4日目 朝
「えっと、今日の午後5時出発の往還シャトルに乗って、帰るんだよね」
明久と優子は、先日泊まったホテルのロビーで確認した
「そうね。最低でも、4時40分頃にはサン・マルコ広場に戻らないと」
*空港はサン・マルコ広場にあります
「それじゃあ。今日は最終日だし、お土産を買いにいこうか」
「そうね」
話し合うと、2人は歩き出した
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
街中
「うわー! 色んなものがあるね!」
「そうね、これじゃあ迷っちゃうわ」
2人の視線の先には、色とりどりのガラス細工が置いてあった
2人が見ていると、奥から帽子を被った男性が来た
「いらっしゃい、ヴェネツィアン・ガラスは初めてかい?」
「ヴェネツィアン・ガラス?」
「そ、簡単に言うと伝統工芸さ。なんなら工房も見るか?」
と、男性は親指で奥の建物を示す
「え? いいんですか?」
「構わんさ、職場を見せるのも1つの観光だよ」
「ありがとうございます」
明久と優子は、男性の後を着いて行った
奥では、何人もの男性が作業をしている
「皆さんが作っているのが、ヴェネツィアン・ガラスですね?」
「ああ、そうだよ。正確には、ネオ・ヴェネツィアンガラスだけどね。1つとして同じ模様は無いんだ」
と、男性は割れないように梱包されているダンボールを指差した
明久はしゃがみ、2つ手にとって見てみる
「これは、植物がモチーフかな? こっちは、水かな?」
「お? よく分かったね。その通りだよ。」
「こう見ると、琉球ガラスに似てるわね」
「ああ、そうだね」
琉球ガラスとは、沖縄の伝統工芸である
「まあ、確かに似てるかもな」
「それにしても、よくこういう色が出せますね」
優子は、茜色のコップを見て呟いた
「そこはまぁ、企業秘密だけどね。なんなら安くしようか? 気に入ってくれたみたいだし」
「え? いいんですか!?」
「いいよ、お客様は大事にしないとね。君もどうだい?」
「あ、僕はこれです」
と、明久は水色のコップを持ち上げた
「あいよ、毎度あり!」
2人は会計を済ませると、店を出た
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、しばらく歩いていると
「ん? ここは、指輪を売ってるみたいだね?」
明久はショーウィンドウを見て気付いた
「あら、本当ね」
そこには、色んな形の指輪が売られており、優子も目移りしている
「入ろうか、なんなら買ってあげる」
「え!? いいわよ、高そうよ?」
「大丈夫、お金なら心配なし!」
と、明久はカードを取り出す、それは金色だった
「あ、明久くん? そのカードは?」
優子は、恐る恐る聞いてみた
「ん? 親父の財布からギッてきた」
問題発言である
「それは、いいのかしら………」
優子は額に手を当てた
「いいのいいの。こっちは何回も親父のせいで大変な目にあってるんだから」
と、明久は手をヒラヒラさせながら優子を連れて中に入った
中はこじんまりとしているが、アンティークなどが置いてあり雰囲気が出ている
「いらっしゃーい」
出迎えたのは、1人の老婆だった
「けっこう種類があるな~」
明久は、所狭しと並べられている指輪を見ている
「本当ね」
優子は、視線を左右に動かしながら見ている
と、1つの指輪で視線を止めた
それは
「これは、バラかな?」
真紅のバラをモチーフにしているようだ
「これが欲しいの?」
と、明久は優子に聞く
「え、えっと………」
優子は顔を赤くしながら、視線を左右に振っている
「ふむ、よし!」
明久は値段を確認すると
「すいません、これをお願いします」
と、老婆に渡す
「あいよ、毎度あり」
即断即決、それが明久の思考だった
「はい、優子さん」
明久は店を出ると、指輪を優子に渡した
「ありがとう……、でもいいの?」
「いいのいいの。ほら、行こう!」
と、明久は手を優子に差し伸べた
「ええ!」
優子は明久の手を掴んだ
その姿は、端から見たらカップルのようだった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
指輪を買ってから、明久と優子は歩いていた
「これからどうしようか?」
「そうね………」
2人が悩んでいると
「あ、あそこに行ってみない?」
と明久は、上を指差した
「え? ………ああ、浮き島ね」
明久が指差した先には、浮き島があった
「あそこは行ってないし、眺めも良さそうだよ?」
「そうね……行ってみましょうか!」
優子の言葉に、明久はうなずいて
「それじゃあ、レッツゴー!」
と、優子の手を引いて走り出した
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、約20分後
「うわー! 高いなー!」
「正直、怖いくらいね……」
二人の視界には、海とネオ・ヴェネツィアの町並みが一望出来た
そして、海猫の鳴き声が心地好く耳に響く
「それじゃあ、最初にどこに行こうか」
「そうね………」
明久が優子に聞くと、優子はパンフレットを広げた
「……あ、ここに行ってみない?」
と優子は、ある一カ所を指差した
「どれどれ? ああ、
優子が指差していたのは、浮き島の中央
火炎管理人の仕事場だった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えっと……ここら辺のはずだけど………」
明久たちは地図片手に、火炎管理人の仕事場の入り口を探していた
すると
「あ? こんなところに来るなんざ、珍しい客が居るもんだ」
明久は声のした方向に、すばやく向いた
もちろん、優子を背中に隠すようにだ
「あ、明久くん!?」
優子は明久の行動に顔を赤くするが、明久は答えなかった
明久の視線の先には、長い黒髪をポニーテールにしてハッピを着た男が居た
「あなたは?」
「俺は火炎管理人の
明久は暁は敵じゃないと判断して、警戒を解いた
「僕は吉井明久と言います」
「あ、私は木下優子といいます」
「おう、よろしく。んで、こんな所にどうした? この場所にめぼしい観光場所なんざねーぞ?」
「あ、僕達は火炎管理人の仕事場を見に来たんです」
「……珍しいこともあるもんだ。俺の知る限り始めてだぜ」
暁は半ば呆然としながら、明久たちを見た
「そ、そうですか……そ、それで、火炎管理人の仕事場はどこですか?」
「あ? ここだが?」
と、暁は右側の壁を親指で示した
「へ? ここって……」
優子はあっけにとられながら、横の壁を見上げた
「壁?」
「あ、もしかして……この建物が火炎管理人の仕事場なんですか?」
「おう!」
そう、ここに来るまでの間、壁だと思っていたのが火炎管理人の仕事場だったのだ
「全然気付かなかった………」
「まぁ、普通は気付かねぇだろうな。こっちに来い。こっちが入り口だ」
と、暁は歩き始めた
「あ、はい」
明久は暁の後を追った
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここが、俺達。火炎管理人の仕事場だ」
「うわぁ………」
「すごい……」
暁が示した先には、巨大な釜があって、その中では巨大な炎が燃え盛っていた
「俺達はこの炎を消えないように、尚且つ丁度いい温度で管理するんだ」
「はぁ……大変そうですね……」
「ああ、大変さ。消えたりすると、極寒の氷河期到来だからな」
と、明久の呟きに暁は肩をすくめながら答えた
「あ、そっか。太陽から遠いからか」
そう。本来、火星は太陽から離れているから、気温はマイナス数十度になる
しかし、それを人が住める気温に保つのが、火炎管理人の役目なのだ
その苦労は、ひとしおだろう
「大変なお仕事なんですねぇ………」
「ああ、大変さ。だけど、だからこそやりがいがあるもんだ!」
優子の呟きに、暁はサムズアップして答えた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「「見学させてくださって、ありがとうございました!」」
「こんな所でいいんなら、いつでも来いよ」
明久達は暁にお礼を言うと、観光に戻った
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そろそろ、お昼にしようか」
「そうね。ちょうどいい時間だし」
現在時刻は、午後一時半と言った所
お昼時である
「うーん、ここら辺でお店は………」
と、優子が見回していると
「なにか、お困りなのだな?」
と、暢気な声が聞こえた
「え?」
明久が振り向いた先に居たのは、ツンツンに逆立った髪に、筋肉質な体
そして、小さいサングラスを掛けた愛嬌の溢れている男性だった
「えっと、貴方は?」
「おお! これは失礼したのだ。自分の名前は綾小路宇土51世と言うのだ。気軽にウッディーと呼んでほしいのだ」
と、ウッディーは恭しく頭を下げた
「これはどうも、僕の名前は吉井明久と言います。こちらは」
「木下優子です」
「よろしくなのだ……おや、もしかして、灯里ちゃんが言ってた地球からの旅行者さんなのだ?」
「え? 灯里さんを知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、お友達なのだ!」
ウッディーの言葉に、2人は内心納得した
それは、初日に乗せてもらった際だった
灯里がゴンドラを漕いでる際にも、灯里に声をかけてくる人物が多かったのだ
花屋の店員
通りを歩いている女性
レストランの店員も
誰も彼も、灯里に対して、笑顔で挨拶してくるのだ
一重に、彼女の明るい笑顔が理由なのだろう
「そうでしたか」
「納得です」
「それで、なにかお困りなのだ?」
「はい。実は、レストランを探してまして」
「レストラン?」
「はい、丁度お昼時ですし」
「ああ、なるほどなのだ。そうだな……」
ウッディーは時計を見てから、額に指を当てて悩み出すと
「おお、そうなのだ! オススメのお店が有るのだ!」
と、手を叩いた
「え、どこですか?」
明久はマップを開いて、ウッディーに問い掛けた
「うーん、口にすると難しいのだ……なんなら、案内するのだ」
「え? 悪いですよ……」
ウッディーの言葉に、優子が遠慮するが
「いやいや、困ってるお客様をほっといたら、
ウッディーは、グッ! と腕を、サムズアップした
「え? ウッディーさん、風追い配達人だったんですか?」
「そうなのだ!」
「わぉ……これで、四大妖精の人たち全員に会っちゃったよ」
明久はそう言って、優子と顔を合わせた
「んお? そうなのか?」
「はい、水先案内人は灯里さんに、藍華さん、アリスさん。地重管理人のアルバート・ピットさんに、火炎管理人の出雲暁さんです」
「おお! 全員知り合いなのだ!」
ウッディーは明久が出した名前を聞いて、大仰に驚いていた
「え? そうなんですか?」
「世界って、狭いなぁ………」
優子はキョトンとして、明久は上を見上げて呟いた
「おっと、お喋りしてる場合じゃなかったのだ! それでは、お客様をご案内なのだー!」
と、ウッディーは”地図片手”に、歩きだした……
後に、明久が聞いたら
ウッディーは方向音痴らしい………
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ウッディーさん、こんな素敵なお店を紹介して頂き、ありがとうございます」
「なんのなんの、なのだ」
「それにしても、本当に素敵なお店ね」
明久達がウッディーに案内されたのは、小洒落たイタリア料理店だった
内装は落ち着いた雰囲気で、どうやら、パスタがオススメらしい
メニューには多数のパスタの名前を中心に、ピザ等も書かれている
「それじゃあ、注文するのだ! すいませんなのだ~」
「はーい! あら、ウッディーさん。今日もご来店していただき、ありがとうございます」
どうやら、ウッディーは常連らしく、店員もかなり気さくに話しかけてきた
「いやいや、ここの料理は絶品なのだ!」
「あら、嬉しい! っと、こちらは初めて見る顔ね」
と店員は、明久と優子に視線を向けた
「あ、僕達は地球から観光で来たんです。僕は、吉井明久と言います。で、こちらが」
「木下優子です」
「あらー、
「そうなのだ! 自分が連れて来たのだ」
「はい。良いお店を聞いたら、ここだと教えてくれました」
「あら、ウッディーさん。嬉しいことをしてくれますね!」
店員は笑いながら、ウッディーの肩をバシバシと叩いている
「それよりも、注文をしたいのだ」
「あっと、そうだったわね。ウッディーさんは、何時ものでいいわね?」
「はいなのだ!」
ウッディーの言葉を聞くと、店員は手早く伝票に書き込んでから、明久達のほうに顔を向けた
「なんにします? 当店はパスタが自慢ですよ?」
それを聞いた2人は、メニューを軽く見ると
「それじゃあ、僕はミートソースを」
「あたしは、シーフードをお願いします」
と、注文した
「承りました。少々、お待ちください」
微笑みながら、退がった
そして、約10数分後
三人の座っていた机の上には、美味しそうな料理が湯気を上げながら、並べられていた
「「「いただきます!」」」
そう言うと三人は、食べ始めた
「お、美味しい!」
「うん、本当だね! このミートソース、なにを隠し味にしてるんだろ……」
優子は純粋にあまりの美味しさに驚き、明久は料理人として刺激されて、食べながら、あーでもない、こーでもないと、悩んでいた
「あら、君、料理出来るんだ?」
そこに、先程の店員が近付いてきて明久が料理が出来るのに驚いていた
「はい。イロイロありまして、今は二人で住んでまして、交替で作ってるんです」
「ほー」
「でも、明久くん。帝国ホテルで、副料理長だったんでしょ?」
「え?」
優子の言葉に、店員は目を点にした
「正確には副料理長待遇で、正式じゃないけど」
と明久は、苦笑いを浮かべながら言った
「……十分凄いわよ、君……」
「なのだ………」
店員とウッディーの二人は、明久の経歴に呆然とした
そして、数十分後
「「「ごちそうさまでした」」」
三人は、運ばれてきていた料理を綺麗に食べ終わった
「それじゃあ、お会計をお願いします」
と明久が、伝票を持ってレジに向かった
すると、それを見たウッディーが慌てた表情で近付いてきて
「自分の分は自分で払うのだ!」
と、財布を取り出した
だが、明久はそれを優しく押し戻して
「いえ、案内してもらったお礼です。是非、払わせてください」
と微笑んだ
すると、ウッディーは苦い表情だが財布を仕舞った
「わかったのだ。今回は甘えさせてもらうのだ」
それを聞いた明久は、財布からお金を出して支払いを済ませた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、三人が外に出ると
「それじゃあ、自分はそろそろ、配達に戻るのだ!」
と、ウッディーはサムズアップした
「わかりました。今回は案内していただき、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
明久と優子がお礼を言うと
「いやいや、自分はお金を払っていただいたから、お互い様なのだ」
と微笑んだ
すると、ウッディーが腕を差し出してきて
「今日は会えて嬉しかったのだ」
「こちらもです。また何時か、会えたらいいですね」
と握手した
そして、ウッディーは仕事に戻ったのだった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、あれから二人は………
「これは絶景だね~」
「少し怖いくらいね………」
二人は浮き島の外周を走っている汽車に乗っていた
そして、明久と優子は汽車の最後尾の出口部分から外を見回していた
この汽車は、先にも説明した通り、外周部を走っているので、最後はロープウエイの駅に着くのだ
そうすれば、時間的にもちょうど良い時間に地上に着けるのだ
因みに今の時間は午後2時半
この汽車は外周を大体1時間掛けて回るので、3時半には駅に着く計算である
そして、ロープウエイは降りるのに20分以上かかる
それを考慮しても、4時には地上に降りている
そこから歩いて5分もしないで、マルコポール広場に着く
これほど余裕を持って行動すれば、不足の事態が起きても大丈夫だろう
「それにしても、本当にいい景色だな~」
「本当ね。これだけでも、来た甲斐があったわね」
二人は、窓から外の景色を見て微笑んでいた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、駅に着いてロープウエイで地上のマルコポーロ広場に着いた二人
「それじゃあ、空港に行こうか」
「そうね」
と、二人が歩きだした
その時だった
「あ、藍華ちゃん、アリスちゃん。居たよ!」
「あ、本当ね」
「でっかい良かったです」
聞き覚えのある声が聞こえた
二人はその声のしたほうに、視線を向けた
そこには水無灯里に藍華・M・グランチェスタ、アリス・キャロルの三人がいた
「あ、灯里さんに藍華さん。それにアリスさん」
「どうしたんですか?」
「最後に挨拶をしようと思ってね」
「ええ、会ったのも何かの縁だしね」
「ですから、写真でもどうかと思いまして」
と、アリスはデジカメを出した
「仕事は大丈夫なんですか?」
「はい、今は皆休憩時間なんです♪」
明久の質問に、灯里は笑顔で答えた
「でも、あんまり時間はないから、手早くすませましょ」
「そうですね。それじゃあ、海を背景に撮りましょう!」
と、明久は近くの人に頼んで写真を撮影することにした
そして
「それじゃあ、撮りますよー! 1+1は?」
「「「「2!」」」」
全員、笑顔で写真を撮影したのだった
こうして、思い出のアルバムに、写真が追加されたのだった
次回から清涼祭です!