インフィニット・ストラトス 首輪付き少女の学校生活 作:しじる
篠ノ之束が提案した作戦が失敗に終わってから数時間。
銀の福音は作戦空域を未だに漂っていた。
それは見るものからすれば、何かを探してるようにも見え、そして何かを待ってるようにも見えた。
銀の福音は停止、航行、停止を何度も繰り返す。
しかしそれは唐突に終わらされるハメになる。
一発の光弾が、かのISの目の前を横切ったからだ。
暴走状態でもすぐにそれがわざと外されたものだと理解する。
振り向けばそこに奴がいた。
どこまでも黒い、焼け焦げたように黒いISが。
アレサであった。
銀の福音は、それを大した脅威と受け取らなかった。
自身を目の前に、悲鳴にも似た声を上げて逃げたのだから仕方ない。
しかし、それが愚かな考えであると、すぐに改めてさせられることになる。
アリサを排除しようと、Laと歌い、光弾の雨を降らせる。
それは全て不均等にばら撒かれ、それ故に回避などできなかった。
しかし、黒いISは真正面からその弾幕に突っ込んだ。
そのまま降り注ぐ光弾の殆どを、なんと刹那の間に切り払ってみせる。
あまりに一瞬のことに、銀の福音の思考が停止する。
それが自殺行為と言えることでも、気づくのはアレサが目前に来てからだった。
迎撃のため光弾をばらまく。
今度は距離も近く、回避は出来ないし切り払いも間に合わない。
ダメージを最小限に抑えるため、少し離れてくれるだろう。
そう考えての行動だったが、黒いISは真反対の行動をとる。
真正面から突っ込んだ。
しかも間に合わないと思った切り払いを、目にも映らぬ速度で行いながら距離を詰めてくる。
こればかりは銀の福音も想定外を通り越しすぎた。
対策を導き出す前に、その刃が福音を捉える。
しかし光の刃は福音本体ではなく、その武装を切り落とした。
直感的に福音は想像し、AI特有の高速回転で回答を導き出す。
導き出せてしまった。
【あれは自分を嬲り殺しにするつもりだ】と。
本当に仕留める気があるなら、あの刃は絶対防御を発動させて、エネルギーを少しでも削るのが普通。
しかしあのISは真っ先に武装を潰した。
銀の福音の武装は元々少なく、だがその少ない武装のみで事足りる戦闘力だった。
しかしその戦いが通用するのは格下のみ。
銀の福音は、システムのせいとはいえ、自身の真っ先に取るべき選択肢を誤った。
相手を見誤ってしまった。
それは【怪物】だったのだから。
銀の福音がそれに気づいた頃には遅すぎた。
武装を切り落とされ、機体の完全再生まで身を隠す。
そこまでの考え一瞬で至るのは流石であったが、相手が悪かった。
身を隠すために海岸の崖を選択したのは誤りであった。
爆音と共に、自身の目の前に現れるアレサ。
迎撃を行おうとすれば両腕を抑えられる。
そのままその凶悪な馬力に任せて、崖に叩きつけられる。
銀の福音はそのまま、崖にめり込むこととなる。
しかしアレサはそれで攻撃をやめない。
肩のコジマキャノンを何度もチャージしては撃つ、チャージしては撃つを繰り返す。
自身も爆風でダメージを受けているが、全く気にしない。
密着距離で直撃を受けてる銀の福音は溜まったものではない。
「La…」
「煩いなぁ…」
やられっぱなしを避けるため、反撃に出ようとするが…
その前にアレサの剛腕で顔面…口元を潰され喋れなくなる。
「見苦しいよ…死ぬなら……静かに死ね」
攻撃をやめない。
アレサは月光を使わずに、ひたすらにその鋭い爪のような指先で、銀の福音を抉り続ける。
それは傍からすれば、まるで鳥葬。
啄まれ、引きちぎられ、鉄とオイルが、シールドエネルギーの枯渇した銀の福音から飛び散りまくる。
反撃さえ許されず、情け無用に解体されていく。
辺りには、鉄が鉄を抉る音が響き続ける。
「御姉様ぁー!!」
その時だ、ラウラ・ボーデヴィッヒの声がアリサに届く。
一瞬アレサの動きが止まる。
搭乗者の意思が逸れたからだ。
それを利用してか、銀の福音は無けなしの力を振り絞って、アレサの拘束を離脱。
しかし浮遊できず墜落していく。
それを見やり、ラウラは全身の血の気が引く思いであったが、ここまで来て下がる気はないと言わんばかりに声を上げた。
「御姉様、帰りましょう!」
「……帰るって?どこへ?」
全身装甲越しに伝わる無の視線。
殺意も憎しみも、だがその他の感情もない虚無の視線。
それがラウラを直視する。
同じく全身装甲のラウラだが、その視線に恐怖を覚える。
『【恐怖】を検知…排除』
しかしその恐怖は、自身の持つISの力で解除される。
ラウラは何をされたか分からないが、ISはいわゆる薬剤のような何かを注入したのだ。
強化人間として生み出されたラウラは、拷問などで情報を吐かぬよう、それらへの耐性は強く、良い効果だけ受け取れる。
それをISは知っていたのか、躊躇なく打ち込んだのだ。
何にしてもラウラの恐怖心は消え去り、再度アリサに向き合う。
「御姉様、どこへって…私達のところですよ!」
「…そこへは帰れない、帰っちゃいけない」
「なんでですか!」
ラウラの叫びがあたりに響く。
それに対する答えは、アレサのレーザー砲であった。
「っ!?」
『威嚇発砲、回避不要』
セラフの告げた通り、攻撃はラウラの頬を掠めるように飛んでいったが、触れてはなかった。
それを見てアリサが声を出す。
「私は違うの、生まれた世界も、生き抜いた方法も……何より、【虐殺者】なの。私に幸せの権利はないの」
自分に語りかけるように、ラウラに告げるアリサ。
その表情は分からないが、声は震えていた。
「なのに私は望んでしまった、新しいこの世界で、幸せになりたいって願ってしまった…その結果がこれだよ。私の惰弱な願いが……一夏を…あんな」
「そんなことないです御姉様、一夏の件はどうにも…」
「どうにもならなかったと?AMSを使えば間に合っただろうに?」
琴線に触れたか、アリサの声が大きくなる。
「今までだってそうだ、幸せになりたいからって過去を嫌って、全力とは程遠いAMS未使用の戦闘で、何度も皆を危ない目にさせてきたか……私が全部…最初から、幸せなんか望んでなければ!!」
「それ以上言った撃つぞ!御姉様」
今度はアリサの言葉がラウラの逆鱗に触れた。
今だ無であるアリサに対比して、ラウラは烈火のごとく怒りを覚えていた。
「確かに、私は殺しはしたことは無い。殺す寸前までなら何度もあるが。それでも、貴女に会わなければ、きっといつか誰か殺してただろう。力が全てと疑わず、歯向かうものは皆悪とし、弱者を人として見れなかった。それが間違いだと教えてくれたのは、他でもない御姉様じゃないか!」
「でも…私は…自分の欲望に任せて」
「それを悔いているなら、虐殺者ではない……本当の虐殺者は、殺した数を誇るものだ」
はっとした様子でラウラを見るアリサ。
やはり表情は見えなくとも、そこには何らかの変化を感じられた。
「それに、人殺しが幸せになってはいけないなら、多くのクローンの死によって生まれた私も、幸せにはなってはいけない。違わないか?」
「それは…」
「御姉様、もういいんじゃないか?この世界は、確かに争いはあるけれども…平和で優しい。私でさえ受け入れられるんだ。御姉様もきっと…いや、既に……もう受け入れられているんだ」
「アリサァァァ!!」
その声は、海を越えてやってきた。
それは白の閃光。
アリサの見覚えのある姿。
「ホワイト・グリント?…一夏?」
そう、白式ではなく白の閃光。
ホワイト・グリントに何故か身を包んだ一夏が、他の皆。
箒、セシリア、鈴、シャルロットと共に来ている。
「アリサ!【人類種の天敵】だろうがなんだろうが関係ない、アリサはアリサだ!」
「アリサ、正直にいうと、私はお前があまり好きでなかった。だが、お前がいなくなると…寂しいんだ。心が痛いんだ、帰ってきてくれ!」
「アリサ、あんたは私の恩人なのよ!恩も返させずに消えないで、卑怯よ馬鹿!」
「アリサさん、私まだ貴女に料理を完全に教えて貰ってませんわ、地獄みたいに辛かったけど、まだ教えて欲しいですわ!」
「アリサ、ボクまたアリサと戦いたいよ。アリサに負けた借りは返したい。それに…もっとアリサを知りたい!」
皆の声が響き続ける。
アリサはそれを聞いて、凍ったように止まり続ける。
しかし流れる彼女からの通信には、嗚咽が混ざっていた。
「御姉様、まだ、消えたいですか?」
ラウラが、そんなアリサに抱きつく。
全身装甲故に、不似合いな金属の擦れる音が響くが、それは些細なことだった。
「…たくない。消えたくない…こんな私でも…こんな怪物でも、【一人】として見てくれますか?」
アリサの言葉に、そこにいる皆は一斉に「当たり前だ」と答えた。
節気を切ったように、アリサの泣き声があたりに響く。
「あ、ありがとう…!!」
掠れた声が、木霊する。
「貴方の予想通りになりましたね、主任」
『ギャハハハ!いいじゃん、盛り上がってきたねぇ!!』
「では、次のフェーズに行きましょう主任」
『そうだねぇ!感動に水指すの、あんまり好きじゃないけど!』
「それでは…【メインシステム、パイロットデータ認証。システム、再起動。戦闘モード起動、作戦行動再開。】」
『さぁて、このプレゼント…気に入ってくれるかな?』
私が泣きに泣き、すっかり涙も枯れ、皆が私を取り囲んでくれる。
私は【独り】なんかじゃなかった。
私はこんなにも仲間に囲まれてたんだ。
やっとそれに気づけた。
ずっと心のどこかで、私は壁を作ってたんだ。
それが無くなって、広々とした気分になった。
「でも、銀の福音にはリベンジしたかったなぁ…」
「何言ってるだ一夏」
ふと漏らす一夏。
突っ込む箒。
確かにそうかもしれない、でも私からすれば、そんなことして欲しくないけどなぁ。
「何言ってんの、銀の福音はアリサがやったじゃん」
「あ、日本だとこういう時【やったか!?】と言うんだっけ?」
ちょ、シャルロット?
それは日本だとフラグって言うと簪から習ったんだけど…
そんなこと思った瞬間、爆音とともに海面が吹っ飛ぶ。
皆がそこへ視線を向ければ、確かに仕留めたはずの銀の福音が、姿を変えて飛んでいた。
「第2時移行!?」
「…シャル?」
「つ、ごめん…!?」
シャルロットが見事にフラグを回収し、銀の福音が私たちの前に新たな姿で現れる。
しかし、それだけで終わらなかった。
「っ!?御姉様、何か高速でくる!」
「え?」
ラウラの言葉と共に、そいつは現れた。
それは4脚。
それは白。
しかしそれを私は知ってる。
私が前の世界で、1度も勝ったことのない怪物。
「【ラインの乙女】、この世界だとデータの存在じゃないんだね…」
そう呟き、私は一夏とラウラに目を合わせる。
2人はすぐにわかってくれたみたいで、私のそばに来る。
「なんかやばそうだけど、あんたたちならできるでしょ!」
「銀の福音は、僕達に任せて」
「いってらっしゃいまし!」
「一夏、ラウラ、アリサ!」
4人の言葉を背に、私たち3人は、あの【少女】の前に立つ。
「人の愛が生み出したものならば、今の私になら…」
その言葉を出せば、私の機体が輝き出す。
黒い閃光を放ち、アレサが変わっていく。
その時、ふと声が聞こえた。
『やっと気づいた?やっと思い出した?』
「うん、やっと気づいたよ…1人じゃないって」
『スミカに会えたら、教えないとね』
「うん…でも、もっと先の話だね」
『だね、まずはこの子を』
「うん、悪いけど!」
閃光が晴れ、アレサの姿が変わる。
それは一見すると、一夏のISとほぼ変わらない姿をしていた。
しかしその色は黒い、焼け焦げたように黒い。
またパーツの1部が変わっていたり、同線のようなものがたれている。
しかしその同線のようなものは尖端にブレードのようなものが仕込まれていた。
そいつの銘は…
「…行こう、【
『あぁ、行こうアリサ』
【
ここにいるのは、IS学園1年首席、【