3/16新制限発表されましたね
「ペンデュラム召喚? それはどんな効果だ? いつ発動する?」
「あれ、てっきりサカキユーヤなる子供が生み出した新たな召喚方法について、これから調べようとしていたんじゃないの?」
「…さっきの話、聞いていたのか」
「あ、やっぱりそうなんだ」
鎌掛けられた。
そもそもノア青年がこちらに来る前の会話である、聞いている筈がなかった。
否、瞬間移動という明らかに未知なる力を使う青年に自分たちの常識は通用しない。零児は表情を崩さず、僅かに警戒を強めた。中島に目配せしアイコンタクトを取る傍ら、ノアは社長室にある応接用のソファに腰掛けた。
「無論、素性の知れない存在だから警戒されるのは百も承知だ。でもそこを何とか折れてくれると嬉しいな」
「何故?」
「だってレイジ、この街でも偉い方でしょ?」
「貴様っ、呼び捨てなど…!」
「大丈夫だ中島、それより何故キミがそう思ったのか興味がある」
眼鏡の向こう側で観察の目を光らせる。転移してきたことに関してもそうだが、そもそも何故ここへピンポイントに来たのか未だ謎であった。ふと、思い返してみる。中島は
「監視カメラ越しにこっちを見てくる気配がどこからなのか、何となく分かったから…かな。機械関連に関しては
「…A・O・J?」
「知ってるでしょ? デュエルモンスターズに登場する正義の機械群」
「……社長…?」
こいつは何を言ってるんだ、そういう表情が中島の顔に浮かんでいた。だがノアの肩からひょっこり顔を見せた《ジェネクス・コントローラー》らしきものを見てギョッとした。なんだそれは。
A・O・Jについては知っている。だがそれは今全世界を魅了しているデュエルモンスターズのTCGに登場する設定でしかない。少なくとも電気工学などの知識を身につける要素は皆無だったはず。
「…キミはどの次元から来たんだ?」
「え? この次元って他に次元があることが分かる世界なの?」
「……ああ、そうだな。そういうことになってる」
嘘を言ってる訳ではない。曖昧に誤魔化しただけだ。すると返答に困ったのか、ノアは顎に手を当てて考える仕草をした。
「う~ん…『話せないことがある』『ペンデュラム召喚の調査について調査する』『文化的最低限度の衣食住』この3つが満たせればボクとしては大助かりなんだけど…」
「ならば、デュエルで決めるのはどうだ?」
「デュエル?」
「そうだ」
困ったときにはまずデュエル。
別の次元ではコイントスで白黒決着付けるというなんとも刺激の少ないやり方で決めていると言うが、生憎このスタンダード次元ではデュエル、しかも質量のあるソリッドヴィジョンを用いたアクションデュエルが主流である。無論、アクションカードを用いないデュエルもあるが、アクションデュエルの方が遙かにスリリングである。
何より、これで相手の手の内が知れるようなものだ。
「デュエルディスクはこちらで手配しよう、何か質問は」
と、言いかけたところで、
――ぶおん。
目の前に、拳が迫っていた。風圧で前髪が思わず持ち上がる。寸止めのようだが、動くモーションまでは見切ることが出来ず微動だに出来なかった。
「社長!」
「ホウ、中々に肝が据わったヒトだね。ボクの正拳突きを躱す素振りも見せないとは」
「…キミの世界でのデュエルは、こうも野蛮なものなのかい?」
「いいや、もっと酷い」
拳を退き、牽制とは言え暴力沙汰の一歩手前まで踏み込んだことにノアは謝罪しつつ、すこし長い話になるからと応接用ソファへの移動を促しお互い腰を下ろした。
「あちこち飛びながらこの世界について見てきたよ。実に平和な次元だね」
「よく言われる」
「生憎とこっちの次元では『でゅえる』なんて平和的なやりとりはなかった。各々武器を持ち、拳を握り、生殺与奪の繰り返し。生きるも死ぬも本人達の腕次第」
ノアの口から出てくる言葉に冷や汗が止まらない。そんな過酷な環境の中を目の前の人間が生き抜いてきたのだと思うと歴戦の戦士という見方に変わってくる。
「来る日も来る日も戦い、争い、弱き者は死に強き者が生き残る弱肉強食。観察者身分とはいえど透明人間ではないし、ある程度鍛える必要はあった」
ケラケラと笑うが声に力がないのは容易に見て取れた。
「加えて、言っちゃあ何なんだけどボクは『カード』は持っていても『デッキ』に足り得るものは持っていないんだ」
「何? だがさっき…」
「ああ、だってキミ達の『でゅえる』は同名カード3枚積み込み可能、禁止及び制限・準制限あり、デッキ総枚数40枚、エクストラデッキ15枚のルールなんでしょ? 生憎どれも1枚ずつでね、戦略的には弱小なんだ」
パラパラと腰に付けたホルダーを捲り見せてきた。いくつか見覚えのあるカード群だが一度も見たことの無いようなカードも見受けられた。
「…よし決まった。そこでだ、ここにはキミ達の知らないカードもあるし、ご希望とあらば調査したペンデュラムカードのデータを元に新たなペンデュラムカードの開発に携わろう。無論その他全般の労働力も提供する」
「何を馬鹿なことを…」
「そんなこと出来るのか?」
「百聞は一見にしかず。はいはーいいちいち煽ってくる秘書さんには退場して貰いましょうねー」
「えっなん――」
ポン、と空気が弾けたような音が隣で響いた。するといつの間にか隣にいたはずの中島が姿を消していた。何処へ消えた? するといつの間にかホルダーを展開していたノアがニヒルな笑みを浮かべている。
「ほい、一丁上がり」
手には紫のカードが握られている。《亜空間物質転送装置》。効果はモンスターを一定時間除外する効果を持つカードだ。
手にしたカード。奇妙な現象。これらから導き出される答えは。
「……キミには、カードの力を具現化する力があるのか」
「これ自体はそこまで珍しい効果では無い、この平和な次元でも何人かはこういうことが出来るし、そっちのが知っている異次元からの刺客だったら出来るだろう。見せたいのはコレじゃない」
「見せたいもの?」
「ペンデュラムカードについては理解していない。でもペンデュラムカードになってしまったものについては見せられる」
ポンポンとホルダーを叩く。するとホルダーからカードが飛び出しノアの目の前にひとりでに浮遊した。
《クリフォート・エイリアス》《クリフォート・ディスク》《クリフォート・アーカイブ》《クリフォート・アセンブラ》《クリフォート・シェル》《クリフォート・アクセス》《クリフォート・ゲノム》《クリフォート・ツール》
どれもデータで観測された榊遊矢が使用したような、見慣れないカードテキストになっている。従来のモンスターカードとは異なりテキストは二段構え、下半分は魔法カードのような緑色だ。魔法カードのようにも扱えるのだろうか。
「こいつらは、ボクがいた次元に急に現れたモンスター達さ。生憎こちらにはカード化させる力はあっても解析する力はないんだ」
「これらを、譲ってくれるのか」
「貸すだけだよ貸すだけ。そもそもこっちの次元に現れたペンデュラムと同一の性質とは限らないから、どちらにしろサカキユーヤが持つカードのデータは必要不可欠。それさえ手に入ればペンデュラムの法則も分かるし生み出すことも出来ないわけではない」
「生み出す、だと?」
「んん? ああ、大出血サービスだよ。そもそも昨今の新たなカードが創られるのはどこかの次元からの影響を受けて現出するものが大概だからね。少なくともこのホルダーに納められているカード群の原点はこちらの次元のものであるのは間違いない」
《氷結界》《A・O・J》《霧の谷
すべてがすべて、ノアの言うとおりとは限らない。だがもし彼による次元干渉が無ければ優秀な生徒達の発掘は困難を極めたかと思われる。
「だからレイジ、キミへの協力としてまずキミだけのペンデュラムデッキの開発に携わろう。だから衣食住の提供をお願いしたい」
「――いいだろう、商談成立だ」
証として握手のための右手を差し出す。はじめはノアにはその行為がどのようなものか分からず首を捻っていたが、理解したのか同じく右手を差し出し握手した。その手はどこか頼もしく、心強い味方が出来たことに安堵した。
「ところで」
「ん?」
「まずは中島を解放して貰えると有り難いんだが」
「あ……どうしよう」
前言撤回、手を組む相手を間違えたかもしれない。
説明フェイズ終了。さぁデュエルだぁ!
蛇足・征竜さよなら。お前等ってホント…