寺子屋編が今回で完結となります。煉君の示す教育概念を彼はどの様な形で生徒達に伝えるのか…では shoot21 教育と雛鳥の巣立ちお楽しみ下さい
茹だるような暑さをもたらした昼の陽射しは弱まり、暖かな午後の西陽が人里で暮らす人々を照らし出した時、木々の緑を鮮やかに彩る山中からは子供達の声が響いていた。
「ルーミア、先生いた?」
「わはー…見つからないのだー」
あの特徴的な帽子と喋り方からしてあそこにいるのはルーミアとミスティアか…夜雀の夜盲能力は夜間にかけられれば厄介だが今はまだ日が高い。殆ど効果は無いと言っていいだろう。加えて暗視ゴーグルの機能を持つ目が邪魔になり捜索能力は激減している筈だ。ルーミアの持つ闇を操る能力と併用すればかなりの戦力になる筈だが、あの調子だと彼女達がそれに気づくことは無いだろう…数十メートル先であたふたしている少女達の姿を写すスコープを腰のポーチに収め青年は己から発される最小限の音でその場を離れた。
「…全くこんなにうまくいくなんて思ってもみなかったな。昔から子供は単純と言うが普通ならこんな『授業』受ける気にもならないぞ」
ミスティア達を発見しその場所を離れてから新たな隠れ場所を探して走る俺は自分が作り上げた教育計画を全て受け入れてくれる環境に苦笑を浮かべながらそう呟いていた。大木を見つけその蔭に隠れ目の前に地図を広げて今の現状を確認する。今この山には人妖問わず生徒達が全員散っており、全員が俺を見つける為に動き回っている。このまま夕方まで逃げ延びれば俺の勝ちだが、簡単にいく相手ではない。地図に線を引き次の目的地までの経路を割り出し頭の中でシュミレーションを反芻し地図を仕舞って立ち上がる。
「さてさて、俺の生徒達はどこまでついてこられるかな?」
自分がいた痕跡は敢えて消さずに言葉を零した次の瞬間には既に俺の姿は無かった。
風を切り変化に乏しい景色が後方に流れるのをぼんやりと見送りながら俺はふとこんな状況になった事の顛末を思い返していた。
音を立てて戸を開くと共に意気揚々と教室に入り、俺が最初にした事はありふれた授業の説明でもエリート校よろしく超高速の板書を始めるわけでもなく入ってきた笑顔のまま指導用に渡されていた算学の教本を引き裂くことだった。
乾いたそれでいて鋭い音が響きその後に残った静寂の中あまりに常軌を逸した状況に呆気にとられる生徒達を半ば無視し俺は言葉を紡ぎ出す。
「名前は朝に言ったから自己紹介は省かせてもらう。今日からお前らに算学を教える事になっているが最初にお前らに言っておく。俺の授業では慧音先生の様に教本片手に訳の分からん数列をこねくり回す様な教え方はしない。そんなやり方は聞いたことがないかもしれないが俺が教えるのはあくまでお前らの人生で役立つ情報となるだろう。解法は教えてやる、それをどう使うのかはお前ら次第だ。
」
生徒達はあいも変わらず呆気にとられた顔をしていたが明らかに最初のものとは別のものと成っていた。黒板に幾つかの図形と数式を書き終えると共に再び生徒達に向き直り口を開く。
「人生に共通の教本は存在しない。自分の教本(心)から答えは選び出せ、押し付けがましい教本(理屈)なんてもんはこうしてっ」
半分になった教本を真上へ投げ腰のホルスターから銃を抜き引き鉄を引いた。炸裂音と共に放たれた弾丸は引き裂かれた本を更に真っ二つに引き裂き頭上ではページの紙吹雪が舞った。銃口から昇る白煙を千切りながら腰に戻し笑顔で続ける。
「撃ち抜いちまえばいいんだ。もう一度だけ言うぞ、今の現状にに風穴をあける弾丸は俺が渡してやる。引き金はお前ら自身の手で引け…俺からは以上だ。授業を始めるぞ!」
「はいっ!」
好奇心と意欲に満ちた表情を見せる彼等に俺も大きく頷いた。
俺が手始めに教えたのは山岳地における経路模索の効率化だった。人妖問わず食料確保の為又子供達にとっては遊び場として山に入る事が多いという。しかしながら外の世界の山とは違い整地もされていない場所が多く危険な場所もあるため頻度としては減少の一途をたどっているそうだ。生徒達に数地理学の基礎として三角法と微積分を教え安全な入山経路を模索させるために俺は用いたのは『隠れ鬼』という遊びだった。生徒達にはこの山の地図とコンパス、簡単な縮尺を記した冊子を渡してあるがこの山は妖怪の山と呼ばれる霊山ほどではないにしろ頻繁に出入りしている百姓でも半日は半日はかかると言われる程の面積がある。子供がただ我武者羅に探し回るだけでは1日かかっても俺を捕まえる事は不可能だ。しかし教えた公式通り経路を作成、取捨選択すれば子供の力でも日暮れまでに踏破できるはずだ。
「…ははっ、俺が世間から逃げるための業がこんな風に使われる事になるなんてな。ここに来るまで考えられなかったなぁ…おっと!」
暖かな色で埋められた追憶に浸り呟いた時視界の端に青と白のスカートが映り込んだ。
直進していた方向を砂埃を上げながら左に変え手頃な草叢に潜り込み様子を伺う。背中に携える氷の翼、青色のワンピース、体から発せられる冷気…氷精のチルノだ。紅魔館が建つ霧の湖によく出没し湖内の生物を氷漬けにしているとメイド長からは報告を受けているが本人を見るのはこれが初めてだ。なんでも妖精界では最強の位置にいるらしくその肩書きが彼女の自信になっているようだ。
「むぅ〜あいつ全然いないじゃん!」
おいおい、そんなか探し方じゃ見つかるもんも見つからないぞ…中々見つからなくてイラついているのか忙しなく周囲を見回す様は側から見ても上辺だけをなぞっている事が見て取れた。あの調子じゃ俺を捉えることはおろか発見する事も出来ないだろうな。溜息を吐きつつ彼女のいる方向と逆方向に草叢を出る
見つからないように迂回しつつ元のルートに戻れば問題はないだろう。そう考え生い茂る草木を掻き分けチルノの姿が視認できない地帯に出た時直ぐ後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「あ、先生見つけた」
「お前らか…中々やるな」
一方は肩までの黒髪に付いている鈴の髪留めが揺れ綺麗な音を鳴らし木綿の衣を纏った落ち着いた雰囲気の少女。対照的に艶やかな金髪を片側で結び背中の宝石の様な翼を揺らし瞳と同じく紅い衣を纏うあどけない少女。
風織 鈴音とフランドール・スカーレット。俺が外へと放った二匹の小鳥はどうやら無事に自らの翼での世界という空の飛び方を覚えた様だ。俺と対面する彼女達の目には生気が輝き今という一瞬を楽しんでいる事がありありと分かり思わず綻ぼうとする顔を引き締め余計な感情を意識の箱に詰め込み蓋をする。私情はここまで、今現在展開されている空間に散らばる細かな情報から現状打破の最前策を構築する。フランの身体能力を考えると彼女の守備範囲はかなり広大なものになるだろうから風織がいる左方から切り崩すのが妥当だろうがあちらは木が乱立して最前とは言い難いものだ。苦笑いを浮かべ、立ち塞がる二人に賞賛の言葉を送る。
「全く…本当に対した奴らだよ配置は一見適当に見えて周到に計算されたものだ。俺が考察を重ねれば重ねる分選択肢を減らせるように組んでやがる。この配置を考えたのは…風織ってところか?頭が良く優しいお前のことだ日光に弱いフランに無理をさせないように地形を生かた戦法で俺の動きを制限しようと考えたんだろ」
「はい、フランちゃんについては先生に聞いてましたし本人から日傘も渡されされましたしね。でもどうします?いくら先生でもフランちゃんのスピードを超えられないんですよね?私を抜く前にフランちゃんに捕まりますよ?」
驚いた、いくらフランのスピードが俺の反応速度を超えていることが分かったとしてたったそれだけの情報でここまでの陣形を作り出すなんて俺の予想を完全に超えた発想だ。相手の思考の先を読み、それに合わせて既存の戦力に合った戦術を組み立てる。歴戦の兵士でも中々出来ない芸当を齢10もそこそこの少女がやってのけるなんて誰が予想できるだろうか。それでも彼女達二人が警戒を解かないのはこの状況でさえ俺が表情を変えない事にあるのだろう。
「確かにここまで完璧に術中に嵌ってしまったら普通の人間だったら諦めて大人しく捕まっていただろう。でもな、俺も伊達に紅魔館の執事をやっているわけじゃ無い。風織の組んだ陣形は確かによく出来てるよ…でもな、ツメが甘い!」
跳躍と共に腰のポーチからワイヤーを引き出し頭上の木々に引っ掛け遠心力で枝の上に着地する。俺を追い飛翔したフランが枝に足を着いた瞬間先程までフランがいた地点に飛び降りながら掛けていたワイヤーを引き絞り枝を切断する。
「つーかまえたっ!…あれ?」
発泡スチロールをこすり合わせる様な音が響き枝が切断される。フランはその場に浮遊し
落下こそしていないものの状況を飲み込めていないらしく目を白黒させていた。後ろにいる筈の風織の様子を確認するために振り向いた時俺は目を見開いた。切断した枝が彼女の頭上に落下してきていたからだ。素早く腰の銃を抜くがその時には枝は彼女の頭上すれすれに迫っており、それは即ち絶対に間に合わないことを示していた。銃を構えたまま立ち尽くすだけの俺の後方でもう何度聴いたか分からない少女の声が聞こえた。
「キュっとして…どかーん」
その瞬間枝の周りの空間が歪み枝が乾いた音を立てて粉々に吹き飛び、後には呆然と立ち尽くす少女と馬鹿丸出しの顔で硬直している俺だけが残った。震える足でゆっくりと風織の前まで近づき怪我がない事を確認する。どうやら怪我はしていない様でキョトンとした表情で俺を見上げている。その顔を見ていると気づいたときには彼女の細い体に腕を回し抱きしめていた。
「せ、先生?」
「良かった…本当に良かった」
何度もそう呟き風織を抱きしめ続けていると背中にポスッという軽い衝撃を感じ後ろを向くとむくれた顔で腰にしがみついていた。頬を膨らませ不満感たっぷりの表情で俺を見上げ口を零す。
「鈴音お姉ちゃんばっかりずるい!フランだって頑張ったのにフランもぎゅーって欲しい!」
「え、お姉ちゃんもって…きゃあ‼︎先生、離れて下さい‼︎」
「おっと、悪い悪い」
フランの言葉を聞いて自分が抱きしめられている事に気付いたのか顔を真っ赤に染め両手で俺の体を押し返す。それでも数秒の逡巡の後まだ赤味の残る顔で俺の右手を握りその様子を見たフランも残った左手を握り笑顔を向けてくる。俺が首を傾げていると二人は口を揃えて言った。
「先生、捕まえました(たよ!)」
「あ、しまった…」
俺の隣にいる二人の少女の手はしっかりと俺の手を包み離れないように繋ぎ止めておりそれは敗北を俺に認識させるには十分だった。
やられたよ、俺の完敗だ。こうも妙手の連続だと流石の俺も負けを認めざるえない。しかしながら勝負に負けた後に感じる虚無感は無く爽やかな充足感が胸を満たしていた。
日も傾き輪郭が濃くなった山に空砲による授業終了の合図が響き渡り山を降りてきた生徒達は皆泥だらけの顔を笑顔にして各々の帰路に就いていく。幾重に重なり幾何学模様を織り成す影の中に雑務を済ませた俺とそれに寄り添うフランの姿が一層色濃く写っていた
俺がフランと共に寺子屋を出ると直ぐに手を繋いでくれと言われた。理由を聞くと俺が遠くに行ってしまったように感じ寂しかったとの事だそうで今は俺の手を握り安心したのか御満悦の表情を浮かべている。隣を歩くフランは俺が職員室にいる間にあった物事を事細かく話して聞かせてくれた。
「なぁフラン、風織の頭に丸太が直撃しそうになった時丸太が吹き飛んだのはお前の能力だろ?一体どうやったんだ?」
「うーん…自分でもよく分からないんだけどお姉ちゃんが危ないって思ったら壊したい物に"目"が寄っていって…やっぱりよく分かんないや。今は全然そんな感じはしないし」
帰路も半ばに差し掛かった頃俺はあの時の事を尋ねるとフランは屈託のない笑顔でそう答えた。
『目』それは即ち物質に必ず存在する綻びのようなものでフランの能力はその目を壊すことによって物質が物質として存在する為の結合を崩し対象を破壊するものだ。彼女曰くその目は彼女にしか視認できないようで地下室にいた頃は何万もの目で自分が見られていたそうだ。その目が破壊したい対象に集められたということは能力の範囲指定が出来るようになった事と同義である。威力は日頃の鍛錬の成果かかなり抑えられるようになっている
つまりそれは…
「やったなフラン!もう少しで能力がコントロール出来るようになるかもしれないぞ!?もう自分の力で大切なものが壊れてしまう事は無くなるんだ!」
「え、本当!?もうお姉様や皆んなに迷惑かける事が無くなるの?寺子屋の友達とも遊べるようになるの?」
「勿論だとも!でもまだ完全に制御出来てるわけじゃない。今回は偶々上手くいったが次は失敗して誰かを怪我させるかもしれない。いや、今のままじゃ間違いなくそうなるだろう。そんな状態じゃ友達と遊ぶなんて事は話にならない。だから次は能力の範囲指定…つまり目を壊したい物に集める訓練を完全に出来るまでしないといけない。これは今迄のものよりきつい訓練になるがやるか?少しでもやりきる自信がないなら止めておけその方が楽だぞ?」
ここで甘い事は言わない。現実を受け入れ現在において自らの力量が如何程なのか自覚しないと新しい場所に進む事は出来ない。今迄のフランならリスクを恐れて進む事を躊躇っただろう。しかし今日彼女は寺子屋に行き様々な初めての経験をし初めて館の外で出来た友人という希望を得た。
「勿論やるよ!お姉ちゃんや皆んなと遊びたいもん。それに…お兄様ともっと色んな所に行ってみたいしね!」
そう言う土埃で汚れたフランの顔は夕闇の中不敵な笑みを浮かべており以前の儚げな表情はどこにも無く、その笑顔には姉のレミリア嬢によく似た凄みを含んでおりそれはまるで今迄の自分との決別を表しているようだった。
あれ程忌み嫌っていた能力と真っ向から向き合うことによって今迄自分を縛り付けていた鎖を断ち切った紅い鳥は更に広い自分だけの空へと羽ばたき始めた。その様は光を放つ明星の様であり、その光は未だに空を探そうともせずにただ蹲る俺を責め立てるかのように感じられた。その現実から逃げる様に素早くフランを抱き上げる。
「さっ、早く帰ろうか。フランが成長した特別な日をお祝いしないとな」
「うんっ!お姉様達も待ってるだろうしね。あのね…お兄様、今日授業でお兄様を捕まえれたでしょ?それでお祝いとは別にお願いがあるんだけど…」
お願いか… いつもなら俺が対応出来る限りフランのオーダーには答えたい処だが今日は俺にとっても初めての事ばかりでかなり疲れた。それに俺もフランも外で動き回った所為で泥だらけだ。早く風呂に入ってさっぱりしたいんだがなぁ…ま、昼間あれだけの任務をこなしたんだ、なんとかなるか。
先程から変わらない笑顔でフランに内容を問いかける。
「いいぞ?なんでも言ってみな?」
「うん!今日は一日甘えさせて欲しいなって…」
なんだそんな事か…やっぱり相当寂しかったんだな。そんな見た目相応の反応を見せてくれる時俺は彼女の心が開かれていくように感じ嬉しくなる。頭を撫で優しく頷いてやる
「あぁ、構わないとも。今日一日寂しい思いをさせた分たっぷり甘えてくれ」
「ありがとうっ!じゃあ…帰ったら一緒にお風呂入ろ!フランもお兄様も外で動き回った所為で泥だらけだし」
…これは今までで経験してきた状況の中で最も危険なoperationになるかもになるかもな。ははは…
やや肌寒くなった初晩の空には俺の乾いた笑い声だけが寂しく響いた。
以下がったでしょうか?今回はかなり投稿が遅くなった上にいろんなものを詰め込んでしまって最終的にはここまで長くなってしまいました…ご意見ご感想を頂けると嬉しいです。
尚失踪防止のためにこれだけは言っておきます!
私ホッピングミキサーの投稿する小説は最も遅くても月に一本は上げますので、私が勝手に消えることはあり得ません!
…勝手なことばかり言って申し訳ありませんが、これにて生存報告及び投稿ペースの報告を締めたいと思います。では、また次回にお会いしましょう!