやがりました。そんな先生に神埼さんは近付く。

 

 

「む?そなたは?」

 

「わ、私!この子達の担任の山田真耶と言います!」

 

「ふっ。いざ共に行かん!(今日はよろしくお願いします!)」

 

「生蘭子ちゃんと握手・・・!」

 

 

神埼さんとの握手に涙を流す山田先生。中学生と握手して涙を流す教師・・・うん、なんかキモいな。

そう思っていると、祐樹さんが言った。

 

 

「そろそろスタジオに移動するから車に乗ってくれ」

 

「「はーい」」

 

 

真希と神崎さんが楽しそうに返事をする。僕達は車に乗って、撮影スタジオへと向かった・・・。

 

 

~撮影スタジオ~

 

 

「蘭子ちゃん、スタジオ入りまーす!」

 

 

スタッフの掛け声と共に始まった神崎さんの撮影。カメラの先で、何時ものゴスロリ服に着替えた神埼さんが監督さんの指示でポーズを撮る。その表情は真剣で、アイドルと言う仕事を心の底から楽しんでいた。

やがて撮影が終わると、神埼さんが監督さんに耳打ちをしていた。何か気に食わない事でもあったのだろうか・・・?

 

 

「えっと、如月君だっけ?ちょっと良いかな?」

 

「は、はい・・・」

 

 

初対面である監督さんに突然呼ばれ、僕は向かう。すると監督さんは僕をジロジロと眺めた後に、スタッフに何かを指示する。

 

 

「あの・・・僕に何か?」

 

「ああ、すまないね。君、蘭子ちゃんと一緒に撮影させてくれないかな?」

 

「・・・はい?」

 

 

監督さんの言葉に僕の思考が数秒間飛んだ。僕が?撮影?誰と?神崎さんと?

 

 

「何故僕なのでしょうか?」

 

「蘭子ちゃんと髪の色似てるし、可愛いからね。是非頼むよ」

 

「いやいやいや!僕なんかより向こうにいる二人の方が断然可愛いですからね!?」

 

 

僕は真希と山田先生を指差して反論する。何で僕を選んだこの監督は。馬鹿か馬鹿なのか?それを聞いて監督が難しそうな顔をする。

 

 

「あの二人も良いんだけど、蘭子ちゃんと一緒に写るなら君の方が断然良いよ。それにちゃんとギャラも払うからさ」

 

「・・・祐樹さんが許可するなら」

 

 

僕の事を気遣ってくれる祐樹さんなら断ってくれる筈だ。さあ、諦めて真希と山田先生にターゲットを変えるんだ!

 

 

「彼と蘭子ちゃんのツーショットを!」

 

「良いですね、是非!」

 

「ファッ!?」

 

 

最終防衛ラインがあっさりと突破された!?そう思っている僕の型を祐樹さんが掴んだ。そしてその目は何処か虚ろだった。

 

 

「刹那君、頼む。君を撮らせてくれたら我が事務所の宣伝を支援してくれるんだ。これで事務員が増えてくれれば俺達の負担も減るし、アイドル達も活躍の場を増やせる。あの監督さんは芸能界じゃ有名なんだ」

 

「えぇ・・・」

 

「最低な事を言ってるのは分かってる。だがこんなチャンス滅多に無いんだ」

 

「・・・監督さん、条件があります」

 

「なんだい?」

 

 

祐樹さんの手を無理やり引きはがして監督に言う。

 

 

「今回きりで、ギャラとやらも多めに見繕ってくれるのならやります」

 

「ああ!構わない!」

 

「刹那君・・・!」

 

「マジで今回限りにしてください。恥ずかしさで首吊りそうなんで」

 

 

その後僕は楽屋へ通され、スタッフが急速で作ったゴスロリ服に身を包む。

黒いゴスロリ服に黒の帽子。髪を三つ編みにされた。(イメージはFateのナーサリーライム)

軽く化粧とかさせられるのかと思ったが、問題無いそうだ。

 

 

「刹那君、入りまーす!」

 

「うぅ・・・恥ずかしい」

 

 

スタッフの声で全員の視線が僕に向く。先程まで聞こえていた会話は成りを潜め、シンと静まりかえっていた。

そんな中、少しでも緊張感を和らげる為に真希達の前まで移動する。

 

 

「えっと・・・どう、かな?」

 

「刹那・・・」

 

「ん?」

 

 

真希を恐る恐る見上げると、震えた声でサムズアップしていた。

 

 

「自分・・・見抜き良いっすか?」

 

「死ね!」

 

「ありがとうございますっ!」

 

 

ノータイムでアッパーを叩き込む。真希の体は空中で弧を描く様に吹っ飛び、床へ泥が跳ねた様な音が響く。

て言うか覚悟を決めた人間に対する第一声がそれかよ!?

 

 

「如月君、可愛いです・・・」

 

「いや、嬉しくないです先生」

 

「やだ、凄く可愛い・・・」

 

「蘭子が標準語を!?」

 

「神崎さん落ち着いてください!?」

 

 

なんかこっちはこっちで阿鼻叫喚だし・・・。この後、三十分程のパニック状態を経て、撮影となった。解せぬ。

 

 

「はい刹那ちゃん、もっと自然な笑顔で!」

 

「・・・えへっ☆」

 

「良いね良いね~!」

 

「もうどうにでもな~れっ♪」

 

「わ、我が友・・・(刹那君・・・)」

 

 

なんか頭の何処かで吹っ切れた僕は監督さんの指示に従ってポーズを取ったり、表情を変えたりする。もう途中から記憶なんて無かった。気が付けば、撮影が終了していた・・・。

 

 

「刹那君、本当にありがとう」

 

「あ、あはは・・・」

 

「刹那の目が死んでる・・・」

 

「いや~良かったよ。また機会があればよろしくね」

 

「もうアイドルはこりごりだァ!」

 

 

後日、僕の写真の載った雑誌が売り切れ続出と言う話を聞いてから引きこもりが加速するのはまた別の話しだ。

その後、事務所へ戻った僕達は再び書類作業の手伝いをする。初日よりもやりがいのある内容で良かった。これなら撮影の事を忘れて没頭出来る。

 

 

「・・・刹那可愛い」

 

「へぁっ!?」

 

 

真希の言葉に思い出してしまった僕は顔が一気に熱くなるのを感じて盛大にプリントにミミズの様な線を描く。キッと睨みつけると真希は楽しそうに口笛を吹いていた。

へえ、良い度胸じゃないか。

 

 

「・・・三ヶ月間、キス禁止」

 

「マジすみませんでしたっ!」

 

「蒼乃さん!?」

 

 

真希の突然の土下座に山田先生が目を見開く。僕は土下座する真希を椅子の上から足を組んで見下ろす。

 

 

「どうしたのかな?さっきまであんなに人の痴態を嘲笑っていたのにねぇ」

 

「いやあの、ホント反省してるんで三ヶ月とか勘弁してください」

 

「・・・真希の馬鹿」

 

「あ、今のかなりグッと来た」

 

「やっぱり半年に延長で」

 

「しまった、罠か!?」

 

 

罠じゃねーし。この馬鹿は本当にどうしようもないな・・・。

足元で喚く真希を踏みつけて気絶させてから自分の作業に戻る。暫くすると、祐樹さんが飲み物とお菓子を持って来てくれた。

 

 

「お疲れ様。・・・真希は何してるんだ?」

 

「床と愛を確かめ合ってるそうです」

 

「そ、そうか・・・育て方を間違ったか?」

 

 

ボソッと呟く祐樹さんに山田先生は苦笑いをしていた。多分どんな育て方しても真希の変態性はどうにもならないだろう。本能レベルで染み付いているから。結局この日は書類作業を終えて解散となった。

僕達もすぐにアイドル寮へと戻る。

 

 

~アイドル寮~

 

 

「それでは、刹那君達とのお別れパーティーの始まりです!」

 

「・・・なにこれ?」

 

 

ちひろさんの声で盛り上がるアイドル達を前に、僕と真希、先生はジュースの入ったコップを持って固まっていた。サプライズパーティーだった様で、効果は抜群だよ。

 

 

「せっちゃん、写真見たよ」

 

「新田さん・・・部活は?」

 

「あれは今日のパーティーの為の嘘。あ、部活に所属してるのは本当だよ?」

 

「そっすか・・・今写真って言った!?」

 

「今気付いたの?」

 

「待って。何でアンタがそれ知ってんだ!」

 

「だって蘭子ちゃんがグループチャットで貼ってたから」

 

「あの人マジでシバき倒してやろうか!?」

 

 

何拡散してくれてんだあの人。まだ会った事すらないアイドルの方々に僕の痴態だけが知られたって事?やだ、死にたい。葉山達の事とは別の方向性で死にたくなって来た。

 

 

「ああ、引きこもりたい」

 

「さて、後は写真をポスターに・・・」

 

「MA☆TTE!」

 

 

マジでこの人に関わったらアカン。きっと弟君も苦労しているに違いない。そう思いながら新田さんから離れる。

歩いた先には凛さん、未央さん、卯月さんが居た。

 

 

「あ、刹那」

 

「どうも。態々ありがとうございます」

 

「良いの良いの!皆ノリノリだったし」

 

「はい!それに刹那君の写真可愛かったです!」

 

「やっぱり見たんですね・・・」

 

 

なんとも言えない感情になりながら、卯月さんの笑顔を見つめる。ああ、眩しいな本当に・・・。

 

 

「せ、刹那君が何処か遠くを見つめる目に・・・」

 

「そんなに嫌だったんだ、写真」

 

「ははは・・・黒歴史に新たな一ページが刻まれましたよ」

 

 

僕は今日この日を決して忘れる事がないだろう。そして毎日枕に顔を埋めて悶える未来しか見えない事も忘れてはいけない・・・。

誰か、僕を助けてください・・・。

 

 

刹那サイド終了

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