彼女の出現が彼にどのような影響を与えるのか…では東方狙撃録(仮)shoot01 邂逅 お楽しみください
夢を見た。何も無い、真っ暗な…いや、”真っ黒"な空間にポツリと俺が佇んでいる。一度ぐるりと辺りを見回してみるが、どこまで続いているのか分からない”黒"が広がっているだけだ。暫くすると足元がまるで泥沼に浸かったようにゆっくりと沈んでいく。足下に目をやると血の気の引いた数百の腕が俺の足を引っ張っていた。そして、頭が沈む瞬間に老若男女様々な声音が混ざったような声で
怨嗟の声を上げるのだ 。
「お前が殺した!」
その声を聞くと同時に目が覚めた。
「…またあの夢か、嫌な感じだ」
初夏とはいえ、早朝の気温は高いとは言えないのに俺の体は汗だくになって不快感がこみ上げてくる。現在は明朝の4時でまだ殆どの人は寝ている時間なのだが、あの夢を見始めてから否応なくこの時間に叩き起こされる様になった。催眠補助剤を飲んでも効き目はなく、未だにこの悪夢を見るのは自分が撃ってきた人達への罪悪感からなのかそれとも何か他の理由があるのか…いずれにしても俺にはまだ分からずにいる。
「シャワー浴びよ…」
今日もやるべきことは沢山ある。二度寝している時間は俺には無い。
シャワーで軽く汗を流し、黒のブラックパンツと清潔なカッターシャツに袖を通し部屋に戻る…いつもと変わらない俺の日常が始まる…はずだった。
「お邪魔しているわよ、殺人鬼さん」
さっきまで俺が寝ていた場所に腰掛けている女性が不敵な笑みを浮かべながら俺を見据えていた。彼女がつけたであろうテレビでは昨日都市部で起こった無差別銃撃事件が報道されている。『俺の事件』だ。間違いなくこの女性はこの事件の犯人が俺であることを知っている!ピリピリと緊迫した空気が寝ぼけ気味だった頭を瞬時に狙撃時のそれに変えた。
「俺を殺人鬼と呼ぶならあんたは自分から殺人鬼の腹の中に入った事になるんだが…分かっているのか?」
「えぇ分かっているつもりだけど…でも今の貴方には私を殺すだけの力はないでしょ?」
そう、今の俺の手には武器となる物は何一つない。それでも女性一人位絞め殺すくらい簡単なはずなのだが
それが出来ないのが分かるくらい一般的に美人と呼ばれる彼女が浮かべる笑みからは冷たい光が俺をその場に縫い止めていた。今迄様々な人間を殺してきた俺が女性一人にたじろいでいるこの状況に笑いが込み上げてきた。
「くくくっ…確かに俺はあんたを殺せなさそうだ。俺の名前は幽鬼 煉
あんたの言う通り最近噂になってる殺人鬼だ。気軽に煉とでも呼んでくれ」
「あら、怖い顔の割に結構素直なのね…私は八雲 紫親しみを込めて『ゆかりん』って呼んでくれてもいいわよ?」
「後半については遠慮しておくが、取り敢えずよろしくな…あと顔については余計だ!」
初対面の人間に対する態度とは思えない自己紹介が終わり、早速本題に入ろうと思う。これ迄でもかなりの時間を浪費してしまった…今日もやることがあるというのに。
「で、その八雲さんが殺人鬼と思っている俺に何の用だ?誰か殺して欲しい奴でもいるのか?」
「残念ながら、そんな人はいないわ
貴方には忘れられた者達が集う場所『幻想郷』に来てもらうわ」
頭の中が真っ白になった。幻想郷なんて単語は聞いたことが無かった。それに、忘れ去られた者達が集う場所だと?そんな場所は聞いたことがないが心当たりが無いわけではない
忘れ去られた者達つまりは存在がなくなった者達が集まる場所…所謂浄土というやつだろう。
「ふっ、俺にも遂にお迎えが来たようだな…死神が美女だというのは本当だったようだ」
「確かに死神が美女というのは本当だけど貴方が行く幻想郷はそんな場所じゃないわ。そうね…貴方が欲している答えがあるかもしれない場所とだけ言っておくわ」
俺は思わず身を乗り出して八雲の胸ぐらを掴んでいた。こいつは俺が今現在も抱えているものの答えがあるかもしれないとそう言ったのだ。思わず嫌なものを思い出しそうになるのを散らしながら俺は彼女に詰め寄り問い詰めた。
「お前…一体どこまで知っている?俺の忌むべき過去を一体どこまで…」
「さぁ、どこまででしょうね?本音を言うと貴方にはこれ以上"無意識"の内に罪を重ねて欲しくないのと、これ以上人間の数が減っていくとバランスが崩れるから…ってのもあるわね」
間違いない…こいつは 俺の秘密を知っている。血に染まった記憶の謎を、しかもその答え手に入れる可能性を俺に示唆している。なら俺が取るべき行動は一つだ…
「連れて行ってくれ、その幻想郷という場所に」
「即答ね…言っておくけど貴方が思っているより幻想郷は厳しい所よ?覚悟は出来てるのかしら?」
やはり普通の場所ではないようだな…もしかしたら今度は死ぬかもしれない。でも、
「それでも、俺は答えを見つけたい多少の危険なら承知の上だ」
俺がそう言うと八雲は先程の笑みとは違い、優しい笑みを浮かべて右手に持っていた扇子を軽く振ると俺の目の前の空間が裂け、真っ黒であちこちに目玉が犇く穴が出来上がった。
「そこを真っ直ぐ行けば、幻想郷に辿り着くわ。そこからどうするかは貴方次第よ。貴方のライフルは私が預かっておくから代わりにこれを持って行きなさい。私からのプレゼントよ」
「おいっ!何を勝手に…」
俺が取り返そうと手を伸ばした時には既に違う場所に空いた穴に吸い込まれていた。俺が睨み付けると彼女は飄々とした顔で制した。
「あの銃の能力は危険すぎるのよ。向こうのルールには当てはまらないから預かっておくだけ、戻る時には必ず返すわ。それに、『郷に入っては郷に従う』と言うでしょ?」
上手く煙に巻かれた様な感じがするがあまり深く考えない方がいいだろう。突き出された物を渋々ながら受け取る。
「これは…リボルバー?パイソンに似ているがそれにしては歪な形をしているな」
手渡された物はリボルバー型の拳銃なのだが、シリンダーの大きさがおかしかったりバレルが四角柱型だったり本当に使い物になるか怪しい物だったので一瞬受け取るのを躊躇った。しかし向こうからとにかく受け取れと目が語っているので素直に受け取っておく。
それにしても、本当にこいつは一体何者なんだ…空間に穴を開けるとは、最早人間ではないのは確実だな。俺の懐疑的な視線の先にある顔には元の胡散臭い笑みに戻っており、そこから彼女の真意を探ることは出来そうに無かった。ただこれだけ非科学的な事が起こっているにも関わらず俺の心は高揚していた。最低限の準備を済ませると俺は腰に差したリボルバーの具合を確かめながら待っている彼女に頭を下げた。
「色々悪かったな、世話になる」
「貴方にどんな事情があって今の貴方があるのか、それを今問いただすつもりは全くないわ。幻想郷は全てを受け入れるのだから貴方もすぐに馴染めるわよ」
「くくくっ…楽しい人生になりそうだ‼︎」
俺は肩で風を切りながら穴の中に入っていった。
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