インフィニット・ストラトス 首輪付き少女の学校生活 作:しじる
作戦開始時刻数分前。
織斑一夏と篠ノ之箒は互いの準備を終えていつでも出撃可能だ。
私の方も準備がちょうど終わり、VOBが繋がれてる。
いつ見てもやっぱり巨大なブースターだな、これ。
「カーチス、いいか?」
千冬さんの声が響く。
私はそれに大丈夫と返す。
この様子だともう時期みたいだ。
「カーチス、お前の出番はおそらく来る」
唐突に千冬さんがプライベートチャンネルで声をかけてくる。
その内容は出来れば聞きたくなかった。
「なんで…そう思うんですか?」
「篠ノ之を見ただろう、あいつは浮かれてる。あれだけの力をいきなり渡されたらそれもそうだろうが、それが何らかの失敗に繋がるやもしれん」
千冬さんの目論見が語られ、一理あると私は考える。
確かにあれだけの力を得れば、大小あれど浮かれはすると思う。
私の時はスミカにそんな浮かれはブチ折られたけど、箒はそれを経験してない。
そういう意味では、千冬さんの懸念は正しいのかもしれない。
「だけれども…私たちは待つだけ」
そう、待つことしか出来ない。
成功したと報告を願うしかない。
そんな会話をしていれば、作戦開始時刻であった。
「よし織斑、篠ノ之。必ず成功させてこい」
千冬さんの言葉に合わせて箒が操る赤椿が宙に浮き、その上に一夏の白式が乗る。
そうやって出発前に、箒と一夏両方から声が掛かる。
「安心しろ、私と一夏だ。楽させてやる」
とは箒談。
「何かあったら頼む」
とは一夏談。
2人は思い思いに語り、そして空へ舞って行った。
「無事を願うよ……」
それから数分後、待機状態の続く私に声が届く。
一瞬まさかと思ったが、声の主を聞いて安心した。
束さんだ、失敗だったら千冬さんだろう。
「あーちゃん、大丈夫かい?」
「私?うん、大丈夫」
何が大丈夫と聞かれたかわからないが、多分準備のことを聞かれたのだろう。
だったら大丈夫と答えられるので、そう答えた。
それに束さんはこう返す。
「作戦、上手くいくかな」
「束さんが考えた作戦でしょ?」
流石にそれはどうと思ったが、続く束さんの言葉で息が詰まる。
「でも変なんだよ、コア・ネットワークを切断出来るのは私くらいなのに、何故か切断されてるのは」
確かにそうだ、ISのコアは殆どがブラックボックスで、束さんでさえ作ってすぐの状態時しか知らない。
そのあとコアがどんな進化を遂げて言ったかまでは知らない。
そんな進化したISが、自らネットワークを切断するのはおかしい。
暴走していたとしても、そんなことはしないだろう。
とすれば、考えられるのは他者からの介入だが。
事実篠ノ之束以外にそんな深いところまで入れる人などいるのだろうか。
そんなのIS自身か、【機械そのもの】でもない限り不可能だろう。
「もしかしたら、束さんの想像以上に、今回のことは深いかもしれないよ」
不安気に束さんが漏らす。
それに合わせて私の気持ちも不安になってくる。
そんな互いの不安が絶頂を迎えそうな時だった。
またコールが鳴る。
それは千冬さんからのもの。
仮に作戦が成功していたとしても、開始から数分のこれは早すぎる。
嫌な汗が伝い落ちる感覚がわかった。
不安を胸にコールに出る。
伝えられた言葉は短く、そして残酷であった。
「出番だカーチス」
銀の福音にアプローチを仕掛け、外してしまった。
俺は空を切った雪片二型をじっと見つめることしか出来なかった。
間違いなく視界外からの攻撃であったのに、まるで最初から来るのが分かってたかのように、あっさり躱された。
「一夏止まるな!」
箒の怒号に意識を戻され、反射的に距離をとる。
それに合わせて福音がLa…と唄うように攻撃を始める。
ばら撒かれる光弾が、さっきまで俺のいた場所に降り注ぐ。
「失敗か!箒、アリサと交代だ撤退しよう!」
高速移動している銀の福音相手に、アリサ以外に高速移動する相手と戦ったことない俺たちでは、すぐに落とされるのが関の山。
そう思った俺は箒に提案する。
「腰でも引けたか一夏!このまま背を向けても撃たれ放題だ、戦いながら待った方がいい!」
だけれども箒はそれを蹴って、銀の福音へと突撃していく。
って箒、何言ってるんだ!!
「箒!?あぁもう!!」
突っ込む箒に合わせて、銀の福音はその機体性能を巧みに操り迎撃する。
箒も箒で、赤椿の性能を扱って銀の福音にくらいつく。
だけれども場数が違う。
やがて箒が追い詰められていく。
俺も俺で銀の福音を追おうとするものの、零落白夜の関係上あまり速度は出せずに、一向に追いつけない。
銀の福音が右へ左へ、上へ下へと飛び回るのに対し、俺たちは左右が精一杯だ。
そんな時だった、箒の攻撃が当たった。
それは特攻じみた攻撃だった。
福音が光弾の雨を降らせようとしたその時に突撃、スラスター部分を切り落とした。
一歩間違えたら蜂の巣だ。
そんな滅茶苦茶で危ないこと、普段の箒は絶対しない。
「今だ一夏!」
箒の行動に疑問を持ちつつも、生まれたチャンス。
生かさなければと飛び出す。
けれど俺の目にはそのとき映ったものがあった。
映ってしまったんだ。
俺はそのチャンスを捨てて、ある物を追った。
それは光弾、その光弾を零落白夜で切り払う。
「な、一夏何をやっている!」
「船だ、あそこに船があるんだ!密猟船か、クソどうしてこんな所に」
そう、光弾の着弾地点には船があった。
何故あったかはわからないが、あのままだと乗ってる人が死ぬ。
それは嫌だった、だから俺は光弾を切った。
結果チャンスは潰れて、シールドエネルギーの枯渇寸前だ。
「そんなの捨て置けばいいだろう!!」
箒から信じられない言葉が飛び出す。
人の命を軽んでいるような言葉だった。
「箒!」
意識してなかったが、声が大きくなってしまった。
箒がビクリと震える。
「どうしたんだ箒、俺の知ってる箒はそんな事言わない…どうしたんだよ…そんな悲しいこと言わないでくれ」
俺は思いを口に出す。
しかしその結果、互いに足を止めることになってしまった。
それがいけなかった。
銀の福音はLaと歌い、またあの光弾の嵐がやってくる。
しかし箒はそのことに気づいていなかった。
「箒!!」
「な、一夏!?」
悪いと思いつつも箒を蹴り飛ばす。
それに合わせて光弾が俺に降り注ぐ。
熱と真っ白な閃光、爆発音が俺を包む。
その中でもただの1つ、聞こえるものがあった…
それは箒以外の声だった。
それは……憎しみに塗れた声だった。
「ウァァァアアアアアアァ!!!」
それは、獣の雄叫びにも聞こえた…
轟音を唸らせ私が到着すれば、それはひどい光景だった。
ボロボロの赤椿、そして落ち行く白式。
スラスターが破損しただけの銀の福音。
とくに落ち行く一夏を見て、私の視界が黒く染まっていく。
頭の血が下がっていく。
「ウァァァアアアアアアァ!!!」
咆哮と共に箒に突っ込み、呆然とする彼女の首を引っつかむ。
そのまま彼女の声を聞かないで、一夏を掴む。
そのまま急速反転して一気にブースターを吹かせる。
いつもの何全倍ものスピードで、全部がゆっくりと流れていくように錯覚する。
それに合わせるように銀の福音もスピードを上げて追ってくる。
こちらの方が加速もスピードも上だが、それでも多少は追いつき、砲撃をしてくる。
そうだ、福音が来る
福音がやってくる
私は怖いんだ、私は怖いんだ!
今この時全て思い出したから
だから私は怖いんだ
全てが儚く散る夢のようだと
何もかも、もろく消えてしまうと
思考が、一夏の死で塗りつぶされる。
一夏が死んでしまう!
怒りよりも恐怖が思考を塗りつぶす。
死んでしまう、死んでしまう!
死なせてしまう!
必死だった。
既に銀の福音が見えなくなっても、私は速度を緩めない。
ただひたすらに速度を上げて、一夏を【直せる】場所へと翔ぶ。
そうやってつく頃には、私は自身の恐怖で嘔吐し、そのまま意識を失った。