if〜刹那君は引きこもり〜   作:猫舌

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前回のあらすじ


刹那、絶叫。


番外編せかんど! 《刹那君も異世界から来るそうですよ?》 第3話

三人称サイド

 

 

刹那の絶叫から数十分。その場の全員が息を荒くして倒れ伏していた。その中心には、刹那が泣き疲れて眠っている。だがその周辺はぷすぷすと焼け焦げていた。刹那が泣き出した瞬間、巨大な雷が放たれたのだ。それを黒ウサギ達が必死の攻防の末、止めたのだ。その際の会話がコレである。

 

 

『おいおい!何で俺の拳が効かねえんだよ!?』

 

『コレ、インドラの雷より強いんですけど!?』

 

『私の言葉が聞かないなんて・・・』

 

『勝てる術が無い・・・』

 

 

こんな会話をしながら四人は死に物狂いで雷を避ける。黒ウサギに心なしか集中していたのはご愛嬌だ。そしていち早く回復した十六夜が刹那に歩み寄り抱き上げる。刹那は涙を流しながら「お母さん・・・」と寝言を呟いた。

 

 

「普通いきなり親と離れ離れにされたらこうなるよな」

 

「そう、ね・・・私達みたいに元の世界にウンザリと言う訳でも無いでしょうし」

 

「・・・誘拐と変わらない」

 

「「「それもこれも・・・」」」

 

「ま、待ってください。本当に知らなかったんですって!?」

 

 

三人は刹那を優しい目で見た後、殺意しか無い目で黒ウサギを見下ろす。否、見下す。黒ウサギは100年以上前の神の前に立った時の記憶が蘇った。圧倒的な存在感に全てが押しつぶされそうになる。呼吸の仕方も忘れ、一瞬で喉が渇く。自分に出来る事は只、屈するのみ・・・。そんなオーラが三人から発せられていた。そして刹那の次に再び黒ウサギの悲鳴が木霊した・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数時間後~

 

 

「黒ウサギ遅いな・・・」

 

 

そう言ってとある噴水広場前で跳ねた髪が特徴の少年《ジン》は黒ウサギの帰りを待っていた。思っていたより帰りが遅く、一緒に来ていた子供達もコミュニティに帰らせた所だった。

 

 

「強くない人達だったらもう此処を捨てるしか無いのかな・・・」

 

 

そう言って溜息を吐くジンのコミュニティは黒ウサギを覗いて年端もいかない子供達しかおらず、ギフトゲーム等出来る状態では無い。だからこそ今回の召喚には全てを賭けているのだ。何が何でもこのチャンスを繋がなければいけない。そう思っていると、ジンの耳に聞き慣れた声が入った。

 

 

「ジン坊ちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

 

 

ハッと顔を上げると、黒ウサギが後ろに"二人の少女"を連れて来た。

 

 

「お帰り黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

 

「はいな、こちらの御四人様が----」

 

 

クルリ、と振り返る黒ウサギ。

カチン、と固まる黒ウサギ。

 

 

「・・・え、あれ?もう二人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から"俺、問題児"ってオーラを放っている殿方と、綺麗な白髪で可愛らしいお顔をした少女が」

 

「ああ、十六夜君達の事?彼なら"ちょっと世界の果てを見てくるぜ!"と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 

 

あっちの方に、と指差したのは先程落ちた時に見えた断崖絶壁。街道のど真ん中で呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて二人に問いただす。

 

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

 

「"止めてくれるなよ"と言われたもの」

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「"黒ウサギには言うなよ"と言われたから」

 

「刹那さんが居たでしょう!?」

 

「「だって涙目上目遣いで"おねがい"って言われたから」」

 

「完堕ちですかっ!」

 

 

そう言って黒ウサギは項垂れる。問題児が幼児を連れて世界の果てまでイッテQとか洒落にならない。そう思っていると、ジンは蒼白になって叫んだ。

 

 

「た、大変です!世界の果てにはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」

 

「幻獣?」

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に世界の果て付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」

 

「大丈夫よ、あの二人なら」

 

「うん。絶対に無事」

 

「ど、どうしてそう言えるんですか!?」

 

 

ジンの言葉に二人は微笑み合いながら返した。先程の刹那を食い止めた時の互いの実力、あれは詳しくない二人からでも簡単に結論を出せた。

 

 

「「あの二人は、凄く強いから」」

 

 

その圧倒的自身にジンは何も言えなかった。そんな中、行動を起こす者が一人。黒ウサギだ。

 

 

「ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御二人様の御案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「分かった。黒ウサギはどうする?」

 

「問題児と迷子を捕まえに参ります。確かに実力があるとはいえ、幼子をそんな危険地帯に放り込んだままには出来ません!それに、あそこは最近"龍が出る"と噂されていますし」

 

 

そう言って黒ウサギは艶のある黒髪を淡い緋色に変え、物凄いスピードでその場から駆け出した。

 

 

「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」

 

 

そう言ってあっと言う間に姿が見えなくなる。ジンは飛鳥達を連れて、街の方へと進んで言った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう!一体何処まで行っちゃったんですか!?」

 

 

黒ウサギが二人の少年を探し始め、既に半刻が過ぎようとしていた。世界の果てへと続く街道は中々の距離がある。道中は森林を横断せねばならないため、初見でたどり着けるとは思わない。

 

 

「そろそろ修羅神仏のテリトリーに入りますし・・・」

 

 

もしこれで無理難題のゲームを吹っ掛けられていたらますます彼らの身が危ない。不安を募らせる黒ウサギの耳に怪しい呻き声が聞こえる。

 

 

『・・・兎だ』

 

『兎が来たぞ』

 

『この辺境に"月の兎"が来やがった』

 

『小僧が言った通りだ』

 

『足止めするか?』

 

『ゲームを挑むか?』

 

『勝てる訳が無いだろう』

 

『ちくわ大明神』

 

『『『誰だお前』』』

 

 

黒ウサギは"箱庭の貴族"と呼ばれる貴種だ。全体数が少ない事に加えて箱庭の外に出る機会が滅多にない珍しい黒ウサギを一目見ようと、森の魑魅魍魎が集まって来たのだろう。

 

 

「あの~森の賢者様方。つかぬ事をお聞きしますが、もしかしてこの道を通った方を御存知でしょうか?よかったらこの黒ウサギに道を示していただけますか?」

 

『『『・・・』』』

 

『よかったら私が案内しましょうか、黒兎のお嬢さん』

 

 

茂みから魑魅魍魎とは違う、静かな声と蹄の音が響く。現れたのは青白い胴体と額に角を持つ馬----ユニコーンと呼ばれる幻獣だった。

 

 

「こ、これはまたユニコーンとは珍しいお方が!《一本角》のコミュニティは南側のはずですけども?」

 

『それは此方の台詞です。箱庭の東側で兎を見る事など、コミュニティの公式ゲームの時ぐらいだと思っていましたよ----と、お互いの詮索はさておき、貴方の探す少年達が私の想像通りならば、私の目指す方向と同じです。森の住人曰く、彼は水神の眷属にゲームを挑んだそうですから』

 

「うわお」

 

 

黒ウサギはクラリと立ち眩み、そのままガックリと膝を折った。世界の果てと呼ばれる断崖絶壁には箱庭の世界を八つに分かつ大河の終着点《トリトニスの大滝》がある。現在その近辺に住む水神の眷属は龍か、蛇神のいずれかしか無い。だが、黒ウサギが言った"龍"はまた別物だ。そっちの方は普通に陸を移動し、手当たり次第に破壊する最悪な龍だ。所謂邪龍と言った所だろう。

 

 

『少年達が君の知人なら急いだ方が良い。此処の水神のゲームは人を選ぶ。今なら間に合うかもしれない。背に乗りたまえ』

 

「は、はい・・・わわっ!?」

 

 

ユニコーンに跨ろうとした瞬間、突如森全体を揺らす地響きが森全体に広がったのだ。すかさず大河の方を見ると、彼方には肉眼で捉えられるほど巨大な水柱が幾つも立ち上がっている。

 

 

「・・・すいません。やっぱり黒ウサギ一人で向かった方がよさそうです」

 

『むぅ・・・乙女を一人で危地にやるのは気が進まないが・・・私では不足かい?』

 

「はい。もしもの場合に貴方を守れないかもしれない。それに失礼ですけど、駆け足も黒ウサギの方が速いですから」

 

 

黒ウサギが言うと、ユニコーンは苦笑して離れた。

 

 

『気を付けて。あの少年達によろしく。特にあの白髪の子には。"森を救ってくれてありがとう"とね』

 

 

森を救ったと言うフレーズに疑問を抱きながらも黒ウサギは頷いて、滝の方へと駆け出した。光の如く木々を駆け抜け、あっと言う間に滝へと辿り着く。

 

 

「この辺りのはず・・・」

 

「あれ、お前黒ウサギか?どうしたんだその髪の色」

 

 

背後から忌々しい問題児の声が聞こえる。どうやら十六夜は無事だったらしい。安堵なんて感情は一切分かず、怒りのみが黒ウサギの中にあった。勢いよく振り返り怒鳴るが・・・、

 

 

「もう、一体何処まで来ているんですか!?・・・後ろの御二人様は?」

 

「ん?ああ、それはさっき刹那がな。ま、あんまり怒るなよ」

 

 

十六夜の後ろに居る剣を持った銀髪の男性と、戦旗を持った金髪の女性に疑問を持ったが、十六夜への怒りが再燃した。

 

 

「全く、まさか探すのに半刻ですよ半こ・・・く」

 

 

その瞬間、黒ウサギに旋律が走った。箱庭の貴族である黒ウサギの足の速さはトップクラスと行っても良い。それなのに彼らに追いつくのに半刻も掛かった事実に冷や汗が流れる。

 

 

「ま、まあ、それはともかく!十六夜さんが無事で良かったデス。水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」

 

「水神?----ああ、アレの事か?」

 

 

え?と黒ウサギは硬直する。十六夜が指差したのは川面にうっすらと浮かぶ白くて長いモノだ。黒ウサギが理解する前にその巨体が首鎌を起こし、

 

 

『まだ・・・まだ試練は終わってないぞ小娘ェ!』

 

 

十六夜が指したそれは----身の丈30尺強はある巨躯の大蛇だった。それが何者か問う必要は無いだろう。間違いなくこの一帯を仕切る水神の眷属だ。

 

 

「蛇神・・・ってどうやったらこんなに怒らせられるんですか十六夜さん!?」

 

「俺じゃねえよ。それに俺の見た目で"小娘"な訳ねえだろうが」

 

「小娘って・・・まさか!?」

 

 

十六夜の言葉に黒ウサギは蛇神の下を見る。そこには、下から蛇神を睨み付ける刹那の姿があった。十六夜はケラケラと笑いながら事の顛末を話す。

 

 

「なんか偉そうに『試練を選べ』とか行って来たが、残念な奴って分かったから無視したんだけどよ。俺の事馬鹿にして来て、俺が何かする前に刹那がキレた。・・・『いざ兄を虐めるな!』だってよ。・・・弟最高だぜ」

 

「何笑いながら涙流してるんですか!?」

 

 

そう言っている間にも刹那と蛇神の睨み合いが続く。

 

 

「・・・僕が勝ったらいざ兄に謝れ!ミミズ!」

 

『だから蛇だと言っておろうが!?付け上がるなよ人間!』

 

 

蛇神の甲高い咆哮と共に巻き上がる風が水柱を挙げて立ち上った。周囲の木々の散らばりを見ると、確実にヤバイ攻撃と分かる。黒ウサギは叫んだ。

 

 

「刹那さん下がって!」

 

「下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。これはアイツが売って、刹那が買った喧嘩だ。俺達が手を出して良いもんじゃねえよ。なあ、お二人さん?」

 

 

そう言って十六夜は謎の二人に視線を向ける。二人は小さく笑みを浮かべて頷いた。

 

 

「勝手に手を出せばお前から潰すぞ」

 

 

十六夜の言葉に黒ウサギが思わず固まる。そして始まってしまったゲームには手出し出来ないと歯噛みする。そして、あっと言う間に決着が付こうとしていた。

 

 

『行くぞ小娘ェ!』

 

「だから僕は・・・男だぁ!」

 

「「「ファッ!?」」」

 

 

刹那の叫びに黒ウサギと謎の二人が奇声を上げる。そして、蛇神の雄叫びで、計三本の水柱が蛇の様に唸って刹那へと突き進む。だが、

 

 

「邪魔だ!」

 

『アイエエエェェェェ!?ナンデ!?』

 

 

刹那が小さな腕を振るい、それを弾いた。そして、一気に蛇神の顔前まで飛び上がり、思いっきり蹴飛ばした。

 

 

「セイッ!」

 

『ごぺらっ!?』

 

 

蛇神は盛大に吹っ飛び、ピクピクしながら川面に浮かんだ。それを見て、黒ウサギは確信する。彼らは間違いなく最高のギフトを持った面々であると。それと同時に刹那に対し、未知の恐怖も感じた。齢三歳の人間が素手で《神格》持ちの眷属を一発で倒したのだ。彼の中に眠る才能は計り知れない。それに先程泣いた時に出た雷。あれがもし本気の威力ではなかったら?そう思うと、背筋が氷を入れられた様な感覚に陥った。だが、これはやはりチャンスだ。彼等を上手くコミュニティへと入れれば悲願を果たせるかもしれない・・・。そう思っていた時、十六夜が話し掛ける。

 

 

「おい、どうした?ボーっとしてると胸とか脚とか揉むぞ?刹那が」

 

「え、な、何言ってるんですか!?て言うか何やらせようとしてるんですか!」

 

 

そう言って黒ウサギは紅潮しながら叫ぶ。豊満な体を包むミニスカートにガーターは、端から見ればちょっと危ないコスプレだ。

 

 

「200年守って来た貞操に傷を付けるつもりですか?」

 

「200年守った貞操?うわ、超傷付けたい」

 

「お馬鹿!?いえ、お馬鹿様!」

 

 

疑問形から確定形へと言い直し、罵る。すると、刹那がこっちへと駆けて来た。

 

 

「いざ兄!勝ったよ!さ、起きたら謝らせるからこっちこっち!」

 

「おお。やっぱ凄いなお前。最高だぜ」

 

「ふふっ♪もっと撫でて~♪」

 

 

十六夜に褒められて刹那は嬉しそうに年相応の笑みを浮かべた。すると、グググと水神が起き上がる。その目に最早敵意は無く、完全に心が折れた目だった。その姿に黒ウサギは少し同情する。

 

 

「はい、謝って」

 

『・・・馬鹿にしてホントすいませんでした』

 

「お、おう・・・もう怒ってないから刹那も許してやれ」

 

「僕はいざ兄が許したなら良いよ。ただ、次言ったらもう許さないからね」

 

『は、はい。ホントすみませんでした!お詫びと言っては何ですが、此方をお納めください』

 

 

そう言って蛇神は刹那に植物の苗を差し出した。刹那は少し渋ったが受け取り、蛇神に頭を下げた。

 

 

「僕もやりすぎました!ごめんなさい!」

 

『へ・・・あ、あの・・・此方こそごめんなさい』

 

 

蛇神と一緒に頭を下げる3歳児と言う奇妙な光景に、全員がポカンとなる。そんな中、黒ウサギが刹那の持っている苗を見て驚愕する。

 

 

「そ、それは《水樹の苗》!?しかもそんな大きな物を!?こ、これがあれば水を買う必要なんてありませんよ!」

 

 

そう言って黒ウサギは苗に向けて欲しいオーラを向ける。刹那は思わずあげようとするが、十六夜に止められる。

 

 

「待て刹那。今のコイツに渡すな」

 

「コイツって・・・ひどいで・・・すね」

 

 

黒ウサギは再び固まった。刹那を庇う様に目の前に立つ十六夜と謎の二人組に敵意の視線を向けられたからだ。そして十六夜は黒ウサギに言った。

 

 

「オマエ、俺達に何隠してる?」

 

 

三人称サイド終了

 

 

 

 

 

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