「司令官さーん!司令官さーんっ!どこなのですかー!」
遠くから、自分のことを呼ぶ声がする。
この間新しくわが鎮守府にやってきた駆逐艦。『電』の声だ。
「提督~。くちくが呼んでるよー?」
後ろ髪を後頭部にまとめている可愛らしいその姿が右往左往。
それほど焦っているのだろう。可愛いと思うのはいけないことか。
「ん~。電はけっこうサボりを許してくれると思ったんだけどなぁ」
「いやいや、誰だって提督いなかったら探すに決まってるでしょ」
屋上。
自分よりも先にサボりに来ていた軽巡洋艦、『北上』が下の電を見下ろす。
「北上だってサボってるだろ。俺だってサボりたいときはある」
「まー、分からないでもないけどさー。提督の場合毎日じゃん、それ」
「…………仕事、ヤメタイ」
「提督って、ほんとクズだよねー。ほら、行ってきなってば」
「…………後10分だけ」
「…………んじゃーアタシ寝るから。10分したら起こしてねー」
「はいはい……」
ごろんっと、硬いコンクリートの床だというのに北上は寝に入ろうとする。
かなり寝にくいと思うが、大丈夫なのか。
「はぁ……」
ため息をつく。
平和、のんびり、そんな言葉が死ぬほど好きなのだ。提督は。
だから優しそうな電を秘書官に置いたのに、まさかあそこまで必死に自分を探すとは思っていなかった。
下を覗き込む。
涙目な電が自分のことを探している。
「いなづまー」
提督が上から声をかけると、ビクッとその声に反応した電がきょろきょろと辺りを見渡す。
「上だー、上ー」
ぱっと顔を上げる。目が合う。
電の顔が、怒りや喜びや驚きや、色んな感情の混ざった変な顔になった。
「あ、あーっ!司令官さん!見つけたのです!」
「電も一緒にどうだー。ひなたぼっこー」
「し、司令官さんとなのです……?それはとても楽しそう……じゃなくて、ダメなのです!遠征書類がたまってるのです!」
「あっはっはっは!そこからここまで来れるかな!」
どうしても10分の休み時間が欲しい提督。
むーっと電が頬を膨らませているのがここからでもよく見える。
「もー。提督うるさいー」
「あ、すまん。……さて、電が上ってくるまで俺も寝るかな」
提督も北上と同じように寝転がろうとしたその時。
屋上の扉が音を立てて開かれた。
電にしては早すぎる。北上を探して誰かがやってきたかとそちらを見ると。
「はぁっ……!」
息を呑む。
「あら~。ここにいたのね~」
そこにいたのは、北上と同じ軽巡洋艦『龍田』だった。
にこにこと、おだやかなその見た目とは裏腹に、とてつもなく。
とてつもなく、怖い。
「ダメよ~。秘書官の子を困らせたら~」
カツッ、と音を鳴らして一歩、提督の下へ近づく龍田。
ガクガクガクガクと提督のひざが笑う。
「お仕事しないのなら~。その腕、落ちても知りませんよ~?」
「いっ、いや!休憩!休憩中なんだ龍田!後10分したら戻るから!」
「あら~、そうなの?じゃあ、私も一緒に休憩しようかしら~」
「あ、そ、そう?」
「うん。提督の隣に寝てもいいかしら~?」
「お!?え、いいけど、どうした龍田。今日はやけに積極的じゃないか」
ひざ立ちのままの提督の隣に、龍田がころんと寝転ぶ。
軽巡洋艦にしては豊満なほうの胸がたゆたう。
「よーし、じゃあ俺も――――」
ガキィンッ!
頭を龍田の横に並べた瞬間、甲高い音が耳を襲った。
隣。龍田とは逆のほうを見る。
そこには、龍田がいつも持っている鎌が突き刺さっていた。
「あらあら。ごめんなさい提督。私、寝相悪くて~」
「は、ははっ……はははっ……」
「わざとじゃないのよ~。…………ごめんなさいね?」
「き、北上……助けてくれ……北上……」
助けを求めた後で気づいた。
ああ、北上もう先に逃げてるわ。
「じゃあ、提督?後10分。……ゆっくりしましょうね~」
「い、電ー!早く来てくれー!!頼むー!」
泣きながら電に叱られる提督の姿は、ただの子どもにしか見えなかったという。