サイエンス・グリモワール   作:神崎竹葵

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うp主はあまり科学に詳しくないので、違和感や間違っているところがあれば言ってください


1話

 学校に着いてから、何かがおかしいとは思っていた。妙に人の気配がしないと思っていた。

 しかし時刻は既に始業時刻を超えており、廊下に人がいないとは当然だと思っていたし、他の教室が目に入る機会も余裕もなかった。

 彼は歳が一つ下の幼馴染の少女と、通常の登校時間より大きく遅れて登校して来た。一階で少女と別れると、大急ぎで自分の教室に向かっていた。

 平咲鈴人ひらさきりんとは、自分の教室のドアを息を切らせて開いて、その時初めて気が付いた。 

 教室は真っ赤に染まっていた。喉、心臓、頭部。人間の急所が的確に攻撃された死体が四十一個、転がっていた。

「えっ……あっ……」

 声になり損ねた音が喉から漏れる。目の前の惨劇を、脳が理解するのを拒否しているようだった。

 一歩教室の中へ踏み出すと、血だまりで足元を掬われた。腰から落ちると、右手に肉の感覚が触れた。

「ああ……ああああああああああああ!」

 錯乱する頭が体に指示を出した。ロッカーを手掛かりにして立ち上がると、教室から飛び出す。 

 まだ何の被害もない廊下に、彼は日常と正気を求めた。

 彼の足は自然と一緒に登校して来た幼馴染の少女の教室へと向かっていた。あの娘を助けなきゃ。無意識の内のその使命感がどうにか彼が完全に狂気に落ちるのを阻止していた。

 階段に足をかけた。すぐ下には踊場が見える。その踊り場で、ようやく生きている人間を見ることができた。

 その人間は十六歳くらい少女だった。少し長めの髪を一つにまとめて、黒いタンクトップに少しダボダボのズボン。それらの健全な服装を、手に持った血がべっとり着いた軍用ナイフと口元の狂気的な笑みが台無しにしていた。

「ん? あれ、まだ生きてる奴がいたかー。まったく、あの無能共もちゃんとしてほしいよねー」

 ナイフをおもちゃのように回しながら少女は言った。

「ま、いっかー。おかげで私の仕事が増えたんだしー。嬉しい限りだよ」

 右手のナイフをこちらに向けると、ゆっくり階段を登ってくる。

「ちょっ……待っ……」

 混乱している鈴人でも、この少女があの惨劇の犯人であるかもしれないということは分かった。

 少女から逃げなければならないことは分かっている。しかし、身体が思うよに動かない。心の中で張っていた糸がプツンと切れた。

 膝が崩れてその場にへたりこむ。

「おいおい、男の癖に情けないなぁ君」

 十数段しかない階段は、少女の足でゆっくりと言えどすぐに登りきることができる。あと数段のところまで少女の年相応の体と、不相応の武器が迫った。

「シーユー! 名もなき少年よ!」

 ナイフが鈴人に向かって振り下ろされた。目をつむる暇さえなかった。

 --だから、次の光景をありありと見ることができた。

 少女頭が、上から落ちて来た何かによって床に叩き付けられた。床がえぐれ、コンクリートがむき出しになる。

「大丈夫か、坊主」

 その物体は人間だった。茶色の髪に青色の目、彫りの深い顔立ちで、日本人離れしている。2メートル近くありそうな、かつ筋肉がしっかりと着いた大きな体に、その体に似つかわしくない白衣を着ていた。

 左腕に比べて異様に太い右腕で、少女の頭を床に抑えつける。

「ひひひ! ひひひひひひ! びっくりしたなぁまったくもう!」

 大男が落ちて来る重量で床にたたきつけられ、さらに抑えつけられている状況で、まるで少し頭を打った程度のような気楽さで、少女は言った。

「やっぱこの程度じゃ死なねえか」

「当たり前だよ、おじさん。私の体はそっとやちょっとじゃあ死なないさ」

「まあいい。さて、俺はお前を捕まえたいんだが生憎そんな余裕はない。すまないが、死んでもらうぞ」

「それはごめんだね!」

 男が自分の白衣の内側に手を入れた瞬間、少女が男の体ごと跳ね除けて立ち上がる。その勢いで床を蹴ると、人間離れしなスピードで走りだした。

「じゃあねおじさん! あと君も! グッバイ!」

「……ちっ。逃げられたか」 

 無表情でそれだけ言うと、男は少年の方へ向いた。

「坊主、名前は?」

「え……あっ……、ひ、平咲鈴人です」

「平咲鈴人か。ちゃんとデータにあるな」

 男は言いつつ、鈴人の体を観察し。

「見たところ命に係わる怪我はなさそうだな」

「……あ、あの……。あなたは?」

「シュヴァルツ=アーベレ。詳しいことは後だ、とにかく、あんたの幼なじみのところに行くぞ」

 シュヴァルツは鈴人の十七歳にしては小さくない首根っこを軽々と持つと、階段を降りはじめ、何がなんだかわからない鈴人はその状態を受け入れた。

「……一体何がどうなっているんです……?」

「さっきも言ったが詳しいことはあとで話す。--まあ、そうさな。一言いうとするなら、日常にはお別れを言った方がいいかもしれねえぜ」

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