インフィニット・ストラトス 首輪付き少女の学校生活 作:しじる
それは、簪の家へのお泊まり会から三日後の話だった。
突然簪から電話がかかってきたんだ。
その時私は、ラウラと一緒にセラフの調整をしていた。
ラウラを認めたと言っても、セラフは元は無人機らしい。
当然人間が乗って動かすことは想定されてない。
その為、銀の福音戦以上の戦闘力を得るには、まずは調整が必要であった。
そんな調整のさなかであった。
「何簪…今私たち…」
言葉を返そうとした私は、続く簪の言葉に硬直した。
『お姉ちゃんが……お姉ちゃんが死にそうなの!!』
それを聞いて私たちはすぐ様飛び出した。
簪の姉こと生徒会長のことはあまり知らなくとも、簪の大切な姉であることは間違いなかった。
お泊まり会の時は険悪な感じだったけど、電話から聞こえるその声は、確かに安否を案ずる声であった。
「へ、生徒会長が!?」
半ば信じられない事だが事実のようで、私はラウラと共にすぐ様アリーナから飛び出した。
更識楯無が生死を彷徨う数時間前。
更識楯無はある廃屋にいた。
それは近年ISの普及にて廃棄された、かつての兵器開発工場。
今は誰も居らず、政府の管轄下になったこの地に、更識楯無はある【依頼】でやって来ていた。
それは彼女のスマホに直接送られた【依頼】。
日本の防衛大臣の名前で送られたものだった。
【廃棄された兵器開発工場にて、謎の人影を見つけた。どこかの国の暗部やもしれない。危険性を考慮して、報酬はいつもの倍、かつ”前払い”させて頂く】
そう送られた【怪しげな人影の探索、及び状況次第では抹殺】の依頼。
対暗部用暗部の更識の名の元、この依頼は受けざるをえなかった。
(でも、こんなところで何をしていたのかしらね…)
驚く程に静かで、何も無いこの場所に、何を求めてそれが来たのか。
疑問を持つもゆっくりと、しかし確実に工場深部へと探索する。
しかし、妙に広がったエリアにて、楯無は反射的に後方へ跳ねる。
それに合わせて爆音、衝撃、爆発。
間一髪のところでIS【ミステリアス・レイディ】を展開し、危機をとりあえず脱する。
「何者?」
冷静さを保ち、自らを撃ったものを見つめる。
それはIS、黒とワインレッドに彩られ、肩にはハルバードを持った、尾が三本の獅子が描かれていた。
『更識
楯無ではなく、刀奈。
自身を、
なぜ自身のその名前を、そしてISになぜ男がと困惑するが、続く言葉で冷静を取り戻す。
『騙して悪いが……お前で27人目』
『……恐れるな、死ぬ時間が来ただけだ』
殺気を感じ取り、彼女は大きく後退する。
先程まで彼女がいた場所は、謎のISの撃ち出したロケットによって爆散。
大量の石片が凶器となって飛び散るが、【ミステリアス・レイディ】から生み出される水によって阻まれる。
「私の命が欲しいわけ?そう簡単にはあげれないわよ!!」
水を纏った槍を手に持ち、敵に突撃する。
銃が効かないと悟ったか、敵もレーザーブレードを取り出し肉迫する。
水の槍と光の刃がかち合う。
その瞬間、楯無は悟った。
(こいつ、かなり強い!)
事実、次の瞬間には鍔迫り合いに競り負け、その光の刃が自身を焼こうと迫る。
そうはさせまいと、自らの手に蛇腹剣を粒子から取り出し切り返す。
しかしそれが当たることはなく、蛇腹剣は空を切り、敵は自身の頭上にいた。
そのままブーストを蒸し、自身を蹴るつもりだ。
そう考えた楯無、予想は当たり、楯無が前進し、敵は踏み抜きを外して背面を晒す。
「とったわ、【蒼流旋】!!」
間違いなく隙まみれの背中。
そこへ水を纏った槍を突き出し、撃破を狙う。
しかし敵は想像以上のことをしてくれた。
なんと自身の足元にロケットを打ち出したのだ。
結果反動と爆風の両方で機体が浮き上がり、槍は当たらず通り過ぎる。
自らの損害をまるで顧みない行動に、さすがの楯無の面食らう。
「えぇ!?」
そのまま逆に背面を取られてしまい、全ブーストを蒸した敵の蹴りが突き刺さる。
それは柔軟であり頑丈である水のヴェールを貫通し、彼女の背中へと強烈な打撃を与える。
「がっ!やるわね!」
背面をとられたが、焦ることはなく振り返り、槍を突き出す。
それはしかし敵は紙一重に交わし、またも蹴りを繰り出す。
馬鹿の一つ覚えにも見えるが、逆にこれが【一番通用する】と判断したのだろう。
先とは違う角度で、しかし確かに楯無のほんの僅かな隙をぬって打ち込む。
鉄がぶち当たる音が、誰もいない工場に響く。
絶対防御でも防ぎきれない打撃ダメージが、楯無の内蔵を痛めていく。
「ぐぅ!!くっ!」
どれだけ楯無が攻撃しても、どれだけ巧みに攻撃しても、敵は容易くそれを交わしてしまう。
そして執拗に、隙を見つけては蹴り抜いていく。
しかもなるべく同じ箇所を、的確に、機械のように正確に。
鉄の音と一緒に、楯無は自身の肉が潰されていく音が分かっていた。
「だけれど、これで【十分撒けた】」
しかし希望はまだある。
先程から防御にまわり、水のヴェールは大量に当たりに飛び散った。
しかし飛び散った水…否ナノマシンは消えた訳では無い。
「ねぇ貴方…【水蒸気爆発】って知ってるかしら!」
霧散したナノマシンが一気に蒸発し、生まれた爆発は全てに致命的打撃を与える。
【
それを直撃した敵は、頭部や胸部が破損し、さらには吹っ飛び、壁面に叩きつけられた。
誰がどう見ても、ISの絶対防御ありでも即死であった。
「ふぅ…はぁ…危なかったわ……あれだけの腕前、何者…」
そこから楯無の言葉が続くことは無かった。
先程壁面に叩きつけられ、装甲の大半が吹っ飛んだはずのISが、
その1発を、水のヴェールに覆われていない時、しかもシールドエネルギーがカラ寸前に、急所に貰ってしまった。
中途半端に絶対防御が発動し、蹴り潰されることは無かったが、衝撃は殺されず、そのまま瓦礫の山に突撃。
あまりの激痛に、意識があっという間にブラックアウトする。
トドメと言わんばかりに、敵はショットガンを突きつけるが、その前に何かを検知したのかそのまま去っていった。
「お嬢様、お嬢様?!」
「楯無様!?誰が救援を!楯無様が!!」
私が病院にたどり着いた時には、簪は抱きついてきた。
その瞳は涙に溢れていて、生徒会長が危険な状態であると語っていた。
何がどうなってこうなったか、誰もわからないらしい。
つまりこんなふうになってしまった理由は、今眠りについてる生徒会長以外誰もわからない。
本当に、何があったのだろう。
そんなことを考える間のなく、直後手術室の使用中ライトが消える。
中から、更識直属の医療者が出てくる。
「先生、お姉ちゃんは!!」
簪が真っ先に向かい問う。
それに対して、医療者の顔は暗い。
まさか…
「処置が間に合い、命に別状はありませんでしたが……」
まずそこは安心できた。
簪もそこは素直に嬉しかったが、【が】という言葉が不安を煽る。
【が】?【が】って何…何があったの。
「……みてもらった方が早いでしょう」
そうしてストレッチャーに乗って出てくる生徒会長。
1部を除いて、今にも動き出しそうに治っていた。
とても死にそうとは思えなかった。
そこは医療者の腕もあるのだろう。
そう、それでも【1部】を除いてなのだ。
その1部が、嫌にでも目を引く。
左足だ。
生徒会長の、膝から下。
あるべきものがないのだ。
「先生…これは……」
「…ここに来た時には既に…
その言葉に、何も言えなくなる。
それはあまりにも残酷な真実。
更識楯無は死んだ。
人としてではなく、1人の【選手】として死んだ。
その事に、私たちは何も言うことは出来なかった……
「流石に更識を生かしたのは不味かったかな、N」
『申し訳ない』
「いや、いいよ…これはこれで面白いことに出来る。そろそろだと思ってたしね。そう、派手にお披露目といこうじゃないか!」