有里がボタンを押すと、端末の画面に映像が映り始めた
最初は暗く、何が映っているのか分からなかった
だが数秒後、突如として扉が開き光が床を照らした
そこに映し出されたのは、明久だった
明久は中に入ると、誰かを呼びながら部屋の中に目を凝らし出した
すると、修史が端末を指差して
「なあ、音声はないのか?」
と有里に問い掛けた
すると有里は、首を左右に振って
「明久が仕掛けたのは、超小型カメラでね。集音マイクは付いてないの」
と説明した
「見ろ、明久が構えた」
と設子が言い、有里と修史、小燕の三人が視線を端末に戻した直後
明久が画面から消えて、入れ替わりに不気味な影が走った
その影がゆっくりと振り返ると、頭から足までを覆う黒いマントに白地に血の涙を彷彿させる仮面が端末に映った
その姿を見て、修史、設子、有里、小燕の四人は目を見開いた
「設子、この仮面はっ!」
「ああ、今回の相手は……ファランクスだ……っ!」
修史の言葉に、設子は返した
「ファランクスってなんだ?」
「この映像が終わったら教える」
雄二の質問に有里がそう返すと、その黒マントに対して、明久がナイフで切りかかった
だが、黒マントは右手に持っていたナイフで防いだ
「おい、待て。明久はどこにナイフなんて隠してた?」
「靴が若干厚底になってるから、そこに隠してある」
雄二からの問い掛けに、設子は視線も逸らさずに返した
端末の画面では、二人のナイフでの激しい応酬が繰り広げられている
火花が散る度に、明久の顔か仮面が浮かび上がる
そんな応酬が三分ほど続いた
そして、二人の距離が離れた時だった
「相手がナイフを捨てましたよ?」
小燕が指摘した通り、黒マントが持っていたナイフを投げ捨てていた
「なんだ? なにをする気だ?」
と設子が首を傾げたタイミングで
黒マントの左手が閃いた
その直後、明久の右肩から血が吹き出した
「な!?」
「ワイヤー!?」
「いえ、それだったら光が反射する筈です!」
「何を使った!?」
四人が驚いていると、明久が驚きで目を見開いてから左手で右肩を抑えて僅かにうずくまった
そこからは蹂躙だった
黒マントがどちらかの手を閃かせる度に、明久の体中から血が吹き出した
明久はなんとか避けようと体を縮こまらせたが無意味だった
次々と明久の体が切り裂かれ、明久の体中が血に染まった
そして、とうとう明久は自身の血で出来た血だまりに倒れた
明久が倒れると、黒マントはナイフを拾い上げて部屋から去った
そして、一、二分後に優子が入ってきた
それを確認した有里は、端末を操作して映像を止めた
「これで分かったな……今回の相手は、ファランクスだ」
神崎がそう言うと、修史達だけではなく、康太達も緊張感を露わにしていた
「なあ、ファランクスってのはなんだ?」
「……いい加減に教えて」
雄二と翔子が問い掛けると、修史が答えようとした
だが、そんな修史を設子が片手で制して
「私が話そう」
と言った
設子の言葉を聞いて、修史は心配そうな表情を浮かべて
「大丈夫なのか? かつての古巣だろ?」
修史からの問い掛けに、設子は微笑みを浮かべて
「かつての古巣だからこそ、手口も知っている。だから、私が話すべきなんだ」
設子はそう言うと、雄二達に対して語り出した
ファランクス
それは、表向き国際的な人材派遣を請け負う巨大な企業だ
だがその実体は、ギリシャマフィアを母体とする裏の何でも屋である
金さえ払えば毒薬の売買や、武器の密輸
果てには、要人の暗殺さえ請け負うのだ
そして、設子と小燕の二人は以前、そのファランクスに所属していた
そして、小燕に取っては最初で設子に取っては最後の仕事で修史に出会ったのだ
そして、設子の暗殺対象は今学園で高橋女史のサポート役を勤めている雪乃で、小燕の暗殺対象は設子だった
しかし、小燕は暗殺なんかしたくなくて、わざと修史に敗北
設子は自分を育ててくれたファランクスに裏切られて途方に暮れていたら、修史に手を差し伸べられた
それから二人の証言があり、アイギスは他の探偵会社や護衛を請け負う会社と協力して、ファランクスを日本から撤退させることに成功した
「……というのが、ファランクスに関することだ」
「そんな相手が居るのか……」
「……そして、吉井をやったのがファランクスってことは……」
雄二達の言葉を聞いて、神崎は頷いた
「ああ……ファランクスが日本に再度進出してきたということだ」
神崎はそう言うと康太達の方に視線を向けた
「私から提案なんだが、手を組まないか?」
神崎がそう言うと、康太達は真剣な表情で神崎を見た
「理由はなんでしょうか?」
珠代が問い掛けると、神崎はサングラスを押し上げて
「ファランクスと事を構えるならば、戦力は多いほうがいい。だからと言って、知らない相手よりかは知ってる人物と組むべきだ」
神崎がそう言い終わると、珠代は頷いて
「わかりました。一応社長と話をしますが、私達としましては、一向に構いません」
「……ファランクスの危険性は社長から聞いている」
珠代に続いて、康太も同意を示した
「ありがとう。しかし、明久の任務にファランクスが関与するとはな……」
神崎は二人に対して礼を述べると、寝ている明久に視線を向けながらそう呟いた
「……どういうことですか?」
神崎の呟きを聞いて、それまで沈黙していた優子が鋭い視線を神崎に向けた
「……明久の家族が亡くなった、アメリカの国際空港爆破テロ……それの犯人が、ファランクスの構成員だという情報が有るんだ……」
神崎の話を聞いて、その場の全員が目を見開いた
「マジかよ……」
「親父、なんでそんなことを知ってるんだ?」
雄二が驚愕の声を漏らし、修史が神崎に問い掛けた
すると、神崎は明久の頭に手を乗せて撫でながら
「私が課長になる前の最後の要人護衛任務だった……私は政府の要人からの依頼を受けて、その要人をアメリカの国際空港まで送り届ける途中で、本部からの連絡でその国際空港に爆弾が仕掛けられているという情報が入った……それを聞いた私は、私の独断で空港を変更した。せめて、爆弾が解除されることを祈ってね……だがその祈りは届かずに、爆弾は爆発してしまった……」
「まさか……それが……」
神崎の話を聞いて優子が驚愕していると、神崎は頷いて
「そう……それが、あの死者数千人にも達した国際空港爆破テロの真実だ……」
そう言った神崎の声は、悲嘆に満ちていた
「確かに私の任務は成功したさ……だが、何の関係もない多くの一般人を死なせてしまった……私は素直に喜べなかったよ……だが、そんな折に一つの朗報を聞いた……たった一人だが、生存者が見つかったとな……」
「それが、明久君だったんですね?」
優子が問い掛けると、神崎は頷いた
「その情報を聞いた私は、あらゆる手段を尽くして明久を受け入れたという孤児院を探し出し、そして会った……その時私は、明久を養うことを決めた。なにせ、会った時の明久は、生きることに絶望していたからな……」
最後の神崎の言葉を聞いて、ほとんどのメンバーが驚愕した
今の明久からは、そんな様子は微塵も感じないからである
だが、ほとんどのメンバーが驚いているなか、修史だけは普通にしていた
「修史、知っていたのか?」
そんな修史にいち早く気づいた設子が、修史に問い掛けた
すると、修史は無言で頷いた
「ああ……なんせ、親父が引き取ってから家に来ても、何回も自殺しようとしたからな。その度に、俺や親父が止めたがな」
その修史の言葉を聞いて、優子は明久の手を強く握りしめた
やはり、自分以外の家族が死んだというのは幼かった明久には辛過ぎたのだ
だが、明久はそれを乗り越えて生きてきた
そして、自分と出会った
まさしく、運命と言えるだろう
だからこそ、優子は明久を支えたいと思った
しかし、そのためには今回の敵をなんとか倒さないといけない
だから神崎は、康太達と手を組むことを提案したのだ
優子はそう思うと、再び明久の復帰を祈った
その時、優子の耳に有里と康太達の声が聞こえてきた
「どうせあんた達のことだから、犯人の目星はツイてるんでしょ? 答え合わせしない?」
「わかりました」
「……いいだろう」
有里からの提案に、康太と珠代は同意した
そして、有里のせーの、という音頭の直後
「「「大野真琴!」」」
三人は同時に、一人の名前を挙げた
「やはりですか」
「……こいつしか有り得ない」
「思った通りか……」
三人は同じ名前を口にして、三者三様に言葉を口にした
「私達が調べた限りでは、確かに大野真琴は存在します。ですが、その方は既に亡くなっておりました」
「……しかも、戸籍には改竄した痕跡もあり、奴の経歴もチグハグだらけだった」
珠代に続いて康太が言うと、有里は腕組みしながら頷いた
「やっぱりねー……私と同じ結果だわ」
「ということは……」
有里の言葉を聞いて、珠代は目を細めながら首を傾げた
「まず間違いなく、そいつがファランクスの構成員ね……しかも、かなり癖の強い奴よ」
「……だろうな。なにかわからなかったが、かなり特殊な武器を使っているからな」
有里の話を聞いて、康太は頷いてからそう言った
そのタイミングで、面接時間が終了した
そして優子と秀吉は、小燕と有里と一緒にマンションに帰宅した
その時、郵便受けの中に一つの封筒が入ってることに優子は気づいた
優子はその封筒を取り出すと、表には優子様へ。と書かれていた
だが、裏には何も書かれていない
何よりも、消印が推されてなかった
それを確認した優子は、すぐさまに封筒を懐にしまい込んだ
そして夕食後、優子は封筒を取り出すと封を開けて中から便箋を取り出して開いた
そこには
《国際空港爆破テロの犯人を知りたければ、週末の夕方6時に文月学園体育館に来い》
と、新聞の切り抜きで文章が書かれていた
読み終えた優子は、手紙を机の上に置いて
(明久君を苦しめた国際空港爆破テロ……それの犯人……絶対に突き止める!)
この時の優子の目には、強い決意の光が宿っていた