東方狂宴舞   作:ホッピングミキサー

24 / 29
前回無事にフランの入学が認められ、レミリアからも応援され教育について一夜漬けをしたレン君。今回はその翌日の話である…
では、shoot20 新任教師お楽しみ下さい


shoot20 新任教師

ある昼下がり、燦々と降り注ぐ日光を浴び続けた校庭の地面からはゆらゆらと陽炎が立ち上り夏の訪れを示していた。そんな場所に建つ木造の校舎からは生徒達の賑やかな声が微かに聞こえ子供特有の快活さを感じさせられた。そして今本館にある教室から一棟離れた場所にある一室で生徒帳簿を前に俺は…溶けかかっていた。

 

「こいつは予想以上だ…まさかここまで差が開いているとは」

 

どうして俺が下ろし立てのカッターシャツを汗で透かせながら頭を抱えているのかを説明する為には今から数時間前迄時間を遡らせる必要があるだろう。そう、あれは…

 

 

 

フランを連れ提示されていた時間に職員室に行くとそこには初めて会った時と同じ澄んだ藍色の瞳を優しげに細めて俺を見据える上白沢先生の姿があった。

 

「やぁ、来たな?時間ぴったりだ。感心感心」

 

「初出勤だからな。初日から遅刻は洒落にならないだろうしフランの入学も兼ねてるんだ

そんな大切な日に寝てられるかよ」

 

まぁ今迄の不足している学力を補う為に教材とにらめっこしていて寝られなかったってのが一番の理由だが…それを知ってか知らずか

それ以上俺の事には触れずにただ「そうか」とだけ言い隣にいるフランに手を差し出した。

 

「君が新しくここに入る子か。私は彼と一緒にここで教師をやっている上白沢 慧音だ。気軽に慧音先生と呼んでくれ。君の名前はなんていうんだ?」

 

「フランだよ!えっと…これからよろしくお願いします慧音先生?」

 

「あぁ、よろしく。じゃあフランに煉君達の教室に案内するからついてきてくれ」

 

前もってフランには目上の人に対する受け答えは仕込んであった。ややたどたどしいが、まぁよく出来たというところだろう。慧音先生に並んで付いていくフランを後ろからゆっくりと追いかけながら一人頷いていると先導していた慧音先生が一室のドアの前で立ち止まった。

 

「ここが私の教室だ。今日煉先生にはここで私の補佐をしてもらって少しだけ授業も行ってもらう。少ししたらフラン、君を呼ぶから呼ばれるまでここで待っていてくれ。よし、じゃあ行こうか」

 

勢いよく扉を開いた慧音先生の後を追うように付いていく。彼女の斜め後ろに立つように教卓に上り、自分達を見る子供達の顔をざっくりと眺めてみる。その表情からは皆様々な感情を読み取ることができ、まるで色とりどりの硝子玉を散らばめた様だった。

 

「今日は新しい先生を紹介する。じゃあ先生自己紹介をお願いします…先生?」

 

こうして慧音先生のバックアップという立場で一歩下がって立っていると、いつもレミリア嬢の側に立つ瀟洒な上司の姿が思い浮かび、彼女が見ている景色はこんな感じなのかとどうでもいい感想を抱いていると右腹に軽い衝撃を感じた。なんだよ…今いい感じの余韻に浸っていたのにじゃますんじゃねぇよ!辟易とした気分で衝撃を感じた元の方向を見るとそこには鋭い眼光で睨む先輩教師の顔が目の前にあった。

 

「先生ぇ?早く自己紹介をして貰わないと…生徒達が待っていますよ?」

 

優しげだが地の底から響くような声が耳元で囁かれた途端身体中から冷汗が吹き出すのが分かった。

まずい…この状況は途轍もなくまずい。唯静かに睨まれ体を硬直させた俺は先程まで感じていた館の上司と同じ感覚から蛇に睨まれたカエルと同じ感覚に変わった様な気がした。一度にニ種類の共感覚を味わえるなんてなんか得した気分…なんて言ってる場合じゃない!なんとかこの空気を挽回しないと。

前もって渡されていたチョークを片手に教壇に登り黒板に名を記し終えると振り返りキョトンとした表情でこちらを見る生徒達に向かって鋭く言い放つ。

 

「本日付けでここの教師として着任する事になった幽鬼 煉だ。俺のことは気軽に煉先生と呼んでくれればいい。当面は慧音先生の補佐という立場でここに立つが後々俺も授業をする事になるから宜しく頼む。以上!」

 

一礼の後素早く慧音先生の後ろに下がる。教師と生徒の関係は馴れ合いではない。あくまで教える側と教えられる側の立場だ。よって生徒達とは初めから毅然とした態度で接する必要がありそうでなければ適切な教育は行えない。

 

「コホン‼︎えぇ…煉先生ありがとうございました。それじゃあ皆んなに新しく入る生徒を紹介しよう。入っておいで!」

 

静まり返った教室に慧音先生の咳払いが響き凍りついた空気が再び動き始める。『新しい生徒』…そうだ、ここでの俺の任務はフランの幸せな寺子屋での生活を保証し監視という名目でそれを確認することだ。気を抜いてはいられない。扉が開き、滑らかな金髪と赤いスカートが揺らしながら入ってきた少女の姿が見えた時教室にいる生徒(特に男子)から歓声が上がった。慧音先生が制しようとしているが生徒達の心境は理解できる。平静を装っている俺自身も眼を見張るほどにフランのその姿は愛らしかった。背中から生える宝石のような翼にも彼らは興味を示していないようでその事について聞いてくる生徒はいない事がわかり一つ不安が解消された。

 

「彼女はフランドール・スカーレット。今日からここで学ぶ新しい皆の仲間だ。仲良くしてやってくれ。フラン自己紹介をしてくれるか?」

 

「はい!フランドール・スカーレットだよ。フランって呼んでね!」

 

ハキハキと喋るフランの顔からは入ってくる時の気恥ずかしさを含んだ表情は消え屈託の無い笑顔に変わっていた。そんな彼女の後ろ姿を見ていると小さく感じていた背中がゆっくりと大きくなっていくような感覚になった。

 

「じゃあフランは…そこの空いてる席に着いてくれるか?」

 

「はーい…あっ、お姉ちゃん!」

 

「昨日ぶりだね、フランちゃん」

 

その席を指示した事に慧音先生の何らかの意図があったかどうかは分からないがフランが歩いて行った席の隣には笑顔で迎える風織の姿があった。つい昨日会ったばかりなのに親友の如く和気藹々と話す二人を見ていると当初俺が危惧していた一般生徒との不調和は杞憂に終わりそうだと感じ安堵の溜息吐かずにはいられなかった。

その溜息が数十分の間に悲痛の溜息に変わり頭を抱える事になるなんてこの時の俺は想像すらしていなかった。

 

そして冒頭にあったように俺が溶けかかっている現状に戻るわけなのだが…あの後一通りの歓迎が終わり教室本来の厳粛な空気が戻ってきて幻想郷の歴史の授業が始まったのだが、一夜漬けで基礎教育論を詰め込んだ素人丸出し俺の目からしても御粗末なものだった。決して慧音先生の指導自体は悪いわけではない。様々な年齢層が混在している生徒達全てに理解できるように授業が組まれており補佐である俺ですら幾つか勉強になる程に内容も濃密なものだ。しかし密度の高い授業は体力が有り余る子供達にとってはただの退屈なもの変わってしまうのだろう。風織の様に頭を捻るフランに教えながら発言数や態度なども申し分なく授業を受けている優等生的生徒もいるが反対に態度、正答率壊滅的な問題児も当然いる訳で…

 

「もう一般生徒の指導を優等生に仕切らせて、問題児を徹底的に指導するべきなのか?いや、慧音先生にあそこまで大見得切った後で生徒を区別するやり方は取りたくないし取るべきじゃない。しかし…「何を一人でブツブツ言ってるんだ?」うおっ!」

 

ガッターン

 

「…そろそろ午後の授業が始まるぞ?次はお前が担当なんだからしっかりしてくれよ」

 

どうやら俺があれこれ考えている間に昼休みは終わってしまったようで呼びに来ていた慧音先生に驚いた衝撃で机からずり落ちた。そんな俺に手を貸しながら苦笑いを浮かべる彼女の顔を見ていると羞恥心が噴き出してきた。

 

「すいません…直ぐに行きます!」

 

「……何を悩んでいるのかは分からないが、お前は私の生徒を一人救ったんだ。だからもっと自信を持ってお前のやりたいようにやってみろ。腕はこの私が認めているんだから」

 

慌てて教材を抱える俺の肩を軽く叩きながらそう激励を飛ばして出て行った女性が見せた笑顔には『見たことのない』母の様な温かみが感じられ気づけば俺の両眼からは透明な液体が流れていた。

 

「あれ?なんで俺泣いてるんだ?俺に母さんなんて初めからいなかったのに…ははっ、おかしいな。なんで慧音先生の笑顔が母さんと被るんだ?」

 

母のことを思い出そうとすればするほどまるでノイズがかかった様に記憶が不鮮明になる

。恐らく俺には俺自身すらも知らない…いや

知るべきではない真実が存在するのだろう。

以前の俺なら困惑のあまり平静を保っていられなかっただろう。だが今の俺にとって思い出せない記憶なんてどうでもいいことだった。今考えるべきなのは不鮮明な記憶についてではなくこんな俺に付いてきてくれる生徒達に全力で答えることについてなのだから。

流れる涙を乱暴に拭い、ふやけた頬をピシャリと張って今迄の糞のような自分を叩き出す。椅子に掛けていたスーツに腕を通しボタンを止めようとして慧音先生の「やりたいようにやれ」という言葉を思い出し薄く笑いながら止めた。シャツをスボンから出しネクタイを少し緩めたその姿はおよそ教師とは全く別のものだったが浮かべる表情は先程のはうって変わって自信に満ち溢れていた。

スーツの裾をはためかせて教材片手にまだ微かに騒つく教室の前に立つ。鼓動が早まるがそれには既に先程のような不安は含まれていなかった。

 

「…っしゃ!行くか‼︎」

 

自分を奮い立たせ俺は音高らかに少し古い木製の戸を開けた。

 

 




如何だったでしょうか?活動報告にも書いた通り最近スランプに陥りまともに更新もできず、失踪を感じさせてしまいました。
いまもスランプは抜けておらず中々更新は捗らないかもですが失踪することは無いので生温かい目で見てくださると幸いです。
これは私事ですが最近今迄に描いた作品を読み返しているとクオリティが下がってきていることが分かってしまって焦っておりますです…
ではまた次回にお会いしましょう
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。