交渉
新緑が眩しい文月学園
文月学園では、早い時期に学園祭を開くのだ
その名も清涼祭
「それでは、我々Aクラスは同盟もあるので、Fクラスと共同で模擬店を出展します」
と説明しているのは、教卓の前に立っている木下優子である
本来なれば、代表の霧島翔子が言うはずなのだが、霧島は口下手で無口なので、代わりに優子が言っているのだ
そして、明久は言わずもがな、補佐である
「それでは、Fクラス代表の坂本くん。どうぞ」
と優子が促すと、入り口付近に待機していた雄二が教卓の前に立った
「紹介されたFクラス代表、坂本雄二だ。今回は共同出展感謝する」
と、雄二は頭を下げた
「こちらはからは、男手の提供が出来るし、Fクラスには料理が出来る奴が数名居るから、調理も任せられる」
と雄二が言うと、ムッツリーニと須川。小燕の名前がモニターに映された
「正直、Fクラスは出展に適さないんだよ。だから今回の提案は渡りに船だった。助かる」
「いやぁ……あれは正直、ひどすぎるからね」
「確かに、勉強できる環境じゃないわね」
雄二の言葉に、明久と優子はFクラスの設備を思い出したのか、苦笑いである
畳は腐っていてキノコが生えてたし、窓は割れてて風が入る
ちゃぶ台は足が折れてたりして、満足に書けない状況
こんな設備で、どうやって勉強しろというのか
その状況をAクラスで話したところ、同情からか、設備買い替えの為に協力することが決定したのだ
「で、出展する内容だけど」
と、優子が高橋女史に視線を向けると、高橋女史はパソコンを操作してモニターに映ったのは
<執事&メイド喫茶>
の文字だった
「あ、衣装だったら安心してね? 僕の知り合いに、そういうの詳しい人が居るから」
言わずもがな、親父である
明久の親父の神埼恭一郎は、どういう訳か、いろんな種類の服を持っているのだ
そして、そういった業者も知っているのだった
それが理由で、明久や明久の兄の修史は事あるごとに、コスプレをさせられるのだった
閑話休題
「それじゃあ、ちょっとモデルとして着替えてくるね」
と明久は、足元のかばんを持ち上げて教室を出て行った
数分後
ドアが開き、明久が入ってきたが………
髪はオールバックにしてモノクルを装着、燕尾服を着て、右手には長い白布を持っていたのだ
「こんな感じだけど、どうかな? って、なんで目を逸らしてるのさ?」
気付けば、女子達は全員、顔を赤くして目を逸らしていた
(((((凄い似合ってる!)))))
「明久くん。なんで、執事服なんて持ってるの?」
「ん? 去年、着る用事があったからね」
言わずもがな、SPとしての仕事である
「メイド服と執事服は採寸を合わせてから作るから、後日になるけど」
と明久は、その場で回ってから
「どうかな?」
と、Aクラス全員に聞いた
「「「「「いいと思います!」」」」」
満場一致であった
そんでもって
「そんじゃあ、ババアに許可を取りに行かないとな。明久、一緒に来てくれるか?」
「うん、わかった」
「あ、あたしも行くわ」
雄二の言葉に、明久と優子の二人も学園長室に向かった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、学園長室の前に着くと
『……賞品の……として、隠し………』
『……こそ…勝手に……如月ハイランド………』
と、中から話し合っている声が聞こえた
「どうやら、話し合ってるみたいだね」
「そうみたいね。少し口論気味だけど……」
「はっ。だったら、無駄足にならずに済んだじゃねぇか。失礼するぞ!」
雄二がノックと同時に、中に突入した
「ちょっ!? 雄二!?」
「坂本くん!?」
明久と優子が慌てて止めようとするが、構わず中に入った
「本当に失礼なガキだねぇ。普通は返事を待つものだと思うんだがねぇ」
「「すいません、学園長」」
学園長こと、藤堂カヲルの言葉に、明久と優子が頭を下げた
「やれやれ、取り込み中だというのに……とんだ来客ですね。これでは、話を続けることも出来ない…………あなたの差し金ですか?」
そう言ったのは、学園長の前に立っていた白髪混じりに鋭い目つき。そして眼鏡を掛けた男性だった
この人物は教頭の竹原である
クールな目つきで、一部の女子に人気があるらしい
が、明久と雄二に向ける眼は、蔑んだような目つきだった
「バカなことを言わないでおくれ。どうしてこのアタシがこんなセコい手を使わなくちゃいけないのさ? 負い目があるわけでもないのに」
「それはどうだか。学園長は隠し事が得意なようですから」
「さっきから言ってるように、隠し事なんて無いよ。全部アンタの見当違いだよ」
「………そうですか。そこまで言われるなら、この場はそういうことにしておきましょう」
そう言って竹原は、部屋の隅の観葉植物を一瞥すると
「それでは、この場は失礼させていただきます」
と、出て行った
(素人丸出しなんだよ。教頭さん)
と明久は、観葉植物を見た
(多分、盗聴器だね……よっと)
明久は手をポケットの中に入れて、何かを操作した
「やれやれだね。で、アンタ達は何用だい?」
「あ、はい。まずは、私達AクラスとFクラスの共同出展を許可していただきたいんです」
「ほう、共同出展かい? そういえば、AとFは同盟を結んでたね。いいだろう、許可する」
「ありがとうございます」
学園長からの許可に、優子は頭を下げた
「今日は、学園長にお話があって参りました」
(あれ? 雄二が普通に敬語?)
「私はそれどころじゃないんでね。学園の経営に関することなら、教頭の竹原に言いな。それと、まずは名前を名乗るのが礼儀ってモンだ。覚えておきな」
「俺は2年Fクラス代表、坂本雄二だ」
「ほう……アンタが、Fクラスの坂本かい………気が変わったよ、話を聞いてやろうじゃないか」
「ありがとうございます」
「礼を言う暇があったら、さっさと話しな。ウスノロ」
(学園長は口が悪いですね)
明久が思うが、口には出さないでおいた
「Fクラスの設備に関して、改善を要求しに来ました」
「そうかい、それは暇そうで羨ましいことだね」
「今のFクラスの教室はまるで、学園長の脳みそのように穴だらけで、隙間風が吹き込んでくる酷い状況です」
(あ、メッキが剥がれてきた)
「さ、坂本くん?」
「学園長のように、戦国時代から生きてる老いぼれならともかく、今の普通の高校生には、この状況は危険です。健康に害を及ぼす危険性が非常に高いと思われます」
(これは、かなりキレてるな)
「ちょっと、口が悪いわよ?」
「要するに、隙間風の吹き込むような教室のせいで、体調を崩す生徒が出てくるから、さっさと直せクソババア。っていうワケです」
(あー……キレた)
「坂本くん!?」
「………ふむ、丁度いいさね……」
(なにがですか?)
「よしよし、お前達の言いたいことはよく分かった」
「お? マジか?」
「却下だね」
「このクソババア! コンクリ詰めにして、海に沈めるぞ!?」
「雄二、落ち着いて!!」
明久が必死に、殴りかかろうとしている雄二を羽交い絞めにしている
「と、とりあえず。理由を教えてもらえますか、学園長?」
「理由もなにも、設備に差をつけるのは、学園の方針だからね。ガタガタぬかすんじゃないよガキ共」
と、雄二をなんとか宥めた明久が、そこで携帯を取り出して
「このFクラスの設備を見てもですか?」
と、写真を見せた
すると学園長は、驚いた表情をした
「な、なんだい……この設備は? 幾らアタシでも、こんな設備は許可してないよ」
「……どういうことですか?」
「設備確認は、教頭の竹原に一任してたんだよ。で、竹原から問題なしって報告だったんだよ」
それを聞いた明久は、少し黙考すると
「つまりは、教頭が、偽りの報告をしたってことですね?」
「そうなるね………ったく、あいつのほうが隠し事をしてるじゃないか………」
つぶやくと学園長は、頭をかきながら思案顔をして
「よし、こうしよう。こちらの話を聞いてくれたら、設備改善の許可を出そうじゃないか」
「話……ですか?」
「なんだ?」
「アンタら、清涼祭で行われる召喚大会は知ってるかい?」
「ああ、そういやぁ、書いてあったな」
「……まあ清涼祭で、二人一組のタッグマッチ式の召喚大会が行われるだよ」
「そうなんですか」
「じゃあ、その優勝賞品は知ってるかい?」
「優勝賞品ですか?」
「ああ、優勝者には賞状と<白銀の腕輪>が一つずつ。それと副賞として、<如月ハイランドパークプレオープンプレミアムチケット>を2枚渡すんだよ」
ペアチケットの部分で、雄二が少し反応した
「はあ………それと交換条件になんの関係が?」
「話は最後まで聞きな。慌てるナントカは貰いが少ないって言葉を知らないのかい?」
「まぁ、知ってますけど」
「知ってたのか、お前」
「どういう意味さ」
雄二の言葉に、少し喧嘩腰気味になる明久
「この副賞のペアチケットなんだけどね、ちょっと良からぬ噂を聞いてね。出来れば回収してほしいんだよ」
「回収ですか? それだったら、出さなければいいじゃないですか」
「そうできるなら、しているさ。けどね、この話は教頭が進めたとはいえ、文月学園として如月グループと行った正式な契約だ。今更覆すわけにはいかないんだよ」
「なるほど。しかし、契約する前に気付いてくださいよ」
「うるさいガキだね。白銀の腕輪の開発に手一杯だったんだよ。それに、悪い噂を聞いたのは最近だからね」
明久の言葉に、学園長は眉をしかめた
どうやら、多少なりとも責任を感じてるようだ
「それで、悪い噂って……なんですか?」
「つまらない内容なんだけどね、如月グループは如月ハイランドに一つのジンクスを作ろうとしているのさ。『ここを訪れたカップルは幸せになれる』っていうジンクスをね」
「それのどこが悪い噂なんですか? むしろ、良い噂っぽいんですけど」
学園長の言葉に、明久は首をかしげた
「そのジンクスを作る為に、プレミアムチケットを使ってやって来たカップルを結婚までコーディネイトするつもりらしい。企業として、多少強引な手段を用いてもね」
「そりゃ、確かに悪い噂だな。そんな強引な方法、受け入れられないな」
「そう。その強引な方法でのカップル候補を、我が文月学園ってわけさ」
「ふむ、翔子も欲しがってたし。仕方ない、乗ってやるか」
「は、流石は神童。話が早い。アタシとしては、本人の意思を無視して、うちの可愛い生徒の将来を決定しようって計画が気に入らないのさ」
「つまり、交換条件ってのは……」
「そう、<召喚大会の賞品>と交換。それが出来るなら、教室の改修許可を出そうじゃないか。もちろん、優勝者から強奪なんて真似はするんじゃないよ。譲ってもらうのも不可だ。アタシは優勝しろって言ってるのさ」
「なるほど。俺達が優勝したら、教室の改修と設備の向上をやってくれるんだな?」
「なに言ってるんだい。やってやるのは教室の改修だけだよ。設備に関しては、ウチの方針だよ。変える気はないよ」
(雄二、さすがにそれは欲張りすぎだよ)
「ただし、清涼祭で得た利益でなんとかしようっていうなら、話は別だよ。今回はこっちに問題があったからね。勝手に変えるのは目を瞑ってやる」
それを聞いた雄二は、しばらく黙考すると
「わかった。この話。受けてやる」
「そうかい。それなら、交渉成立だね」
「ただし、こちらからも提案がある」
話がまとまったので、優子が教室に戻ろうとしたら
「なんだい? 言ってみな」
「ああ、召喚大会はトーナメント方式。1回戦は数学、2回戦は化学といった具合に進めると聞いてる」
「それがどうかしたかい?」
「その対戦表が決まったら、俺に科目を決めさせてほしい」
雄二の言葉を聞いた学園長はしばらく考えると
「ふむ……いいだろう。点数の水増しとかだったら一蹴してたけど、それくらいなら協力しようじゃないか」
「………ありがとうございます」
(雄二はなにか考えがあるみたいだね)
「さて、そこまで協力するんだ。当然、召喚大会で優勝できるんだろうね?」
「無論だ。俺達を誰だと思ってる?」
(穴掘りシ○ン?)
「最低クラスの代表さね」
間違ってはいない
「絶対に優勝してやらぁ! そっちこそ、約束忘れんなよ!?」
「それじゃあ、任せたよ」
「おうよ!」
と言って、雄二と優子は出ようとするが
「あ、雄二は先に行ってて」
「あ? どうした?」
「うん。ちょっと、学園長に用があるからね」
(? さっき、あの観葉植物を見てたのと関係あるのかしら?)
優子は明久の様子で気付いたのか、立ち止まった
「じゃあな」
雄二はそのまま、教室に戻った
「で、用ってのはなんだい? さっさと、話し」
と言った時、明久が指を口の前に立てた
そのジェスチャーに、学園長と優子は首をかしげた
すると明久は、観葉植物の近くまで歩くと
「ちぇい!」
と、蹴り壊した
「あ、明久くん!?」
「アンタ! 一体なにを!?」
二人は明久の行動に、驚くが
明久は気にせずに、屈んで何かをつまんだ
「気付いてなかったんですか?」
そう言って、明久が机に置いたのは……
3cm四方の箱だった
「これは?」
優子はその物体の正体が分からずに、明久に問いかけた
「盗聴器ですよ」
明久は言いながら、それを叩き壊した
「と、盗聴器?!」
「ちっ、竹原かい……」
「ええ、他にも有ると思いますが……今は大丈夫です」
そう言いながら明久は、ポケットから無線機のような物を取り出した
「なるほど、アイギス特製の装置かい」
「ええ………で、学園長。先ほどの話、裏がありますね?」
「その根拠は?」
「チケット回収だけなら、雄二に交渉するより、僕達、Aクラスのほうが優勝する確率が高いです。それなのに、雄二に頼んだ。しかも、科目選択という優勢な選択も与えた。これらから考えられるのは、問題はチケットじゃない………問題は腕輪のほうですね?」
「………流石だね、シールドナンバー」
「ということは、腕輪に欠陥が?」
「ああ、一定以上の入出力を超えると、暴走を引き起こすんだよ。だから、Fクラスのあいつならば問題ないんだよ」
「なるほど……腕輪を賞品として発表したのも、教頭なんですね?」
「ああ、気付いたら発表されていた。回収したいが、新技術は発表してナンぼだからね」
「確かにそうですね。一回発表したのに、ダメでした。じゃあ、沽券に関わりますね」
「ああ、そういうことさね」
「だったら、暴走を引き起こさないように、優勝確率のある点数の低いFクラスの雄二に依頼したんですね?」
「ああ、その通りさね」
「だったら、僕はそのカバーに回りましょう」
「ああ、頼む」
そこで、明久と学園長の会話を聞いていた優子が手を挙げた
「あ、あの!」
「優子さん」
「Aクラスの木下だね。そういえば、アンタが守ってるんだったね」
「ええ。で、どうしたの?」
「あの、あたしも手伝っていいですか?」
「え? 優子さんが?」
「なぜだい?」
明久と学園長が首をかしげた
「あたしはもう、明久くんの事を知ってますし、それに……明久くんはあたし専属の警護なので、近くに居たほうが守りやすいのではないかと………」
「なるほど………」
「優子さん………」
「お願いします」
優子は頭を下げた
「吉井、判断はアンタに任せるよ」
「…………優子さん………お願いしていい?」
「ええ」
こうして、明久と優子は、学園の問題に直面する