オリオンをなぞる(物理)
刹那サイド
[ギフトゲーム名:"FAIRYTALEinPERSEUS"
・プレイヤー一覧
逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
如月 刹那
・"ノーネーム"ゲームマスター:ジン=ラッセル
・"ペルセウス"ゲームマスター:ルイオス=ペルセウス
・クリア条件:ホスト側のゲームマスターを打倒
・敗北条件:プレイヤー側のマスターによる降伏。プレイヤー側のマスターの失格。プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・舞台詳細・ルール
*ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。
*ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。
*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に"姿を見られてはいけない"。
*姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う。
*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけで、ゲームを続行する事はできる。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、"ノーネーム"はギフトゲームに参加します。
"ペルセウス"印]
契約書類にサインをした瞬間、僕達の景色が一瞬で変わった。そこは未知の空域に浮かぶ神殿で、僕達は門前に立っている。
「姿を見られれば失格、か。つまりペルセウスを暗殺しろって事か?」
「それならルイオスも伝説に倣って睡眠中だという事になりますよ。流石にそこまで甘くはないと思いますが」
「YES。そのルイオスは最奥で待ち構えている筈デス。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスとは違い、黒ウサギ達はハデスのギフトを持っておりません。不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が必要です」
「あ、僕透明化の魔法持ってるよ」
僕が手を上げると、全員がギョッとした顔で見る。
「マジかよ。それは俺達にも掛けられるのか?」
「ごめん。結構コントロールのいる魔法だからまだ僕にしか掛けられないんだ」
「でしたら、それを使って透明化のギフトを装備している方々から人数分奪って来る事はできますか?」
「あの兜とかだよね。大丈夫、すぐに取ってくるよ」
「やっぱり刹那君がいると、違うわね」
「一家に一人は欲しいところ」
あす姉達に褒められて少し照れくさくなりながらも、作戦を皆で立てる。あす姉が僕を撫でながら説明する。
「このルールだと三つの部隊に分ける必要があるわ」
あす姉の隣でよー姉が頷いた。このゲームは間違いなく百人以上の参加者が向こうにいる。人海戦術というものは何時どの時代でも恐ろしい。此方も相応の部隊構成が必要となる。それが少人数となると尚更だ。
「まず、ジン君と一緒にゲームマスターを倒す役割。次に索敵、見えない敵を感知して撃退する役割。最後に、失格覚悟で囮と露払いをする役割」
「春日部は鼻が利く。耳も目もいい。こっちがギフトを奪った後の残った奴らは任せるぜ」
いざ兄の提案にくろ姉が続いた。
「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加する事ができません。ですからゲームマスターを倒す役割は、刹那さんと十六夜さんにお願いします」
「あら、じゃあ私は囮と露払いなのかしら?」
「悪いなお嬢様。俺も譲ってやりたいのは山々だが、勝たなきゃ意味がない。あの野郎の相手はどう考えても俺達が適してる。それになにより刹那が首を取るって聞かねえ」
「宣戦布告した時から殺気立ってたものね」
そう言ってあす姉は納得した表情で僕を再び撫でる。さてと、あの優男どんな風にボコボコにしてあげようか。ザケルとかでじっくり焼くか、その他の魔法でジワジワと嬲って行くか。ギルさんの宝物庫のオンパレードか。どの道にしろ、くろ姉を泣かせた罪は重い。
「皆さん。今回のゲームは正直、勝てるか分かりません。厳しい戦いになると思われます」
「そんなにあの外道は強いの?」
「いえ、あの人の実力はさほど。問題は彼が所持しているギフトなのです。もし黒ウサギの推測が外れていなければ、彼のギフトは----」
「隷属させた元・魔王様」
「そう、元・魔王の・・・え?」
いざ兄の補足にくろ姉はポカンとなる。いざ兄はそんな事もお構いなしに話を続ける。
「もしペルセウスの神話通りなら、ゴーゴンの生首がこの世界にある筈がない。あれは戦神に献上されている筈だからな。それにも関わらず、奴らは石化のギフトを使っている。----星座として招かれたのが、箱庭の"ペルセウス"。ならさしずめ、奴の首にぶら下がっているのは、アルゴルの悪魔ってところか?」
「十六夜さん、まさか箱庭の星々の秘密に・・・?」
アルゴルの悪魔という単語に皆が首を傾げる中、いざ兄とくろ姉の会話は続く。
「まあな。この前星を見上げた時に推測して、ルイオスを見た時にほぼ確信した。後は手が空いた時にアルゴルの星を観測して、答えを固めたってところだ。まあ、機材は白夜叉が貸してくれたし、刹那が裸眼で観れるから難なく調べる事が出来たぜ」
「もしかして十六夜さんってば、以外に知能派でございます?」
「何を今更。俺は生粋の知能派だぞ。黒ウサギの部屋の扉だってドアノブを回さずに開けられただろうが」
「・・・そもそもドアノブ付いていなかった気が」
「あ、そうか。でもドアノブが付いていても、俺はドアノブを使わず扉を開けられるぞ」
「一応ですが・・・参考までにお聞きしても?」
皆何か予想できたのか、門から数歩下がる。僕も何時の間にかジャンヌに抱えられて後ろへ避難させられていた。
「そんなもん----こうやって開けるに決まってんだろッ!」
何と言う事でしょう。あんなにも強固そうで、正に神殿と言った感じだった門が匠(クラッシャー)であるいざ兄の蹴りによって粉々に粉砕、玉砕、大喝采されたではありませんか・・・。
うん、やりすぎです。
刹那サイド終了
三人称サイド
白亜の宮殿は五階建ての造りとなっている。最奥が宮殿の最上階にあたり、進むには絶対に階段を通らねばならない。主催者側の人間がどれだけ配置されているかも分からない中、最低でも一つの階段を確保せねば先には進めない。
門が蹴破られる音でゲーム開始を悟った"ペルセウス"の騎士達は、一斉に行動に移る。
「東西の階段を封鎖しろ!」
「正面の階段を監視できる位置につけ!」
「相手は五人、捨て駒の数は限られている!冷静に対処すれば抜かれる事はない!」
「我等の旗印がかかった戦いだ!絶対に負けられんぞ!」
号令と共に一糸乱れぬ動きをする彼らは正しく騎士だった。そんな彼等を最奥からルイオスは玉座にふんぞり返って見下ろしていた。その胸中は目の前のゲームではなく、挑戦を許した部下達への憤りだった。
「(ふん・・・役に立たない奴ら。ノーネームなんかに挑戦を許すなんて)」
どんなに従順でも、そんな無能は自分のコミュニティには必要ない。ゲームが終わり次第、全員粛清してやる、と物騒に呟く。
----だがルイオスは知らなかった。自分が敵に回したのが、名立たる英傑達にも劣らない、世界屈指の最凶問題児集団にあの最強夫婦の息子がプラスされた神をも恐れる集団だと言う事を・・・。
正面の階段前広場では、飛鳥の奮戦による大混戦となっていた。真正面から挑んだ十六夜達を捕らえに来た騎士達は、飛鳥が持ち出したギフト----水樹によって阻まれていたのだ。
「ええい!小娘一人に何を手間取っている!」
「不可視のギフトを持つ者は残りのメンバーを探しに行け!」
「駄目です!最初のうちに全員倒され、奪われた物以外全て砕かれました!」
「ファッ!?レプリカとはいえギフトアイテムだぞ!?」
「流石皆ね。仕事が早くて助かるわ!」
飛鳥は心の中でサムズアップをしてギフトカードを向けて、水樹の水流を放つ。飛鳥は少しでも騎士達の気を引く為、と言う建前の下に八つ当たりとゲームに華を加えるつもりで、"宮殿を破壊"しようとしていた。
やはり問題児の一人である。
「さてと、もうすぐ一階も水没ね。無様なものだわ」
足元で騒ぎ立てる騎士達が水流に呑まれ、悶える姿を見て自然と冷めた表情になった飛鳥はお構いなしに水流を出し続ける。今の自分に出来る事は此処で出来るだけ食い止める事だ。刹那達が最奥へ着くまで持たせる必要がある。この作戦を考えてくれた刹那と黒ウサギに心の中で感謝する。
飛鳥のギフトである《威光》は簡単に云えば支配するギフトだ。今まで人に対してしか使っていなかった彼女に刹那と黒ウサギが提案したのが、"他の物に作用するかどうか"だった。その結果、飛鳥はギフトを支配する事を可能にした。
「本当、最高の仲間を持ったものね。箱庭に来て正解だったわ!」
シンクのドレスを靡かせながら、再び水流を放出した。
飛鳥と二手に分かれた十六夜達は、刹那が透明化する魔法《グ・リアルク》を発動して透明化のギフトである兜を装備した騎士達を気絶させて、十六夜達の装備だけを確保して、残りは踏んで砕いた。象が踏んでも壊れない、とキャッチフレーズが付きそうだった丈夫な兜は、三歳児に踏まれて塵となった。
十六夜達は透明化した状態で、残りの騎士達を片付けながら着々と進んで行く。
「おっと。ストップだ」
十六夜が全員を止めて、指を指す。その先には、最奥への階段があり、その周りには誰もいなかった。その光景は明らかに異常すぎる。
「春日部、奴らの気配はあるか?」
「ううん。でも不自然な風の音とかがあるから確実に何かがいる」
「恐らくレプリカじゃなくて、本物だな。此処で何とかしたいが・・・」
「ジャンヌ、ジーク。敵が何処にいるか分かる?」
「はい。英霊である私達は更に気配に敏感ですから」
「此処は俺達が引き受けよう。マスター達は最奥へ向かってくれ」
「私も行く。多分行っても邪魔なだけだからせめて此処を制圧する」
そう言って三人は十六夜達の元を離れ、階段へと駆け出していった。ジャンヌとジークが見えない敵を気配だけで察知し、攻撃する。それを耀がカバーする。十六夜達は三人に任せて、階段を駆け上がって行った。
階段を上りきり、最上階へと着いた十六夜達。既に最上階で待っていた黒ウサギが安堵の表情を浮かべる。刹那達が最上階である闘技場の上空を見上げると、見下ろす人影があった。
「----ふん。ホントに使えない奴ら。今回の一件で纏めて粛清しないと」
空の上の人影のブーツには、光り輝く対の翼があった。本当ならば綺麗と誰かが言っても可笑しくない翼だったが、人影の正体であるルイオスが履いて、ドヤ顔で此方を見下ろしているのを見ると、ブーツが可哀想だった。
「まあでも、これでこのコミュニティが誰のおかげで存続できているのか分かっただろうね。自分達の無能っぷりを省みてm「長い。《ザケル》」あばばばばばばっばっ!?」
刹那の手から放たれた電撃をモロに浴びて、ルイオスは落下する。刹那は何時の間にか年齢魔法で大人モードになっており、ルイオスへと近づいていく。その全身からは、誰もが一歩どころか今すぐ世界の果てまで逃げたくなるほどの敵意が滲みだしていた。
「あのさあ、僕今凄くイラついてるんだよ。くろ姉泣かせた挙句に自分の部下を無能?それは君だろう。誰のおかげか?そんなの君の先代の方々に決まってるじゃないか。親の七光りで調子乗って金に物言わせてるだけの典型的なダメ人間め」
「き、貴様・・・!」
「おお、この前は僕を見て怯えてたのに敵意を向けられるまでは安定したんだね」
この時刹那は素直にルイオスを凄いと思った。適応力が早いのは良い事だ、と考えてしまう。そして再び冷酷な眼差しへと戻り、ルイオスに言う。
「ほら立ちなよ。君の力、正面から全て叩き潰してやる」
「ま、慢心してると後悔するぞぉ!」
「慢心せずして何が王か!ってギルさんも言ってたよ」
「こ、この名無し風情が!」
そう言ってルイオスは立ち上がって下がり、"ゴーゴンの首"の紋が入ったギフトカードを取り出し、光と共に燃え盛る炎の弓を取り出した。
「・・・炎の弓?呆れた。ペルセウスの武器で戦う気はないの?」
「当然。メインで戦うのは僕じゃない。僕はゲームマスターだ。僕の敗北がペルセウスそのものの敗北になる」
ルイオスは首にかかったチョーカーを外し、付属している装飾を掲げた。
「目覚めろ----アルゴールの魔王!」
「ra、GYAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaa!!」
白亜の宮殿に甲高い女の声が響き渡った。現れた巨大な女は体中に拘束具と捕縛用のベルトを巻いており、女性とは思えない乱れた灰色の髪を逆立てて叫び続ける。それは最早、人間に理解できる言葉ではなく、最初は歌う様だったが声が絶叫した様な金切り声に変わる。黒ウサギ達は思わず耳を塞ぐ。そんな中、刹那だけは耳を塞ぐ事もせず、心底不愉快そうな目をしていた。
「ああ、吐き気がする」
そんな言葉を呟いた瞬間、刹那の体はその場から消えていた。その光景にその場の全員がギョッとした。そしてアルゴールの魔王の巨体が突然上へと飛び上がった。ルイオス達の目で捉えた時、飛び上がって行くアルゴールの魔王の下では、刹那が上空へ手を翳していた。
「アルゴールの魔王、貴女にじゃない。貴女を隷属し、縛り付けて嘲笑うアイツにだ!《テオザケル》!」
「G、GGYAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」
「待ってて。今、開放するから」
刹那の手から放たれた雷が、アルゴールの魔王の体を焦がす。刹那にはアルゴールの魔王の絶叫が深い悲しみの叫びに聞こえた。開放するには実力行使と誰もが思う。やがてアルゴールの魔王はその身を重力に逆らうことなく、地面へと落下した。だが、直ぐに立ち上がり、拘束具を引きちぎりながら更なる奇声を上げる。その瞬間、強い光が世界を包んだ。
「全員、回避!」
「なっ!?避けろ黒ウサギ!」
「へっ?ひゃわぁっ!?」
十六夜は直ぐにジンを抱えて飛び退き、黒ウサギも紙一重で"空から落下してきた石塊"を避ける。刹那はギルガメッシュから受け継いだギフト《王の財宝》から大量の武器を発射し、石塊を粉々に砕く。
「いやあ、飛べない人間って不便だよねえ。落下してくる雲も避けられないんだから」
「く、雲ですって・・・!?」
ルイオスの言葉に黒ウサギは驚愕する。アルゴールの悪魔はこの闘技場だけでなく、このゲーム会場の世界全てを石に変えたのだ。
「今頃は君らのお仲間も部下も全員石になっているだろうさ。ま、無能にはいい体罰かな」
刹那にあれだけ睨まれながらも懲りないルイオスは愉快そうに空から刹那達を見下ろしていた。
「星霊・アルゴール・・・白夜叉様と同じく、星霊の悪魔・・・!」
"アルゴル"とはアラビア語でラス・アル・グルを語源とし、"悪魔の頭"という意味を持つ星の事だ。同時にペルセウス座で、"ゴーゴンの首"に位置する恒星でもある。つまり、アルゴールの悪魔は一つの星の名を背負う大悪魔。箱庭最強の一角である"星霊"がペルセウスの切り札であった。
何の防御も出来なかった黒ウサギ達が石化していないのは、ルイオスの遊び心だ。本拠をベースにしたゲームで初の挑戦者。すぐに終わらせるには勿体無い。そんな考えが彼にはあった。そして黒ウサギ達を上から見下ろして高笑いする。圧倒的な力の前に成す術なく負けていく彼等を想像していた。
だが、この時ルイオスは気付かなかった。その中に一人、ふつふつと怒りのボルテージを上げる"最強を継ぐ者"がまだいた事に・・・。
「・・・遺言はそれだけか」
----今、王の裁きが下される。
三人称サイド終了