インフィニット・ストラトス 首輪付き少女の学校生活 作:しじる
浜辺に立ち、お互いISの起動体制に入る私と束さん。
その表情はやっぱり真剣で、いつもの笑顔ではない。
…やっぱり姉妹なんだな、とその顔を見て思う。
その真剣な顔は、篠ノ之箒に重なった。
「ちょっと驚いちゃうかもねー!あーちゃん!」
そう言って束さんはISを展開した…
その姿は、私にとってちょっと所ではなく非常に驚いた。
だってその姿は、【あの男】のACだったのだから。
「アンサング……!?」
「ね、驚いたでしょー!結構大変だったんだよ?これ作るの」
褒め讃えられることの無い、それを意味するAC。
私を変えた、【ORCA】へ誘った男。
オツダルヴァ、いやテルミドール、彼の愛機。
なぜこれを束さんは作ったんだ。
私の疑問を置いて、束さんは喋り出す。
「一番の問題だったのは、ACNEXTの稼働データだったんだ。あーちゃんのだと、いくら細胞レベルで天災束さんでも死にかねないからねー。だから普通のが欲しかったんだ!」
そう言ってラウラへ視線を向ける。
なるほど、ラウラのISを弄ったのはそういう目的か。
普通と言われて少しラウラが凹んでるけど、正直私はそれ以上に驚いている。
「それで…やるの?」
「もちろん!あーちゃんの戦いも知りたいし!」
そう言って、私にアレサを起動させることを急かす。
…何故アンサングにしたのか、疑問が尽きない。
それでもやると言ったのは私自身だ、二言はなかった。
アレサを纏い、お互い空へ飛ぶ。
黒と黒が、夏日を浴びて強く煌く。
「じゃあ…やろ、束さん」
「もちろーん!行くよ、あーちゃん!!」
お互いの言葉を口火に、私たちの戦闘は、幕を開けた。
先に動き出したのは私だ。
5連装ガトリングが、束さん操るアンサングを食い潰さんと猛火を吹き出す。
それに合わせるようにアンサングが横へと吹っ飛ぶ。
流石天災…QBを初見で使いこなしてる。
アンサングは大型ジェネレータと豊富な武装を持った安定した機体。
そこにテルミドールの腕が合わさって、非常に危険なものとなっていた(最終的に戦ったのはステイシスだったけど)
それでも安定してるとはいえ、普通のISとは扱いが全く別物。
それを束さんは苦もなく操って見せてる。
証拠にアンサングのプラズマ砲が私に直撃。
お返しとばかりにレーザー砲を撃つも、紙一重で躱される。
アンサングがらアサルトライフルが火を吹けば、必ずと言っても私にあたる。
ガトリングを撃っても、レーザー砲でも避けられる。
言い訳にしか聞こえないだろうが、私は今全力だ。
全力で束さんを排除しにかかってる。
それでも束さんは初見と言っても過言でないアンサングを巧みに扱ってる。
「あーちゃん動き鈍いよー!それぇ!!」
一瞬刹那、私の背後にQBを蒸して回り込んだ束さんがレーザーガンを撃ち放ち、その直撃を受ける。
PAが大幅に削り取られ、シールドエネルギーも目に見えて減る。
苦戦、それしか言えない状況だった。
何をするにしても裏を書かれて叩かれる。
こちらだけがダメージを背負っていく。
しかし、そんな時妙な違和感を感じた。
「(妙に反応速度が早いような?)」
そう、たとえ天災と言ってもこの反応速度は異常だった。
私が引き金に指をかける前に回避動作を行ってる。
偏差しようと銃口を逸らそうとした瞬間反対側へと飛ぶ。
心でも見てるかという程であった。
もちろんISにそういう機能があると言われたら納得するが、アンサングにそういうのはないはず。
とすれば、考えられるのは1つしかない。
けれどその可能性を私は否定した。
まさか私と戦うためだけに、そんなことを束さんがするとは思えなかった。
しかし、その予感は当たってしまってた。
ほんのわずかだが、束さんの動きが鈍った。
時間にしてコンマ何秒以下、しかしそれでも確信を持つには十分すぎた。
あれはACに、NEXTに乗ってるリンクスなら1度は経験がある鈍り…
AMS酔い…脳への過剰な情報供給に、脳の処理が追いつかなくなり発生する。
症状には、【脳が焼ける】という感じの凄まじい痛みが走ることが多く、人によっては光が逆流するかのような、頭が本当に割れるほどの痛みが走る。
私も2度経験がある。
両方ともホワイトグリントと戦った時だけれども。
それが現れたということは…
「束さん、どうして!」
私の叫びに束さんは答えない。
返答の代わりにAAが炸裂して、私のPAが引っ剥がされた。
そこに更にアンサングのレーザー砲が突き刺さる。
シールドエネルギーが危険域に突入、警告音が喧しくなる。
「こうでも…しないと……あーちゃんの辛さ、分からないからね」
束さんから声が漏れる。
掠れた、いつもの元気な声ではなかった。
「私、好奇心と…あったらあーちゃん困らないだろうなって思ってAMSを付けたけど、どんな時でもあーちゃんAMSを使おうとしなかった。それが不思議で、自分で試してみたかったんだ」
言いながらも高速でQBを蒸して、私の背後を取ろうとする。
その度にどんどん動きが鈍くなっていくのが見えてわかる。
ついにはこの戦いを見ていた他の生徒たちも違和感に気づけるほど酷いものになっていた。
当然それほどまで行かなくとも、鈍った動きを逃すほど私は甘くない。
被弾数がそれほど時間をかけずに逆転した。
「天災束さんでも…こっちは天災じゃなかったみたい……さっきから、束さんの脳細胞が死んでいくような感覚がやまないの」
何故、なんで。
それを聞くたび私の中の疑問が増えていく。
それでも束さんは戦闘をやめない。
お互いの攻防は、優勢が私の方へ傾き続けながら。
しかし同時にさらに高度を増して続いていく。
砲火と砲火が交わり、たまに剣と銃が混じり合う。
雲を突き抜け、空の切れ目が見え、千冬さんから入る通信を無視して、アンサングのシールドエネルギーがそろそろ尽きる。
「……あ」
その時だ、私も、束さんも、お互いに手を止めたのは。
そこには、頭上には、満天の星空があった。
高度表を見る、7000メートルと書いてあった。
ああ、クレイドルがあった高度だ。
そう言えばあの時も、ここから星空が見えたっけ。
「宇宙、来ちゃった?」
「いや…まだ地球だよ、束さん」
すっとぼけた声で、束さんが聞いてくる。
それに「そっか」と声をかけたあと、束さんのアンサングが堕ち始める。
AMSの使用限界か。
いくら絶対防御があっても、高度7000メートルから海面に叩きつけられたら無事で済まない。
急いで私はその手を取って、ゆっくりと寄り添うように降下する。
「……綺麗だね、あーちゃん」
「…もしかして、これが見たかったの?」
若干呆れ気味に私は聞く。
もしかして、私と戦うと言うのは建前で、この景色が見たかったのではと。
「あはは、半分はね。もう半分はさっき言ったよー」
そう告げる束さん。
それにしてもAMSを付けるのはやりすぎだと思うし、見たいなら連れて行ってあげるのに。
「いやいや、自分で行ってみたかったんだ!それにさっきも言ったけど、あーちゃんの辛さも知りたかったし」
…人の心を読まないで。
そんなこんなで、私と篠ノ之束の奇妙な戦闘は、お互いの戦意喪失で幕を閉じた。
そして同時に、篠ノ之束が夢見たものがどれだけ美しかったか、ある意味再確認できた。
これは本人に伝えてないけど、星空を見た時、束さんは一筋の涙を浮かべていた。
それがAMS酔いから来る痛みで出たものか、それとも…夢見たものを間近で見れたことによる感動からのものか。
私には分からなかった。
そんなお互い抱き合うような形で地上に戻ってきた私たち。
当然通信を無視したことに、千冬さんは激昂してるだろうな。
そう思って、覚悟しながら向かえば。
何故か激昂ではなく焦った顔で私を見る千冬さん。
それに何故か専用機持ち以外の人達がいなくなってる。
その事に疑問を感じながら到着すれば、開口千冬さんが告げたものは、半ば信じられないものであった。
「アメリカの軍用ISが、こちらに向かってる」
と……
「主任、いいのですか?見てるだけで」
『キャロりーん、あの坊主がああいった以上仕方ないじゃん?』
「それもそうですが、主任らしくないと」
『何?キャロりんついにデレてくれた?』
「主任に何らかの異常があった場合困りますので」
『ああん、相変わらずクールだね』
「で、何故です?」
『……ちょっとした、お楽しみにしたいからな…』
『なぁ…【黒い鳥】の、お嬢さん』