どぉんっと。大きな水柱が上がる。
「電。遠、遠!」
「はわっ……うぅ……」
2発の砲撃の後、着弾の位置を知らせるアナウンスが鳴り響く。
遠、遠。その通り、標的の的は無傷で波に揺られていた。
これで5回目。2発セットなので10回の砲撃を行って、一度も近の評価をもらえていない。
「ふむ…………」
「電はどうだい?司令官」
さらりと灰銀の髪が揺らぐ。
提督の下へやってきたのは電と同じく暁型の駆逐艦、『響』だ。
無表情でクール。だが戦いにおいては熱く仲間を守ることを主とする頼りになる艦だ。
「まー着任してすぐだからな。上手くはいかないだろうな」
「……そうかい。……まぁ、今は的相手だからね。関係ないか」
「的相手?」
「電は、優しいんだ」
「だな。そんな感じする」
「沈む敵艦すら、助けたいなんて言うくらいにね」
ふむ。
博愛主義だというのは着任したときの書類で聞いていたが、そこまでか。
だとしたら、『敵艦を沈める』訓練なんて気が進まないだろう。
「響はどう思う?」
「良いことだと思うよ。電は敵を守る。そして私が皆を守ればいいんだ」
「ん~……」
「分からないでもないんだろう?4分の1の司令官には」
「その呼び方やめてくれよー。胸触るぞ」
「私の胸を触っても何も楽しくないよ」
そうでもないのだが、軽くかわすと響は艤装を装着し始める。
「どした?」
「アドバイスしてくるよ。いいだろう?」
「あんまり撃つなよー。資源ないんだから」
「Понятно(パニャートナ)」
了解した。確かそんな意味だっただろうか。ロシア語を話した後、響は海へと滑り出した。
【艦娘】
昔に存在したと言う艦の欠片を宿した少女。
何も無しに海に浮かぶ力を持つ。しかし、凄いのはそこではない。
数年ほど前から突如姿を現した【深海棲艦】という、人類の敵ともいえる存在がある。
船を沈ませる彼女らには、普通の武器は何の効果もなさない。
だが、艦娘が武器を持ち、攻撃することでのみ、深海棲艦を撃沈することができるのだ。
(……いまだに、よくわからん話だ)
手がそれしかないにしろ、電や響のような少女に戦争をやらせるのは気が進まない。
「響。近、的中!」
どぉんっ、と砲撃の音が聞こえる。
流石と言うべきか、響の放った砲撃は2発で見事的中した。
海を見ると、電がキラキラした瞳で響を見つめて何かを口早に話している。
「……仲良きことは美しきことかなー……」
「何言ってるの?司令官」
「あっ!電と響が砲撃訓練してる!」
ぱたぱたと小さな足音が二人分。振り返る。
暁型ネームシップ。『暁』と同じく暁型、『雷』だ。
「雷ー。俺の部屋また汚くなってきたんだよなー」
「えーっ?また掃除しないとじゃない!本当に司令官は私がいないとダメね!」
「なんでちょっと嬉しそうなのよ……」
「……そういや、これで暁型がそろったんだな」
暁、響、雷、電。暁型の4艦。第六駆逐隊といっただろうか。
「……うちの鎮守府は、戦うことはあんまりなかったんだけどなぁ」
「ふふん!一人前のレディーの暁が、皆引っ張ってあげるわよ!」
「おー、期待してるぞ」
「電。遠、……近!」
ちょっと溜めての、近評価が聞こえた。
限りなく遠に近い近といったところだろうか。評価員がおまけしてくれたのかもしれない。
しかし電はそれでも嬉しいのだろう。ぴょんぴょんと跳ねて喜びを露わにしている。
「いなづまー!やったなー!」
提督の声に気づいた電がこちらを向いた。
両手を大きく振って跳ねる。声は聞こえないが、喜んでいるのは分かる。
「うんうん。よかったよかった。で?2人は何しに来たんだ?」
「あっ。そうよ司令官!龍田が探してたわよ!遠征の確認書類が欲しいって!」
「ほぁっ」
「一応私が判子押しといたわよ!ほんとーに司令官はもー……」
ふぉんっと頭上を1機の飛行機が飛んだ。
「あ、あれは加賀の彩雲!?龍田め、空母に捜索要請出したな!?」
「あっ、司令官!?」
立ち上がり、一目散に走り出す提督。
「あ、あれ……司令官さんは……?」
「あ、電。今逃げちゃった。加賀から逃げられるはずないのに」
「そ、そうなのですか……」
「?……どうしたの?電」
「司令官のために頑張ったんだから、もっと誉めて欲しかった。かな?」
「ひ、響ちゃんっ!?違うのです!そんなこと考えてないのです!」
「ぬわーっ…………!」
遠くから、提督の叫び声が聞こえてくる。
「……なんだから、もーっと私に頼ってもいいのよ!ってあれ?司令官は……?」
「雷も、司令官の事好きよねぇ。あんなののどこがいいのかしら……」
「ま、まあ、司令官にもいいところはあるさ……」
はぁ、と。ため息1つ。
何故かほんの少し顔を赤くした響が、頬を小さく掻いた。