病院 見守る少女
夕暮れに染まりつつあるとある一室
その一室では定期的に電子音が鳴り、寝ている少年の生存を知らせていた
ベッドで寝ている少年の名前は、吉井明久
その明久の寝ているベッドの傍らには、椅子に座っている優子の姿
その優子は心配そうな表情をしながら、寝ている明久の手を握っている
明久が倒れてから、既に三日が経過していた
明久の傷は致命傷は避けていたものの、出血が多かったので危険な状態だった
昨日までは集中治療室に収容されていたが、なんとか峠は越えたらしく今日になって個室に移動となった
ちなみに、入院している病院はアイギスお抱えの病院であり、アイギス関係者は優先的に入院出来るようになっている
余談ではあるが、姫路、島田、清水の三名は反省の色もなく、やっていた事の悪辣さから情状酌量の余地無しと判断されて、放校処分となった
これに関しては、親から抗議が学園に来たが、学園長と西村の両名が三人のやった事を全て暴露
その結果、三人の親は納得したらしく、謝罪した
本来だったら、三人のやった事は少年院に放り込まれても可笑しくはない
だが、せめてもの情けということで放校処分で済ませたらしい
なお、放校処分というのは退学処分よりも重い
退学処分の場合は、学校側にも在学したという記録が残り、退学した生徒も履歴書等に《○○学校中退》と記すことが出来る
だが、放校処分となった場合、学校側からは記録は全て抹消され、生徒も履歴書等に記載することを一切禁じるのである
しかも、学校側からの要請で国の記録も消されるために、もしも記載しようものならば、書類偽造等で逮捕されるのだ
要は、他の学校で一からやり直せ
ということである
とはいえ、簡単には受け入れてはもらえないかもしれないが
閑話休題
今現在の時間は午後4時を少し回り、外では少しずつ太陽が沈みつつある
優子は学校が終わると、すぐに教室を出てタクシーを使ってこの病院まで来たねだ
本来だったら、危険だから修史も付いて来たかったが、優子は制止を無視してここまで来た
恐らくだが、後で叱られるだろう
だが、優子は居ても建ってもいられなかったのだ
自身の思い人の無事を、自身の目で確認したかったのだ
そして病院に到着すると、ナースセンターで明久の病室の場所を聞き出してやってきたのだ
病室に入り、包帯だらけとはいえ、明久がベッドで寝ているのを見た時は、優子は思わず崩れ落ちそうになった
しかし、なんとかそれを堪えて、優子はベッドの近くの椅子に座った
明久の意識は未だに戻っておらず、口元には酸素マスクが装着されている
顔の半分近くは包帯に巻かれており、右目に至っては完全に隠れている
痛々しいという表現がピッタリだった
そんな姿とは言え、明久の無事が優子には嬉しかった
その時、ドアが開いて
「ったく……一人で先走るなよ、優子」
苦言を呈しながら、修史が入室した
明久が倒れてからは、修史と設子の二人が学校で、小燕と有里の二人がマンションで守っている
「ごめんなさい……」
修史の苦言に、優子は素直に謝った
すると、修史は頬を掻きながら
「まあ、気持ちは分からないでもないがな……」
そう言いながら、ベッドに近寄った
「明久……」
明久を見つめる修史の表情は、まさしく兄貴分としてのソレだった
確かに、修史と明久は血は一切繋がっていない
だが、書類上とは言え兄弟なのだ
しかも、修史は明久が幼いころから一緒に育ってきた
そんな弟分が、包帯だらけでベッドで寝ているのだ
その思いは、筆舌に尽くしがたいだろう
すると、再びドアが開いて
「こんにちは」
「おーっす」
「……お見舞いに来た」
「お邪魔するのじゃ」
「お邪魔ー」
「お邪魔します」
「……邪魔する」
雄二達が次々と、入ってきた
「みんな……」
優子が呆然としていると、雄二が優子の肩に手を置いて
「ダチが入院したんだ……見舞いに来るのは、当たり前だろうが」
と言った
「うん、そうだね……」
雄二の言葉を聞いて、優子は視線を明久に戻した
「しかし……なんで明久がこんな目に合うんだよ……」
雄二はそう言うと、右拳を左手に叩きつけた
その言動には、悔しさが滲んでいる
そのことを、優子はどう言おうか迷っていた
すると、三度ドアが開いて
「失礼するよ」
「失礼します」
課長である神崎恭一郎と、サポートメンバーの中西りおが入ってきた
「な、課長!?」
「ボス!」
「神崎課長!?」
「親父!」
思わぬ人物の登場に、修史達は驚いた
すると、神崎は心外だなとでも言わんばかりに、片眉を上げて
「何をそんなに驚く? 息子の見舞いに来るのが、そんなに意外か?」
「いえ、おかしくはないんですが……」
「仕事はどうした、仕事は?」
神崎の言葉を聞いて、優子が言いよどんでいると、修史が代わりに問い掛けた
すると、課長はハッと笑い
「んなもん、部下に押し付けたわ!」
と断言した
それを聞いた瞬間、全員は同時に
(ダメな大人だー!!)
と思った
すると、雄二が
「ちょい待て、穂村と真田、それに桜庭。今お前ら、課長って言ったよな?」
と言うと、言われた三人はしまった! という表情を浮かべた
「どういうことだ? 課長ってなんだ?」
そんな三人を無視して、雄二は三人を詰問した
だが、三人は言いよどむだけで、答えなかった
「構わない。私が話そう」
「いいんですか?」
神崎の言葉を聞いて、設子が問い掛けた
すると、神崎は頷いて
「構わない。いつかは知られるんだ」
そう言うと、視線を雄二と翔子に向けた
「君たちは、アイギスを知っているかな?」
神崎からの問い掛けに、雄二は訝しんで
「アイギス? それって、世界規模で有名な警備会社だよな?」
「……日本支部には、家も融資してる」
神崎の問い掛けに、二人がそう言うと
「ああ、そのアイギスで合っているよ。後、融資はありがとうございます」
神崎はそう言って、翔子に対して軽く頭を下げた
そして姿勢を正すと
「明久を含めて、俺達はアイギスの要人警護課に所属している」
「要人警護課?」
神崎の言葉に雄二が首を傾げていると、翔子が
「……雄二にも分かりやすく言うと、SP」
「ああ、なるほど、SPか……って、SPだと!?」
翔子の説明を聞いて、雄二は驚愕していた
まさか、友人がそんな危険な職業に就いてるとは思ってなかったようだ
「ああ、そうだ。警備会社アイギス日本支部要人警護課のシールドナンバーズ……それが、明久達の肩書きだよ。そして、私は彼等を纏める立場の人間だ」
神崎の言葉に、雄二が呆然としていると
「……優子も関係者?」
と、翔子が問い掛けた
すると、修史が首を振って
「いや、優子は護衛対象だよ。あと、君もね、翔子」
「翔子が護衛対象だと!?」
修史の言葉を聞いて、雄二は驚いた
「ああ、詳細は言えないが、霧島将吾《きりしましょうご》氏から依頼された。翔子ちゃんには、修史と設子の二人が、優子ちゃんには明久が、秀吉くんには有里と小燕がな」
「マジか……小燕ってのは、桜庭のことか?」
神崎からの説明を聞いて、雄二は聞き覚えのない名前の人物を確認した
「はい、その通りです。僕の本名は劉小燕《リュウ・シャオエン》です」
一通り説明が終わると、有里が
「さてと……そろそろ、正体を明かしたら? ……現代のホーリー7? ううん……ムッツリーニくん?」
と視線を、ドア付近に立っていたムッツリーニに向けた
「ホーリー7?」
「そ……前にあたしが所属していた、探偵会社のコードネームだよ」
雄二が首を傾げていると、有里が手をヒラヒラさせながら答えた
すると、ムッツリーニが深々とため息を吐いて
「……いつ、気づいた?」
「試験召喚戦争が終わった後ね」
有里の言葉を聞いて、ムッツリーニは溜め息混じりに首を左右に振って
「……ほぼ最初からか」
と呟いた
しかし、有里はそんなムッツリーニを無視して
「ついでだし、入ってきたら? ホーリー8?」
とドアに向けて、声を掛けた
十数秒後、ドアがゆっくりと開いて
「お見事です。先代ホーリー7」
神代が入ってきた
「え!? 神代さん!?」
入ってきた神代を見て、優子は目を見開いて驚いた
すると、有里は盛大に溜め息を吐いて
「相変わらず、あんたは制服が似合うわね」
と言うと、神代はクスクスと笑って
「そういう、有里さんも似合ってますよ」
と言った
すると、翔子が二人を交互に見て
「……二人は知り合い?」
と問い掛けた
すると、有里が肩をすくめて
「まあね、あたしの前の所属会社の後輩よ」
「有里さんは、なかなかに優秀な方でした」
有里に続けて、神代は微笑みながらそう言った
すると、有里は懐から携帯端末を取り出して
「さてと、課長も来たことだし……映像を見る?」
と言った
すると、修史が眉をひそめて
「待て、確か補習室に設置されてた監視カメラは軒並み破壊されたんだよな?」
「ええ、確かにね……けど、明久が個人的に仕掛けたカメラは生き残ってたのよ」
修史からの問い掛けに有里は、携帯端末を操作しながら答えた
すると、雄二が困惑したように
「ちょ、ちょっと待て! それは重要機密じゃないのか? 部外者に見せてもいいのかよ?」
という雄二からの問い掛けに、有里は手をヒラヒラと振って
「いいのよ。だって、ボスも何も言わないし」
有里がそう言いながら視線を向けると、神崎はコクコクと頷いて
「可能な限り、情報は共有したいしな」
と言った
神崎の言葉を聞いて、有里は携帯端末を近くの机の上に置いて
「それじゃあ、再生するよ」
全員の顔を見回してから、携帯端末のボタンを押した
ちょいと中途半端かもしれませんが、投稿しました