インフィニット・ストラトス 首輪付き少女の学校生活 作:しじる
作戦が失敗に終わり、あとに残ったのは意識不明の重体となった一夏。
そして帰還と同時に嘔吐し気絶したアリサ、そして完全に無気力となった箒だけだった。
銀の福音は今だ作戦空域に何故か留まり続けているが、それがいつ動き出すかわからない。
その緊迫した状況が続いていた。
私はそんな状況で、浜辺にいた。
福音が行動し始めた場合、何時でも迎撃できるようにと。
教官…織斑先生に支持を受けて。
軍人なのは私だけだからだろうか、そういう指揮系統を任された。
だが、本音を言えばこんなことより、嫁や御姉様のそばにいたかった。
状況が許さないが、そうしたかった。
「あんたは、そのままでいいの?」
そばにいた鈴が声をかけてくる。
そう言えば嫁の正妻の噂が最近されていたな。
実際はどうかわからんが。
そしてこの疑問のかけかた、敵討ちに行かないかと誘ってるのだろう。
しかし私はこれにNOと返した。
「なんでよ、千冬さんの指示だから?」
「それもあるが…いや、御姉様のそばを離れたくない」
「はい?」
疑問の声を返された。
当然だ、本当は建前を言おうとしたが、やめて本音を言ったのだ。
建前は【離れればほかの奴らが危ない】とするつもりだったが、それ以上に御姉様のそばにいたかった。
「今ここから離れたら、御姉様が永遠に帰ってこない気がした…だから私は待つんだ、御姉様がおきるまで」
意図が少し伝わってなかったか、それに少し顔をしかめる鈴。
何にしても、御姉様からこれ以上私は離れる気はなかった。
そんな時であった…背後から気配を感じて振り返ってみれば、そこには御姉様がいた。
「御姉様!お目覚めに?」
ほかの皆も心配の声を上げる。
それもそうだ、到着と同時に意識を失ったんだ。
心配しない方がおかしい。
そうやって近づいてくる御姉様。
しかしその目を見て皆黙ってしまった。
私でさえ、飲まれてしまった…
その目は黒かった…
無論色の話ではない、まるで焼け焦げたように…そこのない黒がそこにあった。
闇の奥底を覗いている気分だった。
そのまま私たちに声を返すこともなく、御姉様は何故か【首元のチョッカー】を外した。
そこから覗かせた肌は…色が変だった。
御姉様の肌にしては濃い色があった。
御姉様はおもむろにその部分を掻き毟る。
出血でもするんじゃないかと言うほど掻き毟り、やがてそれをやめればそこから見えたのは【鉄】
所謂USBメモリの差込口のようなものが姿を見せた。
そこに、何かコードなものをどこからともなく取り出し、そこへと差し込んだ。
「アリサ、待て!!」
「あーちゃん止めて!!」
その直後だった。
教官と篠ノ之束が全速力でこちらに走ってきていた。
2人の顔色は非常に悪く、御姉様を止めようとしていた。
それに御姉様は振り返り、2人に声を出す。
「ごめんね……千冬さん、束さん…私【還るよ】。私やっぱり変われなかったの…首輪は外れてなんかなかった…【人殺しは、生まれ変わっても人殺し】なんだ」
そう語る御姉様は、目から赤い何かを垂れ流していた。
それが血と気付くまでは数秒かかった。
その気づいた理由も、御姉様の目が、【血で真っ赤に染まっていた】からだ。
それだけ語った御姉様は有無を言わさずにISを展開して、あっという間に海の彼方へ消えていった。
「織斑先生、彼女一体!?」
セシリアが疑問の声を上げ、続くように鈴、シャル、私と教官と篠ノ之束を見やる。
それは暗い表情で、2人は顔を上げた。
「話す時が来たね、ちーちゃん。私たち以外も知る時だよ」
孤独、その闇が目の前に広がってる。
私は闇の中に一人いた。
私はたしか、一夏と箒を担いで旅館に戻ったはず。
あ、そう言えばそのあと意識を失ったっけ。
…ここはどこだろう。
闇に包まれて何も見えない。
いや、一瞬光が見えた。
そこへ私は足早に向かう。
それがなんであれ、なにかの道標になると思って。
そうしてそこへたどり着けば、懐かしい光景が広がってた。
そこは…ラインアークだ。
そこにはアリーヤと雑多な小火器でそれを打つ兵士たちがいた。
この光景に私は見覚えがある。
それは…
「私の…初めての、実戦?」
理解すると同時にまた景色が変わる。
同じくラインアークだ。
だけれどもいる機体は3機。
アリーヤ、ステイシス、ホワイト・グリント。
私と、オツダルヴァ、アナトリアの傭兵。
『メインブースターがイカれただと!?』
その言葉と共に墜落していくステイシス。
今思えばオツダルヴァの演技、とっても凄かったな。
本当に沈んだと思ってた。
それに合わせて、アナトリアの傭兵のオペレーター、フィオナが私に聞いたんだっけ。
『なんのために戦うのかを』
その言葉の直後、アリーヤの動きが目に見えて鈍る。
そうだ、あの言葉で私は迷いを背負った。
結局、ホワイト・グリントとアリーヤは、半ば相打ちのような形で大破炎上、けれど脱出した私は無事に生き残り勝つ。
でも迷いは私の心を蝕んでいたんだ。
また光景が変わる。
そこはクレイドル03…私が殺した人々が、まだ空を飛んでいた。
『刺激的にやろうぜ?』
ああ、オールドキング。
懐かしく、苦しい思い出。
あの時私は、ナプキンを取ったんだ。
修羅の道へと続く、片道切符を。
『お前とは、もう一緒にやれんよ』
スミカ、ごめんなさい。
私嫌だったの、必要とされなくなることが。
嫌だった、あの場所へと戻るのが。
【思い出した?私は結局死んでも『私』、変わることなんて出来ないの】
静寂から声が響く。
それは私自身の声であった。
直接的頭に響く。
『これが俺の器らしい…』
『殺すことだけを覚えさせたか…』
『所詮は獣、人の言葉を介さんさ』
【人殺しは死んでも人殺し、誰も守れない。だれも救えない。誰も救ってはいけない】
【殺せ、欲望のままに殺せ。】
【殺せ、アイツらと同じように】
【殺せ、彼をああしたあの白を】
【殺せ、焼き殺せ、いつものことだろう?】
【焼き尽くせ、黒く、真っ黒に!】
その言葉に合わせて目が覚める。
…体は何ともなかった。
天井が見える、旅館の天井だった。
「一夏…」
守れなかった、もう少し飛ばしていれば、彼はああならなかった。
救えなかった、もっとはやく飛べていれば。
AMSを使っていれば…なのに私は【今】にこだわって……
「私のせいだ…私が、力を使わなかったから……っ!」
また頭に声が響く。
後悔の声が響く。
力を使わなかったからと…
「…あれ?私は、なんで【過去】を嫌ってたんだっけ…」
視界が歪む、そうだ。
なんで力を拒絶してたんだっけ?
今が大切だから?
違う…本当は、普通になりたかったから…
でも私はこれを選んだ…ほかも選べたのにこれしか選ばなかった。
「そうだ…『答え』なんて、もうずっと前に出てたんだ…」
私は死んでも、【首輪付き】だ
気がつけば導かれるように浜辺に立って、AMSを接続していた。
ラウラ、セシリア、鈴、シャルロッテの声が小さく聞こえる。
だけれども私はそれを聞こえないようにした。
後から千冬さんと束さんの声がする。
私を止めに来たのかな?
でも、ごめんなさい。
私は【還らなきゃ】、あの頃へ。
付けっぱなしの【首輪】は、もう窮屈になっちゃったんだ。
外して、自由になる時なんだ。
「ごめんね……千冬さん、束さん…私【還るよ】。私やっぱり変われなかったの…首輪は外れてなんかなかった…【人殺しは、生まれ変わっても人殺し】なんだ」
口に出せば決意は固まる、久々のAMS接続で脳が焼ける感覚がする。
目から血が出る感覚が伝わる。
だけれどもそれはすぐに消える。
ふわふわって、気持ちいい感覚に書き変わる。
世界が、【手に取るように分かる】
「さぁ……刺激的に【殺ろう】?」
内なる【獣】の【首輪】を外して、私は獲物へと飛び立った。
アリサ・ヴァン・カーチス、覚醒…