インフィニット・ストラトス 首輪付き少女の学校生活 作:しじる
飛び立った御姉様を追いかけたい気持ちを抑えて、私たちは教官と篠ノ之束の話を聞くことにした。
それは、御姉様にまつわる、重大な話らしい。
「まずみんなに聞くよ、【平行世界】って信じる?」
篠ノ之束がいきなり訳の分からないことを言い出す。
いつもなら一蹴する言葉、しかし篠ノ之束の目は真剣そのものだった。
「信じるか信じないかは問わない、だがこれから話すことは真実だ。そして私と束だけが知る秘密だ」
教官も同じように、これ以上ないほどに真剣な表情で言葉を出す。
そこから語られる物語は、文字通り心が裂けそうなほど酷いものであった。
年端も行かない少女が、身を売り生計を立て、やがては傭兵となり、様々な人々を殺していく。
それが御姉様の事だと気づくのにはあまり時間はかからなかった。
だからあの時、御姉様は力だけの無意味さを知っていたんだ…
だから私に告げたかったのか?
私のようになるなと…
そう考えているうちに、物語の機転が語られ始めた。
それは、御姉様が【怪物】になってしまうきっかけ。
「そうして、そいつはある男の話に乗るんだ。そいつは【クレイドル】を落とさないかと持ちかけた。そいつは暫く悩みに悩んだ後、共に過ごした相方の声を無視して、乗ったんだ」
私も含める皆が息を呑む。
だってそうだろう。
地上を捨てたとはいえ無実の、それも民間人の乗ってる方舟を破壊すると。
それは【殺す】ことと何ら変わらない。
7000メートル上空から墜落したら、ほぼ間違いなく死んでしまう。
御姉様はその話に乗ってしまったのか。
「でも、なんでですの!?」
セシリアが声を上げる。
彼女だけでない、この場にいる皆が聞きたかった。
その解答は…一人の少女の孤独を意味していた。
「……『必要とされたかったから』だそうだ。戦争の火種になって、ずっと…ずっと戦っていたかったからだと」
それを聞いて、私は胸が苦しくなった。
他のやつは分からない、だが私にはわかる。
私もそうだったからだ。
私ももしかしたら、御姉様のようになっていたのかもしれない。
御姉様…貴女は、私と一緒だったんだ。
生まれや育ちは違っても、同じ【独り】だったんだ。
「そうやって、そいつは【人類種の天敵】と呼ばれ、ある時は【黒い鳥】と呼ばれたらしい」
それだけ伝えて、教官は口を塞ぐ。
静寂があたりに伝わる。
最初に話し出したのは…私だった。
いや、話すというよりも動き出した。
「…どこへ行く」
教官から声が届く。
私は振り返ることなく教官に伝える。
「御姉様の元へ」
「死ぬぞ、今のアイツはあの時に戻った。強さも桁違いだ、歴戦の名将5人を真正面から纏めて相手にして圧勝してるんだぞ?」
「それでも…行きます。教官、命令でも、聞けません」
行かなければいけない、私は御姉様の元へ行かなければならない。
もしその話が本当なら、御姉様はまだ…戻ってこられる。
まだ戻ってこれる場所がある。
「御姉様は、【独り】じゃない。【一人】なんだ…私たち【一人一人】なんだ!」
そうだ、御姉様はまた寂しさに埋もれてるんだ。
今行かなくていつ行くんだ!
「御姉様は【獣】じゃない!【人間】だ!」
パンッと乾いた音が私の頬に刺さる。
それは教官の平手打ちだった。
皆が唖然となり、私も一瞬あっけに取られた。
だけれども、その意味はすぐに分かった。
教官の目が伝えていた。
「頭は冴えたか?」
「…はい!」
「……行ってこい」
「お、織斑先生!!」
皆の声を待たず、私は飛び出した。
浜辺へと飛び出し、あのISを起動する。
篠ノ之束の調整があっても、相変わらず操作が難しいコイツ。
しかしなぜが今日は素直に動いた。
そして、こんな声が頭に響いた。
『あれは秩序を乱すもの、お前はそれを守るのか?』
「秩序?それが御姉様を守るのか?守らないだろう…御姉様を守れるのは秩序じゃない、同じ【人】だ。人だけだ」
声に反論する、声は続けて語り出す。
『それがお前の法か?お前の意志か?』
「あぁ、そうだ!」
『……あれはイレギュラーではないのか?』
「人類種の天敵がそうだと言うならそうだろうが、例えそうだとしても、御姉様は御姉様だ。私の知ってる御姉様は、いつも不思議で、ふわふわしていて、チョコレートを妙に愛していて、誰よりも強くて……誰よりも弱い人だ。だから私が支えるんだ、私が御姉様に支えられたように!!」
あらん限りの声を張り、それに叫ぶ。
それに反応してか、声は暫し沈黙をし、そしてこう語った。
『…再試験…イレギュラーとしての該当項目無し……排除対象登録解除、イレギュラー認定取り消し。【人】として認定』
「お、お前…」
まだコイツは御姉様を消そうとしてたのか…
それに冷汗をかくも、続く言葉で私は希望を持つ。
『人である以上、秩序の下、護らなければならない』
「…!ありがとう!!」
『セラフ』
声がなにか呟く。
私はそれに聞き返すと、声は…いや、私の【IS】は答えた。
『ナインボール・セラフ。私は秩序を護る者』
「セラフ…」
『プログラム、修正開始』
あの時のようにセラフが声を出す。
しかし、今度は前のように蝕まれる感覚ではない。
馴染んでいく感覚だ。
まるで最初から、私はこの姿だったのかと思うほど自然に、馴染んでいく。
『ターゲット、再登録。戦闘システム…グリーン』
視界の端に、銀の福音のモデルが表示され、ターゲットと登録される。
『…全システム、チェック終了』
言葉が終われば一気に体が軽くなる。
羽の様とはこの事か。
声はそれを最後に聞こえなくなる。
準備完了ということだろう。
「…御姉様、今行きます!」
ブースターを蒸す、すると今まで出せなかった猛スピードで発進する。
一瞬意識が飛びかけたが、それくらい出なければ御姉様に追いつけない。
凄まじい力を手に入れてしまったと、改めて戦慄しながらも、私は御姉様の元へと飛んでいくのであった…