刹那サイド
お別れパーティーの翌日、午前中に最後の居見学を終え、祐樹さんの車で僕達は海鳴市に戻って来た。その日はもう僕は死んだ眼をして働いた。だってアイドルの皆が優しい目で見て来るんだもの・・・。
だが、これで僕の引きこもりライフが戻って来る!
「・・・そう思っていた時期が僕にもありました」
あれから数日、今僕の目の前で一人の少女が土下座している。その少女の名は《アリサ・バニングス》。前回、月村さん共に金持ちの欲望に見事巻き込んでくれやがりました一人だ。
突如家に真希と来たかと思えば、突如の土下座をして今に至る訳だが・・・もう嫌な予感しかしない。
「一応聞こう。何の用だい?」
「その・・・えっと・・・」
「今はシュテル達居ないから気にせず言えば良い」
それを了承するとは限らないけどね。
「・・・お願い!明日一日だけ私の"恋人を演じて"ほしいの!」
「・・・はい?」
「あ゛?」
バニングスさんの声に僕はポカンとなり、真希からは女子が出してはいけない野太い声が出た。僕は頭を押さえながら聞く。
「どうしてそうなった?」
「私って一応は大物じゃない」
「一応かい・・・」
「ええ。だって家を大きくしたのはパパ達だし、私はその娘って肩書きだけだもの。そこまで偉いなんて思って無いわ」
「ふーん。それで?」
「その事もあって、何かとパーティーに呼ばれるのも多いの」
「今流行りのパーティーピーポーですかそうですか」
「お願いだから話し逸らさないで」
「ほへで?ふふきは?」
「真希は口の中のお菓子を無くしてから喋りなさい」
チッ。このままセシア達が買い物から戻るまで誤魔化したかったのに・・・!
「それでね。私に声を掛けて来る連中も少なくない訳で・・・」
「中にはイケメンとか居そうだけどね」
「居るけど中身がダメね。彼らは私じゃなくて、会社の財産と自分の立場にしか興味がないんだから」
「まあ、金持ちの考えそうな事だね」
「それであまりにもしつこかったからこの前つい彼氏が居るって言っちゃったのよ」
「大体察した。どうせじゃあ証拠にソイツ連れて来いやこのパツ金ツンデレ娘って言われたんでしょ?」
「うぐっ・・・言われ方ムカつくけどまあ、間違ってないわね」
「そっか。諦めろ」
「そこをなんとか!」
答えを出す僕に渋って来るバニングスさん。よりにもよって何で僕なんだ・・・。
「僕以外にも誰か居なかったの?」
「アンタ位よ。家柄とか気にせずに私と付き合ってくれるのなんて」
「中学生にそんな社会性求めるなよ・・・」
「私の出来る範囲でならどんな事でもするわ!だからお願い!明日だけでも!」
「無理!そもそも人前に出るのが嫌な人間誘うとか馬鹿か君は!」
「大丈夫よ!今回は私の家でする小規模のパーティーだから!」
「そう言う問題じゃないし!」
バニングスさんの言葉に僕は反論する。本当に何考えてるんだこのバカ娘は・・・。
「真希も何か言ってやってくれ!」
「そうね。アリサ、刹那は私達の彼氏なの。諦めてちょうだい」
「今なら刹那の小学校時代の写真を渡すわ!」
「その話し、kwsk」
「おいコラ」
駄目だ。真希は使いものにならない。こうなったらセシア達に・・・。
そう思っていると、バニングスさんが携帯電話で誰かと話していた。
「そうなの・・・だから・・・女装・・・」
「何か不穏なワードが聞こえたぞ」
「ありがとう!約束は守るわ!」
「一応聞くけど、相手は誰?」
「セシアさん達よ。ある条件で刹那のレンタルを許可してもらったわ」
「僕に人権は無いのか!?」
結局僕は恋人役をする事になりますた。
~翌日~
「・・・相変わらずのデカさだ」
翌日、僕は年齢魔法で身長を上げてスーツを着込み、バニングス邸に来ていた。流石に身長100cmと少ししかない僕が彼女と釣り合う訳がない。仕方なく底上げしてから髪を後ろで結んでポ二テにしておいた。
真希からは、
『セイバーみたいね刹那』
と言われたけど・・・セイバーってなんぞや?剣士?
訳も分からないまま当日を迎え、パーティーの時刻の数時間前である現在、お邪魔する事になった。ああ、帰りたい。
「刹那様、こちらでお嬢様がお待ちです」
「どうも」
「いえ、こちらこそお嬢様の為に申し訳ありません」
「・・・」
バニングスさんの執事である《鮫島》さんは小学校の頃以来の再会だったが、何処も変わっていない。高町家の面々と言い、この街の住人は全員不老の能力でも持ってるのだろうか?
そんな事を考えながら家の門に足を踏み入れる。暫く歩くと巨大な玄関の前にバニングスさんが立っていた。
「刹那、来てくれてありがとう」
「て言うかバニングスさん。玄関からもう変な匂いするから帰って良いかな?」
「来るなり失礼ねアンタ!?ちゃんと消臭も掃除もしてるわよ!大体、玄関からもうって何よ・・・まるで奥に行ったらもっと臭いみたいな言い方止めて」
「奥は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。玄関だって大丈夫だから・・・」
「まあ異臭はさておき、僕は何して待ってれば良いの?」
「異臭って言うな!ひと騒ぎ起きそうじゃない!?全く・・・取り敢えず上がって」
「バニングスさん、もうそろそろお暇したいんですけど」
「だから帰りたがるんじゃないわよ!早いわよ!」
結局、僕はバニングスさんの部屋に通された。お茶とお菓子持って来るから寛いでろって・・・何すれば良いのさ・・・。
刹那サイド終了
アリササイド
私は鮫島が持って来る筈だった紅茶とお菓子を持って刹那の居る自室へと向かう。このまま話してたら勢いで帰ってしまいそうだったからだ。下手に会話しない方が良いと悟った私は刹那を部屋に置いて来た。
刹那のコミュ症を考えれば妥当な判断だと思う。少なくとも刹那の知ってる人物は鮫島とパパしか居ない。パパは外に出てるから会う事は無いし・・・。そう思いながら私は部屋のドアを開ける。
「待たせたわね。紅茶とおかsってめっちゃ寛いでる!?」
「ん?だって寛げって言ったのそっちじゃん?」
ドアを開けた先に広がっていたのは、ベッドにスーツを着崩して寝転がりながら今週号のマンガ雑誌を呼んでいる刹那だった。私まだ読んでないのに・・・。
私が言ったとはいえ、もうちょっとモラルってもんがあるでしょうがぁ!
「お、思ってた寛ぎ方と違うなって・・・」
「あっそ。それと、お茶とお菓子早くそこ置いて!」
「なんかふてぶてしいわね!?」
「当り前でしょ。こうでもしないと」
そう言って刹那は言葉を止める。良く見ると、その目は虚ろで体は震えていた。
「僕の能力、コミュ症が発動しそうになるから・・・!」
「安心しなさい。いくらでもヴェーラー投げてあげるから」
「バニングスさん、もしかしてやってる?」
刹那は私の言葉に反応して顔を上げた。そして左手に右手を添えて、カードを引く仕草をする。今のは子供の間で流行っているカードゲームのアニメでのアクションポーズだった。
何気にすずかや真希とやっている私もつい刹那の言葉に反応してしまった。でもこれはチャンスなのでは?
「ええ。刹那はどんなデッキ使ってるの?」
「僕は音響ガジェット。使いやすくて好きなんだ」
「私はマドルチェね。すずかは月光メタルフォーゼ使ってるわよ」
「エグいなあの子・・・」
「刹那のも十分よ」
やっていない人間には分からない単語で会話する。そして二人で私の持っているカードを見たりした。
そしてあっという間に時間が経ち、鮫島がノックして声を掛けて来る。
「お嬢様、刹那様。パーティーの準備が整いました」
「分かったわ。それじゃあ、行きましょ」
「ん。覚悟決めますか・・・」
私の言葉に刹那はすぐにスーツを着直して背筋をピッと伸ばす。身長は私より少し高い位になった彼の正装は見ているだけで凄くドキドキする。私の乙女フィルター仕事しすぎでしょ・・・。
そんな思考に陥りながら刹那と腕を組んでパーティー会場へと向かった。
アリササイド終了
刹那サイド
「皆様、本日はお集まりいただき・・・」
パーティー会場となったバニングスさんの庭。そこに造られたステージの上で、バニングスさんの父親である《デビット・バニングス》さんの挨拶が始まった。それが終わると、パーティーが始まる。
お金持ちのドラマでありそうな立食形式で、周りの人達の会話が聞こえて来る。
----最近、如何かな?
----お陰さまで、儲けているよ
----是非、わが社と提携を・・・
本当にビジネスの話ばっかりだ。そりゃバニングスさんも苦労する訳だ。
そう思いながらバニングスさんと会場を歩く。すると、バニングスさんが小声で話して来た。
「・・・流石に此処で名字で呼ぶのは止めてよね?」
「分かってるよ、"アリサ"」
「そ、それで良いのよ。うん、これで私の王子様の完成ね」
「今日一日限定の魔法みたいなものだけどね」
顔を真っ赤にして言うバニングスさんに適当に返す。恥ずかしいなら王子様とか言うなよ・・・。
歩いていると、複数の男性が寄って来た。全員が、明らかに高校生以上だ。
「やあ、ミス・バニングス。この前の件、考えてくれたかな?」
「いやですわ、《ミスター・間桐》。私には恋人が居ると言ったではありませんか」
「・・・と言うと、彼が?」
「ええ。《ミスター・金本》と《ミスター・石上》にも前回お話しした私の恋人の刹那です」
「初めまして、如月刹那と申します。以後、お見知りおきを」
「「「・・・よろしく」」」
僕はなるべく笑顔で挨拶すると、相手方に睨まれた。おお、怖い。
「と言う訳なので、私達は失礼しますわ」
バニングスさんはそう言って、僕の腕を取って歩き出す。僕もさっさと行きたかったので、軽く礼をして去る。
その後も、パーティーは何事も無く進む。バニングスさんとグラスに注がれたドリンクを飲みながら、会話をしていると二人の女性が歩いて来た。二人共高校生辺りだろうか・・・?
「久しぶりねアリサ」
「こんにちわ、アリサちゃん」
「お久しぶりです、《ミス・遠坂》。《ミス・七条》」
遠坂と呼ばれた黒髪の女性、そして七条と呼ばれた茶髪の女性がバニングスさんと仲良さげに会話をしていると、二人の視線が僕に向いた。
「へえ、アンタがアリサの彼氏?なんか女の子みたいね」
「良く言われます。自己紹介が遅れました、如月刹那と申します」
「ご丁寧にありがと。私は《遠坂 凛》よ。アイドルの子と名前は一緒なの。よろしくね」
「その人にこの前会って来ましたよ」
「うそホント!?」
「はい、学校の職業体験で・・・」
「良いわね~。私も会ってみたかったわ」
「もー!二人ばっかりズルイよ!」
「悪かったわよ、《アリア》」
七条さんが頬を膨らませて僕と遠坂さんを叱る。遠坂さんが会話を止めると、七条さんは自己紹介をしてくれた。
「私は《七条 アリア》。よろしくね、刹那君」
「はい。よろしくお願いします・・・七条さん?」
「ねえ、刹那君のお母さんの名前って澪?」
「そうですけど・・・お知り合いですか?」
突如七条さんから出たお母さんの名前に僕は驚きを隠せなかった。そして七条さんは、両手をパチンと合わせながら嬉しそうに笑う。
「やっぱりせっちゃんだ~。覚えてない?君が小さい頃に何回か遊んだ事あるんだよ」
「七条・・・もしかして、アリア姉?」
「ピンポ~ン♪大きくなったね、せっちゃん」
「久しぶりだったから忘れてたよ。久しぶり」
「えっと、二人は知り合いなの?」
数年ぶりの再会を喜んでいると、バニングスさんと遠坂さんがポカンとしていたので、説明をする。
「アリア姉のお父さんが僕のお母さんの知り合いでね。昔に何回か遊んだんだよ」
「私のお屋敷で一緒に遊んでたんだよ~」
「そうだったの。世間って狭いわね・・・」
「そう言えば家は毎年お歳暮とか年賀状とか送ってるのに・・・」
「数が多くて一々把握していられませんよ。それにお返しとか、結構掛かるんですよ」
お母さんが亡くなった後も、生前の知り合い達からお歳暮や年賀状が届く。この前は確か・・・《フロシャイム・川崎支部》とか言う企業からサラダ油のセットが届いた。ありがたく使わせてもらっています。
お返しに最近流行りの洗濯用洗剤のセットを送っておいた。
「澪さん、他の人との繋がりも多かったからね」
「昔はよく色んな人が来てましたから」
「刹那のお母さんって凄かったのね・・・」
「私も会ってみたいわ~・・・あ、あれ?」
遠坂さんの言葉に空気が凍った。さっきまで笑顔だったアリア姉ですらピタッと固まっている。あ、コレ僕が言わないといけないパターンっすか。僕は諦めて話す。
「僕の母は小学校に上がる前に亡くなってます」
「あ・・・ごめんなさい」
「いえ、お気になさらず」
「じ、じゃあ、せっちゃんは今セシアさんと二人暮らし~?」
「ううん。今は8人暮らしかな」
「い、いっぱい増えたね・・・」
「まあね」
「それじゃあせっちゃんはハーレムプrむぐっ」
「はい、この子をアリアの世界に引き摺り込まないの」
アリア姉の口を遠坂さんが塞ぐ。その後も何気ない話をして、二人は別の場所へと歩いていった。僕達も話していると、尿意が来たのでアリサにトイレの場所を聞き、そこへ向かった。
「ふぅ、スッキリした・・・」
トイレを出て外を歩いていると、和服を来たお爺さんが四つん這いになって何かを探していた。その動きは覚束なく、見ていて不安だった。僕はそのお爺さんに話し掛けた。
「あの、どうしました?」
「孫から貰った飾り物を無くしてしまったんじゃ」
「飾り物?ああ、ストラップ」
お爺さんが手に持っていた巾着袋の紐を指差して此処にあったと言っていたのでなんとなく察しが付いた。
「僕が探しますので、そこのベンチで休んでください」
「すまんのお、お嬢ちゃん」
「僕は男ですよ。さ、こちらへ」
お爺さんに肩を貸してベンチに座らせる。和服に少し砂がついていたので、コッソリ魔力を手に纏って、払うフリをしながら細かい汚れも落とす。便利だな、洗浄魔法。
それから僕はお爺さんの居た辺りを探す。
すると、綺麗に手入れされた花壇の花の根元に骸骨の様な仮面を被った黒いキャラクターが描かれたストラップを見つけた。
それを拾って、汚れを取ってからお爺さんに持って行く。
「これですか?」
「おお、コレじゃコレじゃ。さっきの若造共と違って優しいのぉ。ほれ、お礼じゃよ。なにかと必要じゃろ」
「なっ!?そんなの貰えませんよ!」
ストラップを受け取ったお爺さんは巾着袋から一万円札を三枚も出して僕に渡して来た。突然の事に軽くパニックになりながらも僕はそれを断る。お爺さんはそれを不思議な物を見る様な視線で捉えていた。
「何故じゃ?他の奴らは嬉々として受け取るぞ?お前さんもだから探してくれたんじゃろう?」
「違いますよ。ただお爺さんが困っていたから探しただけですし、こんな事でお金払う必要なんて無いですよ」
「お前さん、変わっとるな」
「え、コレ僕が可笑しいんですか?」
お爺さんの言葉に僕は思わず首を傾げる。ストラップを探す位別になんて事ないし、放っておくなんて出来る訳がない。
そう思っていると、お爺さんが愉快そうに笑う。
「くっくっく・・・ワシも長く生きて来たが、同業者の中で此処まで無欲に助けてくれた者なんて居なかったわ」
「そうですか?コレ位普通だと思うんですけどね」
「ワシ等みたいな日々、利益の為に働く連中はそう言う感覚が麻痺してくもんなんじゃよ」
「大変なんですね・・・」
「そうじゃ。じゃから、お前さんの様な優しい若者に会えて嬉しいんじゃよ」
「はあ・・・」
そう言ってニコニコするお爺さんに対し、僕は何も言えなかった。
「あ、お爺様!こんな所に!」
「おお、《桜》!」
突然、向こうからお爺さんのご家族らしき女性が来た。女性は僕より少し年上辺りだろうか。月村さんの様な紫色の髪の女性だった。その女性にお爺さんは手を振る。
「もう、人様の敷地でフラフラしちゃダメって言ってるじゃないですか」
「すまんな。この子がワシの落としたストラップを見つけてくれての。少し話していたんじゃ」
「そうなんですか。お爺様がご迷惑をお掛けしたみたいでごめんなさい」
「お気になさらず。困った時はお互い様ですから。それじゃあ、僕はこれで」
「取り敢えず、コレを持って行きなさい」
「だからお金は良いですって!?」
お爺さんの手を巾着袋から離して、その場を離脱する。
もうすぐパーティー会場へ戻れる。そう思いながら歩くと、さっきバニングスさんに話し掛けて来た男性達が僕の前を塞いだ。
「おい、彼氏君。少し付き合ってくれよ」
「すみません、アリサを待たせているので」
「良いから来い。この庶民が」
「ほらこっちだ」
三人は僕を先導する様に歩き出す。なんとなく予想はしてたけどここまで露骨だとは・・・。そう思いながらスーツのポケットに手を入れて僕は歩き出した。
~森の中~
「さて、ここら辺で良いかな?」
「それで、ご用件は?」
「簡単な事さ。ミス・バニングスと別れてほしい」
やっぱり。ストレートに言って来たかこの人達は。林の中に人の気配が10人程・・・。
僕は取り敢えず恋人アピールをしておく。
「お断りします。僕は彼女を愛していますから」
「勿論タダなんて言わないさ。ほら」
そう言って、三人は僕の足元にポイッと札束を投げた。ざっと見た所一人数十万って所か。
「なんなら君の希望する金額を言ってみなよ。僕達の家なら余裕で払えるからさ!」
「さっさと俺達の前から消えてくれ」
「全く、ミス・バニングスも手こずらせてくれますね」
そう言って気持ちの悪い笑みを浮かべる三人。僕は先程と意思は変わらぬ事を告げる。
「そんな物はいりません。要件がこれだけなら失礼します」
「ふざけんなよお前ぇ!」
そう言って間桐と呼ばれた男性が指を鳴らす。すると林の中に隠れていた彼らのボディーガードらしき人達が出て来た。
三人は更に唇を歪める。
「もう怒った。君には暫く入院してもらおう。もちろんこの金は無しだ」
「抵抗しようなんて考えない方が良いぜ」
「なにせ此処に居る彼らは全員、元軍人や元スポーツ選手ですからね」
スーツにグラサンで指をパキポキ鳴らす彼らは、どうみてもマンガに出て来るテンプレの黒服さんだった。それを見てから再び三人に視線を向ける。
「貴方達もアリサを愛しているのなら、正々堂々としたらどうなんですか?」
「僕達が?愛してる?・・・ぷははっ!何言ってんの君?」
「俺達がほしいのはあくまでもバニングス家との繋がりだ」
「彼女なんてただのおまけですよ」
僕の言葉にとうとう三人が本性を現した。なんともまあテンプレートな返事、ありがとうございます。そんな事を考えている僕を余所に、三人は話を続けた。
「良いかい?あんな年下のガキ、誰がいるかよ」
「そうか?体は結構エロくて良いぞ。今の内に仕込んどけば、他の家の奴らと使えるだろ?」
「そうですね。女である以上それ位はしてほしい物です」
「・・・は?」
今この人達はなんていった?アリサを他の家の奴らと使う?
「貴方達は・・・アリサをなんだと思ってるんですか」
「なに?お前もしかしてキレちゃったワケ?本気で好きなのかよ!?」
「まあ、それも無駄だけどな。アイツは俺がベッドで可愛がってやるからよ」
「待ちなさい。彼女は私が効率的に使用します」
「・・・まれ・」
「何言ってんだよ。"アレ"は僕が使うんだ」
「黙れ!」
僕の声が響く。それと同時に鳥が森から羽ばたいた。その中心に居る僕をその場の全員が見る。その目は困惑と恐怖に満ちていた。
「さっきからなんだお前等は。アリサを使うって・・・あの子はお前等の欲望を満たす為の道具じゃない!」
「くっ・・・やれお前等!」
「へ、へい坊ちゃん!」
間桐の声に動き出した黒服の一人のパンチを紙一重で避けて顔面にカウンターを叩き込む。見事にワンパンで沈んだ黒服を足場にして、残りの連中を睨みつける。
「お前等の誰かが真剣な気持ちだったなら僕も大人しく身を引いたさ。でも、アリサを・・・僕の恋人を物扱いする様な屑共には・・・」
僕はゆっくりと右手を上げて人差し指を向ける。
「王の裁きを下してやる」
殺気を振りまいて睨みつけた。黒服は全員口から泡を吹いて倒れ、わざと殺気を当てなかった三人はその場に座り込んで失禁していた。風下に居る所為か、三人分のアンモニア臭が鼻を突く。途轍もなく不愉快だ。
そんな三人に近付いて僕は止めを刺す。
「今の僕は彼女の王子様だ。今後もし僕の王女様に手出してみろ・・・」
僕は手を振りかざして拳を地面に叩き付ける。見事に地面は抉れて三人の前に小さなクレーターが出来た。それでも穴の深さは1m程ある。
その光景を見たまま固まる三人に言った。
「殺す」
「「「ひっ・・・ひいいいいいい!」」」
最終警告に三人はダダダと走って何処かへ行ってしまった。
僕は溜息を吐くと、近くの木へと声を掛ける。
「さて、これで良いですよね。《鮫島》さん」
「・・・はい。ありがとうございます」
僕の言葉に反応して、鮫島さんが現れた。変わらぬ表情には、隠しきれない怒りの感情があった。
「分かってはおりましたが、此処まで汚れた方々だったとは・・・」
「悔やんでも仕方が無いでしょう。それと、どうぞ」
僕は"ポケットに入っていた"ICレコーダーを鮫島さんに渡す。コレには先程の会話がたっぷりと詰まっている。連れて行かれる際に起動しておいたのだ。鮫島さんが受け取ると、僕に言った。
「この者達の処理は"私達"にお任せください」
「はい。・・・私達?」
「もう一人である私は此処に」
「おわっ!?」
鮫島さんの言葉に違和感を感じた僕の後ろに、突如としてメイド服を着た女性が現れた桃色の髪のメイドさんは何故か目隠しをしていた。
「私は間桐家でメイドをしています《メデューサ・ゴルゴーン》と申します。以後、お見知りおきを」
「ど、どうも・・・」
「あら、良く見たら可愛らしい方ですね。私の大好物です」
「失礼しましたぁ!」
メデューサさんの言葉に僕はダッシュで逃げた。なんであの人目を隠してるのに僕の事認識出来るの?千里眼か何かですか?
恐怖から逃げる様にパーティー会場へと戻る。するとバニングスさんが僕を見つけて走って来た。
「刹那!今鮫島から連絡があって、あの連中に絡まれたって・・・」
「大丈夫だよ。もう全部解決したから」
「そうじゃなくて!アンタに怪我は無かったの!?」
「平気だよ。それに僕は怪我してもすぐに治るから」
「駄目!どんな回復力を持っていようが痛いのは変わらないんだから!そんなの刹那がおかしくなっちゃう!」
「アリサ・・・」
バニングスさんは涙目で僕を睨む。僕は何も言わずに彼女の頭を撫でて落ち着かせる。それから数分、ようやく睨むのを止めてくれた彼女は微笑んで手を差し出した。
「もうパーティーは終わり。でも、まだ今日は終わって無いから私の部屋で続きと行きましょ、王子様」
「・・・仰せのままに、お姫様」
僕は彼女に合わせてその手を取る。そしてバニングスさんの部屋へと戻った・・・。
~アリサの自室~
「「乾杯」」
月明かりに照らされた窓辺で、グラスを合わせる。僕と同じく寝巻に着替えたバニングスさんと一緒に軽く一口飲んだ瞬間、僕は思わず噴き出した。
「ぶっ!?こ、これお酒!?」
「そうよ。今日くらいは良いでしょ?」
「にしても度が高くない?」
「そうね。ちょっとアルコール臭いかも。ならこれよ」
そう言ってバニングスさんは別の物を渡して来た。
「缶チューハイ・・・」
「これなら安心ね」
「本当は犯罪だけどね」
僕はプシュッと缶を開けて一口飲む。
お、これは濃い・・・ブドウ・・・あ、じ・・・。
刹那サイド終了
アリササイド
度が物凄く低いチューハイを飲んだ瞬間、刹那が首をカクッと下げて動かなくなる。まさか酔ったの!?
「せ、刹那?」
「・・・えへへ♪」
「やっぱり酔っt「あ~りさっ!」きゃっ!?」
突然ご機嫌な声で私をベッドへと放る刹那。そして近付いて来て私に抱きつく。頭の中が真っ白になった。それもその筈。好きな男の子にベッドに押し倒されて抱きつかれているのだから。
ま、待って・・・流石に酔った勢いは駄目だと思うの。それにシャワーとか浴びて綺麗にしてからの方が・・・って、
「ま、また乙女フィルターが・・・」
「ありさ~?」
「な、なんでもないわ」
「あのね、ありさ~」
「どうしたの?」
ニコニコと笑う刹那に私はなるべく冷静を装って聞く。すると刹那はこう言った。
「ごめんね?」
「・・・え?」
「ぼく、いっつもありさやすずかにひどいこといっちゃうから~」
刹那の口から出たのは謝罪だった。私とすずかへの態度に関してだった。刹那はそのまま話を続ける。
「ほんとはね?ふたりのことだいすきなんだよ~?」
「だ、だだだ、大好き!?」
「うん!だって、しょーがっこーではじめてできたともだちだもん!だけど・・・あんなにいじわるなたいどとっちゃって、ごめんね」
「・・・貴方が謝る事ないじゃない」
「ちがうよ。あのことがあったからってぼくがいじわるしていいことはならないもん・・・」
そう言うと刹那は私を抱きしめる力を強める。私も刹那を強く抱きしめた。
「だから・・・ごめんね」
「良いの・・・そんなの良いのよ!私こそごめんなさい!貴方の事、最後まで信じてあげられなくてごめんなさい!」
「む~・・・ありさがあやまることないのに・・・」
「いえ、こればかりは譲れないわよ」
「んっとね~、じゃあ」
刹那は私から離れると、柔らかな笑顔を向けた。
「いっしょにごめんなさいでおわりにしよ~?」
「・・・それで、いいの?」
「うん!」
「・・・分かったわ」
目の前の少年の視線を見て、これはこっちが折れるまで動かないと悟った私は白旗を上げる。そして二人で向き合って、同時に頭を下げた。
「「ごめんなさい」」
それから数秒程経って、頭を同時に上げる。そして刹那が再び表情をふにゃっと崩す。
「じゃあ、なかなおりのしるしにいっしょにねよ~!」
「ふふっ、そうね」
「ありさ、ぎゅ~♪」
「刹那は温かいわね・・・」
「ありさのほうがもっとあったかいよ~」
二人でベッドに入って互いの温度を感じ合う。久しぶりに感じた刹那の感触は身長が変わっていてもあの頃と全く変わっていなかった。それは懐かしい気持ちと同時に罪悪感を抱かせた。
過去のトラウマによって成長しなくなった刹那の体。それを今、抱きしめる事で再確認している。刹那に対して、自分は、自分達はどれだけの罪を犯してしまったのだろうか・・・。
私はそんな気持ちになって行く。だが、それを彼は見逃してはくれなかった。
「ありさ・・・ないてる?」
「なんでもないわ」
「んっと・・・んっ」
「んむっ!?せ、刹那・・・何を!?」
刹那は何かを考える様な仕草をしてから私の唇にキスをした。私は体が一気に熱を帯びて行くのを感じるそして刹那が笑いながら話す。
「おかーさんがね、こうするといやなこともふっとぶって!」
「な、なんたる親バカ・・・。でも、ありがとね」
「・・・げんきになった?」
「ええ。ありがと、刹那・・・んっ」
「あぅ。えへへ・・・♪」
私もキスを返すと、刹那はスリスリと頬を擦りつけて来た。まるですずかの家の猫ね。マタタビ使った後の・・・。
そんな事を考えながら刹那の頭を撫でる。すると、刹那の体が光り出して何時もの身長に戻る。そして彼は静かに寝息を立てていた。寝顔を堪能していると、ドアがノックされ、鮫島が顔を出す。
「お嬢様、刹那様は・・・」
「今日はこのまま寝かせるわ。お疲れ様」
「畏まりました。おやすみなさいませ」
そう言って鮫島はドアを閉めて去って行った。私も疲れたのか睡魔に襲われ、眠りの世界へと落ちて行った・・・。
「ありさ・・・すきぃ」
「ふふっ。私もよ、刹那」
アリササイド終了
刹那サイド
「恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ!」
「何を今更。昨日あんなに甘えて来た癖に」
「うがああああああっ!?」
翌朝、僕は悶えながらバニングスさんに髪の毛を梳かしてもらっていた。昨日の記憶、全部ありました。あったけどコントロールとか出来ませんでした。はい、本音全部ドーンと言いました。
誰か僕を殺してくれ!
「それに刹那のキス、凄く嬉しかったわ」
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!(白目」
「さっきセシアさん達に電話したけど、私も恋人にしてくれるって!」
「まごふっ!?」
バニングスさんの言葉に僕は考えるのを止めた。真っ白な頭で覚えているのは彼女に抱きしめられていると言う事と、
「愛してるわ、刹那♡」
嘘偽りを感じない、彼女の本音の言葉だけだった。
刹那サイド終了
家の刹那きゅんはアルコール度数は低い程酔います。
ほろ●いや甘酒でベロンベロンに酔って、甘えん坊のキス魔となり果てます。