「なあ、電?」
ギッ、と提督が腰掛ける椅子が音を鳴らした。
変え時だろうか、いかにも提督と言うような、威厳のあるこの椅子は割と愛着があるのだが。
「はい、なんなのですか?司令官さん」
机にお茶を置きながら、電が首をかしげる。
「もうすぐ春。新たな出会いの季節なんだが」
「……でも、鎮守府にはあまり関係ないような…」
「新たな出会いの季節なんだ」
「は、はいなのです」
提督は立ち上がり、小さな椅子を机の横へ設置。
ついでに電の分のお茶を持ってきた。
「あ、ありがとう……なのです……」
とりあえず腰掛ける電。
「うちの鎮守府は人手不足にもほどがあるんだ。電」
「そうなのですか?でも、あまり出撃も無いのです……?」
「それがな、本部の方から近海への出撃要請が来てるんだ」
「えっ?ど、どうして……」
「深海棲艦の駆除が目的だけど……まぁ、うちには演習が優秀な奴らがいるからな」
あまり進んで出撃を行わないこの鎮守府には、まさに豚の真珠とも言える人材が多い。
例を挙げるのなら、北上や龍田、響。他にも結構いたりするのだが。
「そういう奴らが、ちゃんと実践で使えるか、見たいんだろうな」
「そんな理由……!」
「んーっで!!」
「!?」
ガターン!と提督が立ち上がる。
電が手に持つお茶が揺れる。
「電、お前出てみないか?」
「え、えぇっ!?で、でも!電は全然……!」
「第六駆逐隊、それにそうだな……北上……は嫌がるだろうから……」
「ま、待って、待ってくださいなのです!」
コトン、と電にとっては強く置いたつもりなのだろう、提督の注意を引くために音を立てて置かれたお茶から、湯気が昇る。
「なんだ。嫌か?」
「い、嫌とかじゃ、無いのですが……でも、その、電にうまく出来るか……」
「そっか。んじゃ聞き方変えるな?」
「……?」
「使えそうな奴らだけ、戦争してこい。使えない奴らは、黙ってろ。……嫌か?」
電の瞳が、開かれたまま、止まった。
電の脳裏には、知らない映像が映っていた。
響と共に、何かと戦っている映像だ。いや、違う。何かを守ろうとしていたんだ。
結果は、どうなった?
電の瞳が、一度閉じられ、開く。その瞳は、強く輝いていた。
「――――い」
「話は聞かせてもらったぁっ!!」
ドバァン!!と部屋の扉が勢いよく開かれた。
電の口がぽかんと開いたまま、提督も固まる。そこに立っていたのは、
「て、天龍……?」
龍田と同じく軽巡洋艦、天龍型のネームシップ。『天龍』だった。
「結構じゃねえか!使える奴らだけの戦争!俺は大歓迎だぜ!」
「い、いや……出撃は第六駆逐隊と……」
「俺と龍田!決定だな」
「えー…………しょうがねぇなぁ……あんまり無茶するなよ?」
「ま、俺は世界水準軽く超えてるからな。多少の無茶ならなんとかならぁ」
「ならないならない。頼むから……」
「はいはい。分かったよ」
空気についていけない電があたふたと二人を見る。
その姿に気づいた天龍が、一歩電に近づいた。
「よう。お前が例の博愛主義艦か」
「えっ?あ、あの……電……なのです…」
「敵も味方も、全部助けたいんだってな」
「……は、はい。でも、電はまだ、弱いので……その」
「いい、出来る出来ないはともかく置いといて、自分の心を貫く奴は好きだぜ。俺は」
「…………!」
はぁ、と提督はため息をつく。
面倒なやつに聞かれてしまったもんだ、と。
でもまあ、これはこれで良かったかもしれない。
「電」
「は、はい……」
「何をとはあえて言わない。だが、電なら『出来る』。俺はそう信じてる」
「…………っ」
「本部の鼻。あかしてやろう」
「……はい!なのです!」
「天龍様の出撃だぁ!うっしゃぁ!」
こういうめちゃくちゃなところがあるが、天龍もれっきとした真珠だ。
きっと駆逐艦達を守ってくれるだろう。
「んじゃ、出撃前に……」
なでり。なでり。
「はわっ……司令官さんっ……?」
電の頭をなでる。
ただただ、ゆっくり。手の温度が頭に伝わるように。
しばらくして。
「あ、あの……ありがとうなのです……」
キラリと、電の体から小さな輝きが見えた。
キラキラ状態といわれる。戦意高揚した艦娘が見せる集中状態らしい。
「おう。頑張ってな」
「はっはっは。駆逐艦は単純でいいよな。提督ぅ。俺は帰ってきたら新しい装備な」
「はいはい。考えとくよ」
「そうこなくちゃな!出撃だ!」
キラッと天龍の方からも輝きが見える。
全く、単純なのはどっちなのか。言おうと思って、やめた。
もうすぐ新たな、出会いの季節だ。