if〜刹那君は引きこもり〜   作:猫舌

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前回のあらすじ


刹那、マジチート。


番外編せかんど! 《刹那君も異世界から来るそうですよ?》 第4話

刹那サイド

 

 

黒ウサギさんに苗をあげようとしたら、いざ兄に止められて、黒ウサギさんへの尋問が始まった。すると黒ウサギさんは視線をバタフライの如く泳がせながら冷や汗を流して否定した。

 

 

「そ、そんな事無いですヨ?黒ウサギは純粋に十六夜さん達にこの世界を楽しんでもらおうと・・・」

 

「ああ。俺も最初はそう思った。だが、途中から段々お前の表情が焦ってる様にも見えた」

 

 

そう言っていざ兄は黒ウサギさんにニヤリとして言った。

 

 

「コレは俺の勘だが・・・と言いたいが、刹那が先に気付いたからな。刹那、教えてやれ」

 

「う、うん。えっと多分黒ウサギさんのコミュニティは弱いチームか、何かが理由で弱くなってしまったチームじゃないんですか?それで、チーム強化の為に僕達が呼び出された・・・とか。だからさっきいざ兄がコミュニティに入るのを本気で怒ったのも、その為じゃ無いかって思ったんです」

 

「んで、その事実を俺達に隠してたって事はだ。俺達にはまだ他のコミュニティに入る権利があると判断したんだが、どうよ?」

 

「っ・・・!」

 

 

黒ウサギさんは完全にバレたといった顔をしていて、明らかに事実だと語っていた。それでも何も話さない。

 

 

「沈黙は是成、だぜ黒ウサギ。この状況で黙り込んでも状況は悪化するだけだぞ。それとも他のコミュニティに行ってもいいのか?」

 

「や、だ、ダメです!いえ、待ってください!」

 

「だから待ってるだろ。早く言えよ。でないと・・・」

 

「で、でないと・・・?」

 

「刹那。撫でろ」

 

「うん」

 

「勘弁してください。今度こそ昇天してしまいます」

 

 

僕が撫でようとしたら直ぐに土下座の体制を取った。そんなに嫌だったのかな・・・。僕の手ってそんなに汚かったかな・・・。やっぱり、僕なんて嫌だよね。

 

 

「せ、刹那さん?何故その様な悲しい表情をしているのか黒ウサギは非常に気になるのですが・・・」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「へぇあっ!?」

 

 

僕も黒ウサギさんに土下座する。如月家に生まれて忘れていた。僕は前世では忌み嫌われる存在だったんだ。僕が普通にいて良い筈が無い。忘れていた自分が恥ずかしい。

 

 

「そんなになる程嫌だったのに、撫でたりしてごめんなさい!」

 

「あ、頭を上げてください!三歳児に土下座させるとかもう黒ウサギは只の屑ウサギじゃないですか!?」

 

「で、でも・・・」

 

「嫌じゃないです!いっぱい撫でて欲しいです!」

 

「・・・ほんと?」

 

「はい!さあ!黒ウサギの頭は何時でもOKです!」

 

 

黒ウサギさんの顔色を伺おうと頭を上げると、こっちに頭を向けていた。はたしてこれはいいのだろうか?いざ兄を見ると、楽しそうに笑っていたので、良いのかなと撫でる。

 

 

「あっ♡やっぱりコレ凄いです~♡」

 

「・・・もふもふ♪」

 

 

撫でた後、黒ウサギさんは何故か頬を紅くして、ビクンビクン痙攣していた。体調が悪いのかなと思ったが、いざ兄が大丈夫だから少し待ってろと言ったから待った。そして黒ウサギさんは妙にツヤツヤとした顔で復活した。

 

 

「賢者モードかよ・・・」

 

「けんじゃもーど?」

 

「お前はまだ知らなくて良い言葉だ」

 

「こ、こほん。では、全てお話します。・・・せめてコミュニティの加入承諾さえ取れていれば良かったのに・・・」

 

「ま、"面白ければ"入ってやるよ。但し、刹那が別の所に行くんだったら俺はそっちに行くぜ。現状一番面白いのはコイツだしな。・・・あと心配だし」

 

「絶対最後の方が一番大きいですよね!?」

 

 

いざ兄が最後に何かぼそっと呟くと、黒ウサギさんが怒鳴った。僕に着いてくるって・・・そんな事しなくても。

 

 

「お前刹那の容姿でフラフラと歩かせてみろ!絶対ヤバイ奴に持ち帰られてペット(意味深)にさせられるぞ!」

 

「っ!そ、それは・・・否定出来ない!」

 

 

そう言って黒ウサギさんは膝を付く。僕は全く話に付いて行けてなかった。

 

 

「と、言う訳だ。さっさと話せ」

 

「は、はい。では、黒ウサギのコミュニティの惨状を説明させていただきます」

 

 

黒ウサギさんは真剣な表情になり、僕達にも緊張が走る。そして黒ウサギさんは語りだした。

 

 

「まず私達のコミュニティには名乗るべき"名"がありません。よって呼ばれる時は名前の無いその他大勢、"ノーネーム"と言う蔑称で称されます」

 

「へえ・・・その他大勢扱いか。で?」

 

「次に私達はコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています」

 

「ふぅん。それで?」

 

「"名"と"旗印"に続いてトドメに、中核を成す仲間達は一人も残っていません。もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加出来るだけのギフトを持っているのは一二三人中、黒ウサギとジン坊ちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」

 

「もう崖っぷちだな!」

 

「ホントですねー♪」

 

 

半分ヤケクソ気味に黒ウサギさんは項垂れる。思ってたより酷すぎる。本当に危ないんだ・・・。

 

 

「あの、どうしてそんなになっちゃったんですか?もしかして託児所で、遣り繰りするお金が尽きちゃってメンバーが去って行った・・・とか?」

 

「いえ、彼らの親も全て奪われたのです。箱庭を襲う最大の天災----"魔王"によって」

 

「「魔王!?」」

 

 

僕といざ兄は同時に驚いた。魔王、とは僕の家系の別名だ。僕の家系は古代ベルカと言う魔法文化のある世界の一族で、《聖王》、《覇王》、《冥王》と呼ばれる王族に並ぶ謂わば王族であり、僕は聖王と魔王のハーフで両方の一族の末裔に当たる。

まさかご先祖様が何か悪さを・・・!?

 

 

「そんなビッグネームな奴らがいるのか!?」

 

「え、ええ。でも十六夜さん達が思われている者と差異があるかと」

 

「・・・やっぱり凄く悪い人達なんですか?」

 

「倒せば多方面から感謝されますし、条件次第では隷属させる事も可能です」

 

「へえ?」

 

「魔王は"主催者権限(ホストマスター)"と言う箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームを挑まれたら最後、誰も断る事は出来ません。私達は主催者権限を持つ魔王のゲームに強制参加させられ、コミュニティは・・・コミュニティとして活動していく為に必要な手段を全て奪われてしまいました」

 

 

黒ウサギさんの言葉にいざ兄は同情する事も無く、岩の上で足を組み直した。

 

 

「けど名前も旗印も無いってのは不便だな。何より縄張りを主張できないだろ。新しく作るってのは無理なのか?」

 

「そ、それは・・・」

 

 

いざ兄の言葉に黒ウサギさんは暗い表情を強める。確かに自分達を主張する物が無いのは何処でも致命的だ。新しい物を作るのが一番だろう。

 

 

「か、可能です!ですが、改名はコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私達は何よりも・・・仲間達が帰って来る場所を守りたいのですから・・・!」

 

 

"帰って来る場所を守りたい"。今の言葉に始めて黒ウサギさんの心からの本心を見た気がした。

 

 

「茨の道ではあります。けど私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し・・・何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さん達の様な強大な力を持つプレイヤーに頼るほかありません!どうかその強大な力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか・・・!?」

 

「・・・魔王から誇りと仲間をねぇ」

 

 

深く頭を下げてくる黒ウサギさんにいざ兄は気の無い声で返した。その態度は黒ウサギさんの話を聞いていたとは思えない。黒ウサギさんは泣きそうになっていた。・・・元の世界に出来れば早く帰りたいけど、放っておけない。そう思って僕が口を開こうとした瞬間、

 

 

「いいな、それ」

 

「----・・・は?」

 

「いざ兄?」

 

「HA?じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」

 

「え、あれ?今のってそう言う流れでございました?」

 

「そんな流れだったぜ。それとも俺が気に入らねえのか?刹那連れて他所行くぞ」

 

「だ、駄目です駄目です、絶対に駄目です!十六夜さん達は私達に必要です!」

 

 

黒ウサギさんが必死に言うと、いざ兄は僕を見た。

 

 

「ま、お前は最初から協力する気だったんだろ?なら必然的に俺も此処だけどな」

 

「・・・知ってたんだね」

 

「ああ。お前は優しいからな」

 

 

そう言っていざ兄はクツクツと笑った。すると、「あ、」と言って黒ウサギさんに言った。

 

 

「俺は残るが、刹那は帰り方を見つけ次第元の世界に帰すぞ。でなけりゃコイツのお袋さんに申し訳が立たねえ」

 

「そうですね。分かりました」

 

「ちょ、ちょっと待っていざ兄!僕も全て取り戻すまで此処にいるよ」

 

「馬鹿言うな。お前は力があるとは言えまだ3歳だ。この世界にとっては普通かもしれないが、本来お前は元の世界で平和に暮らさないといけねえんだ」

 

 

そう言っていざ兄は優しく頭を撫でてくれる。悔しいけど、今の僕は子供だ。年齢魔法を使って大人の体になろうとも、精神は変わらない。一人じゃ何も出来ない只の子供にすぎない。

 

 

「・・・うん」

 

「良い子だ。でも、お前が帰るその時まで頑張ってくれるってんなら俺達はありがたいぜ。なあ、黒ウサギ?」

 

「はい!」

 

「うん・・・頑張る!皆とサヨナラするギリギリまで!」

 

 

僕は涙を拭いて受け入れた。なら帰るギリギリまで皆の力になろう。帰るその時までに全てを終わらせたい。そう思っていると、黒ウサギさんは思い出した様に僕に聞く。

 

 

「あの・・・先程から気になっていたんですけど、刹那さんの後ろに控えていらっしゃる銀髪の男性様と金髪の女性様は?」

 

「あ。えっと二人はさっきギフトゲームで・・・」

 

 

僕が言うと、二人は黒ウサギさんに自己紹介をした。銀髪の男性、金髪の女性と順番に名乗り始める。

 

 

「俺は《ジークフリート》だ。よろしく頼む」

 

「私は《ジャンヌ・ダルク》と言います。よろしくお願いします」

 

 

二人の言葉を聞いた瞬間、黒ウサギさんは飛び上がった。

 

 

「せ、刹那さん、あんなビッグネームな方々とどうやって!?それにギフトゲームって!?」

 

「コイツ此処であの蛇とドンパチする前にゲーム二連戦して全勝してんだよ。しかも恩恵とやらは使わずに素手一つでだ」

 

「はいっ!?」

 

「本当だ。俺の時は邪龍を拳一つで倒した。・・・竜殺しとは一体」

 

「私の時は火に焼かれながらも勝利しましたね」

 

 

黒ウサギさんは僕を見たまま放心する。だってあの龍とかお母さんに比べれば全然強くなかったし、ジャンヌとのゲームも炎は熱かったけど、そんなのどうでも良かったし・・・。

 

 

「ま、まさか御二人様と思ったら御四人様に増えるとは・・・感謝感激なのですヨ!」

 

「俺達はマスターに隷属している様な物だから恩恵扱いだ。・・・人の体でなくてすまない」

 

「一応私達も個人としては出れますよ。・・・"あの方"が色々してくれましたから」

 

 

ジャンヌが何かをジークに耳打ちしていた。二人に関しては呼びやすい名で好きに呼んでと言われたので、ジークとジャンヌと呼ぶ事にした。最初は兄と姉で呼ぼうとしたが、二人はそんな歳では無いらしい。

 

 

「そ、それでは待ち合わせの場へ戻りましょう!」

 

「あ、なら森の入口まで僕が転移させます!」

 

「そんな事まで出来るのかお前」

 

「うん。それくらいの力なら戻ったし」

 

 

この世界に来てから魔力の回復が遅い。前の世界じゃありえないレベルだ。これからはなるべく気を付けないと・・・。僕は四人に集まってもらって、森の入口まで転移魔法を発動した。魔法陣が足元に展開されると、一瞬で入口まで戻る。

 

 

「この先ですよね?」

 

「は、はい。では此処からは黒ウサギが御案内します」

 

「お願いします・・・ふわぁ」

 

「大丈夫か?」

 

「ぅん・・・へぇき・・・」

 

「マスターは休むべきだ。俺が背負って行こう」

 

「ぁいあと・・・じーく・・・」

 

 

僕はジークの背中に乗せてもらうと、あっと言う間に意識を落とした・・・。

 

 

刹那サイド

 

 

三人称サイド

 

 

待ち合わせの場所までの道を黒ウサギ達は歩いて行く。ジークフリートの背中では刹那が気持ちよさそうに寝息を立てている。それを三人は優しい表情で見つめる。

 

 

「流石に三連戦はキツいもんな」

 

「恐らく力に体と精神が追いついていないのでしょう。普通ならありえない運動量ですから」

 

 

十六夜と黒ウサギが言う。ジーク達は黒ウサギ達に聞こえない声量で話していた。

 

 

「まさか《聖杯戦争》以外で顔を合わせる事があるとはな」

 

「ええ。私も思っていませんでした」

 

「マスターの力のお陰か力を全力で出せる様になっている」

 

「あのお方の言う通り、強く優しいマスターですね」

 

「ああ・・・」

 

 

そう言ってジークフリート達は箱庭の世界に来る前の話をする。彼らは前の世界である願望を叶えるある物を取り合う戦いに参加していた。その役目を終えた彼らにある人物が現れ、刹那を手助けする様に言われたのだ。そして刹那の本質を見抜く為にギフトゲームを仕掛けた二人は見事敗北し、刹那に隷属を誓った。

 

 

「ただ、マスターが元の世界へ帰ったら俺達はどうなるのだろうか?一応この世界の知識は与えられたが、そこが分からない」

 

「恐らくマスターと同じ世界ではないのですか?プレイヤーとしてもゲームに参加できますが、基本は恩恵扱いですし」

 

 

そんな事を話している間に目的の場所へ着き、合流した・・・。

 

 

三人称サイド終了

 

 

刹那サイド

 

 

「な、何であの短時間に"フォレス・ガロ"のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」

 

「・・・ふぇ?」

 

「おい黒ウサギ。刹那が起きちまっただろうが」

 

「あ、ごめんなさい」

 

「んみゅ・・・おかまいなく・・・」

 

 

黒ウサギさんの叫び声で目が覚めた。何時の間にか着いたらしく、黒ウサギさんはあす姉とよー姉と、知らないお兄さんを怒っているみたいだった。

 

 

「それでゲームの日程は明日で、敵のテリトリーの中ですか。準備している暇もお金もありませんよ。それにどういった心算ですか。聴いてるんですか、三人共」

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

「黙らっしゃい!!!」

 

 

僕の事を気遣ってくれたのか、静かに怒っていた黒ウサギさんだったが、あす姉達の気持ちの全く篭っていない反省/Zeroな発言に遂にキレた。

 

 

「・・・何があったの?」

 

「どうやら悪事を働いていたコミュニティとゲームする事になったみたいです」

 

「そっか・・・なら僕達はお留守番だね」

 

「え!?参加しないのですか!?」

 

 

僕の言葉にいざ兄達は頷き、黒ウサギさんは唖然となった。

 

 

「お母さんが言ってた。他人の喧嘩に基本首を突っ込んじゃダメだって」

 

「そうだ。さっきも言っただろ?余計な手出しは無粋だぜ」

 

「ああもう、好きにしてください」

 

 

そう言って黒ウサギさんはお手上げポーズをした。ゲームをするに至った理由を聞こうとしたけど、僕にはまだ早いって誰も教えてくれなかった。暫くして、一段落したのか、黒ウサギさんが話題を変えた。

 

 

「さて、そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎する為に素敵なお店を予約していたんですけども・・・不慮の事故続きでお流れになってしまいました。また後日、きちんと歓迎を」

 

「良いわよ、気にしなくて。それに私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」

 

「も、申し訳ありません。騙すつもりはなかったのですが・・・黒ウサギ達も必死だったのです」

 

「もういいわ。私は組織の水準なんてどうでもよかったもの。春日部さんはどう?」

 

「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも・・・あ、でも」

 

 

そう言ってよー姉は黒ウサギさんに何か聞きたそうにするが、言い出せないでいる。見ていると、足元によー姉が連れていた猫が寄ってきた。僕はジークの背中から下ろしてもらい、猫を撫でる。

 

 

「猫さん♪」

 

「にゃ~」

 

「にゃんにゃん♪」

 

 

猫を撫でながら僕は鳴き真似をして遊ぶ。やっぱり動物は良いなぁ。前世でも学校で兎を育てたりしたし。向こうは会話が進んでいた。それを猫と遊びながら見る。

 

 

「どうぞ気兼ねなく聞いてください」

 

「そ、そんなに大それた物じゃないよ。ただ私は・・・毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思ったから」

 

 

そう言うと、よー姉と一緒に怒られていたお兄さんが固まった。もしかして、お金が無いからお風呂が無いのかな?・・・そうだ!僕は猫を抱えながら言う。

 

 

「あ、あの!」

 

「え、えっと・・・刹那さんですよね」

 

「敬語とか良いですよ。刹那で」

 

「じゃ、じゃあ僕も敬語は良いよ。僕は《ジン・ラッセル》。よろしく」

 

「よろしく、ジン兄!それでね、水はコレで何とかなるかなって」

 

 

そう言って僕はリュックから先程もらった苗を差し出す。それを見てジン兄は驚きの表情をしていた。

 

 

「これって《水樹の苗》!?それにこの大きさって・・・十六夜さんが?」

 

「違う。刹那が蛇神とやらに勝って手に入れた代物だ。元々お前達にくれてやるつもりだったみたいだぜ」

 

「こんな高価な物を・・・本当に良いの?」

 

「うん。これから暫くお世話になるし、皆の役に立てる事なら何でもするよ」

 

「ありがとう!これでお風呂に何時でも入れるし、生活にも困らないよ」

 

「そっか、良かった」

 

 

ジン兄達は凄く喜んでくれたみたいで、僕も嬉しい気持ちになった。

 

 

「凄いわね。流石私達の弟よ」

 

「刹那お手柄」

 

「ふにゃ~」

 

 

あす姉とよー姉が頭を撫でてくれる。とても気持ちよくて、思わず声が出た。

 

 

「あはは・・・それじゃあ、コミュニティに戻る?」

 

「あ、ジン坊ちゃんは先にお戻りいただけますか?ギフトゲームが明日なら"サウザンドアイズ"に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。水樹の事もありますし」

 

 

黒ウサギさんの言葉に僕達は首を傾げる。

 

 

「さうざんどあいず?コミュニティの名前ですか?」

 

「YES。サウザンドアイズは特殊な《瞳》のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

「ギフトの鑑定と言うのは?」

 

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

 

 

いざ兄達は気になるみたいだ。僕はアテナさんから貰った特典って分かってるから。偶に夢で会いに来てくれるし、優しい人だよねやっぱり。前に散歩してたらアテナさんの声が聞こえて、そっちの道はダメって聞こえたから別の道に行った次の日、通らなかった道で事故があったし・・・。加護的な何かがあるのかな?

僕達は誰も拒否する事なく、黒ウサギさんに着いて行き、サウザンドアイズへと向かった。進んで行くと、ベリベッド通りと書かれた道は石造りで整備されていて、脇を埋める街路樹は、桃色の花を散らしていて、新芽と青葉が生え始めていた。

日が暮れて月と街灯ランプに照らされている並木道を、あす姉は不思議そうに眺めていた。

 

 

「桜の木・・・では無いわね。花弁の形も違うし。真夏に咲いてる訳ないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合の入った桜が残っててもおかしくなくないか?」

 

「・・・?今は秋だったと思うけど」

 

「冬でしょ?だって今日はクリスマスだし・・・」

 

 

噛み合わない僕達の言葉に黒ウサギさんが笑って説明した。

 

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所がある筈ですよ」

 

「それってパラレルワールドってやつか?」

 

「近しいですね。正しくは立体交差平行世界論というものなのですけども・・・今からコレの説明を始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会という事に」

 

 

そう言って黒ウサギさんは振り返る。どうやらお店に着いたらしい。商店の旗には、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。あれがサウザンドアイズの旗なんだろう。・・・でもあの旗、家の地下に置いてあった気がする。

そう思っていると、日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員さんに、黒ウサギさんはストップを・・・

 

 

「まっ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

 

・・・掛けられなかった。流石超大手の商業コミュニティ。対応に隙がない。

 

 

「なんて商売ッ気の無い店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁止します。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!」

 

 

そう言ってキャーキャーと叫ぶ黒ウサギに、店員さんは冷めた目と、侮蔑を込めた声で対応した。

 

 

「なるほど、箱庭の貴族であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「・・・う」

 

 

その言葉に黒ウサギさんは言葉に詰まる。しかしいざ兄は躊躇う事なく言った。

 

 

「俺達はノーネームってコミュニティなんだが」

 

「ほほう。では何処のノーネーム様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

店員さんが言うと、黒ウサギさんは黙り込んだ。ああ、これが例の名と旗印が無いコミュ二ティのリスクか。すると、ジャンヌが僕に耳打ちして来た。

 

 

「サウザンドアイズはノーネームの入店はお断りしてるんです。何か算段があると思ったのですが、どうやら彼女は純粋に忘れてしまっていたみたいですね」

 

「・・・なんてこったい」

 

 

ジャンヌの言葉に思わず僕は泣きそうになる。黒ウサギさん・・・200年も生きたからそろそろ更年期的なアレが。

 

 

「でも一応彼らも正しくはあるよね・・・」

 

「そうですね。流石大手の商業コミュニティです」

 

 

力のある商店だからこそ彼らは客を選ぶ。信用できない客を扱うリスクを彼らは冒さない。

 

 

「でも・・・あの人は嫌い」

 

「そうだな。少し陰湿な所がある様だ」

 

 

ジークは僕の考えに賛同する。そして黒ウサギさんは心の底から悔しそうな顔で、小さな声で呟いた。

 

 

「その・・・あの・・・私達に、旗はありま」

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだな黒ウサギイィィィィ!」

 

 

突然店内から黒い着物を着た僕と同じ髪の色をした少女が黒ウサギさんに突撃し、一緒に空中を飛んで水路に落っこちた。

 

 

「・・・何今の?」

 

「さ、さあ?」

 

「俺にも分からない。役に立てなくてすまない・・・」

 

 

僕達が話していると、いざ兄達は目を丸くして、店員さんは頭を痛そうに抑えていた。あ、この人毎回苦労する側の人だ。もしかしてその所為で荒んじゃったのかな?僕の中で店員さんの評価が少し上がった。

 

 

「・・・おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

 

いざ兄は真面目な表情で聞いていた。あんな突撃をされたいのかな?いざ兄って・・・M?

 

 

「今何か変な評価を付けられた気が・・・」

 

「あ、上がって来た」

 

 

水路から上がって来た黒ウサギさんにくっついていた少女は黒ウサギさんにスリスリと顔を擦りつけていた。

 

 

「し、《白夜叉》様!?どうして貴女がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まってるだろに!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

 

そう言って黒ウサギは少女を投げ飛ばし、店側へ投げつける。そしていざ兄が足で受け止めた。

 

 

「てい」

 

「ゴバァ!お、おんし、飛んで来た初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

「和装・・・ろり?」

 

「刹那は知らなくて良いからな」

 

「む?これはまた可愛ら・・・し・・・」

 

 

白夜叉様と呼ばれた少女は僕を見て固まった。そして震えた声で聞く。

 

 

「お、おんし名は何と言う・・・?」

 

「え、えっと如月刹那です」

 

「如月・・・まさか《如月 澪》の娘か!?」

 

「お母さんを知ってるの!?」

 

「ひ、ひいいいいいいいいい!?悪夢じゃぁ!魔王より最悪な物が戻ってきおったぁ!」

 

 

そう言って怯え始めてしまった。な、何がどうなってるの?

・・・て言うかお母さん何をしたのさ!?

 

 

刹那サイド終了

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