インフィニット・ストラトス 首輪付き少女の学校生活 作:しじる
アリサ一行が嗤うISを撃破し、アラクネのパイロットを無事保護していたころ。
更識家では重大な会議が開かれていた。
それは現更識楯無こと更識刀奈が、実質戦えぬ身になったため、その名を誰かが継ぎ直さなければならなくなったからだ。
当主、先代更識楯無は簪を推したかった。
しかし、娘の刀奈は、簪がこの世界に関わることを恐れていた。
そのためこれを抑え、父としてか、更識の者としてか。
その思考に板挟みになっていた。
のほほんさんの父親も、更識家を支えてきた布仏家として推すべきか、自身の娘の友人を危険に放り込むか…
それに苦悩していた。
簪は、お世辞にも刀奈程の腕はない。
たしかに優れた力はあるにはあるが、当主として出すには危険であった。
だが他のものはというと、他のものにもこれといった光り物はない。
一般人からすれば超人とも呼べる者達だが、楯無の名を継ぐ以上、この家で最強出なくてはならないのだ。
刀奈同等の者は、この家にはおらず、それより上は、ギリギリで簪しかいなかった。
そして、家のものが苦悩するように、簪自身も苦悩していた。
それは悲しみと後悔。
未だ目覚めぬ姉を見て、その失った脚のことをどう説明すればいいのか。
そして、今まできつく当たってしまったこと。
それへの謝罪など…
伝えたいことと、説明すること、それぞれが雁字搦めになり、彼女の心は潰れそうであった。
「……外へ行こう…」
ふと思い、簪は外へと、何も持たずにフラフラと向かう。
このまま家に篭っていても、余計辛いだけと思ったからだ。
そう考え、簪は何も考えず、当てもなく外へとでる。
暫しして、公園にたどり着く。
そこは昔、まだ簪が刀奈のことを、すごいお姉ちゃんと認めていた頃だ。
その頃、よく本音達と一緒に遊びに来た。
そう思い出し、ベンチに座る。
「………どうしてこうなっちゃったの」
瞳から涙が溢れ出る。
俯き、声が漏れる。
どうしようもない悲しみは、余計に大きくなってしまった。
もうこのまま消えてしまいたい。
罪悪感と後悔、そしてプレッシャーに彼女が押しつぶされそうになった時、ふっと風が吹いた。
その風は、1枚の花弁を、簪の前に届けた………
「…蒼い……木蓮の花?」
「隣、いいかしら?」
ふと声をかけられる。
それに驚き、だが涙を拭いて前を見る。
するとそこには女性がいた。
鋭く、だがどこか優しさが垣間見える、美しい蒼の瞳を持つ。
そして艶の良い黒髪は綺麗に、短く整えられていて、道行く誰もが見返りそうな美貌であった。
しかし、その雰囲気はどこか
「…アリサ?」
「えっと……誰の名前かしら?」
知らぬ人の名前が出たことに困惑する蒼の女性。
それは当然であると、簪は慌てて謝罪する。
「わぁぁ!!ごめ、ごめんなさい!お、お隣どうぞ!!」
パニックになりながらも、ベンチの端に移動して、場を広くする。
若干女性は苦笑しながらも、隣に座る。
そこで簪はようやく気づく。
彼女の左腕に。
肘から先に、腕が……ないのだ。
さらにはそこに、生々しい傷跡がいくつも見て取れる。
それを見てしまい、何も言えなくなってしまった。
視線をそらし、自分は何も見ていないと言い聞かせるが…
「ん?あぁ、ごめんなさい。悪い気にさせるつもりはなかったの」
流石に気づかれて、逆に気を使われてしまった。
その事に自己嫌悪しつつも、同時に不思議に思う。
なぜ私の側にと。
「どうして、私の隣に?」
その言葉を聞いて、女性は少しキョトンとするが、すぐ表情を戻して答える。
「何か、悩んだり、後悔してるみたいに見えたから……かしら?」
その言葉に驚き、しかし何故か相談したいと、簪は思ってしまった。
そうして簪は語り出した。
流石に家がどういう存在か、姉が何故足を失ったかなどの極秘は伏せつつ、自身の悩みを打ち明けた。
簪はその事に驚きつつも、何故かこの人には話したいと思うのであった。
「なるほどね……あなたは、どうありたいの?」
女性の言葉に困惑する。
自分がどうありたいなど、簪には想像出来なかった。
「私は……」
「……まあ、今決めなくても大丈夫だと思うわ。あなたはまだ学生」
しかし続く彼女の言葉は、何故か心に大きく響いた。
「好きなように生きて、好きなように死ぬ。それが1番いいことよ」
胸の中のモヤが消えていくような気分だった。
私は何を悩んでいたのだろう。
そうだ、私は私なんだ。
私の好きなように生きて、何が悪いんだろう。
なんでお姉ちゃんが「無能に生きろ」と言ったか、わかった気がする。
言い方があるでしょと思ったけど…
でも、この人の言葉で、救われた気がする。
好きなように生きて、好きなように死ぬ。
何にも縛られず、誰かへの嫉妬や不安も、私自身が望んで選んだものじゃない。
なら、もう好きなように生きたい。
私は、お姉ちゃんの影じゃないって、力に固執する必要ない。
それ以外で証明するんだ。
お姉ちゃんにできないこと、それで私を証明すれば良かったんだ。
「気持ちは晴れたかしら?」
「はい!ありがとうございます!!」
私は彼女に、今できるだけの全霊の感謝を伝えた。
それに彼女はふっと微笑んで、ベンチから立った。
「ならいいわ、良かったわね。私はもう行かないと…」
そう言って、背を向けて行く彼女に、私は声をかけた。
「お、お名前聞いても……いいですか!!」
そう言うと、彼女は私に振り返り、こう伝えてくれた。
「マグノリア、マグノリア・カーチスよ」